Semua Bab 桜華、戦場に舞う: Bab 1251 - Bab 1260

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第1251話

さくらが去った後も、皇后の怒りは収まらなかった。横で険しい面持ちのまま、皇后は祖父が薬を飲み、人参湯を啜り、侍医に気血を巡らせる鍼を打たれ、さらには丹治先生の残した丸薬まで口にするのを見守った。わずか一時間も経たぬうちに、帝師の顔色は見違えるように良くなっていった。侍医の診立てでは、心に闘志が宿り、回復の望みが出てきたという。斎藤家中が喜びに沸く中、ただ一人、皇后だけが深い失望に沈んでいた。その蒼白な顔色は、かつて帝師が南風楼で装った化粧にも劣らぬほどだった。これが自分の賭けだったことを、皇后は悟っていた。実家の顰蹙を買い、陛下の不興も免れまい。だが上原さくらは大きな脅威だった。その評判が地に落ちなければ、皇后の名が輝くことはない。さくらの成し遂げたことを全て自分がやり直せばいい。女学校を再興し、朝廷の重臣や貴族の娘たちを集め、名門の力を糾合して大皇子の基盤を固める。かつては蔑んでいた策も、今は手段を選んでいられない。父の優柔不断な態度を見抜いた今、斎藤家だけを頼みにしていては、一度でも躓けば全てが水泡に帰すことは明らかだった。穂村宰相は帝師の病室を訪れ、その肩に優しく手を置いた。「旧友よ、しっかり養生するのだ。若い者たちが世の中をどう変えていくか、じっくり見物しようではないか。彼らが暴れてこそ、世も賑やかというものだ」帝師は胸を突かれたような表情を浮かべた。宰相から軽蔑や侮蔑の言葉が投げかけられると覚悟していたが、その態度は昔と変わらなかった。帝師は危機を脱したものの、榮乃皇太妃は天命を全うすることができなかった。二月初旬、薨去の知らせが発せられ、清和天皇は燕良親王に帰京を許した。燕良親王はこの日を待ち望んでいたかのように、屋敷中で号泣の声を上げた。だがその涙が乾くや否や、すぐさま準備に取り掛かった。それは帰京の支度ではなく、かねて手配していた講釈師たちに、亡き母妃——文利天皇の妃の一人であった方の死を、皇室の非道の証として触れ回らせる算段だった。皇室の不孝を糾弾せんとする魂胆である。しかし、その企みが形を成す前に、思わぬ事態が起きた。民衆の間で、現太后への賞賛の声が広がったのである。太后が榮乃皇太妃の病に際し、四方に医師を求める榜を出し、十二人の侍医が昼夜を問わず看病に当たり、さらには丹治先生までも召し出し
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第1252話

淡嶋親王は細々とした財を携え京を逃れたが、途中で全てが偽物と取り替えられていたことに気付き、狂気のような怒りに震えた。しかし、もはや引き返すことなど許されない。この地で血統という空虚な権威だけを頼りに生きる羽目となった。誰も彼を本気で支持してはいない。その立場は実に危うい。だが、一筋の活路は見出せた。それは燕良親王にとっては諸刃の剣となるかもしれないが——人は己のために生きるもの。この身を屈め、忍耐を重ねた年月。その真の目的など、単なる領地が欲しいなどという薄っぺらな野心ではなかった。あの方は長年、誰にも疑われることなく力を蓄え、他者の力を巧みに奪い取ってきた。真の謀略家とはこういうものだ。もちろん、あの方は燕良親王以上に手強い。成功の暁には、その果実を奪うのも容易ではあるまい。だが勝算で言えば、あの方が燕良親王を上回る。当然、より勝算の高い方に付くべきだ。燕良親王の下では何の切り札も持てない。財も、人脈も、全て失った。しかし、あの方にとって、燕良親王こそが切り札となる。燕良親王の全てを蚕食するには、自分が必要不可欠なのだ。母妃の死に、燕良親王は心から悲しみを覚えた。だが、その悲しみ以上に怒りが込み上げる。母の死が何の意味も持たず、かえって太后の徳を際立たせる結果となったからだ。「なんと卑劣な」親王は歯を噛みしめた。太后の評判が上がれば、自然と清和天皇の面目も立つ。母の死すら、彼らの道具に使われたのだ。京では帝師と南風楼の醜聞は風化し、代わって太后の慈悲深い所業が人々の口の端に上っていた。かつて賢后と呼ばれ、先帝と深い愛情で結ばれていた太后。先帝崩御後は悲しみに沈み、徐々に人々の記憶から遠ざかっていった。しかし今、その善政が再び語られ始めた。皇后時代の功績が次々と掘り起こされ、讃えられている。その評判は雷のごとく轟き、嵐のように京中を席巻し、南風楼に纏わる噂を完全に覆い隠した。「太后様の一手、圧倒的だわ」さくらは感心したように目を細めた。「世論を動かすことなど誰にでもできるものでございます。ですが、太后様にはそれを裏付ける実績がおありになる。これは真似のできることではございませぬ」有田先生は静かに言い切った。榮乃皇太妃の喪が明けると、京の内外の貴婦人が宮中に伺候したが、後宮を取り仕切っていた
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第1253話

式部卿は訪問客を一切断っていたものの、夫人を伴い自らさくらを訪れた。さくらは普段通りに二人を迎え入れた。式部卿との会話など特にないため、有田先生に任せ、夫人を離れの間へ案内してお茶を出した。この一年余り、めったに外出しなかった斎藤夫人は随分痩せていたが、その様子は以前より穏やかになっていた。かつての頑なさも影を潜めていた。以前の夫人は式部卿家の家事を取り仕切る主婦として、また氏族の女主人としての矜持を重んじ、いかに不満があろうとも決して表情に出すことはなかった。常に自分を追い詰めていた夫人だが、今は多くを悟ったかのようだった。無理をせず、ただ節度を保つことで十分だと、完璧を求めることもなくなっていた。夫人はさくらに、娘をきちんと育てられなかったことを詫びた。「私はこれまで何もかも完璧にできると思っていました。でも、実際にはほとんど何一つ、本当の意味で上手くいかなかったのです」そう言って、夫人は続けた。「でも、もういいのです。人生で一つでも、心から満足できることがあれば、それで十分なのですから」さくらは微笑んで答えた。「誰にだって後悔はあるものです。これからは、ご自分を大切になさってください」夫人は遠くを見つめながら言った。「ええ、自分を大切にする。それは即ち、少しだけ心の赴くままに生きるということですね」さくらは思った。人が今までの自分を壊し、新しい自分を作り直すというのは、本当に難しいことだ。斎藤夫人がそれを成し遂げられたのは、素晴らしいことだと。「そうそう、斎藤帝師様にお伝えいただきたいことがございます。ご依頼の方のことですが、すでに捜索を始めております。何か分かり次第、すぐにお知らせいたします」斎藤夫人は、さくらの言行一致の決意と、約束に対する強い責任感に感服し、立ち上がって深々と礼をした。「ありがとうございます、王妃様」帝師が探している人物について、さくらにとってはそれほど難しい捜索ではなかった。すでに紅羽たちに情報収集を命じており、氏名も住所も身分も判明している以上、隠居していたとしても、おそらく見つけられるはずだった。ただ、帝師は本気で探そうとしなかったのか、あるいは探す勇気がなかったのかもしれない。有田先生と式部卿との会話は、まるで噛み合わなかった。親王家の謀士と朝廷の式部卿では、共通
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第1254話

さくらは塾長として、学問以外にも武芸の指南ができることから、生徒たちに護身術と健康のための武術を学ぶ意思があるか尋ねてみた。その提案に、半数以上の生徒が目を輝かせて手を挙げた。とはいえ、武術の習得には素質が必要で、意欲があっても向き不向きがある。そこでさくらは、これほど多くの生徒が興味を示したことから、体力作りと身のこなしを学ぶ授業を新設することにした。護身術と健康増進を兼ねた内容だ。本格的な武術については、慎重に人選する必要があった。ちょうどその頃、あかりが紫乃が玄甲軍で指導していることを聞きつけ、女学校でも教えたいと言い出した。さくらに女教頭の身分を与えてほしいとしつこくねだったのだ。さくらは了承し、二人で交代で指導することになった。日々の基本的な授業なら、あかりでも十分教えられる内容だった。武術の特別クラスには十人が選ばれた。みな農家の娘たちで、素直な考えを持っていた。「もし生活が苦しくなったら、お嬢様方の護衛として仕えられる。身を売らなくても、給金もいいし」と口々に言っていた。その中に十七女という生徒がいた。代々農家で、一族に文字の読める者は一人もいなかった。彼女の名前すら、生まれた順で付けられただけのものだった。従姉妹たちの中で十七番目、一番末っ子だったため、ただ「十七女」と呼ばれていた。本来なら読み書きなど考えもしなかった家だったが、母親が露店商いを始めて計算ができないために何度も騙されるうちに、やはり学問は必要だと悟ったのだ。この機会を得るや否や、母親は即座に娘を入学させた。十七女は今年十一歳。賢く素直な性格で、生まれつき力持ちだった。本人の話では、四、五歳の頃から父の手伝いで穀物を運び、兄たちよりも多くの量を背負えたという。武術の稽古に参加した彼女は、「家に帰ったら兄や姉にも文字と武術を教えてあげる」と言い、幼いながらも「貧しさから抜け出すには技を身につけないと。家族が一つにならないと」と語った。いつも明るい笑顔を絶やさない十七女は、誰の気持ちも自然と晴れやかにしてしまう不思議な力を持っていた。先生方も皆、彼女を可愛がり、国太夫人は「明日香」という新しい名前を授けた。「明日香」——その美しい響きに十七子は目を輝かせたが、実際に書こうとして戸惑った。なんて難しい字だろう。それでも明日香は懸命に
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第1255話

さくらは更に詳しく状況を尋ね、事の経緯が明らかになった。明日香の両親は三男の結婚資金を工面しようと、山の獣たちが冬眠している間に、奥山で薬草採りを始めた。良質な薬草は険しい山の斜面にしか生えていない。連日の採取で疲れ果て、寒さと空腹に苦しむ中、母が足を滑らせ、それを支えようとした父も一緒に転げ落ちてしまった。たまたま通りかかった薬草採りの一行に助けられなければ、二人とも命を落としていたかもしれない。命こそ取り留めたものの、母は腰を痛め、父は足を折ってしまった。これからは農作業はおろか、誰かの世話にならねばならない。しかも治療費もかさむ一方だった。三男の結婚話も迫っており、かつて「家族が一つに」と語っていた少女が、その犠牲になろうとしていた。「両親は知っているの?」さくらが尋ねた。「いいえ。両親は瓦葺きの新しい家には入れず、古い納屋で養生させられているの」「他の家族は皆、同意しているの?」「分からないわ。でも長男が既に話をつけて、五両で売る約束までしたって。その男が家まで来てたところを、私が先回りして連れ出したの」「梅田ばあやに任せましょう」さくらは静かに言った。「あなたも一緒に行っていいけど、怒りを表に出してはだめ。表立って彼らを傷つけるのは避けて」あかりは心得ていた。親王家で過ごす中で、紫乃から教わったことがある。どんなに相手を殴りたくても、人前でやってはいけない。必ず人目につかないところでこっそりと。しかも、誰がやったのか分からないようにする、と。慎重に事を運べば、後で足元を掬われることもない、というわけだ。「今日は我慢したわ。殴らなかった。ただ連れ帰っただけよ」あかりは続けた。「分かったわ。梅田ばあやを探してくるから、夕食は一緒に食べましょう」そう言うと、あかりは相変わらずの勢いで立ち去った。夕暮れ時、当番を終えて屋敷に戻ったさくらは、事態を収拾して戻ってきた梅田ばあやと門前で出くわした。二人は共に中に入りながら、話を続けた。「青雀先生に診察を依頼し、治療費は親王家持ちとさせていただきました。この件は長男夫婦が仕組んだことでして。長子という立場上、負担が自分たちに集中することを恐れ、手っ取り早く金策をしようとした。人を売るのが一番早い。たまたま明日香さんの年頃が丁度よく、買い手もついた。あかり様が
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第1256話

さくらは少女の手を優しく握り、多くの言葉を語りかけた。だが、家族の非を咎める言葉は、一言も口にしなかった。外で話を聞いていた紫乃は、お珠が明日香を部屋に案内した後、首を傾げた。「なぜ家族を守れなんて言うの?あんなひどいことをした家族のことは、きっぱり捨てさせた方がいいわ。そうしないと、一生しがらみに縛られるだけよ」さくらは一口の水を飲み、悲しみの色を帯びた瞳で静かに語り始めた。「紫乃、これは珍しい話じゃないの。多くの貧しい家庭では、困ったときに真っ先に思いつくのが、娘や妹を売ることなの。彼らにとって、それは残酷な行為とは思えないのよ。幼い嫁として売られようと、大きな屋敷の下女になろうと、それは生きる道の一つだと考えているの」一瞬言葉を止め、さくらは続けた。「息子の結婚のために娘を婿取りの代わりにする家だってある。でも、明日香の両親は違った。露店を出したり、日雇い仕事をしたり、命懸けで薬草を採ったり……必死に働いていた。明日香を売る気なんてなかったはず。そうでなければ、書院になど通わせなかったでしょう」「でも」紫乃は食い下がった。「長男夫婦は責任逃れをし、三男は結婚のために妹を売ろうとした。どれも身勝手じゃない。その人たちを憎んでもいいはずよ」「血のつながりを断つのは、とても辛いことよ」さくらは静かに答えた。「これから多くのことを学び、両親の怪我も心配しなければならない。まだ十一の子供に、そんな重荷は背負えない。今は憎しみの種を蒔く必要はないの。大人になれば、自然と分かってくる。兄たちと距離を置くか、近づくか、それは彼女自身が決めることよ」紫乃は黙って考え込んだ。彼女はいつも、さくらの言葉に耳を傾けていた。「そうね」紫乃は頷いた。「家族のことに深く関わるべきじゃないわ。みんながみんな悪い訳じゃない。両親は確かに明日香を大切にしていた。あんなに貧しい中で働かせることもせず、書院に通わせて。いつも笑顔だった明日香を見れば、両親の愛情は明らかだもの」さくらは紫乃とあかりの腕を取り、三人で歩き出した。「そうね。大人になったら自分で決めればいい。私たちにできることは、精一杯教えることだけ」「それと、面倒を見てあげること!」あかりが勢いよく付け加えた。梅月山から来たばかりのあかりは、正義感が強く、弱い立場の者を守ることに喜びを感じていた。
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第1257話

半時間かけてようやく、その恐怖から自分を引き剥がすことができた。すぐに馬に跨り、宮城へと向かった。都を離れる理由が必要だった。天皇は玄武から二通の書状を受け取っていた。最初の書状では、ある村の不審な様子が報告され、村人たちが私兵である可能性が示唆されていた。それを受けて天皇は密かに山中の偵察を命じていた。二通目の書状によれば、一度山に入った際、厳重な警備を確認し、明らかに私兵の存在が疑われたものの、武器や糧食の所在は突き止められていなかった。天皇は再び密旨を下し、武器と糧食を探し出して破壊するよう命じていた。それ以降、音信は途絶えていた。数人で広大な山域を探るのは危険すぎる。私兵の数も、武芸の達人がいるかどうかも分からない。天皇の胸中には不安が去来していた。しかし、これは絶好の機会でもあった。武器を発見し破壊できれば、匪賊討伐の名目で近隣から兵を差し向けることができる。大規模な軍事行動を避け、犠牲も最小限に抑えられる。さくらから半月も消息がないと聞き、天皇の不安は一層深まった。だが、状況が確認できない以上、軍を動かすわけにはいかなかった。そこで天皇は、奥多摩への佐賀錦貢物の護送を任せる詔を下した。これは平安京への贈り物で、決して失うわけにはいかないものだった。奥多摩の周辺は山賊の活動が活発なことで知られていた。起伏に富んだ地形を利用し、通行する商隊を襲撃する者たちがいた。玄甲軍のさくらを派遣する理由としては、これ以上ないほど正当なものだった。ただし、貢物護送に大軍は必要ない。五十人だけを配属し、それ以上の人員が必要なら、さくら自身で手配するように、と。紫乃、あかり、饅頭、石鎖さんと篭さん、音無楽章、紅羽たちが出立の準備を整えた。粉蝶と緋雲らは都の留守を任されることになった。玄甲軍は普段から税金の護送任務を担っていたため、今回の出城も特に人々の注目を集めることはなかった。部隊の規模もさほど大きくはなかったからだ。有田先生も同行を望んだが、さくらは「大師兄が既に梅月山に連絡を入れ、師叔が援軍を寄越すはず。むしろ都に留まって事態を見守り、必要があれば迅速に人員を動員できるようにしておいてください」と説得した。出発の際、さくらは七叔父から贈られた腕輪を身につけ、腰に赤い鞭を巻き付け、桜花槍を手に馬に跨った。青い
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第1258話

さくらたちは商人に扮して、何組かに分かれて飛騨入りした。大石村の様子を探った後、まずは深水師兄と棒太郎との連絡を取らねばならなかった。町の目立つ場所に梅の花を描き、暗号を残した。その暗号を頼りに、宿の場所が分かるようになっていた。その夜、深水師兄と棒太郎が姿を現した。二人とも泥だらけで、着物は皺だらけ。髪は整えてはいたものの、足袋には泥と埃が染みついていた。明らかに山から下りてきたばかりの様子だった。さくらは道中ずっと胸を焦がしていたが、深水師兄の姿を見るなり、急いで状況を問いただした。「伝書鳩を飛ばした時は確かに連絡が途絶えていて、手掛かりもなかったんだ」深水は先にさくらを安心させようと言った。「でも二日前、大石村の南の深い森で玄武の残した印を見つけた。彼らがそこに立ち寄っていたことは間違いない。それも最近のことだろう」この知らせでさくらの表情が少し和らぐのを確認してから、深水は二人が連絡を絶った理由を説明し始めた。天皇からの密旨で、山中の糧食と武器の在り処を突き止めるよう命じられていた。その密旨を受け取った時点で、既に偵察の準備を始めていたという。玄武は当初、この方法での捜索に反対していた。これほど広大な範囲を探るのは、藁束の中から針を探すようなものだと。むしろ彼らの行動を監視し、誰が接触し、誰が糧食を運び込むのか、その量はどれほどかを見極める方が効率的で、危険も少ないと進言したのだった。数千人分の糧食を山中に大量には隠せまい。せいぜい越冬分だけで、春になれば新たな補給が必要になるはずだ、というのが玄武の考えだった。しかし天皇の密旨は、武具や甲冑を発見して初めて謀反の証となる、それを確認して武器を破壊し、近隣の兵を動員して掃討せよ、という内容だった。二十人にも満たない人数で、四人の主力の他は護衛だけ。密旨を受けて数組に分かれて入山し、発見の有無に関わらず、五日後には必ず集合地点に戻ることを約束していた。だが五日後、全員が集合地点に戻る中、玄武と尾張拓磨の姿だけがなかった。「南の山で玄武の残した印を見つけたのは二日前だ」深水は続けた。「大きな木に梅の花が刻まれていた。花びらは欠けることなく完全な形を保っていた。これは彼らが印を残した時点では、命の危険も怪我もなかった証拠だ」梅月山万華宗では、梅の花の印に特別な
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第1259話

さくらは結局、山に入って探すしかないと決意を固めた。師叔は一両日中には到着するはずだが、それまでは最も単純な方法で捜索を続けるしかなかった。二月半ばというのに、まだ寒さは厳しかった。北国の凍てつく乾いた風こそないものの、初春特有の湿った冷気が身に染みた。その湿り気を帯びた寒さは最も堪えるもので、不安と焦りに満ちた心をさらに重くしていた。夜になっても眠れず、寝返りを打ち続けた。深水師兄が印を見つけてから既に数日が経っている。その間、二人は別の危険に遭遇してはいないだろうか。大石村の者たちに見つかって襲われてはいないだろうか。深い山の中なら、殺し合いが起きても誰も知るはずがない。明日の山入りに備えて体力を温存すべきだと分かっていても、眠れなかった。結局、夜明け前に起き出した。露店が開き始めるのを待って、山での携帯食料を買い集めた。宿に戻る頃には、皆が起きていた。今回の捜索は三隊に分かれることになった。梅月山小隊が一隊、山田鉄男率いる玄甲軍三十名が一隊、深水師兄指揮の玄甲軍二十名が一隊。梅月山小隊は沢村紫乃、あかり、饅頭、棒太郎、紅羽、そして二人の師姉たちで構成された。饅頭と棒太郎以外は全員女性だった。昨夜、饅頭と棒太郎は長い話をした。饅頭は棒太郎が背負ってきた重荷を知り、もう「クソ棒野郎」なんて呼べなくなった。棒太郎も饅頭が落ち着いて、痩せたのを見て、「デブ饅頭」と呼べなくなっていた。梅月山小隊のメンバーはほぼ全員が一緒に育った仲間で、息も合っている。だからこそ深水も彼らを一隊として任せられたのだった。山に入ってすぐ、さくらは状況が想像以上に厳しいことを痛感した。連なる山々が三方を囲み、その広大な山域で人を探すのは、まさに深水師兄の言う通り、藁の山から針を探すようなものだった。三隊は三方の山を手分けして探索することになったが、入山できるのは北側の一本道だけ。村の見張りを避けるため、途中から岩場を這い上がって迂回する必要があった。夜明けから日暮れまで探し回ったものの、探索できた範囲はわずかだった。的に例えるなら、十重の的の最も外側の輪を一日かけて回っただけのことだった。初日の夜は山中で野営することになった。大石村の者に気付かれないよう、小さな洞穴を見つけ、周囲に蛇虫除けの粉を撒いた。厳しい寒さの中、火
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第1260話

紫乃は、さくらが日に日にやせ細り、食事も眠りも満足に取れない様子を見て胸が痛んだ。優しくさくらを抱き寄せ、その頭を自分の肩に押し付けた。「私の肩を貸すわ。泣いた方が楽になるわよ」だが、さくらは突然紫乃を押しのけ、小川を飛び越えて四、五歩駆け出した。一本の木の前で足を止める。幹には、はっきりと梅の花が刻まれていた。さくらは指先でその完全な形の梅の花をなぞった。だが、喜びは湧いてこなかった。木肌と刻み跡の様子から判断すると、これは明らかに深水師兄と棒太郎が見つけたものより前に刻まれたものだった。新たな発見とはいえ、結局は何も分からない。「紫乃」さくらは考えを巡らせながら言った。「みんなは先に下山して。私はもう少し探してみたい。ここに印があるってことは、先にも何かあるかもしれない」紫乃はさくらの頭を軽く叩いた。「何言ってるの。私たちは運命共同体よ。帰るなら一緒、残るなら一緒」「でも、食料がもう……」「魚を捕って、木の実を集めればいいじゃない」紫乃は優しく微笑んだ。「きっと親王様と尾張さんも、そうやって生き延びているはずよ」さくらが最も案じていたのは、二人の携帯食料の問題だった。これだけ長く山中で過ごせば、さすがの備えも底を突いているはず。この季節の山には実のなる木も少なく、生き延びるには野兎や山鳥を狩るしかないだろう。確かに道中、そういった獲物の姿を何度も目にしていた。その頃——西側の山腹に開いた小さな洞窟で、髭面の二人の男が焼きたての野兎の肉に齧り付いていた。二人の着物は垢で黒ずみ、油っぽい光沢を帯びていた。髪は爆髪のように乱れ、ただ髭だけは近くの清水で洗ったばかりで、まだ幾分かましな体裁を保っていた。身だしなみを気にしてのことではない。長く伸びた髭に肉片や油が付着すると、夜の交代で仮眠を取る際に蟻が寄ってきて困るのだ。普通の蟻ならまだしも、毒蟻に噛まれでもしようものなら、顔が腫れ上がって痒みと痛みに悩まされる。実際、二人の顔や体には赤く腫れた痕が点々と残っていた。幸い丹治先生の解毒丸を持参していたからよかったものの、なければ蟻の毒で命を落としかねなかった。「くそっ」尾張が顔を掻きながら毒づく。「糧食の運び手を捕まえたら、この山ごと焼き払ってやる。この蟻どもめ」「掻くな」玄武が足で軽く蹴った。「傷跡が残
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