LOGIN第八十八話僕はアルバムを置いた場所を思い出していると、全く別のことを思い出してしまった。『引っ越しても絶対に風香ちゃんのこと忘れないからね! 絶対……絶対にまた遊ぼうね!』『うん、絶対に遊ぼうね! 〇〇ちゃん!!』 思い出したはいいものの、顔や名前に軽いモヤがかかっているのが分かる。彼女の乗っている車に反射している私を見るに幼少期の思い出なんだろうけど、今はまだ分からないのがもどかしい。幼少期の思い出を少し思い出したというのは大きな進歩だということに違いない。引っ越した友人がいたというのなら、アルバムにもしかしたら載っている可能性もある。僕自身を知ることが咎にも……母さんにも繋がるのだから、妥協している暇はない。「朱莉、僕が物を触っている記憶を読めないかな?」「了解、私に任せてよ風香ちゃん!!」神妙な面持ちで僕の記憶を辿っている朱莉にトキメキを感じていた。「見つけたよ!! あのタンスの二段目の…………わっ、私の写真の下にあるよ。風香ちゃん、そんなに私の写真印刷してたんだね。恥ずかしくなっちゃうよ」「どこにいても朱莉を感じてたかったからっていうのもあるけど、魔法を使う時に役に立てようと思ってね。ごめん、こんな使い方して」朱莉は疑問符を浮かべながら僕に質問してきた。「あのさ風香ちゃん、今更になるんだけど私たちの使ってる感情って愛と恐怖だよね。ものすごくふわっとしてないかな?」「急にどうしたの?」「いやね、風香ちゃんの記憶見てて思ったんだけど、愛にしても恐怖にしても感じ方で強くなるんじゃないかなって」「たとえば、どんな感じ?」「私は基本的に風香ちゃんへの愛なのは知ってるでしょ、風香ちゃんは私を失う恐怖を基本的に使ってる。恐怖を使う風香ちゃんでもお義母さんの時は私を落としちゃうぐらい動揺して魔法すら使えなかった」確かにそうだ、あまり疑問に思っていなかったけど、感情の種類……というか感じ方で魔法は変わるのかもしれない。恐怖にしても、母さんに朱莉を紹介出来ないと感じた時や母さんを失うと感じた時は発動すらしなかった。朱莉を失った時は普段以上に魔法を発動することが出来た。だけど、一般人となるとそこまでの威力にはなっていない。けれど魔法を発動する材料として……今もこの録音を残している。「だよね、風香ちゃん。風香ちゃんが自分を知ること
閑話その26「そんじゃあ、自己紹介からだな。私は三浦華だ。まあゆっくり教えていくから……だらけて聞いてくれ」これでも私は魔女会で講師を務めている。教えているのは第二条件だ。感情を増やす方法の増築を教えるのが、私のここでの仕事だ。「えーまず第一に、なんでもいいから趣味を増やせ」「あの先生、流石にそれは雑すぎませんか。魔法には私たちの命だって関わっているのですよ」「知ってるよ、だから趣味増やせって言ってんの。例えば食べることが趣味の少女がいたとしようじゃないか、食べ続けて運動をしなければどうなるかぐらいは想像出来るな」「はい、それは当然出来ますが……」「それで散歩が趣味として加わるとしよう、そうすれば運動でもストレスを発散することができるだろ」「ええ、それはまあ……ですが、運動の趣味に目覚めたとして食への関心が減ることも想定出来るのではないですか?」「そりゃあそうだ、その可能性だって当然ある。だが生きている以上私は美味しいものはいくらでも食べたいに決まってる」「私はって……本当にこの人が講師でいいのかな」生徒たちがすんごい不安がってんなぁ、まあ良いか最初だらけて聞けって言ってんだし。「それに幸せが一つあるだけでも人生を豊かにはするだろ、単純に考えれば増やせばより豊かになる……まあ増やしすぎて手が回らないなんてこともザラにあるがな」この顔、すんげぇ引いてんな。「みんな帰ろう、こんな人から聞いても良いことないよ」「帰るのは待て」私は教室を隔離の異空間へ転移させ生徒たちの逃げ場をなくした。「先生何をするのですか!!」「ここで帰して死なれても寝覚めが悪いんだよこっちだってな。それにお前らだって漫画やらなんやら色々読むんだろ」「……えぇ、それは読みますが、今関係ありますかそれ?」「あるに決まってんだろ。お前は何を読むんだ今すぐ教えろ」「何故ですか」「これは第二条件にも関係があるからだ。今から一方的に話すからだらけてろ。漫画の読むジャンルを増やすこと、それもすなわち感情を増やす方法の増築になる。ギャグ漫画とバトル漫画で得る感情が違うだろ。特にシリアスバトル漫画とかだと顕著だな。たとえばシリアスバトル漫画でギャグ漫画展開をするとしよう。前提として面白ければ私は構わないんだぞ。シリアスバトル漫画で突然ギャグをされてもいやこ
第八十七話まず探すことにしたのは、僕の部屋だ。「風香ちゃんはどこにアルバム置いたとか覚えたりする? 私はねぇ、アルバムとかって結構置いた場所忘れるんだよね、あはは」「それならその時は僕も一緒に探そうかな?」顔をものすごく近づけながら喜ぶ朱莉に多少の戸惑いを出しつつ僕たちはアルバムを探し始めた。「見てみて風香ちゃん、私の名前が書いてあるノート見つけたよ!」セミを捕まえて親に見せる子供みたいな無邪気な笑顔で持ってきたものを見て僕は思わずむせた。「……あっ、朱莉ななななんでそれを見つけたの!?」そうそれは、僕が朱莉への想いを書き殴ったポエムみたいなものであり、欲望がダダ漏れのノートだ。正直言って黒歴史にしたいレベルに書いてるから……本人にだけは見られたくなかった代物なんだ!!「あっ、朱莉~そのノートを今すぐに渡してほしいなぁ……というか渡して!!」「そんなに言われたら中身が、気になっちゃうな~」「というか心を読んだんだから分かってるでしょ!! 恥ずかしいから返して!」「えっ、やだ。だって風香ちゃんの全部知りたいもん、私」即答する朱莉を見て……かっこいいと思ってしまった僕がいるんだ。「朱莉、読んで良いよ」真剣な顔で滑らせている朱莉の瞳に、引かれないか不安になりながら気持ちを紛らわすためにアルバム探しを再開させた。心を読まれるのと本音を見られるのは、僕にとって似て非なるものなんだ。パタンとノートを閉じる音に身体が反応してしまった。「言いづらいのは分かるけどこういうのはやっぱり伝えてほしいな。なんか私が応えないって思われてそうでちょっと悲しいよ」あれだけ信じてくれてないと感じるのが悲しいとか朱莉にのたまった僕が、朱莉を信じきれていないなんて悪い冗談にもほどがあるだろうが。「ねえ風香ちゃん、この『僕には朱莉がいればいい朱莉さえいてくれれば元の生活になんて戻れなくてもいい。朱莉に触れたい朱莉に会いたい…………』これって本気?」これ……やっぱり引かれるやつだ。書くんじゃなかった、朱莉に嫌われるぐらいなら死んだ方がマシだ。「私は本気かどうか聞いてるの、答えて」「本気だよ。引くでしょこんな……気持ち悪いこと書いてる僕なんて」「引くわけないでしょ、触れたいならいつでも触れて良いし会いたいなら今すぐにでも一緒に住めばいい。だから死んだ方が
第八十六話今の僕たちだと届かない以前の問題だ。蹂躙されて終わるのが関の山というやつになってしまう。だけど、今回は咎により痛覚増幅魔法を覚えることができた。魔物の成仏には再生出来ないほど痛めつければ良い。ならばこの魔法を使えれば葬りやすくなる、香取雛を殺しやすくなったと捉えればこれほど喜ばしいことはない。……ダメだな、僕じゃなくなってきてる。このままだと朱莉にまた秋口さんと呼ばれてしまう。……そういえば、僕がこうなる理由を考えてみれば避けようがあるのではないだろうか?僕が考え始めた時に朱莉の意識が戻った。「……朱莉、おはよう」本当はこんな状態でおはようなんて言いたくはなかったな。「……おはよう、風香ちゃん」ジトっとした瞳で見つめてくる朱莉に求愛時に瞳の色が変化するオウギワシみたく興奮を覚えながらも平静を保っている僕を褒めてほしいぐらいだ。いや突然どうしたんだって話になるだろうと僕もそう思う。しかしだな、この可愛さには抗えないのだよ!もはやあの時と同じだとは思わない、なぜならばあの時は朱莉の可愛さではなく絶望を見ていたからだ。朱莉の絶望は正直カレーに入れた隠し味なのに隠しきれないほど濃厚な味わいを僕に与え彩りをくれるものだ。しかしだ、それは朱莉のこの可愛さがあってこその味わいというものだ「本当に可愛いよ朱莉、その表情をめちゃくちゃにしたい」無意識に口角が上がっていることを理解出来てしまうことに嫌気がさしてしまう。「風香ちゃん、良い方に考えてみようよ。前は絶望のことばかり絶望の表情ばかり考えたのに私のことを考えてくれるようになったんだよ」齧り付きたくなるほど熟したトマト色に染め上げられた朱莉を見ていると無性に襲いたくなってしまう。「そんな目を向けてくれるのも嬉しいけど、もう少しだけ獲物を見るような目は抑えてほしいかも。いつもみたいな好きな人を見るような目にしてほしいな、その方が私は嬉しいな」朱莉が獲物か、あながち間違いじゃないのかもしれないな。「……って何考えてんの僕!?」今の何なの、思考はおかしくなった時に似てるのに、なんか変態みたいなこと考えてなかった!?「ああああ朱莉、今のは忘れてほんとに……ほんっっっとうに忘れて!!」もしかしておかしくなるのにパターンでもあるの!……でっ、でもさっきみたいな方がもしかして
閑話その25「今村小雪(いまむらこゆき)様、いつも応援しております!!」今日もファンの声援が私の耳に入る。「ありがとう、君たちの応援のおかげで頑張れるよ」こんなにファンが応援してくれるようになったのも、指名してくれた秋口先生のおかげ。もっと感謝しないと申し訳が立たないんだよね。「さて、人影はないね。トゥンティンプルプルピリピリポー」即興とはいえさすがに変な掛け声だったかもと多少の後悔を交えながら魔法を使った。役に入るために実際に魔葬少女になった。「……うわぁ、転移する場所間違えたぁぁあ!!」ドサッ「痛っててて……ごめんなさいごめんなさい!!」どうしよう誰かを踏んづけちゃった。「だっ、大丈夫ですから…………ってその声もしかして小雪さんですか!?」この人よく顔を踏まれながらここまで話せるなぁと感心しているとあることに気づいた。「貴女、人間じゃないでしょ」この人から感じるのは魔物特有の空気しかも隠す気を感じないのがタチが悪い。魔物と人間の区別がここまで上手く出来るのは私の魔法のおかげでもあるから、なんとも言えないんだけどね。「魔物だけど、ファンなんです!! ……まさか踏んでもらえるなんて至高の喜びです」「……気持ち悪い」私の口が滑ると、この人は鼻息を荒くし始めた。さすがにこれ以上は関わったら明日の試写会に響きそうだからやめておこう。「私はそろそろ帰るね。今日のことは忘れてほしいな」ファンだと言ってくれたこの人が忘れるわけがないことぐらい想像も出来たはずなのに、私の配慮が足りなかったと思い知らされたよ。「もっと、もっと踏んで……私はこのためだけに生きてるんですから踏んで……踏んでください!!」足を掴んで離そうとしないのはさすがにいただけない。「そういうのはしちゃダメでしょ。離さないと消しちゃうよ」困り顔で伝えたのが悪かったのか、余計に離してくれなかった。「明日の試写会に来てくれるなら、今のことをなかったことに出来るからファンなら離してほしいな」「ファンだから、もっと踏まれたい!! こんなこともう二度とないんだから!!」推してくれるのは嬉しいけど、以前にもこういう人がいたけど、付き纏ってくるようになったから……ちょっと怖い。この人には悪いけど、私の安寧のためにいなかったことにさせて。「ハピリルハピリルミリシーラ
第八十五話咎=父さんだということが確認出来ただけで上出来とするしかない。だけどここで引き下がったら、また朱莉が殺される……それだけは絶対に許すわけにはいかないんだ!!「風香ちゃん、行くよ!!」朱莉の声に合わせて僕は心霊魔法を使用した。「「即興合体魔法、呪血紅塵(じゅけつこうじゅ)!!」」ここまで朱莉に合わせることが出来るのが咎のおかげなのは正直癪だけどここだけは感謝するしかない。僕と朱莉が魔法を使った直後、異様な程に咎の表情は歪んだ。「そこまで感謝するならもっと浸らせてもらおうじゃないか風香!!」咎の言葉が耳に入った直後身体が動かなくなった。この感覚は愛海さんの支配を受けた時と同じ……いやそれ以上じゃないか。「思考するのは許してるからこの間に巡らせるといいよ。それとこれも送るよ」限りなく小さな吐息の音と同時に飾り時計が停止した。水本姉妹の支配と時間停止を同時になんて、次元が違いすぎるじゃないか。「この程度で言葉を失うとは興醒めもいいところだけれど、初めての体験ならば仕方ないか。それならこれをもっと送るよ」突如場所が変わったかと思ったが、何処なのかは一番僕が理解出来た。なぜなら、移動させられたのが僕の狂卒式の体育館だからだ。会話をする暇を与えず咎は畳み掛けてきた。「これが風香が殺したがっている荒川咎の力の一端だよ。よく観察し学び、そして私をさらに愉悦に浸らせてくれ!!」咎は屈辱的にも、朱莉が試験の時の愛魔法の応用を使ってきた。「どうだい風香、愛しの愛しの朱莉の魔法を本人以上に使いこなされる気分は!」『答えるはずがないだろうが!』当然の如く僕が断ると咎は支配の魔法を行使した。「それは残念だ。"風香よ気分を吐け"」動かないでくれ、頼むから……これだけは嫌なんだ。「朱莉の魔法は朱莉だけの特別なんだから最悪の気分で殺意が高まりました」ごめん朱莉、僕が不甲斐ないばかりにこんな思いさせて……本当にごめん。「風香にされたら喜ぶことを教えろ朱莉」朱莉が答えてくれたのは積極的に僕にしてくれることばかりだった。「行為に至るまで進んでいたとはな。絶望した際の表情を想像するだけで、胸の高鳴りが抑えられないじゃないか」僕にされたいことを自分からしてくれてたなんて……僕って幸せ者なんだな。なんで咎に教えられないといけないんだろうと思