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第44話

Author: 神雅小夢
last update Huling Na-update: 2025-07-07 15:19:29

「……ここは冷えるから、和室に行こう」

私たちは床の上に座っていた。立ちあがろうとしたが、私は足にうまく力が入らなかった。膝が震えている。

「きゃっ」

視界がぐらつき、私は悲鳴をあげた。

ふらつく私を龍太郎が軽々と抱き上げていた。

横抱きしながら運び、そのまま和室のリビングのところに、そっとおろしてくれた。

こんな時なのに、お姫様抱っこは初めてだとか、そんなことをぼーっと考えていた。

……これは悪い夢なのだろうか?

なぜ、こんな怖い目に遭わなければならないのだろう。

……私の行動が原因か? 不用心すぎたのか?

「……おい、いい加減、そのパジャマなんとかしろよ」

龍太郎が背中を向けて座っていた。それで初めて自分の上半身が、下着姿のままであることを思い出した。

「……あ、ご、ごめん」

私は立ち上がり、新しいパジャマに着替えた。

脱いだパジャマを見て、このパジャマはもう捨てようと思った。

今考えるのは、そんなことではないのに頭が回らなかった。

龍太郎の背中が目の前にあった。

「りゅ、龍太郎、来てくれて、ありがとう……。助けてくれて、ありがとう……」

私は龍太郎の背中に後ろから、そっと抱きついた。

龍太郎の背中がビクッと飛び跳ね、驚いたのがはっきりわかった。

その大きな背中はとても温かかった。

「……龍太郎、ごめんね。ドジ踏んじゃった。馬鹿だよね、私……」

涙腺が緩んで、目の前の景色が歪む。

龍太郎は白のパーカーにカーキのサルエルパンツを履いている。

そこからは柔軟剤のような、石鹸のような柔らかい香りがした。

「……おまえは悪くねーから、謝るな」

ぶっきらぼうな物言いだが、今の私にはありがたかった。下手に優しい言い方をされたくない。

龍太郎の髪からはシャンプーのいい匂いがした。お風呂に入ってきたのだろう。

「ねぇ……、どうしてまたきてくれたの? 湯冷めしちゃうよ……」

不思議だった。どうしてまたここに現れたのか。

「……昼間、見たヤツが気になったのもあるけど……。まぁ、今言うべきことかは置いといて……、おれさ、家に帰ってから、またすぐにおまえに会いたくなった。時間が許す限り、おれはおまえと一緒にいたい……。さっき、言えなかったからな。今日きちんと、おれ
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Mga Comments (1)
goodnovel comment avatar
もちむぎ玄米
最後の2人のシーン、龍太郎が正直に想いを伝えるところ、雪音の返しの言葉、良いよい良いですね〜ドキドキ でも絢斗の件は最悪で、逆恨みで、雪音が受けた恐怖を思うと可哀想で… とにかく無事で良かった。 龍太郎、雪音に会いたくて戻ってきてくれて、雪音を守ってくれてありがとう。 本当に良かった。 今後の龍太郎と雪音のLOVEキュン話に期待!!楽しみです。笑
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