もちろん、向かいの部屋のパソコンにもデータは残っている。だが、それをエミリーに教える必要はない。エミリーはひとまず安堵の息をついたが、まだ警戒心は解けていなかった。「......本当に?バックアップは?クラウドには?」由佳は無駄なやりとりを省いて、手首をひねるようにスマホを反手でエミリーに投げた。「自分で確認して。ロバートが戻ってくるわ。彼に私たちが一緒にいるところを見られたくないでしょ?」エミリーは慌ててスマホを受け取った。まるで火がついた炭でも掴んだかのようだった。震える指で、ほとんど人生最速のスピードでギャラリーを開き、すべてのフォルダ、バックアップ、クラウドの接続先まで確認した。スマホの画面の光が、彼女の額に浮かぶ冷や汗と焦った表情を照らし出していた。何度も確認を繰り返し、視認できるすべての場所から写真が完全に消えているのを確かめて、ようやく全身の力が抜けたようにスマホを由佳に返した。彼女はすでにドアの前まで移動していた。由佳はスマホを受け取ると、すぐさまドアを開け、廊下の左右を確認。誰もいないのを確かめて、すばやく向かいの部屋へ戻った。その瞬間、突然背後から流暢な英語の男の声が響いた。「どうして私の部屋に入ったんですか?」由佳は心臓が止まりそうになった。背中がドアに張り付き、一瞬、ロバートに出てきたところを見られたのかと思った。慌てて鍵をかけ、ドアの覗き穴から外を確認したが、廊下には誰もいない。ロバートはまだ廊下の曲がり角あたりにいるのかもしれない。数秒待ったが、誰の姿も見えない。「何をそんなに見てるんです?」その低くてからかうような声が、またも背後から響いた。由佳は全身の毛が逆立ち、まるでしっぽを踏まれた猫のように飛び上がって振り返った。そこには清次が寝室のドア枠にもたれ、笑みを浮かべて彼女を見ていた。清次はゆったりとドア枠にもたれ、少し首をかしげた姿勢で、彫刻のように整った顔立ちが天井のライトに照らされた。彼の人の心を見透かすような瞳が、今はいたずらっぽく細められ、何かを成し遂げたような満足げな色を帯びていた。由佳:「......」「清次!!」由佳は歯の隙間から怒鳴り声を絞り出し、声の最後には怒りと焦りが混じって震えていた。彼女は反射的にソファの上にあったベルベット
Baca selengkapnya