LOGIN真面目に働く会社員、木野は入社5年目だが、生意気な後輩に毎日、変に絡まれながら、仕事をしていた。それでも後輩は木野にとって、会社で唯一の話し相手だった。 だがある日、そんな後輩は今朝方、遺体となって発見される。 事故が起きたのは工場の職員が全員働いていた昼の時間で、場所は誰しもが通る場所だったが、誰1人このことを覚えていなかった。 この事件は一体何故起きたのか?その真実は木野の忘れた記憶に隠されていた。 ※これはミステリーではありません。ミステリー風味の現代ファンタジーです。
View More忘れたい。
誰しもが1度は願った事があるだろう。 それがもし叶うことができたなら、この先どれだけの痛みや後悔を無くすことが出来るだろうか? 逃げたい。 今、僕は人生において、重要な選択の場面だ。 目の前の景色にただ唖然と立ち尽くしている。 現状、何も考えれる余裕などなく、今はただ逃げたい。 逃げた先に後悔しかないと分かっていても逃げたかった。僕が悩んでいるのは、それは。 「これじゃ…僕が……」 この事故はどうして起こった? 全部、僕のせいだ。 ちゃりん♪ メダルが落ちる音を聞いて、ふと、我に返った。 何か考え事をしていたような気がするが、上手く思い出せない。清掃作業は退屈すぎて、よく考え事をするのだが、つい意識が遠のく時がある。 メダルが落ちる音、この音はここの職場では違和感があった。落ちているメダルを見ながら何故?と考える間もなく、声が聞こえた。 「ハズレか……またサボりですか〜木野先輩?」 「…門宮」 ぼーっとしているところを、後輩に見られた挙句、よく分からないメダルを投げつけられたようだ。サボりと指摘してくるところが生意気を超えて、失礼であるが、僕は気にしない。こんな態度にも、もう慣れた。 僕は入社5年目で、門宮は入社1年とちょっとの、ほぼ新社会人だ。 この職場は、プラスチック容器のリサイクル工場であり、僕らの仕事は破砕機や溶融機などの機械オペレーターだ。 機械が止まっている暇な時はメンテナンスと清掃をしている。 門宮は僕の隣に落としたメダルを拾い上げ、僕に見せてきた。 「いいっしょコレ〜」 「いい物なら職場に持ってこない方がいいだろ。汚れるし」 「別にいいですよ、これ先輩にあげる予定なので」 「だから汚れてもいいってのか!おい!」 さすがに突っ込んでしまった。舐められすぎだろ僕。慣れてないわ、やっぱり。 「まぁ何でもいい。所でそれ何のメダル?」 「これは旅行の記念メダルですよ」 見てみると百円玉と同じような色と絵柄で、五百円玉くらいの大きさのメダルだった。 「ふーん。どっか行ってきたの?」 「はい!実は―――」 はい、始まりました。門宮の俺の彼女めっちゃ可愛いでしょ話、旅行編。 門宮は饒舌に旅行での内容を話始める。何とか島に行ったとか、美味い飯を一緒に食べたとか。これを話し出すと止まらないのである。まぁ一応聞いておくが、内容が上手くまとまってないので、だいたい記憶に残らない。 ちょっと羨ましいなとは、思うけど決して嫉妬はしてない。 一通り話終えると、僕に感想を聞いてくる。 「そりゃ楽しそうでよかったな」 僕はなんの心も籠ってない、淡白な返答をした。 「めっちゃ楽しかったっす!」 それでも門宮は満足そうであった。話を聞いてもらえればそれでいいのだ。 「もういいだろ?早く持ち場に戻らないとリーダーに見つかるぞ」 「いや〜人生って楽しいっすね!先輩も作ればいいのに、彼女」 「無理」 「残念っすね〜それじゃ!」 門宮は去っていった。相変わらず今日も元気なようだ。 彼から渡されたメダルは、床に着いたため、油汚れが着いてしまっていた。これにはちょっとイラッとした。 だがそんな彼でも入社した時は、その性格のせいで結構苦労してきた。 リーダーに生意気な態度をとったと思われ、周りにきつく当たられることが多かったのだ。 それでも彼なりに努力して、少しづつ仕事を覚えながら、社会人としての態度も良くなっていった。僕以外には。 彼のリーダーに対する愚痴もよく聞いていた。これに関してはどう考えても向こうが悪いように思えたため、同情して聞いていた。 僕にとっても、この職場で唯一そういう会話ができるのは、門宮くらいなものだ。 だからこそ悩んでいることがある。僕がこの仕事を辞めるかどうかである。 以前、門宮にこの事を話すと、『木野先輩がいないと、退屈なこの仕事も、続ける理由なくなるっすね』と言われた。 正直このまま辞めるのは、どこか後ろめたい気持ちがあった。 それを考えながら清掃作業をしていると今度はリーダーがやってきた。 「木野、門宮はどこにおる?」 リーダーはとても背の高く、常にくたびれた顔をしているオッサンである。まるで、苦労人と顔に書いてあるようだった。 「…破砕機の方に行きました」 「分かった」 リーダーは右手には業務用のチャッカマンを持っていた。多分、どこに置いてあったのか聞きに行くのだろう。リーダーとはいえ、長い事現場についてないと、どこに何が置いてあるのかさえ、忘れてしまうのである。 「早く掃除終わらせよ」 と意気込んだはいいもの、なかなか終わらず。結局2時間残業して何とか終わらせた。 「木野先輩お疲れっした〜」 「お疲れ」 「結局残業になりましたね!」 「どっかの誰かさんがサボってるからだろ」 「いや〜誰でしょうね〜」 「それよりも、人に土産を渡すなら、場所と時間と渡し方くらい考えて欲しいね」 「普通に渡すんじゃ面白くないっしょ。こういうのはインパクトが大事っすよ。忘れられない思い出になるっすよ!」 調子いいこと言いやがる。と思いながらも、僕はそのメダルを見つめていた。1つ気になる点があった。 「…このメダルに書かれてる人は誰だ?」 小さく書かれた肖像画のようなデザインが見えた。とても見えづらいが、何かに似ている。 「はぁ?そんなもんただの人型っしょ」 「だよな」 「あ、そういえば、そのメダルの製造機にうちの社名入ってましたよ」 「えぇ!?何で!?絶対関係ないじゃん!?うちで扱ってんのプラスチック容器だろ!」 「それで不思議に思って買ったんすよね〜すっかり忘れてました」 「何でそれ先に言わんかったし!」 「まぁでも工場長にメダルのこと聞いても、何も知らんって言ってたし。何かどうでもよくなりました」 「いや、それ、お前が興味無くなっただけじゃねーか」 「リーダーも仕事ばっかり押し付けて、マジでやってけねぇっすわ」 「急にどうした?いつもの事だろ」 「そうなんすけどね。いつもの事って思い込んでるのもどうかって思いますわ。自分は何もしてないくせに」 「よせ、誰が聞いてるのか分からないぞ」 「今更どーでもいいっすよ。嫌われてるのは前からなんで。あーあ、あんなやつ、唐突に死ねばいいのに」 「……」 ふざけた会話を終え、自家用車に乗り、自宅に向かって走らせる。 家までは、街中の帰宅ラッシュ渋滞を抜け、山1つ超える必要があるため、2時間以上かかる。渋滞は正直めんどくさい。 疲れと悩みのせいで、渋滞中は死ぬほど眠くなる。その時にぼんやりと、門宮が言ってた旅行の話を思い出していた。 そう言えば、あいつ何島に行ったんだっけ?良く考えれば思い出しそうだが、何故か出てこない。もどかしい気持ちになった。確か……宮島?違う………沖ノ鳥島……いや絶対違う。 メダルの製造機に社名があった〜とか変な話ねじ込むからだよ、全然思い出せないじゃん。 あ〜ダメだ出てこん。さっきまで覚えてた事を、ふと忘れてしまうとめっちゃモヤモヤする。 そう考えてるうちに渋滞を抜けていた。良かった、今日は事故りそうにならなくて。山道に差し掛かり、ぐにゃぐにゃの道が続いていく。 かなり長い距離だか、通い慣れてはいるため、あとどれ位で着くかは勘でわかる。 上り坂が続く、家まではまだまだ遠いな。そう思って走っていると、外で飼われている犬が見えた。 この犬はいつもこの場所にいる。 あれ?という事は、もう少しで上り坂が終わるのか。 この犬は何時も行儀よく道のほとりで座って飼い主を待っているが、僕が通る時間には飼い主はいない。 誰が飼ってるんだろう?そして犬はどこを見つめているのだろう。 疲れてる、早く帰ろう。 さらに進むと下り坂の途中で自宅がある街が見える。そこに、交通案内の看板が見えた。それを見る度にもう少しで山を抜けるんだ、と思う。 だが今日見た看板には違和感があった。 「圧夢駅?」 別方向に伸びた矢印の上に聞いたことが無い駅の名前が書いてあった。おかしい、この看板は以前はこんな事書いてなかったのに。なんか新設されたのかなあぁぁぁぁぁぁぁあああ!!! 変によそ見をしていたため道を外れていた。 「やべぇ!」 急ハンドルを切る。危うく大木に激突するところだった。周りに車も走っていなかったため、助かった。危っねぇ〜。 油断大敵だ。事故は怖い。 よしさっきのは無かった事にしよう。そして看板の事、帰ったら聞いてみよ。 僕はすっかりメダルの事など忘れ、自宅に着いた。 実家である。 飯を作ってもらえるのはマジでありがてぇ。 「なぁ母さん、圧夢駅って知ってる?」 「何それ?」 食べながら、聞いてみたが特に知らないようだ。看板の事を話したが、疲れてたから何かの見間違いじゃないか?と言われたため、そう思う事にした。 寝よう。数時間程でゲームを止め、就寝する。社会人の朝は早いのだ。なんか忘れてる気がするが、忘れたのでもういいです。 おはよう。 朝五時に目が覚める。 早い時間だが僕にとっては苦では無い。 僕の特性?と言うか特技は、早寝早起きだ。それも普通の早寝早起きでは無い。 素早く眠りにつき、朝は目覚ましがなる10分前には意識を戻す。 僕が朝気がついた時には決まって起きようと思った時間の直前なのだ。 これがめちゃくちゃ正確なのである。決まった時間に確実に起きることが出来る。二度寝はしないため、遅刻は絶対に有り得ない。 これはマジな話。 という感じで僕は寝起きでもキビキビと行動ができる。スムーズに支度を済ませ、職場に向かって車を走らせる。そして朝の渋滞が始まる前に街を抜け、職場に着いた。 さぁ今日も退屈な仕事だ。あ〜やりたくねぇよ。 だがどこか様子がおかしかった。会社の事務所に無駄に早く来てるメンバーは誰一人おらず、がらんとしていた。 いつもは二、三人はいて、その人らが、しかめっ面で携帯をいじっているのに。 あれ?と思い工場内を覗いてみると、そのメンバーは破砕機の前に集まっていた。 安全靴を履いて、僕も破砕機に向かった。機械の故障かな? 気付かないふりをする訳にはいかない。 その時ピーポーピーポーと、外から救急車のサイレンの音が聞こえた。まさか!怪我人が!?僕は走った。 「何があったんですか!?労災ですか!?」 「………これ」 「……」 近くにいた数人は言葉を失っていた。 破砕機のホッパー(投入口)に赤い何かが見えた。 この機械は本来プラスチック容器を、砕くための物である。 だがそこに挟まっていたのは、全くの別物である。 「………何……これ?」 目に入ったのは、真っ赤な人の半身だった。 確かにその形をしていたのだ。 挟まった身体の奥から、不気味な視線を感じる。 目があるのかどうかも分からないのに。 「木野!お前昨日ここで、門宮とメンテナンスしてたよな!?」 「え………」 「斗南さん!今は、彼をここから出しましょう!救急車を呼びました!まだ助かるかもしれない!」 「落ち着け!よく見ろ!半分以上入ってるんだろ!とっくに死んでる!もう助からない!」 「だからって、このままほっとくのか!?」 この人たちが、こんなに大きな声を出しているのを初めて聞いた。 「木野!お前!何があった!?答えろ!これはどういう事だ!」 頭が追いつかない。何がどうなってる?じゃあ、あの惨たらしくはみ出ている身体は………そんな訳ない。 「違います!僕は昨日ここで作業してません!作業してたのは………」 「誰が作業してたんだ!?」 「それは…」 いや門宮なわけない。 昨日普通に帰ってたじゃないか。落ち着け。 とにかく納得させなければ。何を見せれば……。 ちゃりん♪ 焦った僕がポケットを探ったその時、昨日、門宮から貰ったメダルが落ちたのだ。 「これは!?」 「血が……」 そのメダルには、工場の床で落とした時に着いた油汚れではなく、紛れもない血が付着していた。 「何か知ってるんじゃないのか!?」 「えっ………と」 「すいませーん!救急隊通りまーす!空けてくださーい!」 忘れたい。 この場から逃げたい。 どうしてこうなった?その昔、お婆さんは犬を飼っていた。 名前は、なな。 毎朝の散歩はとても楽しく、お婆さんは行くたびに、ななに何度も語りかけていました。「今日はご機嫌じゃのう♪」「雨が降らんくて良かったな♪」「何かおった?あぁ、そりゃカナヘビじゃのう♪」「今日はもう少し歩くかのぉ♪」 孫のいないお婆さんにとって、ななは、家族同然の存在だった。「どしたん?」「何か見つけた?あっち?」「今日は元気ない?」「あぁ、お前の気持ちが理解できればのぉ」 お婆さんは、ななの気持ちを少しでも理解したかった。 だから、いつも問いかけた。 痛い所はない? お腹空いた? 寂しくない? ワン!と吠えるだけ、それとしっぽの振り方で、何を思っているのか、ななの気持ちを考えた。 そんな感じで、5年間毎朝、いつも楽しく散歩へ出かけた。 ところが、ある日。 お婆さんは散歩が終わった後の、ななの様子がおかしいことに気づいた。 ほとんど動けず、息を荒くし、口元から泡を吹いていた。「なな!?ななぁ!!しっかりして!大丈夫!?」 お婆さんは、ななを抱えて大慌てで山を降りましたが、山を降りる途中で、息絶えてしまった。 お婆さんは悲しみのあまり、動かなくなったななを、抱えてその頭を撫でながら、どうして……どうして……と何度も何度も嘆いていた。 すると、お婆さんの隣を大きな散布用の除草剤タンクを背負った業者の人が通りかかった。 除草剤タンクが目に入った瞬間、お婆さんは確信した。 山道は、雑草が多く生えている。 ななは、あの除草剤が撒かれた草むらの中を通ってしまったのだ。 そう気づいたところで、今更遅い、何も考えずに除草剤を撒いた業者も許せなかったが、何よりもそれに気づけなかった自分自身を許せなかった。 後悔だけがお婆さんを飲み込んだ。 あの時、お前の気持ちに気づけていればこんな事には、ならなかったのにな。 大丈夫?痛い所は無い? 毎日の問いに意味は無かった。 だって、ななの気持ちなんて、一生分からないから。 お婆さんは山の中にあるそれなりに大きな木の根元に、ななを埋葬することにした。 何もしてあげられられなくてごめんね。 そう思いながら、何時間もかけて丁寧に埋葬した。 そして木の幹に名前を掘った。 ここがななの墓。 お婆さんが泣き腫らした顔で
門宮の死、それはリーダーの仕業だった。それを知った僕もリーダーに殺されそうになったが、明天《あす》に助けられた。 彼は僕にとっての命の恩人だ。 だが僕が見たのは、賽銭箱を持ち去る、明天の姿だった。 その賽銭箱の中に、僕の求めているメダルが入っている。 明天を追わなければ。あのメダルは僕の真の姿を映すすと、明天は言っていた。 実際、あのメダルに刻印されていた肖像画は、奇妙な面を着けた僕だったのだ。それが僕の姿だった。 メダルだけでは無い。明天が居る神社も、明天の着ている服にある模様も、奇妙な面を付けた僕のことを表していた。 明天の事も何も分かっていない。 明天は一体何者なんだ? 神主?それとも警察?霊媒師?? 『見られている』、この発言は何を表しているんだ? 命の恩人とは言え、不可解な点が多い。 そして、これは現実の出来事なのか? 確かに、明天の言っているのはデタラメのように思えるが、実際に門宮を殺した犯人はリーダーだった。 僕はこの事実を認めたくないと強く思い、僕を含めた工場内の全ての社員の記憶を改ざんした。 そのせいで、門宮の遺体の発見が遅れてしまい、誰にも解けない事件が完成した。 でも本当にそんな事が有り得るのだろうか? それを確かめるためにも、今はそのメダルを見る必要がある。 明天は日が沈みかけた、薄暗い森の闇に紛れて、走っていった。 しかし、どうやって追えば。 そう考えていると、 ちゃっちゃっ♪ と、賽銭箱を揺らしているような音が聞こえてきた。 今も山の中を走っているのか。 そう思った僕は、賽銭箱の音を追いかけることにした。 間違いなくそこにいるはず。 でもどうしてだろう、追っていると言うよりは、誘われているような気がする。 それでも僕は、その音がする方へ生い茂った草木をかき分け進んだ。 どのくらい進んだのだろう。 暗闇の山の中、今自分がどこにいるのかさえ、分からない。 それでも、 ちゃっちゃっ♪ っと音は聞こえてくる。 その音から離れたり、近づいたりしている。 明天は何故、街ではなく、山奥へ逃げるのか? そう思っていると、音が止んだ。 視界が悪い。 辺りを見回しても明天のいた痕跡など分からない。 しまった。これでは、探しようがない。 ちゃりん♪ 硬貨を落としたような音が
メダル、神社の看板、明天《あす》の服、それらに描かれていた肖像画は、肖像画ではなく鏡だった。 そこには僕自身の姿が写っており、しかも、その姿は僕の方をずっと見ているのだと明天は言った。 「その面《めん》が原因なんです。今回の事件は」 「これが、僕の姿?」 鏡には言葉では形容し難い、不気味な面を着けた僕が写っている。いや、ありえないだろ、大体こんな姿になってたら、朝鏡を見た時点で気づくだろ。 いや、僕は、本当は知っていた。 思い出した。 わざと忘れていた、昨日の記憶を。 昨日、僕は門宮と一緒に、破砕機のメンテナンスの作業をしていた。 僕は工具を取りに、一旦離れた。 そして必要な工具を持って戻ってくると、そこにはリーダーに殴られている門宮がいた。 僕は怖くなり、その様子をただ見ていた。動けなかったのだ。 門宮は声を上げることなく、動かなくなり、破砕機の投入口に身体を無理やり突っ込まれた。 そしてリーダーは、なんの躊躇いもなく、破砕機のスイッチを入れたのだ。 ぐちゃぐちゃ、ベギィ!ゴギッ!ちゃりん。 肉と骨が碎ける音が響いて、機械は停止した。 落ちたメダルの音に反応して、リーダーは振り返った。 「あ…………」 僕はリーダーに見つかっていた。 呼吸は荒く、血走った目で僕を見つめている。 そして焦りながら僕の方へ、迫ってくるリーダーに対して、僕はこの事実を忘れたい。そう強く強く思った。 そしてこの事実を忘れる事にした。 リーダーも僕も、工場のみんなも、忘れた。 事故は起きていない。そう記憶は改ざんされたのだ。 僕は、嫌な現実を直視して、忘れたいと強く願うと、僕自身の記憶を含めた周囲の人間の記憶を改ざんできる。 願うたびに、そのことを思い出すんだ。 そしてこの時、改ざんした、全ての記憶を思い出す。 そして今、明天の言葉で、僕はこの事を思い出した。 だが、今回は記憶の改ざんは起きなかった。何故だ? 「それは、真実に気づいたからですよ」 「くっ!」 僕は逃げるように走り出した。 忘れたい!忘れたい!忘れたい! 違う、これは真実じゃない!ありえないだろ!僕が記憶を改ざんしたなんて!デタラメだ!そんな事、あるわけが無い! 僕は工場の普段は使われない古
工場内は常に騒音が鳴り響いていて、うるさい。 だがその日はやけに静かだった。いや、今はいつも以上に騒がしいはずだ。重大災害の発生、それに伴い慌てふためく職場の人。それでも僕は静かに感じたのだ。 救急隊の人が破砕機に挟まった人の救助を試みているようだが、半身が潰されているであろう人を、一体どうやって救うのか。 僕にはそんな事を気にする余裕などない。 周りの音もきこえないほどに、思考を巡らせる。 「誰だ!昨日ここで作業していたのは!答えろ木野!」 何があったのか問い詰められているが、僕は俯いたまま目を瞑った。 落ち着け、これはきっと現実じゃない。昨日の事を思い出すどころか、現実否定を始めていた。 それでも、目を開けたところで何も変わらない。 乾いた血が付着したメダルが真紅に輝いて見える、まるでそれが現実を突きつけてくるように感じた。 あの時付着したのは、油汚れじゃなくて血だったのか。 そんな訳ないだろ、誰も怪我なんかしてない、血なんか一滴も流してない。 「木野!」 「…だから!そのっ!」 「よしましょう。今この精神状態で話し合った所で何も理解できません。今し方警察の方も到着しました。今の我々に必要なのは冷静になる事です」 「人が死んだのに落ち着けってか!」 悲惨な現状を直視すれば、精神的におかしくなる。 僕たちは事務所に戻って、後のことは警察に任せた。 今日の仕事は無くなった。 でも微塵も嬉しくない。 人が死んだのだ。 それもごく身近な人が。 後に警察の調べで、遺体の制服から推測すると死亡したのは門宮と断定された。 遺体の一部(上半身)が著しく損傷しており。死因は見ての通りだった。 今もこれは事故死として捜査が進んでいる。 僕も警察の人に色々な事を聞かれたが、何一つ証拠にならなかった。 僕だけじゃない、この件については職場の誰もが何も知らなかった。 1つ僕たちの発言と矛盾しているのは死亡推定時刻だ。それは昨日の14時31分。僕たちはその時間、通常通りの作業をしていたのだ。 こんな大きな事故があったにもかかわらず、誰も気づかなかったのだ。 僕も警察にその事を言われたが、絶対に違う。その時間、彼は僕にメダルを渡していたはずだ。 それ以外、何も起きていない