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182.華の尋問、護の答え

last update Last Updated: 2025-09-15 19:57:41

華side

「護さん、聞きたいことがあるんだけれどいいかしら」

「険しい顔してどうしたの?何かあった?」

この日、護さんのマンションのリビングで二人きりでいる時に声を掛けた。指摘されるまで分からなかったが、緊張で顔が引きつっていたらしい。

護さんの「どうしたの?」という声は、いつも通りの優しい声だった。今の私には、その優しさが本物か疑わしかった。

「何か困ったことでもあったのかい。こっちにおいで」

護さんはそう言って、私の手を優しく引いて自分が座っているソファの隣に導き、安心させようとしているのか、私の髪を撫でて肩を抱いてから顔をゆっくりと近づけてきた。

今までだったら、このまま瞳を閉じてキスをしていただろう。護さんの温かさに身を委ね、ただただ幸せを感じていた。しかし、今はどうしても確認しなくてはいけないことがあった。

私は髪を撫でる護さんの手を掴んでから、真っ直ぐに彼の顔を見て尋ねた。

「護さんはもう何年も玲とは会っていないと言っていたわよね?」

私の言葉に、護さんの笑顔が一瞬だけ凍りついた。しかし、すぐ

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