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第185話

Author: ちょうもも
「いいえ」

「じゃあ、寒河江伶とはどういう関係?史弥からも聞いてるでしょう、私たちと寒河江家の関係が少し複雑だって。なんでそんな相手とつるんでるのよ」

琴乃が伶の名を口にした途端、それまで整った顔にはっきりとした不快感が浮かび、先ほどまでの優雅さは完全に消えていた。

悠良は冷静に説明した。

「寒河江さんとは、仕事上の付き合いだけです。うわさについては、まったくの事実無根です」

「そう?じゃあ、これはどう説明するの?」

琴乃は突然、後ろから封筒を取り出し、中の写真を悠良に向かって放り投げた。

不意を突かれた悠良の顔に写真がぶつかり、背筋がぴんと緊張する。

屈辱の念が、瞬く間に胸を締めつけた。

悠良は冷静さを保ったまま、床に落ちた写真を拾い上げた。

そこには伶に支えられながらホテルに入る動画のキャプチャーや、ふたりが会っているときの写真が数枚あった。

中でも、車から降りた彼女を伶が見送っている一枚――

その目には、明らかに情がこもっていた。

本人である悠良ですら、伶の目に「深い想い」を感じた。

穏やかで、真剣な眼差し。

まるで愛しい人を見つめているようだった。

だが悠良は思った。

撮った人の意地悪なカメラアングルが、あえてそう見えるようにしているのだろうと。

悠良が口を開く間もなく、琴乃はさらに畳みかけるように言葉を投げつけた。

「聞いたわよ。悠良、最近LSのためにオアシスプロジェクトの企画書を作ったそうじゃない。そのせいで、うちの会社とLSが協力せざるを得なくなったって!」

琴乃はますます激昂し、立ち上がると悠良の目の前に来て、テーブルの上の写真をもう一度掴み取り、顔めがけて叩きつけた。

「ほんと、優秀なお嫁さんね!内輪を裏切って、よそに媚び売って――

立派な裏切り者じゃないの!」

悠良は椅子にじっと座ったまま動かず、全身を緊張させ、指をぎゅっと握りしめていた。

顔には、写真の角でできた小さな傷が走っていた。

それでも琴乃は止まらず、周囲に使用人たちが見ていることなど一切気にせず、怒りのままに言葉を浴びせ続けた。

「最初から私は、あんたたちの結婚に反対だったのよ!

もし史弥が死んでもってまで言い張らなかったら、偽令嬢であるあんたが、うちの家に入れると思う?」

知ってる?私が外で他の奥様方と集まるとき、どんなふうに
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