「その通りだ」礼音の口元に、まったく温かみのない微かな笑みが浮かんだ。「エマの事件の直後、この協会の公開活動は大幅に減って、極端に目立たなくなった。2年間ずっと沈黙して、世間の関心が薄れた頃に、また静かに活動を再開した」由佳の表情は暗くなった。「私、思うの。エマはそもそも肝臓がんなんかじゃなかった。健康診断の結果は捏造されたのよ。彼らは最初から、エマを標的にしてた!」あのボランティア契約とやらは、エマと、彼女の稀少血液型を狙った、計画的な殺人だった!彼らはエマの体を、血を、そして臓器を必要としていた。「俺もそう疑ってる」礼音が言った。「でもこれはあくまで推測にすぎない。当時、エマの検査を行ったのはウィルミントンのケラー病院だけだ。健康診断の報告書を出したのもその一ヶ所だけ。エマはすでに亡くなっていて、いまさら裏取りはできない」「でも、ロバートはきっと何か知ってるはず。じゃなきゃ、あんなふうに突然エマの名前を出すわけがない。それに、あの実験をした研究所、エマの本当のデータを今も保管してるはず。カサノバ生物研究所......今も存在してるの?」「カサノバ生物研究所」礼音の声は低く、だがはっきりとしていた。「エマの事件が明るみに出たあと、戦略的調整のためとして正式に閉鎖を発表した。現地に行って調査した人もいるけど、建物はすでに取り壊されてる」「でも、それは表向きの話だ。裏のルートを通じて、研究所の資産移転や職員の異動を追跡したところ、数名の研究者がKLグループ傘下で新設された『アルテミス精密医療研究センター』に移っていることがわかった。つまり、看板を掛け替えただけで、活動は続いてる」「ってことは、エマの実験データは、今もそのアルテミスのデータベースに残されてる可能性が高いってこと?」「非常に高いと思う」礼音は断言した。「この手の人体実験に関わるコアデータ、とくにエマのような極めて稀な表現型を持つ個体の記録は、研究上の価値が計り知れない。KLが簡単に破棄するはずがない。厳重に暗号化され、封印されているとしても、必ずどこかに存在している」清次は由佳を見た。「手に入れる方法、考えるか?」「でも、かなり危険だと思う」由佳は一瞬ためらった。清次はその言葉には答えず、礼音に向き直った。「他に情報はあるか?」礼音はまた1枚の紙の資料を
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