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第592話

Auteur: 似水
「確かに妙だね。鍵、変えた?」

里香が眉を寄せて聞くと、かおるはうなずいた。

「変えたよ。でも、それでもダメだった。今の泥棒って、そんなに開錠の技術がすごいの?もしかして、最初に鍵開けの勉強してから泥棒になるのかな?」

思わず笑ってしまった里香だったが、すぐに言った。

「そんなに危ないなら、やっぱり引っ越したほうがいいんじゃない?」

「引っ越したいのは山々なんだけどさ、大家さんが敷金を返してくれないのよ。結構な額だから悩むんだよね」

かおるはソファに腰を下ろし、大きなため息をついた。里香は困ったような顔でかおるを見ながら、「あとどれくらいで契約切れるの?」と尋ねた。

「あと1か月くらいかな。この1か月が終わったら引っ越すよ」

「それなら安心だけど……でもさ、なんでかおるんとこって、そんなに泥棒入るんだろ?」

里香は考え込んだ。最初に泥棒が入ったのって、確かかおるがここに住み始めた頃だった気がする。

何が原因なのか、すぐには思いつかなかった。里香はそのまま立ち上がり、キッチンへ向かうと、冷蔵庫を開けて何か食材がないか確認し始めた。

かおるはその様子を見て、声を上げた。

「家に帰るんじゃなかったの?」

「せっかく来たのに、わざわざ戻るの面倒でしょ?」

かおるはクッションを抱えながら、意味ありげに微笑んだ。

「本当に面倒なだけ?それとも、誰かを避けたいとか?」

「わあ、鋭いね」

「ふふん、私を誰だと思ってるの?」かおるは得意げに顎を上げると、続けて聞いた。「それでさ、どうして山登りなんかしたの?」

その言葉に、里香のまつげが微かに揺れた。

昨晩の出来事は、まだかおるに話していない。話したら、間違いなくかおるが相手を追い詰めに行くだろう。

「彼、私の下の階に住んでるの。出かける時に捕まっちゃって、どうしても山登りに連れて行かれたのよ」

かおるは呆れ顔で、「その人、本当に頭おかしいよね」と言った。

「でしょ?」里香は口をへの字に曲げて、「本当についてないわ。なんであんな人と出会っちゃったんだろ」

「いやいや、もっとツイてないのは、私も似たような人に会っちゃったことだよ」

里香は冷蔵庫を閉めると、「さあ、買い物行こ。かおるん家の冷蔵庫、何にもないじゃない。普段何食べてるの?」

かおるは棚の方へ歩いて行き、扉を開けた。すると、中に
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