ほどなくして外から車の停まる音がし、続いて玄関の扉が開く音が響いた。美穂は無表情のまま視線を向けたが、雅彦の服に血の跡が点々とついているのを見た瞬間、思わず目を見開いた。気品ある立ち居振る舞いも忘れ、慌てて駆け寄る。「その血、どうしたの?怪我なの?どこを傷めたの?」心配げな母の姿を前にしても、雅彦の胸は少しも動かなかった。ただ、背筋を冷やすような感情だけが込み上げてきた。もし自分がこれほど多くの証拠を見つけていなければ、信じられなかっただろう。あの心の底から尊敬していた母が、まさかこんなに残酷だったとは。雅彦は美穂の手を振り払った。美穂は弾かれたように後ろへよろめき、驚いた顔で彼を見上げる。「これは俺の血じゃない。佐俊の血だ」冷えきった声が返ってきた。その名を聞いた途端、美穂の表情は固まり、呼吸まで乱れる。ほんの一瞬の変化を、雅彦は見逃さなかった――母は動揺している。やましさを隠そうとしている。「彼が……どうしたの? 何があったの?」美穂は何も知らないふりをした。「まだとぼけるの?彼は死んだんだ。遺書を残しててね。全部の罪は自分が背負うから、せめて家族だけは許してほしいって書いてあった」――佐俊が、死んだ?あまりに突然の報せに、美穂は息を呑む。正成の私生児である佐俊を、愛せるはずもなかった。だが、だからといって殺してまで排除しようとは思っていなかった。捕らえさせたのも、桃を一刻も早く遠ざけるためにすぎない。雅彦に余計な考えを抱かせたくなかっただけなのに。なのに――死んでしまった?美穂がまだ整理しきれないうちに、雅彦の声が冷ややかに突き刺さる。「死んでくれて、ちょうどよかったんじゃないか。これで彼の背後の人間を探る奴もいなくなる……今ごろは心底ほっとしてるだろう」いくら鈍い美穂でも分かった。雅彦が言う「背後の人間」とは自分のことだと。「まさか私がやったと?あなたの中で私はそんな人間なの?」「俺だって、お母さんが殺人者だなんて信じたくない。けど、事実は変わらない。お母さんは佐俊を拉致させ、桃を別荘から連れ出して谷へ突き落とさせた。そのうえ、俺が調べ始めた途端に佐俊は死んだ。これで無関係だなんて、三歳児でも信じないよ」美穂は大きく目を見開いた。桃を谷に突き落とせなどと命じた覚えはない。どんなに
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