ホーム / 恋愛 / 会社を辞めてから始まる社長との恋 / チャプター 1481 - チャプター 1490

会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 1481 - チャプター 1490

1519 チャプター

第1481話 番外編百二十九

「おばあちゃん、一人でここにいるなんて、もっと年取ってからはどうするんだ?」「そんなの、あんたに関係ないよ!」祖母はそう言い放つと、くるりと背を向けて、勢いよくドアを閉めた。その態度はあまりにも冷たく、皆胸が締めつけられた。澈は、うつむいたまま家の前に立ち尽くしていた。長い沈黙のあと、ようやく杖を突きながらゆみたちのいる場所へと歩き出した。彼女たちの前に立ったとき、澈は苦笑を浮かべた。「……すまん、情けないところを見せてしまったな」ゆみが口を開いて慰めようとしたその時、横から隼人が言った。「わざと俺たちに見せたのか?」澈ははっとして隼人を見つめた。ゆみも驚いたように振り向いた。「どういう意味?」隼人は澈をじっと見据えて言った。「お前、婆さんの反応がどうなるかわかってただろ?一緒に行こうって言った時、なぜ断らなかったんだ?普通なら……こんな話、人には聞かせたくないものじゃないか?」ゆみはむっとした様子で口を挟んだ。「その言い方、ちょっとひどすぎない?」「ひどい?」隼人は首を傾げた。「別にひどくないだろ。澈、仮にゆみを俺に譲るつもりでも、そんなくだらない手段を使う必要はないだろう」「えっ……?」ゆみは完全に理解が追いつかず、ぽかんとした表情を浮かべた。彼女は、隼人が、澈がわざと同情を引こうとしたと非難しているのかと思っていたからだ。澈は苦笑した。「ゆみを君に譲ろうなんて、これっぽっちも思ってない。みんなと一緒に来るのを断りたかったけど、その機会を与えてくれなかったんだ」そう言うと、澈はゆみの方を見た。「僕がどんな運命か、ゆみが一番分かってる。だから、わざわざそんな手段で怖がらせたり遠ざけたりしようなんて思わないよ。そんな手段は、自分でも許せない」ゆみはこくりと頷いた。「そうよ隼人。澈のことは、おじいちゃんがずっと前に占ってくれたから、私も知ってるの。ただ……おばあちゃんがあまりに頑固すぎて、何を言っても耳に入らないのよ」隼人は気まずそうに鼻を掻きながら、ぽつりと呟いた。「ごめん、俺が勘違いしてた。てっきり、わざとゆみに諦めさせようとしてるのかと……」隼人のどこか間抜けな様子に、ゆみは思わず笑いそうになった。しかし、今の状況では笑ってはいけないと
続きを読む

第1482話 番外編百三十

澈は封筒を一つ一つ拾い上げ、しっかりと胸に抱きかかえた。隼人は我慢できず、駆け寄って手伝い始めた。他人の事情に首を突っ込むべきではないが、こんな時に手を差し伸べないのは人間としてどうかしていると思ったからだ。封筒を拾いながら、隼人は澈に声をかけた。「くよくよするなよ。彼女に信じてもらえなくても、俺は信じてるからさ!」澈は、無理にでも笑おうとした。「……大丈夫だよ。慣れてるから」「慣れてるって?」隼人の手が止まった。「他にもあんなことを言う奴がいるのか?」「……ああ。父方の親戚は、ずっと僕のこと“疫病神”って呼んでた」「なんだって……?ご両親が亡くなったのは、いつなんだ?」「五歳のとき」「……ってことは、十年以上も、そんな言葉を背負って生きてきたのか!?」隼人は目を見開いた。「そうだよ」その瞬間、隼人は胸の奥がギュッと締めつけられ、痛んだ。もし自分が同じ立場だったら……とっくに壊れて、何もかもぶち壊していたかもしれない。けれど澈は、穏やかに、黙って耐えてきた……拾い終えた封筒を手渡しながら、隼人はまっすぐに彼の目を見て言った。「……もう、つらい思いすんなよ。これからは俺もお前の味方だ。何かを失っても、その後代わりに得られるものだってあるだろ?」澈は、微かに笑みを浮かべ、ゆっくりと杖をついて立ち上がった。「そうだな」「だろ?!」隼人は澈の肩をポンと叩いた。「家族がいなくたって関係ねぇよ。俺たちが家族になってやる!」家に戻ると、隼人は佑樹に電話をかけて無事を報告した。ついでに、夜に見た出来事もすべて話した。彼はイライラしながらリビングを歩き回った。「佑樹、あんな状況の澈とゆみを取り合うとか……俺、正直気が引けるんだよ」「恋愛ってのは譲り合いでどうこうなるもんじゃないだろ」佑樹は淡々と返した。「でも、澈と俺の状況の差があまりにもありすぎてさ……気の毒で……」「ゆみに振られでもしたら、また考え直せ」そう言うと、佑樹は電話を切った。隼人は呆然と携帯を見下ろし、やがて煩わしそうに髪をかきむしった。なんなんだよ、もう!!翌日。ゆみは澈と隼人と共に帝都へと戻った。家に着いた時、ちょうど臨が学校から帰ってくるところだった。ゆ
続きを読む

第1483話 番外編百三十一

臨は頭を抱えた。たった一度外出しただけで、「もう合わない」って、どういうこと?まさか……澈兄さんが姉さんに手を出したとか!?それで姉さんを怒らせた……?臨は急に腹が立ってきて、そのまま自分の部屋へ向かった。部屋に着くと、すぐに携帯を取り出して澈に電話をかけた。数秒もしないうちに、澈が電話に出た。「もしもし?」電話越しに響く澈の声は、いつも通り穏やかだった。その声を聞いた途端、臨の怒りは不思議と消えていった。考えてみれば、澈兄さんのような穏やかな人が、そんなことをするわけないよな……?「澈兄さん……あのさ、姉さんが“もう無理だ”って言ってたんだけど……一体何があったの?」澈は、少し沈黙してからゆっくりと事情を説明し始めた。「えっ、それだけ?でもさ、それってつまり、姉さんが本気で兄さんのこと好きだってことじゃん!」「……わかってるよ」澈は言った。「でもゆみの考えは尊重するつもりだ」「待ってよ!」臨は言った。「お互い好きなのに、家柄なんかで別れるなんて納得できない!僕がなんとかするから!切るね!」澈は彼が何をしようとしているか察し、慌てて止めようとした。「臨、余計なことをするな!」けれど、臨はすでに電話を切っていた。再びかけ直したが、臨はもう部屋を飛び出し、紀美子を探しに出ていた。「お母さん!お母さん!」臨はドアを叩きながら叫んだ。「入りなさい」紀美子の声が聞こえた。臨が部屋に入り、ソファに座ると、まずきょろきょろと周りを見回した。「父さんはいないよね?」紀美子は微笑んだ。「いないわよ。何か話したいことがあるんでしょ?」臨は、さっき澈から聞いたことを余すことなく紀美子に話した。紀美子は静かに話を聞いてから、淡々と言った。「で、母さんに何をしてほしいの?」「母さん、澈兄さんを助けてあげてよ。姉さんと一緒にいられるようにさ。噂話なんて黙らせちゃってよ!」「それはできないわ」紀美子はきっぱりと言い切った。「なんで!?姉さんと澈兄さんがすれ違ったままでいいっていうの?澈兄さん、家族がいないんだよ?すごく可哀想じゃないか!」「臨」紀美子は真剣な口調で言った。「人生って、そう簡単なものじゃないのよ。どうしてあなたが姉さんと
続きを読む

第1484話 番外編百三十二

佳世子は、電話を取ると紀美子に尋ねた。「さっき、臨に何があったの?そんなに慌てて、どうしたの?まさかうちの可愛い息子にお小遣いあげなかったんじゃない?それはダメよ、紀美子!」紀美子は頭を抱えながら言った。「臨が、余計なことに首を突っ込んでるの」「誰のこと?」「ゆみと澈のこと」「それはダメね。ゆみはもう大人なんだから、自分で決めさせてあげないと。私たち大人は彼女の選択を尊重するべきよ」「私もそう思ってる」紀美子はため息をついた。「でもね、澈って本当にちょっと気の毒なのよ」「気の毒なのは分かるけど、それでゆみの一生の幸せを犠牲にするわけにはいかないわ」佳世子は言った。「私は、彼が本当に信頼できる人だったら、ゆみもそこまで心が揺れたりしないと思うの。紀美子、私たちが恋愛してた時、誰かに助けてもらった?私たちが通ってきた道だって、十分に可哀想だったじゃない。結局、誰にも頼れない。頼れるのは自分だけなのよ」「わかってる。だから私は臨の頼みを断ったの」「うん、それでいいのよ」佳世子は言った。「でもさ、もし本当にゆみが澈と付き合うようなことになったら、その時は素直に祝ってあげましょうよ」「それはまだ先の話ね」紀美子は言った。「でもね、佑樹が言ってたの。彼の友達で、すごくいい人がいるって」「誰なの?」「警察で働いてる若い子。人柄もいいし、家の経済状況もかなり良いらしいの」「そうなの?!」佳世子は嬉しそうに言った。「それって最高じゃない?ねえ、私たちで一度会いに行ってみない?」紀美子は思わず笑った。「なんだか最近、年取るごとにお節介なおばさんみたいになってきたわね」「うちの娘のことなんだもん、気にしないわけないでしょ!」「さっきは違うこと言ってたじゃない」「うっ……そんなことよりさ、どう?明日ちょっと見に行ってみる?」「いいわよ。じゃあ、佑樹にその子のこと聞いておくわ。明日会いに行こうか」「オッケー!」その夜、紀美子は佑樹が帰ってくるのを待って、隼人について話を聞いた。佑樹は呆れた表情で紀美子を見て言った。「母さん、何を企んでるんだ?」紀美子は笑いながら答えた。「だって、佳世子がその子に会いたいって言ってるのよ」ちょうどそのとき、玄関から
続きを読む

第1485話 番外編百三十三

「それなら結婚には何の意味があるの?ただ、ルームメイトを探して一緒に暮らすだけじゃない?」「だからこそ、僕には今のところ隼人とゆみが一番合ってると思うんだ。僕も隼人を利用して、ゆみの澈への気持ちをそらせようとしてるんだ」「隼人って子、性格はどうなの?」「明るいよ」佑樹は言った。「気性も穏やかで、率直な性格。裏表がない。ただ年齢がゆみより6歳上だ」「6歳なんて、何の問題もないわ!」佳世子は興奮した様子で言った。「紀美子と晋太郎だって同じくらいの年齢差じゃない!」紀美子は呆れたように佳世子を見た。「私たちは3歳差よ」「2倍なだけじゃん!」佳世子はすぐにカバーした。「それに、年上の男性は若い女性を大切にするものよ。基本的な情報は得られたんだから、さっそく今夜会いに行きましょ!」「今夜?」紀美子は驚いて佳世子を見つめた。「そんなに急がなくても」「早く確かめておいた方が安心だから」「でも今隼人が都合がいいかどうか分からないじゃないか」佑樹が冷静に言った。「じゃあ、あんたが橋渡ししてよ……」佳世子が言いかけたところで、階段からゆみが降りてくるのが見えた。佳世子は興奮気味に手を振って叫んだ。「ベイビー、早くこっち来て、おばさんの隣に座って!」ゆみは下を見下ろし、リビングに皆が集まっているのを見て驚いた。彼女は近づいてきて尋ねた。「どうして来たの?」佳世子はゆみの手を取って、隣に座らせた。「あなたに会いたくて、様子を見に来たのよ」ゆみはにっこり笑った。「でもね、おばさん、私今から出かけなきゃいけないの」「どうして?」佳世子は尋ねた。「これからお店に行かなきゃ。今夜はお仕事があるの」菜乃の母親の件は終わったけれど、菜乃本人のことはまだ片付いていない。今夜、彼女と玲奈を幽世役所に連れて行かなきゃいければならなかった。佳世子もゆみの言っていることをすぐに理解した。彼女は時間を見て言った。「もう夜の8時だけど、遅くない?」「まだ大丈夫。もう少し遅い時間の方が動きやすいから」「一人で行くのは心配だわ。誰か一緒に行ってくれる人はいるの?」佳世子は尋ねた。「臨を連れて行こうと思ってる」佳世子は隼人を推したかったが、ゆみが臨の名
続きを読む

第1486話 番外編百三十四

「今すぐ向かうそうだ」佑樹は言った。佳世子はすぐさま立ち上がり、紀美子に向かって言った。「紀美子、私たちも行きましょう!」紀美子は困ったように彼女を見つめた。「また尾行でもするつもり?」「こんなチャンス、見逃せないでしょ?」そう言いながら佳世子は晴の方を向いた。「あなたはここで待ってて。私と紀美子で出かけるわ」晴は携帯の画面から視線を上げ、少し不満げに言った。「俺に対してもそんなに熱心になってくれればいいのに」佳世子は彼を無視し、紀美子の腕を組んで外へ出た。ゆみの葬儀屋の住所は紀美子が知っていた。到着した時、ちょうど道路の向かい側にカイエンが停車した。そして、全身から活力が溢れる爽やかなイケメンが車から降りてきた。佳世子は隼人に気づくと、すぐに紀美子の手を掴んだ。「紀美子、あの男の子が隼人じゃない?」紀美子は隼人の方に視線を向け、じっくりと観察した。「体つきはがっしりしてるし……間違いないでしょう」「でも、車の中にいたら、会話までは聞こえてこないよね」そう言いながら、佳世子はバッグからキャップとマスクを二組取り出した。「紀美子、これつけて。こっそり近づいて何話してるか聞いてみよう」「そんな面倒なことしなくてもいいわよ」紀美子は苦笑した。「臨にメッセージ送ればいいでしょ?彼も中にいるし」「そっか!」佳世子は急かすように言った。「じゃあ、早く臨にこっそり電話してって頼んで!」紀美子は頷いた。「うん、わかった」彼女が臨にメッセージを送ると、彼はすぐに電話をかけてきた。ただし、一言も話さず、通話中の携帯をそっとポケットに戻した。母さんたちの好奇心を、少しくらいは満たしてやらないとね。そして彼は、ゆみと隼人に視線を移した。ゆみは隼人が店に来たことに驚いていた。「高橋隊長、今日は休まないの?帝都に帰ってきたばかりでしょう」隼人は笑顔を浮かべながら言った。「お店が開いてるのが見えたから、ちょっと話でもしようと思って。邪魔だった?」「邪魔ってわけじゃないけど……」「けど、なに?」隼人は椅子を引き寄せて、ゆみの隣に腰を下ろした。「……」ゆみは言葉に詰まった。実はこのあと、魂を抜け出して菜乃や玲奈と一緒に出かけるつも
続きを読む

第1487話 番外編百三十五

「怖くないわけないだろ?」隼人はお札を指でなぞりながら言った。「でもゆみが平気なら、俺も慣れれば大丈夫だろ!」臨は隼人に親指を立てた。「すげぇな!隊長は」隼人は照れ笑いを浮かべながら言った。「まあ、少し下心もあるんだけどさ」「え?」臨は首をかしげながらゆみを見た。まさか、隊長の下心って、姉さんのハートを射止めること……!?隼人は鼻をこすりながらゆみを見て、少し気まずそうに言った。「ゆみ、正直に言うよ。嘘つくの、あんまり得意じゃないからさ。今夜は、君の兄さんに頼まれて来たんだ。君を守るために」その言葉を聞いた瞬間、車に乗っていた紀美子と佳世子は、同時に目を見開いて顔を見合わせた。佳世子は言った。「ちょっとこの人、正直すぎない?佑樹がせっかくチャンス作ってくれたのに、自分でバラすなんて!」「まあ、最後まで聞いてみようよ」「そうね!」電話の向こうからゆみの声がした。「まあ、なんとなくそんな気はしてたよ。じゃなきゃ、こんな偶然あるはずないもん」ゆみの声は平静だったが、表情は少し驚いていた。まさか、隼人がここまで正直に説明するなんて。佑樹兄さんに裏切られたけど、この正直さはなんだか心地よかった。そのためか、無意識のうちに、ゆみの態度も少しだけ柔らかくなった。さっきまであった微妙な距離感も、どこかへ消えていた。隼人は拳を唇に当てて小さく咳払いをした。「じゃあ、本題に入るよ」「うん、いいよ」ゆみが頷いた。「実はね、半年前、うちの署でとある殺人事件を扱ったんだ。でも未だに犯人は捕まってない。そいつの逃亡スキルは相当なもんでさ、しかも、遺体の解体技術がすごくて……被害者の内臓をほぼ完全な形で取り出してた。たぶん、解剖に関わってる人物か、医学系を学んでるやつだと思う」隼人がその話をしている間、ゆみはじっと彼の表情を見つめていた。その表情は、真剣そのものだった。さっきまでの砕けた雰囲気から一転して、真剣な面持ちで仕事に向かうその姿勢からは、強い責任感が感じられた。ゆみは視線を彼から外しながら言った。「つまり、私に犯人探しを手伝ってほしいってことね」「ああ、そうだ。ゆみ……ぶっちゃけると、確かに俺は君のことが好きだよ。でも、それ以上に、君の能力を本当に頼り
続きを読む

第1488話 番外編百三十六

隼人は眉をひそめ、苦笑いしながら言った。「君ってほんと、反抗期のガキみたいだな!」ゆみはふざけた調子で聞き返した。「どうだい、兄貴?この呼び方気に入らないなら、手伝ってあげないからね」隼人はぐっと堪えた。「事件が片付いてから、ゆっくり矯正してやる……被害者の名前は山田悦子(やまだ えつこ)、24歳。芳清町の一人暮らしのアパートで殺害された」「芳清町?」ゆみは眉をひそめて考え込んだ。聞き覚えのある地名だが、すぐには思い出せなかった。「姉さん、うちの店から信号3つ先だよ」臨が教えてくれた。思い出したゆみは、隼人を見て尋ねた。「そのアパートに入れる?今すぐ行ってみない?」「幽霊に会いに行くつもりなのか?」隼人は尋ねた。「何が問題でも?」ゆみは口を尖らせた。「ないよ」「ここで霊を呼ぶよりは、直接アパートに行った方がマシ。被害者の持ち物に触れたら、何かが見えるかもしれないし」隼人は驚いた表情でゆみを見つめた。ゆみは手を振った。「そんな目で見ないでよ」実はこの力は、もともと備わっていたものではなかった。おじいちゃんが師匠たちに土下座してお願いして、ようやく授けてもらったのだ。その代償として、毎月の一日と十五日には、必ず供物を捧げに行かなくてはならない。「鍵は署にあるから、申請しないと持ち出せないんだ……君が手伝ってくれるなら、明日の夜に行こうか?」「いいよ。じゃあ明日の夜ね!」隼人はゆみの行動力に感激して、ゆみに何度も感謝の言葉を口にした。ゆみはちらりと壁の時計を見てから言った。「そろそろ時間ね」その言葉を聞いた隼人は、反射的に懐からお札を取り出し、胸元にぴたっと貼りつけた。臨もそれに伴って同じようにした。ゆみは立ち上がり、傍らの供え台に向かって三本の線香を灯し、呼びかけた。「朔也叔父さん、ちょっと力を貸してほしいの」その声が終わると同時に、玄関からひやりとした風が吹き抜けてきた。冷気に気づいた隼人は、すぐに玄関の方を振り向いた。そこで目にしたのは、顔が蒼白で全身が濡れている金髪の外国人男性だった。その姿に、隼人の顔色は数段青白くなった。だが、今はゆみの足を引っ張るわけにはいかない。仕方なく彼は臨にぴったりくっついて身を寄せ
続きを読む

第1489話 番外編百三十七

臨は唇を尖らせた。自分が怖がってた時は誰も助けてくれなかったのに、澈兄さんや隊長が怖がると姉さんはすぐ助けに入るなんて!不公平だ!朔也は、ゆみと話し終えるとすぐに去っていった。「姉さん、朔也叔父さんはどこに行ったの?」臨が尋ねた。「あの二人の幽霊を連れてくるように頼んだの」ゆみは説明した。「じゃあその幽霊たちをどうやって幽世役所まで連れて行くの?」臨はさらに聞いた。この言葉を聞いて、隼人はパッと背筋を伸ばした。「幽世役所?!ここにそんな場所があるのか?」ゆみは椅子に腰を下ろしながら答えた。「見えるものだけが存在するとは限らないわ」隼人はその言葉を聞いて背筋に寒気が走った。「つまり……君が別の姿になって幽霊を連れて行くってこと?」ゆみは思わず笑い出した。「別の姿って、まるで変身するみたいね。でも大体そんな感じよ。これから夢に入って、やり方を教えてくれる人に会うの。閻魔様も以前言ってたし」「閻魔様!?!?」隼人は再び驚きの声を上げた。「ゆみ、冗談じゃないぞ!死んでないのに、どうして閻魔様が見えるんだよ?」ゆみはもう、説明する気もなかった。「余計なことは聞かないで。ただ見ててくれればいいの」隼人はこれ以上口を挟むべきではないと悟り、大人しく座り直した。それから10分も経たないうちに、朔也が戻ってきた。後ろには大人と子供の幽霊がついていた。朔也はゆみに軽くうなずき、無言で連れてきたことを伝えた。ゆみは臨に視線を向けた。「ドアを閉めて。私が目を覚ますまで、絶対に開けちゃダメ」「了解!」臨は素早く動き、ぱたんとドアを閉めて戻ってきた。その時にはもう、ゆみはリクライニングチェアに横たわっていた。もともと魂送りだからか、ゆみが夢に入るスピードは非常に早かった。三分も経たないうちに、彼女の魂は肉体から離れ、臨と隼人の目の前に姿を現した。隼人は目を見開いてゆみを見つめていた。「先にあの子たちを連れていくわ。あなたは隼人と一緒にいてあげて」ゆみは臨に指示を出した。臨は力強く頷いた。「わかった、姉さん。早く戻ってきてね」この一部始終は、車の中で聞いていた紀美子と佳世子にも伝わった。佳世子は何度も唾を飲み込みながら言った。「ゆみ、
続きを読む

第1490話 番外編百三十八

「その子は活発で、裏表がなくて、嘘もつかない。そういうところが私はとても気に入ったわ」そう言ってから、佳世子は紀美子に視線を向けた。「ねえ、紀美子、そうでしょ?」紀美子は頷いた。「確かにそうね。人柄に関しては、非の打ちどころがないわ」晋太郎は早々に娘の相手を決めようとするのに賛成ではなかった。しかし、二人の会話を聞きながら、澈の無口で暗い性格を思い出すと、ゆみが早く彼から離れる方が良いと感じた。そのため、彼女たちの行動に対して何も反論しなかった。しばらく様子を見て、ゆみがもし本当に隼人と何か親密な関係になりそうなら、その時にあの子に会いに行けばいい。一方。ゆみの任務は順調に進んでいた。店を出た瞬間、既に外には冥府の使いが待っていて、彼女たちを案内してくれた。二人の幽霊も逃げようという様子はなく、幽世役所に着くと、そのまま冥府の使いに連れられて中へと入っていった。ゆみは、朔也と共に店に戻る道中、多くの霊を見かけた。彼女は小さくため息をついた。「こんなにたくさんの幽霊がまだ外をさまよってるなんて……私の仕事、本当に重すぎるわ」その言葉を聞いて、朔也は笑った。「もう音を上げたのか?」ゆみは力なく答えた。「諦めたわけじゃないけど、終わりが見えないじゃない。ようやくわかったわ。なんで閻魔様が私に永遠に魂送りをさせようとしたのか。でも、私頭がいいから、あの馬鹿げた要求はきっぱり断ったのよ!」「成仏できない幽霊には、それぞれ未練がある。もし俺が彼らの立場だったら、幽霊を送るのは気が引けるな」「どうして?」ゆみは不思議そうに訊いた。「君だったらどう?この世の記憶をすべて消して生まれ変わるのと、毎日家族の姿を見られるこの世に残るのと、どっちを選ぶ?」「それってすごく辛い……そんなの耐えられないわ……」途中まで話して、ゆみは唇を噛み、目を伏せながら言った。「でも、お兄ちゃんたちや弟、父さんや母さんのことを忘れたくない……」「だから、俺の気持ちがわかっただろう?」朔也は言った。「君たちを忘れられなくて、だから今までずっと逃げ続けているんだ」「理解したわ」ゆみは朔也を見つめて言った。「でも、朔也叔父さん……辛くないの?彼らはあなたを見られないけど、あなたは彼らをず
続きを読む
前へ
1
...
147148149150151152
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status