陽翔が浜白に来るのは滅多にない。それなのに、今日は何の連絡もなく、突然現れた。だから鈴は率直に聞いた。「兄さん、今日はどうして浜白に?何か用事?」陽翔は答えず、一つのファイルを差し出した。「見てみろ。翔平が拘置所に提出した保釈申請書と減刑の資料だ。全部、佐藤若菜に関するものだ。……目的は明らかだ。あの女を刑務所から出そうとしている」思いがけない知らせだった。これまで何の気配もなかったのに。鈴の瞳は一瞬で冷え切り、無表情のままファイルを受け取ってざっと目を通した。「翔平も未練がましいね。そんなに早く、心残りの女を助け出したいんだ」「佐藤若菜があれだけの悪事を重ねたのに、そう簡単に出られるわけないじゃない」陽翔は目を細め、低く言った。「すでに手は打った。だが翔平の態度は強硬だ。あの女のためなら全力を尽くすつもりらしい」少し間を置いてから、彼は尋ねた。「……鈴。お前はどう思っている?」「私には、もう関係ない」その一言で、翔平との縁を完全に断ち切った。陽翔はうなずき、心中で結論を下した。「ならば気にするな。あとは俺が処理する。人を救おうとするなら、それ相応の代償を払うことになる。……その代償に翔平が耐えられるかどうか、見ものだな」「うん」鈴は短く返した。陽翔に任せておけば大丈夫だと、心から信じていた。陽翔はすぐに携帯を取り出し、誰かへ短く指示を飛ばした。電話を切ると、ふと思い出したように話題を変える。「そういえば鈴、最近は鈴木家の息子とよく一緒にいるらしいな。まさか──」「兄さん!」陽翔の言葉を、鈴はすぐさま遮った。「鈴木家との縁談は、両家の親の勝手な思惑にすぎない。私たち本人の気持ちなんて、誰も聞いたことがない。婚約も解消した以上、もう終わり。私と悠生くんはただの友達で、それ以上はない」その言葉に、陽翔はふっと笑みをもらした。「ただの友達?そうは見えないけどな。悠生は帝都で必死に働いている。シンガポールの大きなプロジェクトも彼が取ったそうだ。それでも何も思わないのか?」「兄さん、仕事は仕事。私情とは混ぜない」陽翔はもう一度、気になっていたことを口にした。「……じゃあ仁はどうだ?お前はどう思っている?」仁が鈴を救うために命を懸けたことは、誰もが知っ
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