FAZER LOGINメダルの音、それが示していたのは、真実だけじゃなく、木野の意思だった。今、木野と、明天の、思いが衝突する。過去を認めず新たな自分として生きるか。過去を認め、苦しんで生きるのか。その結末を見届けましょう。※※※ 目の前の光景が、現実であることを受け入れたくなかった。 破砕機に巻き込まれ、無惨な姿となった門宮。 これをやったのは、僕だ。 何も思わずに押した破砕機の運転スイッチ、それが門宮の上半身をぐちゃぐちゃに潰した。 どうして? どうしてこうなった? 僕は門宮に確認したはずだ、これから機械を運転させると。 それなのに、なんで巻き込まれた? 何故、門宮は了承した? こんなの不慮の事故じゃないか! 違う……僕じゃない…僕はやってない! いくらそう思っても、脳裏にこびりついた、あの光景が真実を突きつける。 否定することができない。 否定したところで現実は変わらない。 どうしよう? どうしたら、門宮は助かるのか? いや、もう助からない。 上半身が完全にすり潰れているからだ。 こんな光景、フィクションでしか見たことがない。 なら、僕はどう責任を取ればいい? 何をすれば許される? 警察呼んで、全て僕がやったと、素直に白状して、逮捕されて、死刑になって、刑務所で惨めに死んだらいいのか? 他人の命を奪った代償は、自身の命で償えばいいのか? それで、門宮は納得するのか? 僕はそれで許されるのか? いや、何をしても、意味はない。 おかしいよ、こんなの。 認めない………こんな現実、こんな僕は、絶対認めない! 認めたくない。 僕は殺人なんて起こさない、ましてや、門宮を殺すことなんて、ありえない。 だが、実際に門宮は目の前で死んだ。 人の命が失われれば、二度と戻ることはない。 それを自らの手でやってしまったのだ。 その罪悪感から逃れることはできない。 門宮を殺した。この真実は、この先、何年経っても、何を成し遂げても、どれだけ喜ばしい体験があったとしても、ずっと、心に大きな傷として残り続けるだろう。 それだけじゃない、門宮の家族や友達にとっては、門宮と、突然の別れになる。 その責任を僕はどう取ればいい? 僕は死んだ方がいい。 いや
真実から逃げた僕は、自分の中で永遠の眠りにつこうとした。 そうしていれば、このまま静かに過ごせると思っていた。 罪の意識は自分の存在と一緒に消えると思っていた。 あの音は聞こえてこない。 この場所《圧夢駅》では、何も聞こえない。 はずだった、だが——。 ちゃりん♪ 「出テイケェエ!!」 圧夢駅に残っていたデーモンに、罵声とともに殴られ、その強烈な痛みで目を覚ます。 痛みだけではない、あの音が、また僕の耳に聞こえてきた。 その音の方が、失いかけていた意識をより強く目覚めさせる。 どれだけデーモンに殴られても、ここで殺されてしまおうが構わない。 メダルが落ちる音だけは、聞きたくなかっ――ゴンッ! またしてもデーモンに殴られた。 デーモンの拳が、僕の顔を凹ませる。 僕は地面に叩きつけられ、その反動で身体が宙に浮いた。 痛った。 ……これ絶対、死んだだろ。 と思ったが、残念ながら僕の意識はまだ残っていた。 そうか、僕は死ぬほどの痛みを一度も経験したことがないから、これは想像上の痛みでしかない。 だから死なないのか。 ここは、記憶と想像で作られた世界だった――ゴギィ! 今度は地面が陥没する程の勢いで、叩きつけられた。 この痛みは、ずっと続くのか? それでいい。 僕は門宮を殺したんだ。 この痛みが永遠に続けばいい。 それが僕に対する罰なら、全て受けるさ。 それでいいんだけど……でも。 ちゃりん♪ だったら、どうしてこの音は止まないんだ! 何度も何度も、僕に罪を突きつけるかのように、聞こえてくる! 目的はもう終わったはずだ! 僕を真実へ導いただろ! 絶対に忘れたかった、最悪の記憶に! だから僕は、ここで眠ることを選んだ! そんな僕に、今更、何を求めてるんだ!? 「知ルカ」 溢れ出た感情をデーモンにぶつけた。 そうしたら今度は、後ろの壁ごと殴り飛ばされた。 壁は破壊され、僕はその奥へぶっ飛ばされた。 その衝撃で、辺りに砂煙が漂い、視界が遮られる。 ここで叫んだところで、意味なんてない。声なんて出てないし。 そんなこと分かってる。 ちゃりん♪ まただ。 また、聞こえてくる。 これが、本当の苦し
僕は、門宮を殺した。 それが、僕がどうしても忘れたかった真実だ。 あの時僕は、破砕機の運転スイッチを押し、起動させた。 門宮はそれに巻き込まれて、ぐちゃぐちゃになった。 ただそれを、呆然と眺めていた。 その日、僕と門宮は、二人で破砕機のメンテナンス作業をしていた。 門宮は破砕機の保護カバーを開け、中で破砕機の部品を取り付ける作業をして、僕はその外で交換した部品を掃除する作業をしていた。 その時、門宮は、付き合っている彼女について話してきた。「いやぁ〜、実はあの子と別れたんすよ」 唐突な発言だった。 ついこの前までは、人生が楽しくてたまらない、とか喜んでいたのに。「何かあった?」 門宮の様子がおかしかった。 そんな、淡々と別れ話をするようなやつではない。 僕はその異様さに気付いていながらも、話を聞いた。「バイトと大学の勉強が忙しいから、一緒にいる時が少なくなったんすよ。なのに、こっちに休みを要求するんですよ、おかしくないですか?いやいや、俺の有給だって無限にあるわけないっしょ。それに、どーでもいいことばっか、いちいち文句言ってきて、それで、だんだん、面倒になってきて」 いつも通りのうざい喋り方だった。 彼女と別れたらしいが、それほど落ち込んでもいないらしい。 そのまま門宮は、付き合っていた彼女への愚痴を喋り続けた。 彼女と仲が悪そうな雰囲気は、門宮の話を聞く限り、感じなかった。 だがこうもあっさり、唐突に別れることがあるとは、恋愛とは僕には全く理解できない。 だけど、僕はこの時の話をいつも通りだと思ってしまった。 それが、間違いだった。 「本当に無駄な時間でした。なんであんなに夢中になってたんすかね?」 俯く門宮は、手に持った何かを見つめている。 言及はしなかったが、おおよそ彼女との思い出の物か何か、なのだろうと思った。 「取り付けは終わった?」「はい」 この時の返事は、声が籠っていたが、僕は気にしなかった。「それじゃ、回すよー」 門宮に、運転開始の合図を送る。 そして僕は破砕機の方を見て、そこに門宮がいないことに気づいた。 破砕機から、離れているのか? そう思った僕は、何のためらいもなく、スイッチを押した。 ぐちゃぐちゃ、ベギィ!ゴギッ! ――
飛び込んだ扉の奥には、暗い場所に大きなモニターと、面を付けた2人がいた。 それが誰なのかは、今は分からない。 「明天、本当にやるのか?」 面を付けた、背が高い方の男(声色で判断した)が僕に話しかけてくる。 明天?何でそう呼ぶんだ?「えぇ、それしか方法はありません」 今のは!? 僕が喋ったのか!? えっ!?声が出ない!体も動かない! どうなってるんだ!? 体を動かそうにも、瞬きひとつもできやしない。 だけど、さっき、僕の口から言葉が発せられていた。 それは僕の意思じゃない。 まるで、他の誰かの体に、自分の魂だけが憑依しているような感覚?だ。 「私が、木野を救います。そのために、真実を永遠に忘れるように誘導するのです」「分かってる、このままじゃ、自我が崩壊する。今は偽りの記憶で誤魔化したけど、いずれ、メダルの音が木野を真実へ導くだろう」 偽りの記憶? モニターには、僕とリーダーが映っていた。 映像から音は聞こえてこないが、しばらくして、映像の僕はリーダーに首を絞められていた。 そうか、思い出したぞ。 門宮を殺したのはリーダーだったじゃないか。 どうしてそんな重要なことを忘れていたんだ? まさか、その体験自体が偽りの記憶だったのが!? だが、この映像があの時の出来事なら、僕が今見ているのは明天の過去なのか? 「おい!このままじゃ、俺が死ぬぞ!」 その時、面を付けた背の低い方が、慌てるようにモニターに映る僕を指し、明天に止めるように訴えている。 俺、その一人称は、僕が小学生時代の一人称だ。 なんだか、昔の僕と喋り方が似ているな。 どうして僕のことを、俺と呼ぶんだ? 疑問は残ったまま、映像は流れ続ける。 僕はこの先を覚えている。 明天が僕を助けに来て、リーダーは警察に連行された。 あの時は、明天に感謝したが、今となっては、それも僕を真実から遠ざけるために、やったことだったんだ。 いや、待てよ。 このまま、明天がここにいたら、僕は首を絞められて、殺されてしまう!? 「いやぁ、それは困りますねぇ。救いに行くとしますか。あなた方の未来を」 ここで様子を見ていたのか、そしてこの時、僕の元へやってきたんだな。 見られている。 明天が言ったこの言葉は、面を付けた2人のこと
デーモン《直雄》は、電車に轢かれて動けなくなった。 それでも、直雄は死んでおらず、僕に対して「二度とここに戻ってくるな」と何度も言い放つ。 だが僕は戻るつもりなどない。 僕はその電車に乗り、圧夢駅を発つ。 やっぱり、この電車も無人だ。 誰も乗っていない。 それでも、電車は動き出した。 電車内では振動だけが伝わってくる。 音がない環境にもすっかり馴染んできたが、それも今日で終わりだ。 真実を追うために、圧夢駅から出る。 そして明天を探す。 ガタン、ゴトン。 「何っ!?」 電車が走り出してしばらく経つと、久々に音が戻ってきた。 それにびっくりした僕は、思わず声が漏れていた。 音が聞こえるのはこんな感覚だったか。 今、圧夢駅を出たんだな。 いや、待てよ。 僕は久々に音を聞いたんじゃない。 大きな音が聞こえたから、驚いたんだ。 直雄の声や、メダルが落ちる音、圧夢駅でこれらの音は、確かに聞こえたじゃないか。 なぜだ? 圧夢駅は、一切の音が聞こえない空間?のような場所だった。 あの場所で数ヶ月、働いて過ごしたが、聴覚が失われたのか?と思う程、何の音も聞こえなかった。 それでも、デーモンに殺されそうになったあの時、メダルの音が聞こえた。 だからこそ、僕はその音が、今乗っている、この電車を呼び寄せていることに気付くことができた。 だから、こうして脱出できたけど……いや、待てよ。 振り返ってみると、これまでに様々な場面で、不自然にメダルが落ちる音が聞こえていた。 ・門宮が殺された時・門宮を殺した犯人に、僕が殺されそうになった時・なな(犬)を見つけた時・山で突然電車が現れた時・その電車で圧夢駅に着いた時・デーモンから逃げる最中に3回 ありえないことばっかり起きたけど、メダルの音はどの場面にも共通して聞こえてきた。 僕は音に導かれるまま、この場所にたどり着いたのか? 誰が何のために? ……門宮なのか? 明天は言っていた、誰かに見られている、と。 僕を見ているのは門宮なのか? あの時、何もできなかった、ただ見ているだけだった僕を、恨んでいるから、こんな逃げ場のない悪夢を、見せているのか? それなら、僕は何をすれば許されるんだ? そんなの、考えて
直雄《なおたけ》は、※※※さんが死んだ真相を知っていた。 それは、期限内にノルマを達成できなかった※※※さんが、罰則としてデーモンに殺されてしまったことだった。 肉体がバラバラになるほど無惨に殺されたんだ。 それを知っていて、何で平然としていられるんだ?『木野、これは必要な犠牲なんだ。実際に誰かがこうならないと、ノルマの存在意義がなくなる』『だからって、人を殺していい理由には、ならないだろ!』『いや、そんなことはどうでもいい。これが現実かどうかなんか分かってねぇし。このことを咎める者は、この場にはいない。お前を除いてな』『酷すぎないか?ノルマを達成しろって言われても。達成できなかったら殺されるなんて。そんなこた、僕は聞いてなかった!』『あぁもう!うるせぇな!音楽が聴こえねぇって言ってるだろ!デカい声出しやがって!』『だから!音楽なんて今はどうでも――』『どうでもいい訳ねぇだろ!!』 直雄はその言葉に激怒した。 その声は僕には、聞こえないはずなのに、物凄い怒号を聞いたように感じた。 怒っているのは僕の方なのに。『こっちはそこに命かけてるんだ!人が死ぬのはこの会社のルールだ!この無音の空間は俺の作った曲だけが聴こえるんだよ!絶対にな!そういう風にできているんだよ!』 俺が作った曲だけ聴こえる!? 一体どんな理屈で聴こえるんだ? それに、うるさいとか、騒がしいとか、なんで僕の声の大きさを気にしてるんだ?音は聞こえないはずなのに。『他の社員には全員聴こえる。俺の作った曲の音だけがな。聴こえてないのは、お前だけだ。お前は、いい夢を持っていた。小説家になるんだろう?だったらこの事実を受け入れて、励むんだ!夢を叶えるには覚悟が必要だ!その覚悟を見出せば、必ず聴こえてくる!』『いや、それは違うよ。いくら夢を叶えるためだからって、殺人も許される訳ないんだ!悪いけど、君の音楽は僕には聴こえない』 そうだ、もうここにいたらダメだ。 僕は倉庫の出口へ向かって歩き始める。『おい!どこへ行くつもりだ!?』『僕は今すぐ、ここから出ていく』『は?待てよ。出ていくって、だからどこへ行くつもりだ?』『ここじゃない所に行く!』『何言ってんだ?お前はここで働くと約束したじゃないか!仕事はどうするんだよ?ノルマは?夢は?全部放ったらかしにするつもりか!