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第412話

Author: 小春日和
言葉を口にした瞬間、真奈は自分の失言に気づいて後悔した。

なぜなら、冬城の目に変わらぬ深い情熱を見たからだ。

以前から、冬城は彼の全てを賭けて、彼女の愛を賭けていた。

「お前が欲しいなら、俺はそれをあげる」冬城は一切ためらうことなく、そう言い切った。

「私が欲しがらないと確信しているの?」

「ちがっ……」

「もう疲れた、次に行こう」

そう言い捨てて、真奈はくるりと背を向け、遊園地の出口へと歩き出した。

冬城は一瞬戸惑い、真奈は言った。「これだけしか準備していないなんて言わないでね」

冬城にはいつだって次の手がある。しかも今回は、わざわざ遊園地を貸し切ってまで彼女を誘い出している。どう考えても、これだけで終わるはずがない。それに彼女自身も見てみたかった。高所恐怖症の冬城がそこまでして、次にどんな手を打つのか――。

「案内するよ」

そう言って、冬城はすぐに彼女の後を追った。だが、彼が少しでも近づこうとすると、彼女はまるでそれを察知したかのように、すっと一歩先へ進んでいく。

彼らの間の距離は、まるでその一歩のように、永遠に越えられないようだった。

「マジで?本当か?」

伊藤は黒澤の家のソファから勢いよく跳ね上がった。

電話口では、幸江が切迫した声でまくし立てていた。「もちろん本当だってば!嘘ついてどうするのよ!遊園地は冬城が貸し切ったのよ!あの人が何でそんなことすると思う?今日は真奈の誕生日なんだから!」

「クソッ……冬城のヤロー、本っっ当に抜け目ねえな……!」

伊藤はすぐにソファから飛び降り、部屋の中の黒澤に向かって言った。「遼介!遼介!早く出てこいよ!このままじゃ、お前の嫁が連れていかれるぞ!遼介ーっ!」

あまりの焦りに、とうとう黒澤の部屋のドアを勢いよく開け放った。しかし——そこにいたはずの黒澤の姿は、どこにもなかった。部屋はきちんと整理され、ベッドも畳まれており、まるで最初から誰もいなかったかのようだった。

電話の向こうで幸江が、息を切らしながら叫んでいた。「どうだった?遼介はどこ?起きた?」

次々と飛んでくる質問に、伊藤は完全にパニック状態。

「いや……違うんだ。遼介、いない」

「何ですって?いなくなった?」

幸江はぼんやりとして、「人が急にいなくなるわけないでしょ!?トイレも見たの!?」

「ないってば!便座のフタ
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