第6話

桐生雲水は元々病室の外でしばらくためらっていた。タバコを吸いたくて、看護師にベランダへ追いやられた。

そして病室に入ろうとした時、中には別の男性がいたことを気づいた。

桐生雲水は視線を互いに握り合っている二つの手に注ぎ、目の奥に自分でも気づかないほどの激しい怒りが露わになった。

胸の中に燃え盛る炎がくすぶっており、発散する場所がなかった。必死にこらえて、ようやくいくつかの言葉を絞り出した。

彼は汐見陽菜を問い詰めるつもりはなかった。彼女は病人なのだから。

ドアが開く音を聞いて、汐見陽菜の瞳は暗くなった。

桐生雲水が手に持っていた花かごを置くのを見て、汐見陽菜は自分の手を引き戻した。

汐見陽菜は桐生雲水に誤解されても構わないから、もう彼に説明しなかった。

この間、桐生雲水が守屋藍と桜庭結衣三人でどこに行こうとしても何をしても、彼女は尋ねたことはなかった。

だから、彼女のことも彼らに口出しされる筋合いがないと思った。

目を閉じようとした瞬間、リンゴが小さく切られて口元に差し出された。

陽菜は少しぼうぜんとした。リンゴの甘い香りが彼女を誘っているかのようだった。唇を舐め、一口かじった。

桐生雲水の瞳はさらに冷たくなった。

汐見陽菜はわざとやっているのだ。

彼は自分を抑えきれなくなりそうだったが、再び汐見陽菜に触れる時には、やはり声を低くした。

「少し話さないか？」

話すことなど何もなかった。

桐生雲水がどんな人間か、彼女は十分知っている。

もし本当のことを話したら、飛行機に乗るどころか、退院さえ難しくなるだろう。

「桐生おじ様、こちらは親友の友達で、わざわざアメリカから私に会いに来てくれたんです」

桐生雲水の表情に微妙な変化が起こった。

彼女は彼を桐生おじ様と呼んだ。

彼は彼女より十歳年上だが、彼らの間にジェネレーションギャップがあるとは一度も感じたことがなかった。

それに、彼女は自分のことが好きではなかったのか？

彼は彼女の日記帳を全て読んでいた。そこには自分への憧れがぎっしり書かれていた。

彼女は彼をおじ様と呼んだことは一度もなかった。

彼女は彼を雲水さんと呼んだ。

軽い酸っぱい痛みが瞬時に胸を満たし、桐生雲水は花かごを置き、顔色が少し青ざめた。

「陽菜、全てを分かった......」

彼は本当に後になって気づいたのだ。

彼女のせいでもある、ずっと何もなかったかのように振る舞っていたのだから。

アレルギーは抗ヒスタミン薬を事前に飲めば済むというものではない。たとえ事前に飲んだとしても、薬の効果は軽減される。

さらに、彼女は桐生雲水を喜ばせるために、たくさんの種類のチョコレートを作った。

年々。

実は、毎年クリスマスが終わると、彼女は病院に行ってアレルギー注射を打っていた。

さらに、彼女は脱感作療法まで受けた。全コースは3年から5年かかる。

留学していなければ、それを受け終えていたはずだ。

過去に自分が飲み込んだ苦しみ、誰にも知られずに密かに他人を愛していたことを思うと。

汐見陽菜の鼻腔が突然ツンとし、目元に涙が浮かんだ。

してきた全てのことは、ただ愛する男性にキスできることを願ってのことだった。

しかし、大変な労力をかけて回り道をしてここまで来たのに、自分がとんでもない笑い話だったことに気づいたのだ。

「桐生おじ様、疲れましたわ」

汐見陽菜は退室を促した。

彼女は目を閉じ、リンゴももう食べなかった。

榊原瑛哉は空気を読んで立ち去ったが、廊下で桐生雲水に追いかけられた。

「彼女から離れろ、できるだけ遠く！」

彼は汐見陽菜を知っていた。彼女は海外留学中に外国人の彼氏を作らなかった。榊原瑛哉のようなハーフも好きではないはずだ。

しかし、何事にも絶対はない。先ほどの彼女の態度を見ても、慎重になった方がいいと思った。

結局、事態は今日の段階まで来ており、彼らの計画まであと一歩なのだから。

榊原瑛哉は軽く笑った。

「彼女の叔父さんですか？」

この「叔父さん」は桐生雲水の胸に突き刺さった。

ここには汐見陽菜はいない。彼も上品の偽装を解いた。

「陽菜は俺のことが好き」

このいくつかの言葉は重みがあった。しかし、愛を明確にはしない。彼は常に立場をわきまえ、余裕があった。

榊原瑛哉は手を差し出した。

「榊原瑛哉」

笑顔でいなせば角が立たないと言うが、桐生雲水はこのハーフとこれ以上関わるつもりはなかった。

「俺の言うことを聞け、彼女から離れろ」

桐生雲水はポケットに手を突っ込み、視線はさりげなくガラス窓越しに汐見陽菜から榊原瑛哉へと移った。

「それと、彼女を連れて行こうなんて考えるな」

榊原瑛哉は遠ざかる桐生雲水の後ろ姿を見て冷たく鼻を鳴らし、再び病室へ入った。

もし彼女がこんなに辛い思いをしていると知っていたら、あの時身を引くべきではなかった。

紳士的に振る舞おうと思ったのに、その結果、この薄情な連中に彼女をひどい目に遭わせてしまったのだ。

榊原瑛哉が入ってきた時、汐見陽菜がすでに起き上がっていて、口の中が膨らんでいるのに気づいた。

彼が入ってくるのを見て、美しいアーモンドアイをパチパチと瞬かせ、そして突然何かを飲み込んだ。

リンゴだ。

榊原瑛哉は視線をテーブルに移し、剥いておいたリンゴの塊がいくつか減っているのを見た。

「食欲が出てきたのは良いことだ」

気分が良くなった榊原瑛哉は、再び椅子に座り直し、汐見陽菜のために枕を彼女の後ろに置いた。近くに触れた時、指先が無意識に彼女の髪の毛に触れた。

汐見陽菜は少し後ろめたそうに相手を避けようとしたが、相手にしっかりと押さえつけられた。

「動かないで。頭に虫がついてるよ」

汐見陽菜の目はパチパチと瞬き、すぐに動かなくなった。

頭が一瞬ショートした。

まずい、彼女の髪は三、四日洗っていないのだ。

「冗談だよ」

榊原瑛哉の口元に優しい笑みが浮かんだ。その笑顔には、限りない寵愛と愛情が隠されていた。

汐見陽菜の心は軽く震えた。

榊原瑛哉は温かい人だ。

いつも沈黙している桐生雲水とは違い、奔放で派手な守屋藍とも違う。

まるで冬の数少ない太陽のように、少しずつ雲を突き抜け、部屋に差し込んでくる。

汐見陽菜がまたうとうとと眠りにつくのを見て、榊原瑛哉の瞳は少し深くなった。手を上げて彼女のこめかみを優しく揉みながら、小さな声で呟いた。

「ごめん、遅れてきた」

守屋藍が花束を抱えてドアを開けた時、ちょうどこの光景を目にした。