結菜の身体はまだ弱いが、意識はここ数日よりもずっとはっきりしている。真が彼女の姿を見てすぐにドア口へ歩み寄る。「やっと眠ったところだ。外で話そう」とわこはうなずく。二人は医師の当直室に入り、扉を閉める。とわこは「今夜は帰らない。必ず成功させないといけない。そうでなければ黒介が弥に連れて行かれてしまう」と言う。「大丈夫。すでに手は打ってある。問題は起きないはずだ」「住む場所は早く決めないと。おとといあなたが言っていたあの場所、やっぱり安全性が足りない」「君の考えに従おう。少し人に迷惑をかけるかもしれないが、君が選んだ場所の方が確かに安全だ」「ええ」とわこが選ぶのは恵子教授の旧宅だ。教授が亡くなってからは放置されている。その家は、医大の近くにあり、地元の警務局の建物に隣接している。それこそが、とわこがここを選ぶ理由だ。彼女は二日前に教授の息子と電話で連絡を取り、旧宅を黒介のために使わせてもらうことにした。夜。黒介が突然、眠りから飛び起きて声を上げる。弥は付き添い用の簡易ベッドから跳ね起き、彼の枕元へ駆け寄る。翌朝、弥が目を開けると、そこには険しい目つきの警務官が二人、彼を鋭くにらみつけている。悪夢かと思い、彼は目をこする。「常盤弥さん、警察署まで同行してもらいます」聞き慣れない厳しい声に、弥の全身に鳥肌が立つ。「何をする気だ」ベッドから立ち上がった彼は、黒介のベッドが空っぽなのに気づき、冷や汗が噴き出す。「ここにいた患者は?彼はどこに行った」そう問いかけた瞬間、カチリと音を立てて冷たい手錠が彼の手首を締めつける。「故意傷害の容疑で正式に逮捕します」弥は呆然とする。自分が誰を傷つけたというのか。一体どういうことなのか。「とわこ!君が呼んだやつらか?この恥知らずめ!叔父さんを手に入れるために手段を選ばないなんて、なんて卑劣なんだ!罪なんて犯してない!濡れ衣だ!放せ!今日絶対帰国する。叔父さんを連れて帰らなきゃならないんだ!あああ」弥の叫び声が病棟の廊下に響き渡る。その頃、黒介は教授の旧宅へと移されていた。昨夜、黒介は彼らに協力して一芝居打った。真夜中に水が欲しいと叫び、弥が水を取りに立った。だが、卓上の水差しには致死量の毒が仕込まれていた。黒介
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