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第8話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-06-12 11:27:39

「あ、あの、なんでスマホ入れ替わったんですかね?」

私は不思議に思っていた。

「おまえが派手に転んだから、おれもびっくりして落としたらしい。本当、おまえ、あれだかんな。おれだったから良かったものの、下手したら、おまえスマホで写真撮られてネットのおもちゃにされてんぞ。気をつけろよ」

「……はい。気をつけます」

確かに今の世の中、なにをされるかわかったもんじゃない。

それにしても、この車、内装もセンスいいなぁ。黒一色じゃなくて、アーモンド? みたいな色とうまく組み合わさってる。

この車の中で不倫してんのかな、ふとそんなことを考えたが、龍太郎の顔立ちを見ると、まぁこんだけいい男なら女に不自由しないだろうな、と思った。

それに不倫してようがしてまいが、私には関係ない。

……にしても、運転も上手いなぁ……。うちの会社の送迎のおじさんなんて、もう荒いのなんのって。酔うわ、酔うわ。

まぁそれも嫌で、送迎車利用してないんだけどね……。

……って、んん⁉︎ やばい! 車のバッテリーがあがったまんまなの、すっかり忘れてた!

「あの、用事ってあと何分ぐらいで終わりますか?」

私は車をどうにかしないと、明日も仕事だ。

「……なんだよ。もうすぐ着くよ。忙《せわ》しいやつだなぁ」

龍太郎の苛立つ声が聞こえたけど、周りをふと周りを見ると、まだ桜の上に雪が積もっている。朝はゆっくり見れなかったけど、なんて幻想的なんだろう。

こんな光景を好きなひとと見れたら、どんなに素敵だろう——

「おい、雪音、着いたぞ」

龍太郎が山の中の駐車場に車を停めた。

「あ、あの、なんで呼び捨て……」

いきなり呼び捨てにされて戸惑った。

「だっておれ、お前の苗字知らねーもん」

あっけらかんとした口調で返された。

「鈴山雪音です。鈴山!」

「あっ、そうなんだ。降りるぞ、雪音」

「え? あれ、結局、呼び捨て?」

あ、あれ、ここって。駅の裏側じゃない?

駅の裏側の山の中にこんな場所があったの、ここって——

「そう、墓地だ。おれが助けられなかった子のお墓がある場所」

目の前には小さな墓地が広がっていた。

「今日はその子の命日なんだ……」

少し遠い目をして龍太郎は風に言葉を乗せた。

え? このひと、本当に医療
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