All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 1411 - Chapter 1420

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第1411話 番外編五十九

「彼女が、あの男幽霊のことを知ってるのか?」澈は訝しげに尋ねた。「そう」ゆみは傍らのリンゴをかじりながら頷いた。「実は、あの女幽霊に散々踊らされたのよ」リンゴを頬張りながら、ゆみは事情を説明した。「そうか、あの女幽霊も可哀想な事情があったんだな」澈は最初は驚いていたが、次第に落ち着きを取り戻した。「そうだよ」ゆみはリンゴの芯をゴミ箱に投げ捨てた。「だから今回のことは、自分だけじゃなくて彼女のためでもあるの」「今の僕じゃ何も手伝えなくて……この二日間、苦労ばかりかけちゃったね」澈は悔しく言った。「あーもう、そんなこと考えなくていいよ。あんたも私のせいでこうなっちゃったんだから。安心して休んで。他は全部私に任せて」ゆみは澈の布団の端を摘んで弄びながら言った。澈はそれ以上何も言わず、ただゆみを申し訳なさそうな表情で見つめた。夕暮れ時。念江から、校舎の地下から人骨が発掘され、鑑定のため警察に引き渡したとの連絡が入った。「わかった。ありがとう、念江お兄ちゃん」「警察には話をつけておいたよ。事情聴取は行ってもいいし、行かなくても構わない」「面倒だし、向こうから言われない限り行かない」「ああ。それで、今夜はまた臨に付き添わせる。今から彼を送り届けるから」「了解」電話を切って間もなく、念江は臨を連れて到着した。臨は、これまでと違ってやる気に満ちあふれていた。「姉さん!」臨は大きく歩み寄ってきた。「いつ学校行く?もう待ちきれないよ!」ゆみと澈は呆然と彼を見つめた。しかし臨の性格を知っているゆみはすぐに察しがついた。「あんた、美人の女幽霊に会いたくてウズウズしてるのね?」「はは、だって本当に綺麗だったんだもん!」臨はニヤリと笑いながら頭を掻いた。「臨、助手として仕事を手伝ってもらってるけど、一つだけしっかりと言っておかなければならないことがあるの」ゆみの表情が険しくなった。臨はゆっくりと手を下ろし、ゆみの真剣な態度に少し面食らった。姉にこんな真顔で話されるのは初めてだったからだ。「忘れないで。人と幽霊とは陰陽の隔たりがある。あんたがどんなに美女に弱かろうと、女幽霊に一目惚れなんて絶対許さない。これだけは忠告しておくからね」「分かった、姉
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第1412話 番外編六十

しかし今回は、ゆみと臨が四階に着く前、階段の曲がる所で昭美の後ろ姿が見えた。彼女は窓越しに向かいの校舎を静かに見つめていて、ゆみたちの足音を聞いても、振り返ってくることはなかった。ゆみも急がず、臨の手を引いて階段に座った。「この滑稽な人生も、今夜で終わるのね。悔しんだり怨んだりもしたけど、時が経つうちに、その感情も全部忘れてしまった。可笑しいでしょう?」昭美が口を開いた。「確かに」ゆみは冷たく言った。「あんなクズな担任に惚れるなんて、あんたも可哀想だわ」臨は驚いてゆみを見た。昭美も振り向き、訝しげにゆみを見つめた。「自分でも言ってたでしょ?時が経てば怨みもわからなくなるって。私だったらきっと、自分を殺した犯人が墜落するのを見るたびに、殺された時の絶望感を思い出してしまう。そして苦しくなってこんな場所から逃げ出したくなるでしょう。相手はもうとうに死んだし、魂がどうなろうと関係ないじゃない?でもあんたは違った。ここに留まり、毎日あいつが自殺するのを眺めていた。未練があるなんて、本当にとんだ変態ね」ゆみは立ち上がりながら言った。「あんた、読心術でも使えるの?」昭美はぼう然とゆみを見た。「そんなわけないじゃない」ゆみは答えた。「あんたの言動がそうさせているの。他の幽霊から聞いたんだけど、あんた、同類の幽霊をいじめるくせに、自分を殺した相手には何もしなかったんでしょ?」昭美はしばらく黙っていたが、突然笑い出した。「そう……本当に変態だわ……あいつに殺されたのに、道連れにすることしか考えていなかった。そのせいでまさか彼をこの場所に縛りつけるなんて思いもしなかった……あいつと縛り合うことになるなんて、正に因果応報だわ……」昭美の言葉は感情がめちゃくちゃで、両目からは血の涙が流れ落ちていた。後ろで見ていた臨は思わず背筋が凍った。「持ってきたものを出して。線香に火をつけ、紙銭を燃やして」ゆみは臨に指示した。臨は指示に従った。「そろそろあの幽霊の正体を教えてもらえるかな?」「金髪の男。歳は27、8くらい」涙を流しながら昭美は答えた。ゆみはその言葉で、ある人物の姿を思い浮かべた。……まさか、あの人なの……しばらく呆然としたが、ゆみは傍らに立ち、燃え上がる炎の前で呪文を唱え始
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第1413話 番外編六十一

その夜も、ゆみは病院で澈の付き添いをした。臨も好奇心で姉について病院に来た。ゆみは静かに病室のドアを開け、澈が穏やかに眠っているのを確認し安心すると、紀美子に電話をかけることにした。廊下の突き当たりまで歩き、時間を確認してから発信ボタンを押した。「お母さん、今話せる?」電話が繋がると、ゆみは尋ねた。その時、紀美子は晋太郎と街を散歩していた。ゆみの様子から重要な用件だと察し、近くのベンチに晋太郎を座らせた。「何かあったの?」「朔也おじさんのこと、覚えてる?」ゆみは淡々とした様子で言った。その名前は、懐かしくもどこか遠い響きがあった。「ええ、覚えてるわ」紀美子の声が沈んだ。「母さん、朔也おじさんは……もはや昔のおじさんじゃなくなったかも」「何で?」紀美子は声を荒げた。「彼を見かけたの?あんたの近くに現れたの?」「まだ直接は会っていないんだけど……」ゆみは答えた。「でも確かなのは、彼の霊が周りにいるってこと。それに、彼は澈を襲った。どんな理由があろうと、これは許せない」「彼が……澈くんを傷つけたの?」紀美子はゆみの話を理解できなかった。「あんた……澈くんを見つけた?一体何が起きてるの?どうして何も教えてくれなかったの?」ゆみはベンチに座り、朔也の亡霊が澈を襲った経緯を含めてこの間の出来事を詳しく説明した。「あり得ないわ!」紀美子は即座に否定した。「朔也はそんな人間じゃない!確かにわがままなところはあったけど、根は優しい人だった!ゆみ、何か誤解してない?」「母さん」ゆみは厳しい口調で言った。「幽霊は人間と違うわ。生前どれだけ優しかった親族でも、死後は人を害したりするの」「ゆみ、まだ彼だと確定していないし、結論を出すのは早すぎるわ。故人に敬意を払わないと」紀美子はやはり信じられなかった。「もし本当に彼だったら?」ゆみの問いに、紀美子は沈黙した。「質問に答えて」ゆみは紀美子の心情を慮らず追及した。「今は何も答えられないわ。ゆみ」「お母さんが朔也おじさんと仲が良かったのは知ってる。私もおじさんと親しかったし、家族だと思ってた。でもお母さん、過ちは過ちよ。彼は故意に澈くんを傷つけたんだから、簡単に許せるものじゃない」ゆみは俯い
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第1414話 番外編六十二

「わかった」ゆみは言った。「彼がこれ以上澈に危害を加えないなら、お母さんが帰ってくるまで待ってあげる。それじゃあ、遅いからもう寝るね」紀美子が返事をすると、ゆみは電話を切った。「姉さん、朔也おじさんって誰?」隣にいた臨が尋ねた。「お母さんの一番の男性友達だったけど、もう亡くなってるわ」「亡くなったの?」臨は聞いた。「病気で?」「違うわ」ゆみは説明するのが面倒くさかった。「あんた、子供のくせに質問が多いわ」そう言うと、ゆみは振り向いて病室に戻ろうとした。「ちょっと、俺を呼び出したのは姉さんだよね?」臨は急いで姉の腕をつかんだ。「そうだよ」ゆみは振り返って答えた。「じゃあ、なんで何も教えてくれないんだ?」臨は言った。「みんないつもそうだよ。俺を子供扱いして何も教えてくれない。姉さんは小さい時に家を出たし、念江兄さんと佑樹兄さんもそうだった。俺だけずっと家で育てられたけど、俺ももう14歳。もういろいろ理解できる年頃だよ。姉さん、俺を省かないでくれる?俺もみんなと相談したいんだよ。何も知らないままじゃ嫌だ」そう言う弟の目を見て、ゆみは心が揺らいだ。確かに、家族のみんなが臨を子供扱いしていて、彼自身の考えをまったく考慮していなかった。「朔也おじさんの話をするなら、お母さんとお父さんの話もしなきゃいけないの」ゆみは深く息を吸い、座った。「最後までじっくり聞くから、教えて」「わかった。あれは、私たちが生まれる前のことよ……」一週間後。昭美の件以来、朔也は一度も姿を現していなかった。澈も無事だった。しかしその一週間、ゆみは暇ではなかった。店舗を見つけ、念江の助けを借りて葬儀用品店を開業した。開店にあたり、ゆみは爆竹を鳴らした。店先に飾ったのは艶めかしい花ではなく、白い菊だった。そんな開店セレモニーのせいで、通りがかりの人々は噂し始めた――「開店に白い菊を飾るなんて変じゃない?」「1、2本ならともかく、花かごにずらっとよ!」「客引きのつもりか?それとも幽霊を呼ぶつもり?」「交差点はただでさえ陰の気が強いって言うのに、わざわざそこに店を開くなんて、もしかして霊媒師で、あの世の飯を食ってるのか?」「最近は能力のある霊媒師なんてほとんど
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第1415話 番外編六十二

「姉さん、店の前になんで白い菊ばっかり並べてるんだ?」臨はにやっと笑って尋ねた。「あれは人間用ではなく、幽霊に見せてるのよ」「幽霊に?」臨は目を丸くして驚いた。「そう」「だから念江兄さんと佑樹兄さんに来ないでって言ったの。命式の弱い彼らにはよくないから」ゆみは雑巾を手に取って言った。「じゃあ俺が来ていいってことは、命式が強いから?」臨は舌打ちして自分を指差した。「そうじゃないわ」ゆみは壁の掛け軸を拭きながら背伸びした。「あんたは純陽の体だから、幽霊を恐れる必要はないの。それに、今朝お札も渡したし、なんの問題もないわ」「待ってよ姉さん。普段俺たち学校行ってるのに、誰が店番するの??」臨はしばらく考え込んでから尋ねた。「そんなに焦らなくても応募してくる人はいるでしょ。」ゆみは嫌そうに彼を見た。「それにこの店は人間向けの商売じゃないから、必要な時にだけ開くの」「じゃあ仕入れた品物はどうするんだよ?」「私が使うのよ!ここは倉庫代わりって感じ」臨は顔を引きつらせた。こんな繁華街の店舗を倉庫代わりに使うなんて、姉さんにしかできない!店の片付けが終わると、ゆみは店を閉め、臨と一緒に病院へ向かった。澈は昼過ぎに退院の予定だった。二人が病室に着くと、看護師が既に澈の荷物を整理していた。ゆみが澈に話しかけようとすると、念江から電話がかかってきた。「もしもし?」「ゆみ、紗子ちゃんと一緒か?」念江の声には焦りが混じっていた。「ううん」ゆみは軽く眉をひそめた。「どうしたの?」「一時間前、家に帰ったら紗子ちゃんが怒って別荘から飛び出していったんだ。その時佑樹が不機嫌そうにリビングに突っ立っていたから、きっと紗子ちゃんと喧嘩したんだ。僕が紗子ちゃんに電話したんだけど、彼女、携帯を家に置きっぱなして出ていっちゃったみたいなんだ」念江はため息をついた。ゆみは眉間にしわを寄せた。紗子ちゃんは佑樹兄さんのことが好きなのに、きっと何か酷いことを言われたに違いない。「兄さん、人を出して探してくれてる?」「ああ」念江は言った。「10分前に既に人を出した。今から龍介さんに連絡するところだ」「まず連絡して」ゆみは言った。「私から舞桜さんに電話するわ
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第1416話 番外編六十四

佑樹の冷たい返答を聞いて、ゆみは彼がどれほど酷い言葉を投げかけたか想像がついた。何年もの間、家族の誰もが、紗子を自分たちの家族のように接してきた。佑樹だけを除いて。ゆみは苛立ちまぎれに髪を掻き上げた。「……わかった、わかったよ、あなたの気持ちは理解した!私、おばさんに電話するから!」そう言うと、彼女は電話を切り、舞桜にダイヤルした。ほどなくして舞桜が出た。「ゆみ?」「おばさん、紗子はそっちに行ってない?吉田おじさんのところとかにも」「紗子……?」舞桜は戸惑いながら言った。「いいえ、来てないわ。何かあったの?」「紗子と連絡が取れないの。携帯も持ってないの」ゆみは佑樹のことは口にしなかった。二人の立場が違うから、状況がはっきりしないうちは佑樹に無実の非難が及ぶのを避けたかったのだ。「うちには来てないわ。ちょっとおじさんに電話してみるから、心配しないで……」舞桜の声にも焦りが滲んでいた。電話を切ると、ゆみは病院の玄関へと向かった。落ち着こうと深呼吸し、紗子が行きそうな場所を頭の中で巡らせた。そしてすぐにタクシーを捕まえて向かった。だが、いくつか探したが手がかりはなかった。仕方なくゆみは念江に再び電話をかけた。電話が繋がると、ゆみは聞いた。「お兄さん、うちの人たちは紗子を見つけた?」「いや、まだだ」念江の声には疲れがにじんでいた。「監視カメラも調べたけど、まるで紗子がすべてのカメラを避けたかのように、全然映ってないんだ」「お兄さん、先に私を迎えに来て。一緒に探そう」「……分かった。位置情報を送ってくれ。すぐに迎えに行く」20分ほど後、念江の車がゆみの前に到着した。ドアを開けて乗り込むと、ゆみはシートベルトを締めながら言った。「お兄さん、見たことを全部、細かく話して」「僕もそこまで詳しくはないんだ。ただ、紗子がすごく怒って家を出ていったのを見ただけ。あんなに怒った紗子を見たのは初めてだった。顔もすごく黒ずんでいたさ」ゆみは眉をぎゅっとひそめ、しばらく黙り込んだ。怒った……彼女は十年以上、紗子と接してきたが、一度たりとも紗子が怒った姿を見たことがなかった。辛いことがあっても一人で飲み込み、せいぜい私に愚痴る程度だ。いつも我慢強く、愚
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第1417話 番外編六十五

念江はすぐに電話をかけて彼女に渡した。「佑樹兄さん」ゆみは口を開いた。「なんだ?まだ何か聞きたいのか?」佑樹の声は相変わらず冷たかった。「ちょっと確認したいの、紗子を見たのって何時だったか覚えてる?」「十一時過ぎくらいだな」佑樹が答えた。「なんだ?」ゆみはごくりと唾を飲み込んだ。「紗子の様子っていつもと違ってなかった?」佑樹は少し黙った後に言った。「たしかに、いつもよりずっと反応が冷たかったし、話し方もとげとげしかったな」ゆみの脳裏に、ある考えが浮かび上がった。けれど、確証を得るまでは、断定してはいけない!ゆみは念江を振り返って見た。「念江兄さんが家に帰ったのは何時?」「たしか十二時近くだったかな」念江は言った。「そのときちょうど紗子が家を飛び出すのを見たんだ」ゆみは携帯をぎゅっと握りしめた。「もしかしたら……あなたたちが見たのは、紗子でもあり、紗子でないかもしれない!」佑樹と念江は、同時に困惑の声を上げた。「なに?」「どういうこと?」「佑樹兄さん、今家にいるの?」「会社だ」「じゃあ、家に誰か残ってる?」ゆみは焦ったように言った。「うちに家政婦なんていないんだ、知ってるだろ?ボディガードたちはみんな紗子を探しに出てる」「兄さん、家に戻って!早く!」ゆみは念江の方を見て言った。念江は質問せず、すぐに車を別荘へと走らせた。30分後――車が止まると同時にゆみが飛び降り、スリッパも履き替える間もなく3階の客間へ駆け上がった。念江もすぐに後を追い、ふたりは並んで部屋の前に立った。ゆみの手は震えながらドアノブに伸びた。彼女は――自分の考えが間違っていてほしかった。心の底から──どうか、違っていてくれと願いながら──深く息を吸い込み、ゆみは勢いよくドアノブを回した。だが、部屋の中の光景を目にした瞬間、彼女はその場で凍りついた。念江も、目を見開いてその中を見つめていた。部屋の中、紗子がベッドで眠っていて、顔色はいつもよりも青白かった。ゆみは慌てて駆け寄り、ベッドのそばで呼びかけた。「紗子……?」何度も呼びかけて、紗子がようやくゆっくりと目を開け、ぼんやりとゆみを見つめた。「ゆみ……」起き上がろうと
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第1418話 番外編六十六

念江は頷き、ゆみはすぐに懐から一枚のお札を取り出し、紗子に手渡した。「紗子、このお札を持ってて。私はちょっと出かけてくる」紗子はゆみの言葉から何となく察しがついた。「うん、いってらっしゃい」ゆみは念江と共に部屋を出て、階段を降りながら臨に電話をかけた。しばらくしてから、ようやく臨が電話に出た。「姉さん?」落ち着いた声を聞いて、ゆみはほっと胸を撫で下ろした。「臨、澈とはもう帰った?」「ああ!今マンションの下に着いたところ」「もう5時半よ!どうして今頃なの!?」「病院で手間取っちゃってさ……」「とにかく、早く部屋に入りなさい!電話は切らないで、澈から目を離さないのよ!」「了解」そう言いながら、臨はスマホをポケットに突っ込み、澈を車椅子ごとエレベーターに押し込んだ。しかし、エレベーターの扉が閉まった瞬間――通話はぷつりと切れてしまった。「……このバカ!」車に乗り込むなり、彼女はすぐに電話をかけ直した。まもなく、臨が再び電話に出た。「姉さん、さっきのはエレベーターのせいだって。もう澈兄さんの部屋に着いたよ」臨は簡素な部屋を見回した。簡素どころか、家具さえほとんど見当たらない。……澈兄さん、ずいぶん質素な生活してるな。「今は余計なこと考えなくていいから。早くお札を貼って。携帯はスピーカーモードにしてテーブルに置いて。やり方教えるから!」「オーケー」臨が澈をソファに座らせ、お札を取り出した。「どこから貼る?」「まず玄関ドア、次にトイレの窓、それから寝室とキッチンのガラス」臨は玄関の方へ向かいながら首を傾げた。「その順番って何の意……」バンッ——!臨の言葉が終わらぬうちに、突然トイレの窓からガラスの割れる音が響いた。彼と澈は思わず顔を見合わせ、一斉に音のした方向へと視線を向けた。ゆみはその音を聞いて、すぐさま聞いた。「臨、何があったの!?」「ト、トイレの窓が割れたみたい!」ゆみの顔色が一変した。「澈のそばに行って!お札を彼に……」ガシャン!!「澈兄さん!?」鈍い衝撃音と、臨の叫び声がゆみの耳に届いた。車椅子に座っていた澈が、まるで何かに弾き飛ばされたかのように転倒し、床へ激しく叩きつけられた。臨は慌てて駆け寄り助け
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第1419話 番外編六十七

電話の向こうから何の音も聞こえなくなり、ゆみが不安げに問いかけた。「どうしたの?急に黙っちゃって」「た、多分……大丈夫だ、姉さん。さっきの気持ち悪い感じももうなくなった」「あなたの血で傷ついたんだわ。今夜はもう来ないでしょう。すぐ向かうわ」「わかった」電話を切ってから30分も経たないうちに、ゆみたちは澈のマンション前に到着した。エレベーターで上がり、部屋の前に来ると、臨が既にドアを開けて待っていた。玄関に立ったゆみは、すぐに澈の部屋の様子に目を見張った。それを見た念江も一瞬呆然となった。「食卓と椅子しかないんだな……」ゆみも目を見開いた。「信じられない……まさかここまで質素とは」二人は小声で話しながら室内へ入った。澈はベッドに寝かされ、臨がボディーガードに食事の手配を指示していた。ちょうどそのやり取りが終わった頃に二人が入ってきた。「姉さん、念江兄さん、来てくれたんだな」ゆみは黙って頷き、ベッドで彼女を見つめていた澈に目を向けた。「澈、大丈夫?」澈は力無く頷いた。「……臨のおかげだよ」「澈の体をうつ伏せにして。背中を見せて」ゆみは臨を見て言った。臨がプッと吹き出した。「姉さん……それってちょっと変態じゃ……」ゆみは手を伸ばして、彼の額をぴしゃりと叩いた。「裸を見たいわけじゃないのよ」臨は渋々澈に頼んだ。「澈兄さん、姉さんの変態趣味に付き合ってください」澈も困惑した様子だった。「ゆみ、いったい何をするつもりだい?」「今は説明できないけど……とにかく言う通りにしてちょうだい」そして臨はさっと澈をうつ伏せに寝かせて服をまくり上げた。。すると―臨と念江の表情が同時に凍りついた。澈の滑らかな背中には、くっきりとした黒ずんだ足跡がひとつ、くっきりと残っていた。それなのに、さっきまで着ていた白いシャツには汚れ一つなかった。臨は悟ったように叫んだ。「幽霊の足跡だよね!?」ゆみは静かにうなずいた。彼女にとってはすでに予想していたことで、大きな驚きはなかった。「やっぱりあの幽霊の罠だったようね」念江は気持ちを落ち着かせながら口を開いた。「どういう意味?」臨はきょとんとした表情で聞き返した。「あの幽霊は紗子に取り憑いて
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第1420話 番外編六十八

ゆみはぎゅっと両手を握りしめた。「たとえ私を守るためだったとしても、認められないわ。でも……朔也おじさんは私たちにとっても大切な人。魂を滅ぼすなんて私にはできない」臨は理解した様子で頷いた。「つまり、朔也おじさんが自分の執念で澈兄さんを傷つけようとしてるってことだよね?だったら姉さんも、いざとなったら身内でも容赦しないってこと?」「話し合えるなら、手を出さない」ゆみは言った。「これはおじいちゃんが教えてくれたこと。特に朔也おじさんみたいに理不尽に死んだ場合、普通の霊よりも強い怨念を持ってる。彼がそうしたくてそうしてるんじゃなくて、自分でも抑えきれない思いに突き動かされてるの」三人は理解しきれない様子で顔を見合わせた。ゆみもこれ以上説明のしようがなかった。生きている時は善良な人でも、死後は必ず善なる霊とは限らない――聞こえはおかしいかもしれないけど、この世にはそもそもおかしなことなんていくらでもある。「で、これからどうするんだ?奴は姉さんの前には出てこようとしないんだろ?」「うん、本当に厄介だよ。彼が出てきたくないなら、こっちが探しても意味ない」「策を使ったらどう?」念江が提案した。「無理だよ」ゆみは言った。「朔也おじさんみたいにもう十年以上も前に亡くなった人は、それなりに霊力もある。こっちがどんな手を使おうと、全部お見通しだし、簡単には引っかからないわ」臨は苛立ちをぶつけるように頭をかきむしった。「じゃあ、もう待つしかないのか?」「この件は、もうあなたたちは手を出さないで。私が自分で片付けるから」言い終わるや否や、臨と念江がすぐに反論しようとした。だが、ゆみがうなずいて彼らを制した。……もしや、ゆみはわざとそう言っているのではないか。……澈の家を出たときには、すでに夜の十時を回っていた。ゆみは夕食を済ませてから、ずっと動きっぱなしだった。澈の家で貼れる場所にはほぼ全てお札を貼り尽くし、ベッドにも例外なく貼付けた。さらにボディーガードを2名配置し、異変があればすぐ連絡するよう指示した。家に戻ると、臨はすぐに浴室へ向かおうとしたが、ゆみに呼び止められた。「臨、待って」「また何だよ、姉さん」臨はあくびをしながら振り返った。「後でファイルを送る
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