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第26話

Auteur: エンエン
「フォーラムのこと、ごめん」

一言一言、喉から絞り出すように北斗が言った。霜乃は横目で彼を見た。北斗の表情には、かつての冷たさや傲慢さは微塵もなかった。

代わりに、言いようのない悲しみと苦しみが滲んでいた。

「私には、あなたの権力なんて必要ない。

欲しいものがあるなら、私は自分の力で取りに行く」

霜乃の声は穏やかで、感情の起伏もなかった。本当に、ただ話を整理しに来ただけというように聞こえた。

「三年前、私があなたに嫁いだとき、私はあなたを愛してた。欲しかったから、その愛を手に入れようと努力した。

でも三年後、私はあなたと離婚した。もう愛していないから、その感情のために何かをすることもない。これは私自身が選んだ今の気持ちであって、あなたの気持ちとは関係ない。

北斗、私が一番嫌いなあなたのところ、分かる?」

霜乃は突然顔を上げ、真っすぐ彼を見た。

北斗は一瞬驚き、口を開けたままどう返せばいいか分からなかった。

「一番嫌いなのは、あなたの自分本位なところ。この三年間、あなたはずっと自分の世界に生きてた。香月が去ったその瞬間で時間が止まってて、私がどんなに頑張っても、あなたには見えてなかった。

三年経っても、あなたはやっぱり自分勝手。自由になりたい私を、またあなたの手元に縛りつけようとする。私が本当に欲しいのは自由なのに、それをあなたは奪おうとした。

今回のフォーラム、私は本気で勝ちたかった。でも、そんな勝ち方は望んでなかった。

あなたのせいで、私が本来自分の力で手に入れるべきだった賞を失った。あなたのせいで、医学界の人々に侮られ、疑われた。今はあなたの力でどうにかできるかもしれない。でも、これからは?

あなたは香月と一緒になるべきよ。だって、あなたたちは本質的に同じ。どちらも自分本位なの。あなたの今の熱烈な追いかけだって、結局はあなた自身のため。私は欲しい、だから追いかけるそういう、自己中心的な執着でしかない。私にいいかって聞いた?戻りたいかって聞いた?必要かって聞いたこと、ある?」

その一言一言が、北斗の心を突き刺した。

彼が自分の中で愛や後悔だと信じていたものが、今この瞬間、すべて剥がれ落ちていくのが分かった。

この愛は、本当に愛だったのか。それともただの執着、わがままな欲望だったのか?彼の中で、答えが揺らいでいた。

「霜乃……ごめ
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    「フォーラムのこと、ごめん」一言一言、喉から絞り出すように北斗が言った。霜乃は横目で彼を見た。北斗の表情には、かつての冷たさや傲慢さは微塵もなかった。代わりに、言いようのない悲しみと苦しみが滲んでいた。「私には、あなたの権力なんて必要ない。欲しいものがあるなら、私は自分の力で取りに行く」霜乃の声は穏やかで、感情の起伏もなかった。本当に、ただ話を整理しに来ただけというように聞こえた。「三年前、私があなたに嫁いだとき、私はあなたを愛してた。欲しかったから、その愛を手に入れようと努力した。でも三年後、私はあなたと離婚した。もう愛していないから、その感情のために何かをすることもない。これは私自身が選んだ今の気持ちであって、あなたの気持ちとは関係ない。北斗、私が一番嫌いなあなたのところ、分かる?」霜乃は突然顔を上げ、真っすぐ彼を見た。北斗は一瞬驚き、口を開けたままどう返せばいいか分からなかった。「一番嫌いなのは、あなたの自分本位なところ。この三年間、あなたはずっと自分の世界に生きてた。香月が去ったその瞬間で時間が止まってて、私がどんなに頑張っても、あなたには見えてなかった。三年経っても、あなたはやっぱり自分勝手。自由になりたい私を、またあなたの手元に縛りつけようとする。私が本当に欲しいのは自由なのに、それをあなたは奪おうとした。今回のフォーラム、私は本気で勝ちたかった。でも、そんな勝ち方は望んでなかった。あなたのせいで、私が本来自分の力で手に入れるべきだった賞を失った。あなたのせいで、医学界の人々に侮られ、疑われた。今はあなたの力でどうにかできるかもしれない。でも、これからは?あなたは香月と一緒になるべきよ。だって、あなたたちは本質的に同じ。どちらも自分本位なの。あなたの今の熱烈な追いかけだって、結局はあなた自身のため。私は欲しい、だから追いかけるそういう、自己中心的な執着でしかない。私にいいかって聞いた?戻りたいかって聞いた?必要かって聞いたこと、ある?」その一言一言が、北斗の心を突き刺した。彼が自分の中で愛や後悔だと信じていたものが、今この瞬間、すべて剥がれ落ちていくのが分かった。この愛は、本当に愛だったのか。それともただの執着、わがままな欲望だったのか?彼の中で、答えが揺らいでいた。「霜乃……ごめ

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