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第353話

Author: ちょうもも
「確か......『三浦葉』という名前で......以前、御社で働いていた方で、失踪した人物と親しかったそうです。その彼女があなたを告発しました」

史弥は眉をひそめ、唇を固く結んだ。

三浦葉......

「とにかく、一緒に署まで来てもらえます」

史弥は少し困ったように手を広げた。

「見ての通り、今会社は俺を必要としている。今席を外すわけにはいかないんだ」

「それでしたら、仕方ありません」

そう言うと、二人は強引に史弥の腕を取り、外へ連れ出そうとする。

「わかった、わかった!協力する!放してくれ」

そう言われて、ようやく彼らは手を離した。

こうして史弥は公衆の面前に姿を現し、ネット民たちは彼の姿を見た瞬間、一気に場が騒然となった。

「クズ男!本当に最低!こんなにも長い間、私たちを欺いていたなんて、よくもまあ平気な顔していられるわね!」

「下手したら人殺しじゃない!こんな人間性の腐ったやつと、まだ取引したい人がいるのが信じられない!」

「元妻はもうこの世にいないのに、まだ彼女を利用するのか!最低!」

「昔、彼が元妻をどれだけ大事にしていたかを思い出すだけで、今はその何倍も吐き気がするよ!」

「雲城から出て行け!」

「雲城から出て行け!」

一斉に抗議の声が白川社本社前で響き渡る。

中には興奮した人たちが、手にした石やペットボトルを史弥めがけて投げつける者まで現れ、現場は一時制御不能になった。

さらに、群衆の中の誰かが本を投げた拍子に、それが史弥の額を直撃。

角が額の皮膚をかすめ、瞬時に切り傷ができ、うっすら血がにじむ。

史弥の表情は険しさを増し、その場の暴力行為に対する嫌悪が露わになった。

まるで嵐の前触れのような気配を漂わせたが、最後までこらえた。

多くの記者が見ている中で、彼は公然と怒るわけにはいかなかった。

警察はやっとの思いで彼を人混みから引き離した。

そして車に乗ろうとしたその時、彼の視線が遠くの壁際にある見慣れた人影を捉える。

その瞬間、彼の瞳が鋭く揺れた――

あれは、悠良ではないか?

「悠良!」

史弥は声を張り上げ、もがき始めた。

「放せ!彼女を見たんだ!」

だが警察が彼を逃がすはずもなく、肩をがっちりと押さえつけた。

「白川さん、ここで逃げたら、罪状が別になりますよ」

史弥は、その人影が衣の
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