雅彦は拳を固く握りしめ、胸の鼓動がやけに鮮明に響いていた。周囲は不気味なほど静まり返り、意識はただ桃を探すことだけに向かい、ほかの思考は一切なかった。どれほど歩いたのかも分からない。息が詰まりそうな重苦しさに押し潰されそうになったそのとき――雅彦の視界に、少し先で横たわる桃の姿が飛び込んできた。「桃!」見開いた目で名を叫び、我を忘れて駆け出す。転がる石に足を取られかけても、痛みすら感じていない。よろめきながらも必死に桃へと近づいていった。たどり着くと、桃は静かに地面に横たわっていた。血の気を失った顔に小さな傷がいくつも刻まれ、ところどころ血がにじんでいる。衣服は無惨に裂け、乾いた血に覆われ、その姿はあまりに痛ましかった。その光景を目にした瞬間、いつも冷静な雅彦でさえ呼吸が乱れ、胸を締めつけられた。震える指先を伸ばし、彼女の鼻先にそっと手を当て、かすかな息を探る。――生きている。かろうじて感じられる呼吸に、止まりかけていた心臓が再び打ち始める。だがその息づかいはあまりにも弱く、危うい状態であることを物語っていた。雅彦は素早く自分の上着を脱ぎ、桃の身体に掛ける。触れた体は氷のように冷たく、まるで魂を失った殻のようだった。彼は桃をそっと抱き上げた。だがその瞬間、見えない傷口から新たに血がにじみ出す。鼻をつく血の匂いに、彼は凍りついた。無闇に動かせないと悟り、再び桃を地面に横たえる。そこで初めて、後頭部に深い裂傷があるのに気づいた。倒れた際に突き出た石に頭を打ちつけたのだろう。手の震えは止まらない。べっとりとついた血の赤が目に焼きつき、心臓を抉り、息を奪う。このままではいけない。出血が続けば、桃は助からない。彼は自分の服を裂き、頭に応急の包帯を巻きつけた。しかし薬もなく、こんな簡易な処置で血が止まるはずもない。すぐに彼の手は赤く染まった。不用意に動かすこともできない。雅彦は自分の衣服を次々に脱ぎ、桃に掛けていった。せめて体温だけでも守ろうとして。「桃……死んじゃだめだ。耐えてくれ……まだ翔吾や太郎、それにお母さんにも会わなきゃいけないだろ?」そう言いながら、彼自身でも皮肉だと感じた。こんなときでさえ、桃を引き留めるために、彼女が最も大切にする者たちの名を持ち出すほかないとは。なんと卑劣で、情けな
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