福妃には、春堂の唇に浮かんだ薄い嘲笑が見えなかった。春堂は福妃が女御に昇進した頃から仕えている侍女だった。聡明で落ち着いており、これまで何度も彼女に知恵を授けてきた。皇后が接近を図った際も、春堂はこう進言したのだ。「皇后様は度々禁足処分を受けておられます。陛下のお心は既に離れ、後宮の実権もございません。表向きは応じつつ、実は德妃様と定子妃様に近づく方が賢明でしょう」春堂の判断は正しかった。德妃は福妃を手厚く庇護し、衣食住すべてに気を配ってくれた。おかげで誰も彼女を軽んじることはなくなった。しかし——以前の德妃は心から親切だったのに、今は自分の懐妊を利用して天皇に近づこうとしている。その露骨な計算が、福妃の心を重くさせた。「紅葉様は德妃様のお見舞いがお嫌いですか?」春堂が彼女の頭と腰に枕を当て直しながら尋ねた。長い臥床生活で背中が痛むと、福妃が愚痴をこぼしていたのだ。信頼する春堂になら本音を語れる。福妃は溜息と共に不満を吐き出した。「私の胎が安定していた時は、德妃様もこんなに頻繁にお越しにならなかったわ。今だって本当に私を心配してくださってるんじゃない……陛下がいらっしゃる時を狙ってるのよ。せっかく陛下が私を気遣って時間を作ってくださるのに、德妃様と二皇子様にいつも邪魔されて、陛下とろくにお話もできやしない」 春堂は穏やかに諭した。「紅葉様はそのようなことはお気になさらず、ただお体を大切になさってください」福妃は天井を見つめながら深く溜息をついた。「一日中こうして横になっていて、陛下がお越しになった時だけ起き上がれるなんて……この子は本当に母を困らせてくれるわ。せめて皇子であってほしいもの。そうすれば、この苦労も報われるというものよ」春堂は微笑みながら応じた。「きっと紅葉様のお望み通りになりますよ」福妃は首を春堂の方に向けた。「ところで、陛下はいったい何のご病気なのかしら?丹治先生がずっと宮中にお住まいになって、昼夜問わずお世話をなさっているそうじゃない。御典医の方々も毎日脈をお取りするだけで済まされているとか」「私にも詳しいことは分かりませんが……」春堂は慎重に言葉を選んだ。「陛下のお姿を拝見する限り、お元気そうでいらっしゃいます。丹治先生は体調を整えるためにお呼びになったのでしょう。御典医の方々が脈をお取りするだけという
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