祖母に子どものことを急かされ、美乃梨は思わず気まずくなった。なにしろ、彼女と清墨は手をつないだことすらないのだ。親密な関係どころではない。そんな状況で子どもができるはずもない。「……おばあさん、お腹すいてない?私、台所見てくる。何か食べたいものある?」話を逸らそうとする美乃梨に、祖母は首を振った。「はあ……うるさく聞こえるかもしれないけどね、全部清墨のせいなのよ。あの子は本当に人を心配させるんだから。早く子どもができれば、私も安心できるのに」「清墨だって、別に悪いわけじゃないでしょ?おばあさん、心配しすぎよ」美乃梨は首をかしげた。正直なところ、清墨は雅彦のように派手さはないが、仕事では十分な成果を上げているし、見た目もきちんとしていて、悪い癖もまったくない。こんな男性なら、どこに出ても引く手あまたに違いない。「……あなたは知らないだろうけどね、昔あの子に彼女が……」祖母は口にしかけて、はっとして言葉を飲み込んだ。美乃梨に話すことではないと気づいたのだ。だが、美乃梨の好奇心には火がついた。清墨について彼女が知っていることはほとんどない。あんなに優れた男性が、なぜ長年独り身なのか。しかも最終的に、自分と結ばれるなんて、どう考えても不自然だった。「おばあさん、清墨に昔なにかあったの?教えてよ」美乃梨は祖母に甘えるように身を寄せる。「安心して。私、そんなに心の狭い人間じゃないの。知ったからって拗ねたりしない。ただ、彼のことをもっと知りたいだけなんだ」祖母は、美乃梨のまっすぐな目を見てしばらく迷った。けれど、もう随分と時が過ぎている。話したところで差し支えはないだろう。それに、このことを知ることで美乃梨が清墨の過去を癒やしてくれるなら、なおさらいい。「……分かったわ。話すね」祖母は腰を下ろし、ゆっくりと語り始めた。「清墨にはね、昔、初恋の相手がいたの。幼なじみでもあって、両家も公認の仲だったのよ。年頃になったら結婚して家庭を持つだろうと、誰もが思っていた。ところが、大学を卒業して二人で旅行に行ったときに、事件が起きたの。強盗に襲われてね。清墨はまだ運よく、海辺に投げ出されたところを救助された。でも、その女の子は……行方不明のまま。生きているのか死んでいるのか、今も分からないのよ」当時を思い出すだけで、祖母はため息をついた。あのと
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