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第0446話

Author: 龍之介
嬌は綿に水の入ったコップを差し出した。

綿はそれをじっと見つめた。

嬌は、綿がコップを受け取るのを待っていた。

綿がこれを受け取れば、嬌がこの家の女主人であることを認めたことになる。誰が認めなくても、綿にだけは認めてもらいたかった。それが嬌にとって何よりも重要だ。

綿は差し出されたコップを見つめると、胸が締め付けられるような思いを感じた。

時は移り変わったのだ。

綿は苦笑しながらコップを受け取った。「ありがとう、陸川さん」

その瞬間、嬌の目が一気に輝いた。

他の誰が水を受け取ってもこれほどの喜びは感じないだろう。だが、綿が受け取ることは特別だった。それが嬌をとても興奮させた。

綿は一口水を飲み、コップをテーブルに置いた。

嬌は、本来は家に忘れ物を取りに行くつもりだったが、綿が来たのを見て、そのまま残ることにした。

彼女は薄手のジャケットを脱ぎ、綿の向かいに座ると、軽く世間話を始めた。「今夜のパーティー、あんたも行くんでしょ?」

「ええ」綿は階上をちらっと見上げた。輝明の会議がどれほど長引くか分からないが、もし長引くようなら、先に帰ろうかと思っていた。

自分がかつての家で、輝明の今の恋人と雑談を交わすなど、想像したくもない。

「桜井さん、気にせず、何か食べたいものがあったらご自由にどうぞ」嬌はまるでこの家の女主人そのもののように、大らかな態度を取っていた。

綿はテーブルの上に並べられた果物の盛り合わせを見て、少し微笑んだ。

彼女はオレンジを一つ手に取り、皮を剥こうとしていたが、嬌の言葉に目を上げたその瞬間、目に飛び込んできたのは、嬌の首にかかっている美しい蝶のネックレスだった。

綿はしばらく視線を固定し、眉をひそめた。「そのネックレス……」それは、以前、海外のオークションで輝明が競り落としたものにそっくりだった。

嬌はその視線に気づくと、ネックレスに手を当て、幸福そうに微笑んだ。

「このネックレスのことね。明くんがあたしにくれたの」彼女は柔らかく綿を見つめながら言った。

「彼、恥ずかしがりながら、ネックレスをテーブルに置いて、直接渡してくれなかったの」嬌はため息をついて続けた。「でもね、あたしは蝶があんまり好きじゃないの。もし月や星のデザインだったら、もっと嬉しかったのに……」

綿は彼女の話を聞きながら、次第に表情を曇らせた。
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