桃はじっと雅彦を見つめた。どうして今まで気づかなかったのだろう。この男は何でもかんでも取引に持ち込もうとする……けれど現実的には、折れるしかなかった。桃は深く息をつき、「……わかった。できるだけやってみる」そう答えると、テーブルの上の空の茶碗を手に取り、台所へ運んだ。洗い物を片づけ終えてようやく部屋に戻る。雅彦はもう着替えを済ませ、彼女のベッドに横たわっていた。出て行く気配など、最初からなかった。「こっちに来い」男が手招きすると、桃の体がびくりと強ばった。まさか――さっき言った「最近の様子」って、ベッドの上でのことを指しているの?胸の奥に言葉にしづらい拒絶が広がる。ひとつには、つい先ほどまで雅彦が莉子と会っていたことを知っているから。そんな直後に自分を求めるなんて、冗談にもならない。もうひとつは、このところ彼の乱暴さを幾度も味わい、心のどこかに恐怖が根を下ろしてしまったからだ。桃のためらいを見て、雅彦は何かを悟ったように眉を上げ、ふと悪戯心を起こしたらしい。ベッドを手で叩いた。「何をもたもたしてる?」促され、桃は歯を食いしばりながらゆっくりと近づいた。彼がその気なら、どれほど時間を稼いでも逃げ場はない。だったら逆らわないほうがいい。彼の隣にぎこちなく腰を下ろし、身を固くして横になる。まるで処刑を待つような桃の顔を見て、雅彦は片腕でひらりと彼女を覆いかぶさった。吐息が頬をかすめ、白い肌がふっと赤く染まる。その様子を、彼は満足げに眺めた。桃は目を閉じ、次の動きを待つ。だが、いつまで経っても何もしてこない。恐る恐る瞼を開けると、雅彦はおもしろそうに彼女を見つめていた。「……ずいぶん期待してるみたいじゃないか?」からかうような声。「でも残念だな。今日は疲れた。ただ眠りたいだけだ。がっかりさせたな」そう言って、彼はあっさり横になったまま、何もしなかった。呆然としたままの桃の頬が、じわじわと赤く染まっていく。――この男、わざとだ。期待?そんなはずない。ただ、彼が求めていると思っただけなのに……桃は悔しさに拳を握った。完全にからかわれている。けれど言葉を発する前に、雅彦の腕が伸び、彼女の腰を抱き寄せて逃げ道を塞ぐ。「寝ろ」淡々とした声だった。桃は一瞬迷ったが、すぐに飲み込んだ。……まあ、眠
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