ほどなくして、澈はVIP病室へと運ばれた。紗子と念江が入院に必要な物を買いに外へ出かけたため、病室にはゆみと奈々子、そして澈だけが残された。ゆみは、ベッドの脇に座り青白い顔の澈をじっと見つめていた。一方の奈々子は、壁にもたれかかりゆみを見て言った。「澈がボクシングを習ってたこと、知ってる?」ゆみは首を振った。「知らない」「最初は不思議だったわ。生活が苦しいのに、なぜボクシングなんか習うのかって。でも、彼が言ってたの。『誰かを守るためだ』って。あなたに出会って、やっとその意味がわかった。守りたかったのはあなたなのね。本当に幸せ者ね」奈々子が話せば話すほど、ゆみの胸はますます苦しくなった。生活もままならないのに、自分のためにボクシングを習っていたなんて。自分を守れないほど無力なわけじゃないし、支えてくれる仲間もいた。再会できるかどうかもわからないのに、そんなことを考えていたなんて。バカじゃないの?言葉を失ったゆみを見て、奈々子は冷たく笑った。「まあ、あなたみたいな人にはわからないでしょうね。私、帰るわ。澈は任せる」そう言い残すと、奈々子は病室を後にした。ドアが閉まる音と同時に、ゆみの涙が再びこぼれ落ちた。彼女は手を伸ばし、澈の手をそっと撫でた。伝えたいことは山ほどあるのに、どう言葉にすればいいのかわからなかった。ふと、澈のまつげが微かに震えた。しかし、うつむいていたゆみはそれに気づかなかった。ゆっくりと、澈は目を開いた。ぼんやりと周りを見回した後、視線を小さく啜り泣くゆみに向けた。彼は数秒間、呆然とゆみを見つめた。「……ゆみ」彼はかすれた声で呼びかけた。声を聞いた瞬間、ゆみはぱっと顔を上げた。涙でまだ濡れている目が、澈の視線とぶつかった。澈は軽く眉をひそめ言葉を発しようとしたが、先にゆみが口を開いた。「目が覚めた?」澈はかすかに頷いた。「ああ」「頭は痛い?めまいは?喉渇いてない?お腹空いてない?」ゆみは一気に質問を投げかけた。澈は苦笑しながら、力のない声で答えた。「どれから答えればいいんだろう……」ゆみは少し当惑した。「えっと……質問多すぎたかな?じゃあ、とりあえずお水汲んでくる!」そう言って手を引こうとすると、澈が彼女
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