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第704話
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離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第709話
葉はすぐに警戒した。「やっぱり私のせいかな。昨日ちょっと態度に出ちゃってたし......本当にごめん。また悠良の足を引っ張っちゃった」「大丈夫だよ。たとえ葉が隠し通してても、寒河江さんみたいに細かい人なら、結局は気づかれたかもしれないし」悠良は葉が全部の責任を自分に背負わせてしまわないよう、必死に慰める。葉はそんな彼女の性格を知らないわけがなかった。「悠良が慰めてくれてるのは分かるよ。でも、はぁ......本当に情けないよ。あの時の寒河江社長の顔、まるで地獄の閻魔様みたいで......見るだけで怖くて仕方なかったの」「この件はもう気にしなくていいよ。私がなんとかするから。葉は葉の仕事をちゃんとこなして。この二日間はまた取り立てが来るはずだから、ちゃんと準備しておいてね」悠良は考えた。伶を信じ込ませるには、もう芝居を本物のようにやるしかない。普通の取り立てなら一度きりで済むはずがない。伶なら、裏で別の人を使って調べさせる可能性もある。今だって光紀にまで疑いをかけているのだから。葉は慌ててうなずいた。「分かった」「じゃあ、私はもう準備しないと。出張に行くから」「うん」通話を切った悠良は、すぐに立ち上がって身支度を始めた。服を着替えようと布団をめくった時、自分の体がすっかりきれいになっているのに気づく。昨夜あれほど酔っていた自分に、体を洗う余裕があったはずもない。つまり――伶が手伝ってくれたのだ。そのことが分かると、悠良は少しだけ安心した。というのも、普通の男ならそんなことまでしてくれない。大抵は終わったら自分の服を整えて、それでおしまいだ。服を着替え終えると、ドレッサーで軽くメイクを整える。出張なら、やっぱりきちんとした格好をしておくべきだ。引き出しを開けると、前に伶が買ってくれた香水が入っていて、それも一緒に取り出した。その時、シャワーを浴び終えた伶が出てきた。悠良がもう準備を済ませているのを見て、少し驚いたようだった。「早いな。頭、もう痛くないのか？」「うん、大丈夫」伶はさっと服を着て、用意していた荷物を持ち上げる。「下に行こう。朝飯をさっと食べて出発する」二人で階段を下りる途中、悠良はふと足に力が入らず、身体が前に傾いてしまった。
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第708話
伶にそう言われ、悠良は思わず視線を落とした。自分が何も身に着けていないことに気づき、喉がきゅっと詰まる。昨夜の情景が一気に頭の中へ押し寄せ、自分がどうやって彼の首に腕を回したかまで鮮明に思い出した。彼の乱れた呼吸、灼けつくようなキスを思い出すと、頬が一瞬で火のように熱くなる。伶はそんな彼女の反応を見下ろし、低く問いかける。「思い出したのか？」悠良は唇をきつく結び、シーツを握りしめる指先に血管が浮かぶ。「やっぱり......酒って恐ろしい。もう二度と飲まない......」伶は酒に仕込まれていたかもしれないことを言わなかった。彼女に余計な不安を抱かせたくなかったからだ。男は彼女の額に軽く口づける。「でも俺は君が酒を飲む姿を結構気に入ってるよ。面白いからな」昨夜、悠良が自分から寄り添ってきたことを思い出し、伶の喉が熱く詰まる。悠良は恥ずかしさのあまり、布団を頭まで引き上げ、顔を隠した。地面に穴を掘ってでも入りたい気持ちだった。「......お願いだから、それ以上言わないで」「分かった分かった。もう言わない。このままだと、うちの悠良ちゃんが人前に出られなくなりそうだからな」その時、伶のスマホが鳴った。光紀からだ。「寒河江社長、そろそろ時間です。このままだと飛行機に間に合いません」「分かった」電話を切ると、伶は悠良に向き直った。「行けそうか？本当に無理なら家で休んでいろ。俺が光紀と行けばいい」「だ、大丈夫。行けるから」彼女は早くこの問題を片づけたかった。いつまでも引きずるのは自分にとってもしこりになる。「じゃあ支度しておけ。俺は先にシャワー浴びてくる」「......うん」返事をすると、伶はすぐに立ち上がった。引き締まった身体と、光と影に縁取られた横顔は完璧そのもの。悠良は、その顔を見るたびに思わず心の中で嘆いてしまう。どうして神様はこんなに不公平なんだろう。この男に完璧な容姿、盤石な家柄、恐ろしいほどの仕事の能力まで与えてしまって。幼少期の不幸を除けば、欠点らしい欠点がない。悠良はスマホを手に取り、時間を確認する。すると葉からメッセージが届いていた。【もう起きた？昨日の夜、どうだった？】昨日の夜？悠良は一瞬ぽかんとする。葉
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第707話
悠良はベッドに横たわっていた。黒いキャミソールのドレスは、いつの間にか腰のあたりまでずり落ちていて、白い肌が暖かな壁灯の光を浴びて艶やかに輝いていた。長い髪が枕に広がり、その姿はまるで静かな時の中にいるかのようだった。彼女の頬は真っ赤に染まり、何度も自分の服を掴んでは引っ張り、口の中でつぶやいている。「......暑い......」伶は暗い目をしながら近づき、温かな指先で彼女の腕にそっと触れる。悠良の体がびくりと震えた。男は思わず眉をひそめる。この状態は少しおかしい。ただの酔いなら、ここまで強く反応するはずがない。伶は立ち上がり、バルコニーに置いてあった先ほどのワインボトルを手に取って鼻先に寄せた。表情が一気に険しくなる。この酒、おかしい。彼は振り返り、悠良の身体に手の甲を当ててみた。途端に熱が手に伝わる。自分も先ほどから喉がやけに渇いていたのに、そこまで深く考えていなかった。思案する間もなく、悠良が突然彼の腕にしがみついてきた。まるで命綱に縋るように顔を擦り寄せてくる。伶は彼女を抱き上げ、胸に閉じ込め、低く名前を呼んだ。「......悠良」朦朧とした意識の中、彼女は誰かに呼ばれた気がして目を開けた。目に飛び込んできたのは、完璧なほど整った伶の顔。口元に笑みを浮かべる。「寒河江さん......やっと帰ってきたんだね。なんか今日はちょっとふらふらするの。だから、寒河江さんを寝かしつけてあげられない......」伶は堪えきれず、低く笑った。胸の奥が震え、声はさらに沈んでいく。「そんな時でも俺を寝かせることを気にするのか」悠良は手を振り、目がとろんと潤む。酔っているようにしか見えなかった。「うん。だって、契約したんだもの。それが私の役目だから。あと一週間で切れるけど......最後くらいちゃんと本分を果たすよ」伶はその言葉に顔を寄せ、彼女の頬を手で掴む。赤く火照った顔、少し突き出た唇――普段の冷たい雰囲気とはまるで違う。その瞬間、心を揺さぶられ、唇を重ねてしまった。「期限のことは、その時に考えろ」彼女は彼の言葉をはっきり理解できないまま、唇が触れた瞬間、頭の中で爆発が起きたように真っ白になった。押し殺していた熱と衝動が一気に弾ける
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第706話
彼がそう言いかけて、ふと口をつぐんだ。そして悠良の前に置かれた、空になったワインの瓶に視線を落とす。「......全部飲んだのか？」悠良はまだ自分は酔っていないと思っていた。軽く頷く。「うん、このお酒けっこう美味しくて」伶は額に手を当て、口元に苦笑を浮かべた。本当に呆れ笑いするしかなかった。「美味しいのは確かだけど、アルコール度数もかなり高いんだよ」「そうなの？」悠良は瓶を手に取ってラベルを覗き込む。「でも、そんなに強い感じはしなかったけど」「今はな。あと十数分もすれば、そんなこと言えなくなる」「どういう意味？」と彼女が眉をひそめる。伶は詳しくは言わず、椅子から立ち上がった。「とりあえずベッドで横になってろ。俺は大久保さんに話がある」「大久保さん、もう寝てるんじゃない？」「大丈夫だ。あの人はこの時間帯によく起きるから」悠良はそれ以上何も言わず、彼に任せた。伶はついでに水を一杯汲み、リビングへ降りる。ちょうどトイレから出てきた大久保が彼を見て、思わず声を上げた。「え、旦那様！驚かせないでくださいよ。どうしたんです？お腹でも空きましたか？軽く何か作りましょうか」「いや、いい。酔い覚めのスープを作ってくれ」大久保は思わず問い返す。「小林さんがお飲みになりすぎたんですか？」「ああ、俺がちゃんと見てやれなかったせいで」大久保は意味深な笑みを浮かべた。「心配ありませんよ。若いご夫婦なんですから、たまにはお酒を楽しむのもいいことです」伶は何も答えない。大久保は彼の性格をよく知っている。こういう話題では相槌など打たないことを。彼は水を手に取って階段へ向かったが、大久保が呼び止めた。「旦那様」「まだ何か？」大久保は小声で続けた。「本当は口を出すことじゃないのは分かってます。でも、どうしても一言だけ言わせてください。小林さんは本当に良い方です。もしお二人が気持ちを通じ合わせることができるなら、早く子供を持った方がいいと思います。私もまだ体力がありますから、将来少しは子育てもお手伝いできるかもしれませんし」伶は彼女の善意だと理解していた。「大久保、俺と彼女の関係はまだそこまでいってない。子供の話なんて、さすがに気が早すぎるだろう」
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第705話
伶はゆっくりと酒を一口飲み、口元に薄い笑みを浮かべた。「悠良ちゃんもそこまでバカじゃないらしいな」悠良はじっと彼を見つめ、思わず背筋が寒くなった。この男は一体、まだどれほどのことを自分に隠しているのだろう。「私のこと、他に何を知ってるの？もういっそ全部言ってちょうだい」まるで歯磨き粉を絞るみたいに、少しずつしか出てこないことに苛立ちを覚える。伶は椅子の背にもたれ、長い指でテーブルを軽く叩きながら、鋭い眼差しを隠すことなく悠良に向けた。「いいけど、条件がある」悠良はすぐにその意図を察した。「友達に頼まれた手紙を書けってことね？」「ああ」彼はあっさり頷く。「わかった。乗るよ」伶はスマホから内容を彼女のスマホに送った。画面を見た悠良は眉をひそめる。「そんなに急ぐの？」「奥さんが待てないかもしれないからな。万が一に備えて。明日出張もあるし、早めにやっておいた方がいい」彼は紙とペンを彼女の前に置いた。悠良が断ろうとする暇もなく、仕方なくペンを手に取る。文字数は多くない、すぐに書き終えた。「なんで自分で書かないの？私たちの字って似てるんでしょ？」「そこは気にするな」伶は紙を受け取り、真剣な表情で目を通す。悠良はジャガイモの串を手に取り、食べながら不思議に思った。彼は一体、何をそんなに見ているんだろう。数分後、伶の目に深い影が差し、唇に意味ありげな笑みが浮かんだ。彼は紙を丁寧にしまう。「奥さんがこれを見たら、きっと喜ぶだろうな」悠良は口を拭きながら言った。「自分で書いた方が気持ちが伝わるんじゃない？」「本人はこの字体を書けないんだ。そうじゃなきゃ、とっくに自分で書いてるさ。奥さんがこの字をすごく好きで、前にも何度か練習したらしいんだが、どうしても本当の味わいは出せなかった」悠良は同情しながらも、どこか羨ましい気持ちになった。「寒河江さんの友達、本当に奥さんを大事にしてるのね。今時そんな男、滅多にいないよ。前にネットで見たけど、普段は妻を大事にしてるように見えて、病気になると責任を押しつけたり放り出す人もいる。お金がないからって、家を売ってでも治療するって口では言っておきながら、裏では資産を移したりね」伶は彼女の言いたいことを理解し、彼女の頬を軽くつま
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第704話
悠良は苦しそうに額を押さえ、死んでしまいたいほどの気分になっていた。時に彼女は、伶の慎重さを憎々しく思う。話を聞いているだけで心底疲れてしまうのだ。「どうしてもって言うなら、強制はしないけど......先に言うけど寒河江さん。あなたが破産したら、私は付き合うつもりはないからね」その言葉に伶は途端に面白がり、気まずそうに眉を上げて彼女に顔を近づけ、挑発的な口調で笑った。「悠良ちゃんにはギャップがあったのか。白川が昔あんなに貧乏だった時でさえ離れなかったのに、俺が破産したら出ていくつもりか。薄情なやつだな」悠良は特に言い返さず、「だから、早く会社を立て直した方がいいわよ」とだけ言った。伶は顎に手を当て、彼女が嫌味で言っているわけではなく、別の形で自分を安心させようとしているのだと分かっていた。彼女が肉を気に入っているのを見て、さらに取り分けてやる。「ゆっくり食べろよ、誰も取りゃしないからさ」悠良は完全に美味しさに浸り、満ち足りた表情を浮かべた。「本当に美味しいよ。寒河江さんももう少し食べたら？」「俺はもう十分。そうだ、最近友達に書道好きがいてさ。特に『楷書体』とかが好きで、文章を書きたいって言ってる」「ふうん？それで？」悠良は彼を一瞥すると、また肉に視線を戻して食べ続ける。「前に、君の母親が君に書道を習ったって聞いた。彼の代わりに病気の彼女に手紙を書いてほしい」悠良は噛む手を一瞬だけ止めた。だがほんの一瞬のことで、心の奥では驚愕していた。どうして伶は、自分の過去をこんな細部まで知っているのか。自分にはもう、彼の知らない秘密なんてあるのだろうか。悠良はふいに肉を置き、真剣な眼差しで伶を見つめた。「寒河江さんと話していると、まるで私には秘密なんて一つもなくて、裸で突っ立ってるみたいな気分になるの。わかる？」伶は眉を淡く動かすだけで、「それで？」と平然と返した。「プライベート空間がほしいの」彼が意に介さない様子を見て、悠良は唇を噛み、さらに強調する。「君が書道を習ったって話は、植村先生から聞いたんだ。自分の字が俺の字にそっくりだってこと、気づいてる？」伶はどこからか紙幣を一枚取り出し、骨ばった指で数文字を書いた。それは彼女の名前だった。その字は普段の彼の署名とよ
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