永名の言葉どおり、雅彦はそのまま階下へ降り、車を待つことにした。出かける前に鏡の前に立ち、顔の傷をもう一度確かめる。冷やしたおかげと薬の効果で、今はほとんど目立たなくなっている。もしこれがまだ残っていたら――永名に見られて、桃に対して余計な誤解を抱かせてしまうかもしれない。そんなことを考えていると、突然、甲高いクラクションの音が響いて、思考が途切れた。永名が車の窓を下げ、雅彦の姿を見つけると、「乗れ」とだけ言った。雅彦は軽くうなずき、後部座席に乗り込む。しばしの沈黙ののち、永名が低い声で切り出した。「雅彦……麗子が死んだ。この件にお前は関わっているのか。もしそうなら、どの程度だ?」時間がなかった。永名は回りくどい言い方をするつもりはなく、運転席のドライバーも腹心の部下なので、聞かれて困ることもない。とにかく今はっきりさせねばならなかった。雅彦が事件に関与しているのかどうかを。もし関わっているのなら、すぐに手を打たねばならない。そうでなければ、「殺人」という罪が雅彦にかかる。自ら育て上げてきた後継者を、失うことになってしまう。「麗子が……死んだ?そんなはずはない、どうして急に……?」雅彦はあまりの衝撃に、永名の疑念に怒る余裕すらなかった。頭が真っ白になった。彼の計画は、麗子の弱みを握って、ウイルスの出所を白状させることだった。だが彼女が死んでしまったとなれば、それもすべて水の泡だ。ウイルスの発生源を追う手がかりは、またしても途切れてしまう。そうなれば、桃はどうなる?永名は雅彦の動揺を見て、少し意外そうな表情を浮かべた。どうやら彼は本当に何も知らないらしい。「どうして死ぬんだ……?死ぬにしても、ウイルスの出所を話してからにしてもらわなきゃ困る!」雅彦は拳を握りしめ、堪えきれずに前の座席を思いきり殴った。「つまり、お前も状況を知らないということか?」永名が眉をひそめて問う。「知るわけないだろ。そんなことになるくらいなら……」途中で言葉を詰まらせる。もし分かっていたなら、あの女を直接捕まえて拷問してでも、知っていることを吐かせていたはずだ。少なくとも、今みたいに手詰まりにはならなかった。「……」永名は無言で雅彦を見つめたあと、深く息を吐いた。その反応で、だいたいの察しはついた。――この件には、やはり
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