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Auteur: 詩庵
翌朝、食卓には料理が所狭しと並んでいた。

エビフライ、パクチー入りソースのステーキ、ちらし寿司、カニ。

立ちのぼる湯気で、目の前が少しかすむほどだった。

私は海鮮アレルギーがあるし、パクチーも食べないことは、母はちゃんと知っているはずなのに。

今日はカニの脚まで丁寧に殻を剥き、ピンク色の小鉢に入れていた。

「知世はカニが大好きだったの。パクチーも欠かせないわ。入ってないと味がしないって言ってたから。

戻ってきた時に口に合わなかったらかわいそうでしょう?今のうちに、好きだった料理を練習しておかなくちゃ」

私は箸を持ったまま、長いこと座っていた。

やがて白いご飯を一口、大きく口に入れる。何かが込み上げてきそうで、必死に飲み込んだ。

喉が詰まったように痛い。しばらくしてから、どうにか声を落ち着かせ、泣きそうなのがバレないよう努めた。

「ママ、私が海鮮アレルギーなの、まだ覚えてる?」

ずっと俯いたまま、茶碗の白いご飯を見つめていた。顔を上げる勇気がなかった。

母はちらし寿司をよそう手を一瞬止めた。

「こんな時に、まだそんなこと気にしてるの?お姉ちゃんが戻ってきたら、いろいろ合わせなきゃいけないんだから。

一食くらい食べなくてもどうってことないでしょう?」

私は小さく頷いた。箸を置き、そのまま立ち上がって部屋へ戻った。

午後になると、湊がやってきた。

血の気を失った私の唇を見て、わずかに眉をひそめる。

私は服の裾をぎゅっと握りしめ、長いこと彼を見つめてから、ほとんど聞こえないくらいの声で言った。

「湊、ちょっとだけ、海に付き合ってくれない?

ずっと行ってみたかったの。どうせ私、もうすぐ死ぬし」

湊が固まった。

頼めば、もしかしたら本当に連れていってくれるかもしれない、そんな気がしていた。

けれど次の瞬間、返ってきたのはこんな言葉だった。

「この数日は、あまり出歩かないほうがいい。

もし入れ替えに何かあったら、おばさんが耐えられないだろ」

思わず自嘲するような笑みが漏れた。

「お姉ちゃんが戻ってこないかもしれないのがそんなに怖い?」

湊の顔が険しくなった。

「杏奈、いちいちそういう言い方するなよ。俺はお前のことを心配してるんだ」

私は顔を上げ、必死に何度も瞬きをした。

そしてまた笑った。さっきよりも、もっと大きく。口元が痛くなるほど無理やり笑みを作った。

「私を心配してるから、迷いもせず『賛成』を押して、私を死なせることにしたの?」

湊は目を伏せ、私から視線を逸らした。唇を固く結んだまま、もう何も説明しなかった。

その瞬間、これ以上言い争っても意味がないのだと分かった。

私は背を向けて部屋へ戻り、震える手であのアプリを開いた。

母がよく使うパスワードを試してみる。すると、あっさりログインできてしまった。

そこには、私の健康診断結果、睡眠時間、感情の変動など、私に関するさまざまな記録が残されていた。

そうか、みんな、ずっと前から準備していたんだ。

胃が激しく縮む。私はテーブルに手をつき、口の奥に鉄のような味が広がるのを感じた。

ページの一番下に、赤字で表示された音声データがあった。

震える指で再生する。

途切れ途切れに、か細い女性の声が流れた。

「ママ、杏奈を、苦しめないで。杏奈に代わってもらうのは嫌よ。

杏奈だって、ママの娘でしょう?」

私は我を忘れたようにスマホを掴み、部屋を飛び出した。そして画面を母の目の前に突きつける。

「ママ、聞いて。これ、お姉ちゃんの声だよ」

音声の最初の「ママ」という声を聞いた瞬間、母の手からお玉が落ちた。

「知世……」

けれど最後まで聞き終わる頃には、母の顔に浮かんでいた感激が少しずつ凍りついていた。

次の瞬間、頬に平手打ちが飛んできた。

勢いで顔が横を向く。耳鳴りがして、頬が焼けるように熱かった。

「杏奈!知世を戻したくないからって、声まで偽造するとは!」

父が私からスマホを奪い取り、その音声を削除した。

「知世は一度死んでるんだぞ!お前は、もう一度あの子を死なせたいのか?」

私は何も感じないまま、湊へ視線を向けた。

「聞こえたよね?お姉ちゃんは嫌だって言った」

私は投票を撤回するための画面を、彼の前へ差し出した。

「取り消して。湊が撤回してくれれば、私はまだ生きられる」

湊の指が、画面の上で止まった。

その時、母が突然その場に膝をつき、湊の袖を掴んだ。

「湊くん、お願い。知世は昔、あなたの命を救ったでしょう?

お願いだから、あの子を助けてあげて」

湊は目を閉じた。長い沈黙のあと、彼はスマホから手を離した。

「杏奈、ごめん」

その時、私の手が少しずつ透け始めた。

湊が慌てて手を伸ばしてくるが、私は一歩後ろへ下がった。

「触らないで。あなたが選んだんだから」

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