All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 1211

1211 Chapters

第1211話

「ちっ!」まさかこんな偶然があるなんて。一郎はまるで弱みを握られたようで、一気に勢いをなくした。「私の同僚ね、あんたのこと使えない男だって言ってたわ」桜は眉を挑発的に吊り上げ、一郎の顔が赤くなったり青くなったりするのを面白そうに眺める。「しかもあっちの方も駄目な上に、チップすら払わない。ケチにも程があるって!」「その同僚の名前を言え!連絡先も出せ!」一郎は怒りで爆発寸前だった。「チップを渡すつもり?」「貴様!」「払わないなら別にいいのよ。これを言ったのは同僚を売るためじゃない。忠告のつもり。私は悪い女かもしれないけど、あんたも決して善人じゃない。今後また道徳ぶって私を罵ったら、この話を広めるからね」そう言い捨てて、満足げな笑みを浮かべた桜は武田家を後にした。アメリカ。とわこは真を見送ると主寝室へ戻り、枕の下から一枚の紙を取り出した。まず奏のLineにログインする。成功すると、未読のメッセージが山ほど現れた。自分が送ったものも、子遠からのものも。けれど奏は一つも開いていなかった。とわこは深く息を吸い込み、胸が痛んでアプリを閉じ、次に彼のメールにログインした。そこには最後にアクセスした日時とIPが残っていた。それは株式譲渡の前日。画面を見た瞬間、熱い涙が止めどなく頬を伝った。きっと彼は、株を手放した時に心まで死んでしまった。その気持ちの変化を思うと、息が詰まるほど苦しくなった。同じ頃、Y国。奏はふと、自分の携帯がなくなっていることに気づいた。その携帯は数日間電源を切ったままで、どこで落としたのか全く思い出せない。搭乗前だったのか、下りた後だったのか、記憶がすっぽり抜け落ちていた。優れた記憶力に誇りを持っていたはずなのに、こんな大事なものをなくした経緯すら覚えていない。今さら探そうとしても、干し草の山から針を探すようなものだ。もう彼は、かつてのように天下を操れる奏ではない。胸にじわりと敗北感が広がっていく。ふと、剛に連れられて行った猿園での話を思い出した。恋に傷ついた雌猿に施される記憶消去の手術。哀れではあるが、その後は新しい命を得たかのように生き直していた。あれは、ある意味で最高の治療なのかもしれない。今の彼には、その猿が羨ましく思えた。すべてを忘れ、
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