All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 1221 - Chapter 1230

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第1221話

結菜の身体はまだ弱いが、意識はここ数日よりもずっとはっきりしている。真が彼女の姿を見てすぐにドア口へ歩み寄る。「やっと眠ったところだ。外で話そう」とわこはうなずく。二人は医師の当直室に入り、扉を閉める。とわこは「今夜は帰らない。必ず成功させないといけない。そうでなければ黒介が弥に連れて行かれてしまう」と言う。「大丈夫。すでに手は打ってある。問題は起きないはずだ」「住む場所は早く決めないと。おとといあなたが言っていたあの場所、やっぱり安全性が足りない」「君の考えに従おう。少し人に迷惑をかけるかもしれないが、君が選んだ場所の方が確かに安全だ」「ええ」とわこが選ぶのは恵子教授の旧宅だ。教授が亡くなってからは放置されている。その家は、医大の近くにあり、地元の警務局の建物に隣接している。それこそが、とわこがここを選ぶ理由だ。彼女は二日前に教授の息子と電話で連絡を取り、旧宅を黒介のために使わせてもらうことにした。夜。黒介が突然、眠りから飛び起きて声を上げる。弥は付き添い用の簡易ベッドから跳ね起き、彼の枕元へ駆け寄る。翌朝、弥が目を開けると、そこには険しい目つきの警務官が二人、彼を鋭くにらみつけている。悪夢かと思い、彼は目をこする。「常盤弥さん、警察署まで同行してもらいます」聞き慣れない厳しい声に、弥の全身に鳥肌が立つ。「何をする気だ」ベッドから立ち上がった彼は、黒介のベッドが空っぽなのに気づき、冷や汗が噴き出す。「ここにいた患者は?彼はどこに行った」そう問いかけた瞬間、カチリと音を立てて冷たい手錠が彼の手首を締めつける。「故意傷害の容疑で正式に逮捕します」弥は呆然とする。自分が誰を傷つけたというのか。一体どういうことなのか。「とわこ!君が呼んだやつらか?この恥知らずめ!叔父さんを手に入れるために手段を選ばないなんて、なんて卑劣なんだ!罪なんて犯してない!濡れ衣だ!放せ!今日絶対帰国する。叔父さんを連れて帰らなきゃならないんだ!あああ」弥の叫び声が病棟の廊下に響き渡る。その頃、黒介は教授の旧宅へと移されていた。昨夜、黒介は彼らに協力して一芝居打った。真夜中に水が欲しいと叫び、弥が水を取りに立った。だが、卓上の水差しには致死量の毒が仕込まれていた。黒介
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第1222話

とわこは首を横に振る。「今は彼の行方が分からない。どこを探せばいいか見当もつかないの。結菜もまだ完全に危険を脱したわけじゃないし、やっぱり彼女のことが心配。退院してから考えるわ」「君は奏のアカウントにログインできるだろ。彼の友人たちに聞いてみればいい」真が言う。「私が彼のアカウントを使って彼の友達に聞けってこと?」「自分のアカウントで聞いてもいい。生きている人間が、この世から煙のように消えるはずはない。探り続ければ必ず何か掴める」「でも今みたいに何も消息がないのも、ある意味いいことよ。もし彼に何かあったら、必ずニュースになる。消息がないってことは、無事に生きている証拠」「うまいこと自分を慰めるな」真は苦笑する。「最初は必死に探そうとして、気が狂いそうだった。でもどれだけ焦っても意味がないって分かったの」とわこの身体は最近不調が続いている。それでも無理に踏ん張り、誰にも言わなかった。自分を追い込みすぎるわけにはいかない。奏を見つける前に、自分の身体が壊れてしまう。「たとえ一生見つからなくても、君の人生は続いていくんだ」真が肩を軽く叩く。「蓮はもうすぐ休みに入る。子どもたちの予定はどうしてる」「私が決めることなんてないわ」とわこは笑う。「蓮の勉強計画は先生が全部決めてる。期待が大きくて、一日二十四時間勉強漬けにさせたいくらいなの。レラについては涼太が一緒にいるし、私の出る幕はない」「蒼のことは気になるか」真が問う。とわこは苦笑を浮かべる。「一番心配なのは彼よ。前はいつもたくさんの人に囲まれてたのに、今は誰もそばにいない。すごく可哀想に思える」「食べて遊んで眠れるなら、それで幸せだ。可哀想なんかじゃない」「そう聞くと少し気が楽になるわ」「人生は短い。そんなに悩む必要はない。この後ここに残るか?それとも帰って休むか?これから警察に行く」真が言う。「私はここで黒介に付き添う。まだ慣れてない場所だから、不安かもしれない」「分かった」真が去った後、とわこは黒介の手を取り、屋敷の中を案内する。「ここは私の先生の家。私が手術できるようになったのも、先生の指導があったからよ。裏に小さな庭があるから、部屋にこもって退屈なら庭で気分転換してね。手術を終えたばかりだから、人混みはまだ避けた方がいい」「分かった」
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第1223話

桜はほとんど毎食デリバリーばかりだったので、一郎はずっと彼女が料理できないと思い込んでいた。だが包丁さばきは滑らかで無駄がなく、明らかに普段から料理をしている人の動きだ。「料理してるのよ」桜は切ったキュウリを皿に移す。「あなたが雇った家政婦さんは掃除と洗濯しかしてくれないでしょ、ご飯は作らないから」「外食頼めばいいだろ。毎日デリバリーだったじゃないか」一郎が皮肉を言う。「どうして私が毎日デリバリー食べてるって分かるの?」ここ数日、桜は家から出ていない。彼女がデリバリーを頼む時間、一郎はいつも家にいなかったはずだ。「ゴミ出しの奥さんが教えてくれた」一郎は冷たく笑う。「まさかデリバリーに飽きて、自分で作り出したんじゃないだろうな」桜は首を横に振る。「デリバリーは美味しいんだから、飽きるわけないわ。ただね、ネットで見たの。妊婦はデリバリーを避けた方がいいって。赤ちゃんに良くないって。それで自分で作ることにしたの」一郎の顔から笑みが消える。「お昼ご飯ができたら一緒に食べましょ。話したいことがあるの」桜は真剣な表情で言う。一郎のこめかみがズキズキと痛む。「何の話だ。今言え」「今は仕事してないでしょう……」「ふん、僕に仕事探せってことか」「違うの」桜は彼の自惚れた態度を遮る。「前に学校を続けろって言ったじゃない。だったらあなたが学費を出して。私、通いたいの」一郎は黙り込む。顔を曇らせたままリビングへ足を向けた。桜はすぐ追いかける。「子どもを産むつもりなら、本来は父親が責任を取るべきだろう。なのにどうして僕にすがる?僕をどうしたいんだ!僕を都合のいい父親役にでもしたいのか!」心臓を強く打ちながら、一郎は胸の内をぶちまけた。「借金だと思えばいいわ。私が稼ぐようになったら返すから」「なぜとわこに頼まない」「ほんとケチね!」桜は言い捨てて台所に戻り、包丁をまな板に叩きつけるように使い始めた。一郎は考えを変える。少しの金じゃないか。わざわざとわこに頼めと言うほどのことか。水を一口飲んで台所へ行こうとしたその時、子遠から電話が入る。「一郎さん、どうして急に剛を探してる?」一郎は起きたばかりの時、子遠に剛の連絡先を聞いていた。「数日前にあいつから電話があったんだ。雑談程度だったが、今ま
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第1224話

桜は台所で彼の電話の声をはっきり聞いている。とわこが奏を探しているだけでなく、一郎も探しているに違いないと直感する。彼女は台所の戸口に伏せて、堂々と盗み聞きする。一郎は気づかない。電話を終え、首の凝りを軽く回す。視線の端に、台所から顔を覗かせる桜の頭がふっと入る。「何してる」一郎は彼女の挙動を怪しげに思い、まるで頭上に大きな監視カメラがぶら下がっているように感じた。桜はすぐに台所から出てくる。「料理してるのよ。家に唐辛子がなくて、辛いのが好きだから欠かせないの」「買い物のときになぜ買わなかったんだ」一郎は眉を上げる。まさか僕に買わせるつもりかと皮肉を込める。「一緒に買いに行きましょうよ。さっき首をひねったでしょ。首の調子が悪いんじゃない?」桜は彼の前に歩み寄り、話を続ける。「運動不足よ。もっと歩いた方がいい。年を取ると体は衰えるけれど、運動すればかなり改善するわ」そう言って彼女は手を伸ばし、彼の腕をつかんでソファから引き起こそうとする。一郎は呆れた。「桜、僕に触るな。君が妊婦だからって、何もできないと思うなよ」と強めに言い放つ。「あなたはどうしてそうなの。前に私の腕を引っ張ったことが何度もあるくせに。あたかも遠慮しているみたいに振る舞うのはやめてよ。男でしょ?」桜はきっぱり言う。一郎は唇を動かすが、反論が見つからない。「外に出たくない」彼は短く言う。「ダメ。ここは慣れてないからあなたを連れて行く」桜は強引に言い張る。「台所の食材はどうやって買ったんだ」一郎は驚く。「買い物アプリよ。でも今は唐辛子だけが足りないの。数本なら配達してくれないかもしれないから」桜はそう言って一郎を無理やり引っ張り出す。外を歩く間、一郎は周囲をキョロキョロ見る。知り合いに会わないかと気にしている。桜と並んで歩くのが恥ずかしいと感じる。もし二人が付き合っていると誤解されたら、説明も面倒だ。「一郎、父が間もなく死刑執行されるの。兄さんは遺体を引き取らないって言うし、奏兄もいない。私がどうやって遺体を引き取るの」桜は悲痛な顔で訴える。一郎の表情が引き締まる。「父さんが死ぬ前に奏兄を見つけられるか」桜は哀れっぽく彼を見る。「本当にどうしたらいいか分からない。私は力もないし、遺体の引き取りなんてどうしたらいいの
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第1225話

昼食のあと、桜はとわこにメッセージを送る。「一郎にはすでに疑っている相手がいるらしい。ただその人物が誰なのかは言わなかった。でも問題ないわ、彼が子遠に電話して話していたのを突き止めたから。あなたが子遠に聞いてみて」唐辛子を買ったとき、桜はスマホを持っていないと嘘をつき、一郎に支払わせた。一郎がスマホを取り出してロックを解除した瞬間、彼女はすかさずそれを奪う。わざとらしく操作を誤ったふりをして通話履歴を開くと、直近の通話が子遠とのものであることを確認する。外での一郎は成熟したエリートの顔をしているが、桜の目にはただの年を取った男にしか映らない。彼女には彼を手玉に取る方法などいくらでもある。ここへ引っ越してきて数日で、もう最初の有力な情報を掴んでいた。アメリカ、とわこのスマホにメッセージが届き、画面が光る。その光が眠り込んだ彼女の顔を照らすが、とわこは目を覚まさない。帰宅が遅くなり運動できなかったので、寝る前に睡眠薬を半分飲んでいた。薬を飲まないと眠れない。どれだけ頭では理屈を理解し、口では平気だと言っても、奏の行方が分からない限り、心臓に大きな穴が空いたままのようだ。翌朝目覚めたとわこは、布団をめくって起き上がり、水を入れた大きなコップを一気に飲む。喉が焼けるように渇いていた。飲み干すと、ようやく少し落ち着く。寝室に戻ってスマホを手に取ると、まずマイクからのメッセージが目に入る。「蓮が休みに入ったから、あとで二人を連れて結菜に会いに行くよ」とわこはすぐに返信する。「分かった、道中気をつけて」返信を終え、何気なく桜からのメッセージを開く。内容を目にした瞬間、身体が固まる。ほとんど考える暇もなく、すぐにLineを閉じ、子遠の番号を探して発信した。呼び出し音がしばらく続き、ようやく電話がつながる。「とわこ、ごめん。会社の地下駐車場で圏外だったんだ。今やっと気づいた」子遠は車を会社ビル前の幹線道路へ走らせ、同時にイヤホンを耳につける。「今帰るところ?」「うん。君からの電話、まさかマイクに何かあったんじゃないだろうな」子遠の声が急に強ばる。「大丈夫よ」彼女は慌てて説明する。「子遠さん、奏の消息は掴んでないの?」「ないさ。もしあれば真っ先に君に伝える。安心してくれ」「でも一郎には疑
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第1226話

その名前を耳にした瞬間、とわこの胸に強烈な既視感が押し寄せる。確かにどこかで聞いたことがある。だがすぐに顔と名前が一致しない。「思い出した!」彼女は小さく叫んだ。「みんな剛さんって呼んでいた人!」「そう、その高橋剛だ」「私、あの人のことが嫌いで、奏にももう付き合わないよう言ったの。だから彼は私をすごく憎んでる。前に女の人をよこして、奏から離れろって言われることもあったの」ここでとわこは深く息をつき、「もし奏が本当にあの人のところにいるなら……私が取り戻すのは無理かもしれない。剛は、私と彼が犬猿の仲なのを知ってる」子遠は難しい表情を浮かべる。「今の問題は取り戻せるかどうかじゃなくて、彼がどこにいて、無事かどうかなんだ。もし剛のところにいても、元気に暮らしてるならそれでいい」「うん。彼の居場所が分からないとしても、どの国にいるかは知ってる?」とわこはさらに問い詰める。「剛は世界中で投資していて、定住地がない。でも起業したのはY国だ」子遠の声が慎重になる。「もしY国に行くなら、一人で行かない方がいい。あそこは法律も治安も国内と違う。行くなら必ず護衛をつけるんだ」「分かったわ」病院。マイクが二人の子どもを連れて結菜の病室に入ってくる。子どもたちが中へ入ると、マイクは真と一緒に廊下へ出て容体を尋ねた。「今は安定している。ただ、今後拒絶反応が起こる可能性はある」真は静かに答える。「あんなに痩せていて、別人かと思った」マイクは目を伏せた。驚いたのはマイクだけではない。蓮とレラもまた、衝撃を受けていた。二人はベッドの傍らで結菜の顔をじっと見つめ、彼女かどうかを確かめている。「蓮、レラ。会いに来てくれて嬉しい。二人とも、ずいぶん背が伸びたね」結菜は声を震わせながらも喜びを隠せない。姿は変わってしまったが、その声は変わっていなかった。「結菜、どうしてこんなに病気がひどくなっちゃったの。すごく可哀想だよ!」レラの顔がくしゃりと歪む。「どうして早く言ってくれなかったの。そうしたら、もっとたくさん会いに来れたのに」「二人に心配をかけたくなかったの。私は、君たちが毎日楽しく過ごしてくれるのが一番だから」結菜は隠していたことを後悔していない。「結菜、退院したらママと一緒に住もう。結菜が本当のおばさんじゃなくても、ママが絶
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第1227話

結菜の目からたちまち涙があふれる。「受け入れるのは辛いだろうけど、心配しなくていい。たとえ君が奏の実の妹でなくても、彼の君への想いは変わらない」真はティッシュを取り出して彼女の涙を拭う。「結菜、泣かないで。実のおばさんじゃなくても私はあなたが大好きよ」レラは涙ぐむ結菜を見て胸を痛める。「お兄ちゃんも退院したらうちに住むって言ってたよ。みんなあなたのことが好きなんだから」レラの幼い張りのある声を聞いて、結菜の涙は止まる。「私も……好きよ。でもやっぱり奏のことが気になる。彼、まだ会いに来てくれてない」「彼は見つかってないんだよ」レラが答える。「ここにいることを知らないみたい。携帯もつながらないって」その言葉を聞き、結菜は再び涙を流す。「結菜、今の姿を見られるのが怖いって言ってたよね。今はちゃんと療養しなさい。元気になったら、とわこが奏を連れて来るよ」真がもう一度涙をぬぐう。「どうしていなくなっちゃったの。危ない目に遭ってないかな」結菜は不安でいっぱいだった。「どうしてこんなことに。もう子どもじゃないのに、どうして行方不明になっちゃうの」「うちのママと喧嘩して出て行ったんだよ」レラは自分の理解の範囲で理由を口にする。「でも私は悲しくないよ。前は毎日大好きって言ってたのに、今はどこに行ったのか分からないんだもん、ふん」結菜はレラのむっとした顔を見て、泣きたくても涙が止まった。とわこは病院へ向かう途中、マイクから「もう病院に着いたよ」というメッセージを受け取る。彼女が駐車場に車を停めてドアを開けると、すぐ目の前に誰かの姿が立ちはだかる。「とわこ、今までお前がこんなに陰険で卑劣だって気づかなかったな」弥は一晩ほとんど眠れていなかった。逮捕を免れるために、彼は仕方なく自分が毒を盛ったと認めるという偽りの供述をする。それを受けて警察は接近禁止命令を出し、弥は黒介に近づけなくなる。近づけば逮捕される身だ。彼は自分が署名した後の結果を想像しておらず、後悔しても取り返しがつかないと知る。「弥、陰険さならあなたの足元にも及ばないわ」とわこは彼を押しのける。「今は黒介に近づけない。禁令に三度違反したら正式に逮捕される。あなたがあの屋敷を売った金をまだ使い切ってないだろうけど、刑務所では遊べやしないわ」「余計な心配をするな
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第1228話

奏は死なない。とわこも死なない。彼女は絶対に弥の企みを成功させたりしない。気持ちを落ち着けてから入院棟に向かうと、ちょうどマイクが二人の子どもを連れて結菜の病室から出てくるところだった。「ママ!」レラがとわこを見つけ、大きな足取りで駆け寄ってくる。とわこは両腕を広げ、娘を抱きしめる。「ママ、会いたかった!ママは私のこと考えてくれてた?」レラは甘えるようにとわこの胸に顔を埋める。「もちろん考えてたわ。帰ってこなかったら、ママが迎えに行くところだったの」とわこは娘の柔らかい頬に軽くキスをする。「ママ、結菜に会ったよ。結菜ね、パパが本当のお兄さんじゃないって知って、泣いちゃった。でも私たちが慰めてあげたの。退院したら一緒に住もうって言ったよ!」「いいわよ。でもその前に、ママはパパを探しに行かないと」とわこは正直に話す。「ママ、これからY国に行くの。パパが見つからなくても、必ず一か月に一度は帰ってくるから」「一か月に一度って、一年でたった十二回じゃない!もしパパがずっと見つからなかったら?」レラの唇がしゅっと尖る。とわこは一瞬言葉を失う。「もし年末まで見つからなかったら、その時はいったん探すのをやめるわ」「ママが探さなかったら、パパはもう二度と戻らないってこと?」レラの胸に寂しさが広がる。せっかくパパのことを認められたのに、幸せを感じる間もなくまたいなくなってしまった。やっぱり自分はパパを持てない運命なのか。「レラ、その質問には答えられないの。パパはもう大人だから、子どもじゃない。帰ってくるかもしれないし、二度と戻らないかもしれない」とわこはぎこちなく笑い、「さあ、ご飯を食べに行きましょう」と話題を切る。四人は病院近くのレストランに入る。蓮が鞄から金色のトロフィーを取り出し、とわこの前に差し出す。「ママ、これあげる」受け取って見ると、そこには「ハッカーカップ優勝」と刻まれている。「出場を断ったんじゃなかったの?」とわこは驚きを隠せない。「でも先生に説得されて、決勝だけ出たんだ」蓮は目を伏せる。「蓮、すごいじゃない!最初の資格テストだって、実力で突破したんだもの。パパの力なんて関係ない」とわこはトロフィーを胸に抱きしめる。「ママは誇りに思うわ!」「ママ、私も将来すごい人になる。ママに誇りに
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第1229話

「わかったわかった、君の言う通りだよ。でも本当にY国へ行くつもりか?」マイクの顔は険しい。「あの国はあまり安全じゃないぞ」「資料を調べたけど、あなたが言うほど怖い場所じゃないわ。子どもの前でそんなこと言わないで」彼女は子どもが心配するのを恐れていた。「わかった、もう黙るよ。とにかく気をつけてくれ」「護衛を連れて行くわ。私は奏を探しに行くのであって、死にに行くんじゃない」マイクはうなずいた。「もし彼を連れ戻せたら、君たち二人は少し反省すべきだな。毎回ケンカのたびに天地がひっくり返るような騒ぎを起こして、君たちは耐えられても子どもはどうだ?周りの友達……例えば俺はどうなんだ?」「私たちだって好きでケンカしてるわけじゃないのよ。辛いのは私たちも同じ」「だったらケンカをやめればいいだろ!株を手放したから何だ。相手は黒介っておバカで、弥じゃないんだぞ。子遠も言ってただろ、他にも資産はたくさんある。君と子ども三人を養うくらい問題ないって。俺から見れば、君たち夫婦は普段の生活が贅沢すぎて、ちょっとした打撃に耐えられないだけだ」「文句を言うなら私だけにして。奏のことを悪く言わないで」とわこは奏が誰かに責められるのをどうしても許せなかった。「まだ庇うのか。あいつのあのひどい性格は、君が甘やかしたせいだろ!」マイクはぼやいた。「食べないなら外で待ってて。食事の邪魔しないで」とわこは彼を睨んだ。マイクはすぐに口をつぐんだ。日本。豪華なヨーロッパ風の別荘の中。すみれの頬は赤らみ、ワイングラスを掲げて副社長や数人の投資家たちと祝杯をあげていた。「誰が想像したかしら。たった一年で奏が没落するなんて」すみれは一口ワインを含んだあと、視線が鋭くなった。「次はとわこの番よ」「もともと奏とは競合関係じゃなかっただろう」「でもあの男、とわこのために私を殺そうとしたのよ」長い間屈辱を押し殺してきたすみれの胸には、鬱憤が渦巻いていた。「すみれ、油断は禁物だ。奏は確かに株を譲渡したが、あの頭脳さえあればいつでも復活できる。資金調達して新しい事業を立ち上げるのなんて造作もない」投資家が口を開いた。「もし彼が私のところに来たら、喜んで投資するつもりだ」「ふん、夢を見るのは勝手だけど、そううまくはいかないわ」すみれはグラスを置き、スマホを手に取
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第1230話

「あるメディアに情報源を問い合わせたんだ。すると内部の人間からの話だと言う。どんな内部の人間かとさらに聞いたら、彼らもまた伝聞だって答えた」子遠はそう言って大きく息を吐いた。「彼らはAモーニングが先にこのニュースを出したから、後を追って報じただけらしい。Aモーニングのほうは、Y国に駐在している記者から送られてきた情報だそうだ」最初、子遠はこのニュースを信じたくなかった。だがY国からの情報だと聞いた瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。「つまり本当だって言いたいのか?」マイクの顔は青ざめ、信じられない思いでいっぱいだった。とわこは今回一緒に帰国していなかったが、このニュースが広まればすぐに彼女の耳に入る。彼女はいま必死に奏を探そうとしている。その彼女にこんな知らせをどう伝えろというのか。「遺体を確認していない以上、本当だなんて断言できない」子遠は苦しげに言葉を継いだ。「ただ、本当にY国にいる可能性が高くて、そのY国から情報が流れてきた。だから落ち着いていられないんだ」「落ち着け。俺が今すぐY国のニュースを調べる」マイクはそう言って電話を切った。蓮はずっとリビングにいた。マイクの会話を最初から聞いていた。水を吹き出したときから耳をそばだて、何が起きたのか知りたくて仕方がなかった。「どうしたんだ?奏がY国にいるんだろ、奏に何かあったのか?」マイクが電話を切った途端、蓮が問いかけた。子遠の言葉までは聞こえなかったが、マイクがY国の名を出したので、奏に関わることだと察した。「国内のメディアがみんな奏の死を報じている。ただ真実かどうかは分からない。だから俺がY国のニュースを調べるつもりだ」マイクは自室へと足早に向かっていった。「頭が痛い!とわこがこのニュースを知ったら、どれほど悲しむか。今回のケンカは、とわこが隠し事をしたせいで誤解を生んで、それで株を手放す事態になったんだ」「とわこはずっと後悔してる。その誤解を解かないまま、もし彼が死んでしまったら、きっと一生苦しむだろう」マイクはさらに言い足した。蓮は奏の死を聞いた瞬間、表情が凍りついた。気持ちは複雑だ。どれほど奏を嫌っていても、母と妹たちのことを考えれば、生きていてほしいと願わずにはいられなかった。マイクが部屋に入ると、蓮も自分の部屋へ戻った。ノートパソコンを
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