Se connecter「心霊なんて、壊せばバズる」――大学生五人組の悪質心霊配信チャンネル〈KOWASU〉。廃墟への落書き、呪物の破壊、霊への挑発を繰り返す彼らは、ある旧家から人骨で作られた白い人形を持ち帰る。翌日、人形の髪が伸び、メンバーの歯が消え、生配信にはいないはずの“六人目”が映り込む。怪異は家族や視聴者へ感染し、消した動画まで勝手に再生され始める。五人を狙うのは死者か、生者か、それとも画面の向こう側なのか。
Voir plus大学生五人が運営する動画・生配信チャンネル。
合言葉は「怖いなら、壊せ」。
廃墟への不法侵入、スプレーによる落書き、供え物の飲食、呪物の破壊、霊への挑発、飲酒や喫煙を繰り返す悪質な炎上系配信者である。
心霊映像の一部は津守怜吾が編集で作った偽物だが、動画には彼すら入れた覚えのない声や影も混在する。視聴者は本物と偽物を判別できず、次第にコメント欄そのものが怪異を育てる場所となる。
20歳。メディア社会学部二年生。〈KOWASU〉の顔兼メインMC。
身長160センチ。赤みの強い焦げ茶色のロングヘアに、猫のようにつり上がった瞳。派手なネイルと革のチョーカーを好む。配信中はカメラへ中指を立て、舌を出し、白目を剥いて霊を挑発する。
自信家で負けず嫌い。自分が注目されない状況に耐えられず、批判コメントさえ再生数へ変えれば勝ちだと考える。他人の恐怖を「盛れるリアクション」としか見ない。母親の前では強がるが、見捨てられることには異常に敏感。
21歳。経営学部三年生。表向きのチャンネル代表。
身長184センチ。黒い地毛が見える銀髪、眉と耳に複数のピアス。体格がよく、呪物や扉を力任せに壊す役を率先して引き受ける。
傲慢で攻撃的。自分より弱い人間を玩具として扱い、事故が起きても「危険だと分かって来た方が悪い」と責任転嫁する。父親が不動産関係者であるため、閉鎖施設や解体予定地の情報にも詳しい。チャンネルを自分の所有物だと思っているが、最初の登録手続だけは他人任せにしている。
20歳。服飾デザイン学科二年生。サムネイル、衣装、短尺動画担当。
身長155センチ。蜂蜜色のボブヘアと人形のように整った顔立ち。左右で色の違うカラーコンタクトを入れている。
明るく愛嬌があり、一見すると五人で最も親しみやすい。しかし他人の容姿や恐怖反応を笑いものにすることに抵抗がなく、「冗談が通じない方が悪い」と言い切る。人形を踏みつけたり、遺影へ落書きしたりする場面でも笑顔を崩さない。コメント欄を煽って集団攻撃へ誘導するのが得意。
21歳。映像学科三年生。撮影、編集、音声解析担当。
身長178センチ。緩く波打つ黒髪、青白い肌、長い指。黒いマニキュアを塗り、常に複数台のカメラを携帯している。
冷静で皮肉屋。幽霊を信じておらず、心霊動画は編集技術で作れると公言する。事故が起きても助けるより撮影を優先するため、五人の中で最も無言の残酷さを持つ。やがて、自分が編集していない映像まで編集済みデータへ混ざるようになる。
20歳。文化人類学部二年生。美怜の親友。怪談・民俗・呪物解説担当。
身長165センチ。真っ直ぐな黒髪の一房だけを白く染め、古い硬貨や赤白の組紐をアクセサリーとして身につけている。
心霊好きだが陰気ではなく、五人と一緒に騒ぎ、飲み、廃墟へ侵入する陽気な性格。各地の伝承や閉鎖施設に異様に詳しい。危険を忠告することはあるものの、最終的には「本物なら面白いじゃん」と笑って撮影を続ける。
五人へ配った赤白の組紐を「チャンネルのお守り」と説明している。
46歳。美怜の母。歯科衛生士。
華奢で端正な女性だが、長年一人で美怜を育てたため気が強い。娘の配信活動を嫌っており、何度もやめるよう注意する。人骨人形を持ち帰った夜から、寝室で誰かの子守唄を聞くようになる。
35歳。怪異事件を追うフリーライター。
黒いショートヘアに銀縁眼鏡。感情を表へ出さず、KOWASUを「死者を二度殺す連中」と嫌悪している。過去に取材した呪物が、なぜか五人の行き先へ先回りしていることに気づく。
黒幕候補として何度も疑われるが、彼女自身も家族を怪異で失っている。
68歳。第一章で訪れる旧家周辺の見回りを続ける男性。
迷惑配信者を追い返してきたため、五人から「廃墟じいさん」と呼ばれる。旧家の人形を外へ出してはいけない理由を知っているが、説明する前に怪異へ巻き込まれる。
夕暮れの繭守邸は、燃える前から焦げた匂いがしていた。 雨の気配を含んだ風が、伸び放題の雑草を低く撫でていく。庭の中央には、錆びた鉄製の脚立を横倒しにして作った台が置かれ、その上へ白い人形が座らされていた。 黒髪はすでに腰を越え、地面へ垂れている。 鬼束美怜はカメラ越しにそれを見つめ、無意識に奥歯を舌で確かめた。 全部ある。 けれど、歯茎の奥にはまだ鉄の味が残っている。「画角、これでいい?」 茅森イオが三脚の位置を調整しながら訊く。 蜂蜜色の髪を高い位置で結び、今日は黒いマスクを顎へ下げていた。左下の奥歯を失ったためか、笑う時に口元へ手を添える癖がついている。「人形と灯油、両方入ってる」 津守怜吾がモニターから目を上げずに答えた。 左手の小指には黒い布が巻かれている。その下には、本人のものより小さな子どもの爪が生えている。切ろうとしても、刃を当てるたび別の指が痛んだため、今朝から触れていない。 轟木燈夜は、庭の隅から赤いポリタンクを運んできた。「こんだけあれば足りるだろ」「全部かけるつもり?」 斑鳩ちとせが訊いた。「燃え残ったら意味ねえだろ」「意味って何」「完全に壊す。それで終わり」 燈夜は右腕を一度振った。 病院で消えた指骨は画像には映らなくなったが、腕の内側には五本指の痣が残っている。時折、皮膚の下を硬いものが移動するように疼く。それでも彼は、誰にも見せまいと袖を下ろしたままだった。 ちとせだけが、人形から離れて立っている。 長袖の下では、赤白の組紐が皮膚へ沈んでいる。紐の中から生えた細い髪は朝には見えなくなっていた。しかし結び目に触れると、脈のような振動が返ってくる。「燃やした記録ってあるの?」 美怜が訊く。「何が」「この人形。昔、燃やそうとした人とか」 ちとせの視線が一瞬だけ屋敷へ向いた。「知らない」「その間、何」「何でもないよ」 美怜は追及しなかった。 最近のちとせは、知らないと言う前に必ず一拍置く。その短い沈黙を、燈夜も怜吾も気づいている。イオだけは気づいていないふりをしていた。 配信開始まで、あと三分。 怖いなら、壊せ。 いつもの言葉だった。 それなのに、今は喉の奥へ小骨が刺さったように引っかかる。 人形の黒髪が風に揺れた。 一房だけ、ちとせの方角へ伸びる。 ちとせは袖の中
第20話 骨が一本足りない 医師は、モニターに映った白い影を三度見直した。 燈夜の右腕を写した画像には、橈骨と尺骨の間へ細い指骨が絡みつき、関節を曲げた小さな指のように前腕を掴んでいる。さらに手首の内側からは、肉へ繋がっていない六本目の指が伸びていた。 それでも診察室にいた医師は、燈夜の顔より先に機械を疑った。「画像の重なりか、検出器の不具合でしょう」「骨が一本増えてんのに、故障で済ませるのかよ」 燈夜は丸椅子から立ち上がった。右腕を庇うように胸へ寄せている。包帯の下で、爪のない小指が脈打っていた。「通常、こういう形で異物が入り込めば、腫れや発熱だけでは済みません。血管や神経にも影響が出るはずです」「痛えって言ってんだろ」「ですから、再撮影します」 医師の声は冷静だったが、モニターへ向けた指先がわずかに震えていた。 深夜の救急外来は静かだった。廊下を運ばれるワゴンの車輪と、遠くで鳴る呼び出し音だけが薄い壁を越えて響いてくる。消毒液の匂いが鼻の奥へ張りつき、燈夜の苛立ちをさらに尖らせていた。 再び撮影室へ入る。 技師が腕の位置を直し、冷たい板の上へ右腕を置かせる。燈夜は肩を強張らせたまま、機械の四角い影を睨んだ。「動かないでください」「分かってる」 照射を知らせる音が鳴る。 その一瞬、燈夜の皮膚の下で何かが動いた。 肘の内側から手首へ。 細い節を折り曲げながら、肉の中を這う。「待て」 燈夜が腕を引こうとする。「動かさないで!」 技師の声と同時に、白い光が落ちた。 動きは消えた。 再撮影された画像には、異物は何も映っていなかった。 二本の前腕骨。手首。五本の指。 先ほどまで絡みついていた指骨も、六本目の指もない。 医師は安堵したように息を吐いた。「やはり機器側の問題です。最初の画像は破棄して、点検へ回します」「じゃあ、この痛みは何だ」「打撲と爪の損傷でしょう。鎮痛薬を出しますので――」 燈夜は右袖を肘まで捲り上げた。 言葉が止まった。 前腕の内側へ、青黒い痣が浮かんでいる。 一本ではない。 親指を含む五本の指跡が、内側から腕を掴んだ形で残っていた。皮膚の表面を押さえられた痣ではない。肉の奥から外へ向かって指を立て、そのまま強く握り込んだような跡だった。 手首に近い部分には、小さな爪先の形まで浮い
昼の繭守邸は、夜よりも荒れて見えた。 傾いた屋根。雨を吸って黒ずんだ外壁。割れた窓へ内側から垂れる、長い染み。陽が出ているにもかかわらず、庭の奥には薄い霧が残り、裏手の藪だけが夜の続きのように沈んでいた。 午前十一時。 大学を休んだ五人は、スコップと折り畳み鍬、撮影機材を車から降ろしていた。「昨日の配信、百三十万いってる」 茅森イオがスマートフォンを掲げる。 画面には、美怜が眠ったまま土を掘る姿が表示されていた。切り抜き動画はすでにいくつも作られ、赤い子ども靴が出てくる場面だけを繰り返す短い映像が拡散されている。「朝からずっと増えてる。うちの過去最高、普通に超えるよ」「なら、出た場所を掘るしかねえだろ」 轟木燈夜は肩へスコップを担いだ。 右手の小指には厚く包帯が巻かれている。爪を失った傷は塞がらず、皮膚の下へ入り込んだ赤い糸も消えていない。それでも燈夜は手袋を重ね、何事もなかったように機材を運んでいた。 鬼束美怜は車のドアに寄りかかり、靴先を見つめていた。 今日は厚底のブーツを履いている。 昨夜、ベッドの下にあった赤い子ども靴は消えた。 母の沙和が帰宅した時には、床へ乾いた土だけが残っていた。何をしたのかと問い詰められ、美怜は撮影用の小道具を持ち帰ったと嘘をついた。 眠ったまま屋敷へ歩いたことも、視聴者の投票に従って穴を掘ったことも言えなかった。 爪の中へ入った土は、洗っても取れなかった。 黒い粒が皮膚の下へ沈み、爪の奥で赤い糸と絡んでいる。「本当に配信するの?」 斑鳩ちとせが訊いた。 今日は手首の組紐を長袖で隠している。繭守邸へ着いてから、屋敷も井戸も見ようとせず、美怜が掘った場所だけを凝視していた。「するに決まってんじゃん」 美怜は顔を上げた。「私が寝てる間に勝手に配信されたんだよ。だったら、今度は起きてる私たちが続きを見せる」「土の中から何が出るか分からない」「赤い靴でしょ。片方はもう出た」「靴だけとは限らない」 ちとせの言葉に、燈夜が鼻を鳴らした。「だったら余計に撮れ高あるだろ」「人の物が出たら、警察へ連絡する」「出てから言え」 津守怜吾は会話へ加わらず、固定カメラを三台設置していた。 一台は美怜が掘った穴を正面から。 一台は井戸と穴の両方が入る角度。 もう一台は高い木の枝へ固定し、五人
頬に冷たいものが触れていた。 雨粒ではない。 濡れた布でもない。 土だった。 鬼束美怜が目を開けると、見慣れた自室の天井が薄明かりの中に浮かんでいた。カーテンの隙間から朝の光が差し込み、壁へ細長い影を落としている。 枕元では、スマートフォンの画面が明るく点灯していた。 誰かが喋っている。 音量は小さい。囁きに近い声が、途切れ途切れに聞こえてくる。「……右」「もっと、右」「そこじゃない」 子どもの声ではなかった。 読み上げ機能の、温度のない合成音声だった。 美怜は身体を起こそうとした。 両腕へ鈍い痛みが走る。「っ……」 肘から先が重い。肩も、背中も、長く同じ動作を繰り返した後のように張っている。 布団を捲った瞬間、美怜は動きを止めた。 両足が泥だらけだった。 素足の指から踵まで、黒い土が厚くこびりついている。乾いた泥がシーツへ剥がれ落ち、薄茶色の染みを広げていた。 寝間着の膝にも土がついている。 右膝の布は破れ、皮膚が赤く擦れていた。左の脛には草で切ったような細い傷が何本も走っている。 両手を持ち上げる。 爪の中へ、黒い土が詰まっていた。 派手に塗ったネイルは端から剥がれ、一本は中央から割れている。爪と皮膚の隙間に入り込んだ土の奥で、赤い糸が細く脈打っていた。 美怜は息を止めた。 昨夜、繭守邸から帰った記憶はある。 壁の中から舌が伸びた。 頬を舐められた。 六つ目を意味する文字が皮膚へ残った。 その後は、乳歯や爪の入った袋を持たず、帳面だけを機材ケースへ入れ、五人で屋敷を出た。森部を置いて帰るかどうかで燈夜と怜吾が言い争い、最終的には森部を最寄りの交番近くまで車で送った。 自宅へ着いたのは、午前二時を過ぎていた。 シャワーを浴びた。 母はまだ帰っていなかった。 部屋へ入り、スマートフォンを充電器へ繋いだ。 そこまでは覚えている。 今、充電器の先には何もない。 スマートフォンは枕元に置かれ、生配信の画面を映していた。 視聴者数は一万八千を超えている。「何、これ」 自分の声が掠れた。 画面には、夜の繭守邸が映っていた。 映像がわずかに上下している。 撮影者は歩いていた。 背の高い草を掻き分け、屋敷の脇を通り、裏庭へ続く道を進んでいる。 画面の中央に、美怜の背中があった。 薄い寝