All Chapters of 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった: Chapter 251 - Chapter 260

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第251話 思いがけない知らせ

陽翔が浜白に来るのは滅多にない。それなのに、今日は何の連絡もなく、突然現れた。だから鈴は率直に聞いた。「兄さん、今日はどうして浜白に?何か用事?」陽翔は答えず、一つのファイルを差し出した。「見てみろ。翔平が拘置所に提出した保釈申請書と減刑の資料だ。全部、佐藤若菜に関するものだ。……目的は明らかだ。あの女を刑務所から出そうとしている」思いがけない知らせだった。これまで何の気配もなかったのに。鈴の瞳は一瞬で冷え切り、無表情のままファイルを受け取ってざっと目を通した。「翔平も未練がましいね。そんなに早く、心残りの女を助け出したいんだ」「佐藤若菜があれだけの悪事を重ねたのに、そう簡単に出られるわけないじゃない」陽翔は目を細め、低く言った。「すでに手は打った。だが翔平の態度は強硬だ。あの女のためなら全力を尽くすつもりらしい」少し間を置いてから、彼は尋ねた。「……鈴。お前はどう思っている?」「私には、もう関係ない」その一言で、翔平との縁を完全に断ち切った。陽翔はうなずき、心中で結論を下した。「ならば気にするな。あとは俺が処理する。人を救おうとするなら、それ相応の代償を払うことになる。……その代償に翔平が耐えられるかどうか、見ものだな」「うん」鈴は短く返した。陽翔に任せておけば大丈夫だと、心から信じていた。陽翔はすぐに携帯を取り出し、誰かへ短く指示を飛ばした。電話を切ると、ふと思い出したように話題を変える。「そういえば鈴、最近は鈴木家の息子とよく一緒にいるらしいな。まさか──」「兄さん!」陽翔の言葉を、鈴はすぐさま遮った。「鈴木家との縁談は、両家の親の勝手な思惑にすぎない。私たち本人の気持ちなんて、誰も聞いたことがない。婚約も解消した以上、もう終わり。私と悠生くんはただの友達で、それ以上はない」その言葉に、陽翔はふっと笑みをもらした。「ただの友達?そうは見えないけどな。悠生は帝都で必死に働いている。シンガポールの大きなプロジェクトも彼が取ったそうだ。それでも何も思わないのか?」「兄さん、仕事は仕事。私情とは混ぜない」陽翔はもう一度、気になっていたことを口にした。「……じゃあ仁はどうだ?お前はどう思っている?」仁が鈴を救うために命を懸けたことは、誰もが知っ
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第252話 三井家の態度

「鈴、お前、よく覚えとけよ。一度の恋愛の失敗で、自分を否定するな。お前には、一番いいものがふさわしいって、俺はずっと思ってる」陽翔の言葉に、鈴の胸がふっと温かくなった。「うん、わかってる。兄さんがいてくれて、本当に良かったって思ってる」陽翔はふっと笑いながら、鈴の頭をくしゃりと撫でた。「お前なぁ、そんな他人行儀なこと言うなよ。恋愛なんて、自分にしかわからないもんだろ?本気で好きなのか、ただの情なのか……他人に説明できるもんじゃない。でもな、自分の気持ちからは目を逸らすな。お前を本気で想ってる人、ちゃんと見極めろよ」鈴はコクンと頷いたけれど、どこか今日の兄はやけに喋るなと思って、ちょっと茶化した。「ねぇ、兄さん、いつからそんなにお喋りになったの?」「ん?別に。ただお前が心配なだけだよ。人生のパートナー選び、もう二度と適当にはできないだろ?一度痛い目見たなら、次はちゃんと学べ。同じ場所で転ぶなよ。安田翔平じゃさえなきゃ、お前が誰を選んでも、俺たち三井家は全力で応援するからな」その言葉には、陽翔個人の気持ちだけじゃなく、三井家の総意が滲んでいた。「うん、わかってる。ありがとう、兄さん。もう大丈夫」話はそこで一区切りついた。鈴の心には、はっきりとした輪郭が浮かんでいた。窓の外を見つめながら、静かに思いにふける。そのころ、帝都グループ本社。佐々木は、新しく買った翡翠の置物を手に取り、しげしげと眺めていた。そんなとき、オフィスのドアがノックされた。「誰だ?入れ」ドアが開き、アシスタントの石川が一枚の報告書を手に駆け込んでくる。「佐々木さん、我が社、シンガポールのプロジェクトを落札しました!」その瞬間、佐々木の手から翡翠の置物が滑り落ち──鈍い音を立てて、床に砕け散った。何億という金額が水泡に帰したような衝撃。佐々木の目が凍てつき、胸の奥がヒリヒリと痛んだ。「……今、なんと言った?」「つい先ほど、現場から速報が入りました。帝都が正式に、落札しました」佐々木の顔色はますます険しくなった。──あの三井鈴がここまでやるとは、完全に予想外だった。シンガポールのプロジェクトは、規模も期間も巨大で、利益率も高い。このひとつの案件だけで、帝都の年間利益の一割近くを稼げる可能性がある。「……まさか、ここまでとはな。あの女、見直さざるを得ん
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第253話 後悔しても遅い

このままのペースで進めば、鈴が賭けに勝つ可能性はかなり高い。だが、最後の瞬間まで、佐々木が素直に負けを認めることはありえなかった。「何を焦ってる。まだ半年も残ってるだろう?プロジェクトを完成させるのは大変だが、潰すのは案外、簡単なもんだよ」佐々木の目がすっと冷たくなった。その表情からは、すでに破れかぶれの覚悟すら垣間見える。長年、商界で生き残ってきた男が、若い小娘に負けを認めるなど、絶対にありえない話だった。「鈴木悠生って男……そろそろ手を打たないとな」「佐々木さん、その件でしたら、いい案があります」「……ほう?」眉をわずかに上げた佐々木の顔に、にやりと笑みが浮かぶ。「言ってみろ、どんな手だ?」アシスタントがそっと耳打ちすると、佐々木の顔はますます笑みを深めた。「フッ……この数年、私のそばで無駄に過ごしてたわけじゃなさそうだな。よし、その通りにやってみろ」「はい、佐々木さん」夜、フィリーバー。鈴は悠生のためにささやかな祝勝会を開いた。帝都のメンバーたちを招き、店内は熱気に包まれていた。「それじゃあ、みんなで――悠生くんがシンガポールのプロジェクトを勝ち取ったことを祝して、乾杯!」「おめでとう、鈴木さん!」「三井社長も、おめでとうございます!」「帝都のますますの発展を願って、乾杯ーっ!」グラスが交わされ、笑い声が飛び交い、誰もが上機嫌で酔いが回っていた。鈴は皆にもっと楽しんでもらいたいと考え、タイミングを見て席を立った。「そろそろ帰るね。みんな、楽しんでって」それを見た悠生がすぐに立ち上がる。「俺、送っていくよ」「大丈夫。今日はあなたが主役なんだから、ちゃんとみんなと楽しんでて。運転代行呼んであるから、平気」「じゃあせめて、入り口まで」そこまで言われては断れず、鈴は頷き、二人は並んで店の入口まで歩いていった。「すぐ来ると思うから、もう戻ってて」「いや、鈴さんがちゃんと乗るの見届けてから戻るよ」悠生のその一言に、鈴はくすっと笑って肩をすくめた。沈黙が落ちたその瞬間、悠生がふと切り出した。「……気づけば、帝都に来てもう半年か。ほんと、早かったな。最初はまさか――鈴さんが親に決められた結婚相手だったなんて、思いもしなかった」その言葉に、どこ
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第254話 とんでもない相手に手を出した

「おい、あの三井って女のスマホを奪ってこい」その声がかかると同時に、数人の不良たちが一斉に車へと突っ込んでいった。ハンマーを振りかざし、窓ガラスを叩き割る――「ガシャッ!」という鋭い音とともに、破片が鈴の体に飛び散る。車のアラームがけたたましく鳴り響いた。「お前が三井鈴だな?そのスマホ、渡せよ」不良の一人が窓から身を乗り出し、鈴のスマホを奪おうとしたその瞬間。鈴は体をひねってすり抜け、次の瞬間、正確無比な一蹴が男の顔面をとらえた。「ぐっ……!」鼻梁が潰れ、血が噴き出す。「……なにするつもり?昼間っから堂々と襲撃?」顔を押さえた男が怒りをぶつける。「てめぇ、このクソ女……タダじゃすまねぇぞ!」再び車に詰め寄ろうとしたそのときだった。数台の黒塗り高級車が滑り込むように現れ、ブレーキ音が辺りに響く。その車から次々と降りてきたのは、均整のとれた黒スーツの男たち。全員180センチを超える精鋭、まるで戦場帰りの傭兵部隊のようだった。「何してんだよ!逃げるぞ!」「無理だ……囲まれてる……!」一瞬で取り囲まれた不良たちは、完全に身動きを封じられていた。さっきまで威勢よく叫んでいた男も、数歩後ずさる。その中を割って、一人の男が駆け寄ってくる。「お嬢様、ご無事ですか?」鈴は無言のまま車から降り、身に付いたガラス片をさっと払い落とした。その仕草に一切の無駄がなく、言葉すら発しないのに、周囲には圧が満ちていた。まるで怒れる女王のように――。「お嬢様、こいつらはこちらで始末いたします。ご安心ください。手足の一本くらい、代償にしてもらいましょう」その言葉を背に、鈴はゆっくりと前へ出た。視線ひとつで、相手の背筋を凍らせる。「スマホにそこまで興味があるとはね。私のスマホ、別に面白いもん入ってないけど?」不良たちは言葉を失い、硬直する。聞いてた話と違う――か弱くて、一発恫喝すればビビる女のはずだったのに。なんで、こんなラスボスみたいなオーラ出してるんだよ……冷や汗を垂らす彼らに、鈴の声が静かに響く。「誰の指示?何が目的?」声に感情はなく、ただ冷たいだけだった。その場にいた誰もが、その場から一歩も動けなくなるような威圧感。震える声で、リーダー格の少年が口を開いた。まだ二十歳に
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第255話 この女、うるせぇ 

安田翔平の伯父の宅。真央は部屋の中を行ったり来たりしながら、手にしたスマホを何度も見返し、落ち着かない様子だった。額からは細かい汗がにじみ、焦りが顔に露わになっていた。壁掛け時計の針はすでに夜の十一時を指している。しかし、あのチンピラたちからは一向に連絡がない。とうとう我慢できなくなった真央は、サンダルをスニーカーに履き替えると玄関へ向かった。その時、外からバイクのエンジン音が近づいてきた。真央の顔に一瞬、安堵の色が浮かぶ。慌ててドアを開けた。「虎、うまくいったの?」先頭に立つ男、虎はヘルメットを取ると、無表情のまま彼女を見据え、静かに口を開いた。「……真央さん、すまない」言葉の意味が一瞬理解できず、真央は眉をひそめた。「謝るって、どういうこと?まさか、失敗したってわけじゃないでしょ?あんたたち、あれだけの人数で、女一人相手に手こずるなんてありえないでしょ?」虎はバツの悪そうな顔をしながら、苦笑した。「真央さん……情報が間違ってたんじゃないかと思ってさ……」「は?何が言いたいの?」「悪いけど、もらったお金は全部返すよ。でもその前に、真央さんにはちょっと俺たちと一緒に来てもらう」「……はあ? どういう意味よ?」虎は肩をすくめて答えた。「金をもらったからには、筋は通さないと。俺らにも仁義ってもんがあるからな。」そう言った瞬間、背後の仲間たちが一斉に動き、真央の両腕をがっちりと掴んだ。「虎!ちょっと、何してんのよ!?まさか、あの女から金もらったんじゃないでしょうね? 彼女がいくら払ったか知らないけど、私が倍払うわよ!ね、倍!いや、三倍でもいい!」だが虎は静かに首を振った。「真央さん、これは金の問題じゃねぇんだよ。」そう言って、何のためらいもなく彼女の身体を縛り上げた。「離して!私が誰だか分かってるの!?安田家の人間にこんなことして、ただで済むと思ってるの!?」どれだけ騒いでも、誰一人耳を貸す者はいなかった。ついに虎がうんざりしたように言い放つ。「……この女、うるせぇ。口塞いじまえ」「虎、やめてっ……!虎……」その言葉が最後だった。すぐに透明なガムテープが彼女の口元に貼られ、声は封じられた。そのまま真央は警察署へと連れて行かれ、虎自らが例の監視映像のデータを警察に
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第256話 これは犯罪だ

「真央ももういい歳なのに、どうしていつもバカなことをするのかしら。今回はいい薬になるといいが……」「母さん、俺には真央しか娘がいないんだ。もし刑務所に入ることになったら、俺はどう生きていけばいいんだよ!」しかし、祖母は微動だにせず言い放った。「もう大人なんだから、自分のしたことには自分で責任を取らないとね」健一郎は、あまりの頑なさに顔色を変え、ついには言い放った。「母さん、もし真央に何かあったら、俺も一緒に死ぬよ。息子の死に目を見たいなら、好きにすればいい」その言葉を残して、健一郎は怒りに任せて立ち去った。残された祖母は、深くため息をつくしかなかった。――そして最後には、翔平のもとを訪れた。「翔平、ちょっと鈴ちゃんに相談してくれないかしら。あの子は優しいから、きっと話し合えば和解の余地があると思うの」すでにスーツに着替えていた翔平は、静かな面持ちで視線を逸らすことなく答えた。「おばあさん、この件は法務部に任せた方がいいと思う」彼の表情には一切の迷いもなかった。――鈴に頭を下げるつもりはない。会社の機密情報を盗むなんて、笑って許せるようなことじゃない。たった一つのデータが会社を潰しかねない。だから、彼は何もせずに傍観を選んだ。それを聞いた美咲は、翔平が助けてくれると勘違いして、涙をぬぐいながら微笑んだ。「さすが翔平君ね!おばさん、信じてたわ。真央のこと、見捨てないって……もう一晩も拘留されてるのよ。早く何とかしてあげてちょうだい……」翔平は口元を歪め、冷ややかな笑みを浮かべる。「おばさん、そんなに喜ぶのはまだ早いよ。会社の機密を盗むのは、れっきとした犯罪だから。最悪、懲役三年もあり得る」「三年!?そんなの絶対だめ!」美咲は慌てふためき、翔平を最後の希望として縋る。「お願い、鈴ちゃんに話してくれない?和解金ならいくらでも払うわ……どうか真央を助けて……」だが翔平は、どこか嘲るように言い放った。「おばさん、俺を買いかぶりすぎだよ。俺と鈴はもう離婚してるし……この件には関わらない。あとは法務部の判断に任せる」そう告げると、翔平は一度も振り返ることなくその場を後にした。車の中、蘭は運転席からちらりと翔平を見た。「社長、せっかくご帰国されたばかりですし、そんなに急いで会社に戻らな
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第257話 実名告発

しかし、若菜はそこまでの価値がある人間じゃない。「……三ヶ月だけでいい。三ヶ月間だけ保釈できればいいんだ。保釈金、半額にならないか聞いてみろ。いけそうなら、すぐに振り込め!」「かしこまりました、社長。」……帝都グループでは、鈴がちょうど国際会議を終えたばかりだった。会議室からオフィスへ戻ったタイミングで、土田がドアをノックする。「社長、安田グループの法務部の方が来ています。安田真央の機密情報持ち出しの件で、お話があるそうです」鈴は一瞥もくれずに答えた。「その件はうちの法務チームに任せて。対応が終わったら報告だけもらえればいいわ」「承知しました」土田が部屋を出たところで、ちょうど廊下で佐々木取締役とすれ違う。無表情のまま、土田は静かに頭を下げた。「佐々木さん」佐々木はにこやかに返す。「土田さん、そんなに堅苦しくしなくていいのに。君は三井陽翔さんの時代から会社にいるだろう?」「何かご用でしょうか?」土田の問いに、佐々木は視線を鈴の部屋のドアへ向けながら答える。「三井社長に、ちょっと話があってね」そう言いながら、勝手に鈴のオフィスへと向かっていった。「社長、いま少しよろしいですか?」その声に、鈴は読んでいた書類を静かに閉じ、薄く笑みを浮かべて顔を上げる。「佐々木さん、どうされたんですか?こんな時間に」佐々木はソファに腰を下ろしながら、どこか含みのある表情で口を開いた。「実はですね、今日は少し気になることがありまして……」鈴は笑っているようで笑っていない表情で応じた。「わざわざ佐々木さんが直接いらっしゃるなんて、何のご用でしょう?」佐々木はあえて包み隠さず切り出す。「鈴木悠生くんのことです」その名を口にしながら、わざと間を空ける。だが鈴は相変わらず、表情ひとつ変えずに返した。「悠生くんが、どうかしましたか?」佐々木は残念そうに眉をひそめた。「社長、まだご存知なかったんですね……実は、うちの経理部の人間が、鈴木くんを実名で告発しましてね」鈴の眉がピクリと動く。空気が少し張り詰める。「告発?」「ええ、どうも彼が職権を濫用して、会社の金を私的に流用したらしいんですよ。会計上の不正が発覚して、今はすでに監察機関に通報されているそうです」「…
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258話 潔白なる者は潔白なり

佐々木は、鈴の反応にどこか腑に落ちないものを感じた。だが、それも驚きのあまり言葉が出なかっただけだろうと自分を納得させた。「本当に潔白かどうかは、監査部がきっちり調べますよ。今ちょうど社内に入ってますから……社長も、様子を見に行かれますか」鈴は意味ありげに佐々木を一瞥したのち、静かに立ち上がって部屋を出た。悠生のオフィス。制服姿の監査職員たちが、黙々と証拠を集めている。悠生はと言えば、ソファに深く腰かけ、脚を組んだまま、まるで他人事のように余裕の笑みを浮かべていた。「まだ終わんないの?もう済んだんなら、これ以上仕事の邪魔すんなよ」軽く放たれたその言葉も、誰一人として耳を貸す者はいない。悠生は鼻で笑い、徐々に目元が冷たくなっていく。そこに、鈴が現れた。オフィスの様子を一瞥しただけで、表情が険しくなる。「……これはどういうこと?」先頭の男が手を止め、礼をしてから言った。「三井社長、お疲れ様です。ただいま職務中です。鈴木悠生さんが、在職中に職権を利用して巨額の資金を横領したという、実名での通報がありまして」鈴はうっすらと唇を吊り上げ、皮肉っぽく笑う。「で、ずいぶん時間かけて調べてるみたいだけど……何か見つかったの?」職員たちは一瞬視線を交わし合い、慎重に言葉を選ぶようにして答えた。「現在、調査中です。いまのところ明確な証拠は出ておりませんが……」言い淀んだ後、先頭の男が悠生をちらと見て、続けた。「このあと、鈴木悠生さん名義の銀行口座を確認し、不自然な大口入金がないか調べさせていただきます」そのときだった。佐々木が背後から姿を現し、すました顔で言葉を差し込んできた。「社長、彼らも任務を遂行している最中です。あまり邪魔をしない方がよろしいかと。鈴木くんが不正を働いたかどうかは、きっと明らかになりますよ。彼らは、公平に調べます。潔白な者は守られ、そうでない者は裁かれる……それだけです」その言葉に、悠生がバッと立ち上がった。「……何を抜かしてやがる。誰が不正したって?ハッキリ言ってみろ!」佐々木は少しも動じることなく、淡々と答えた。「鈴木くん、感情的になる必要はありません。真実であれば、いずれ明らかになります。今はただ、調査にご協力ください」「協力だぁ?ふざけんな。どうせ全部、
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第259話 自分で自分の首を絞める

佐々木は、二人の息の合ったやり取りを黙って見ていたが、内心では鼻で笑っていた。そしてふと視線を動かし、監査係に目配せする。それを察した監査担当の男が、ゆっくりと歩み寄り、悠生の前に立った。「鈴木さん、これからあなた名義の銀行口座を調査させていただきます。ご協力願えますか?」悠生は鼻で笑い、ポケットから財布を取り出すと、中からカードを一枚ずつ無造作に取り出して机の上に並べ始めた。その動きにはどこか見下すような余裕がにじんでいた。だが──机に並べられたカードを見た瞬間、周囲の空気が変わった。それは、国内トップクラスの銀行のブラックカードに加え、スイス銀行のゴールドカードまで混ざっていたのだ。監査の男は目を見開いた。「……これ、全部あなたのですか?」悠生は余裕の笑みを浮かべた。「調べるんだろ?ほら、勝手にやってみろよ。……ただ、どのカードでも、残高はたかが数千万どころじゃないと思うけどな?」監査は冷や汗をかきながらも、意地になって食い下がる。「……念のため、本物かどうか、そして名義人があなたかどうか、確認が必要です」悠生は腕を組んで、静かに言った。「だったら、見ればいいだろ。名前が書いてあるはずだ」監査は震える手で、最初のブラックカードを手に取り、端末に差し込んだ。「パスワードを……」「ないよ」「えっ……」操作すると、本当にパスワード入力画面を飛ばして残高照会が始まり、端末に数字が表示された瞬間──「っ……!」監査の手から端末が滑り落ち、床に落ちた。その様子を見た佐々木が怒鳴る。「何やってる! 端末ひとつ落として驚いてどうする! さっさと答えろ、そのカードに不審な点はあるのか!」監査は、その場で固まった。――今の残高、見間違いじゃなければ……20億超え……? 1枚のカードで……?目の前には、まだ十枚以上のカードが並んでいる。……そんなバカな。全部、本物だったら……?数百億どころの話ではない。「佐々木取締役……ご自分の目で、確認されますか?」監査の言葉に、佐々木は訝しげに端末を手に取り、画面をのぞき込んだ。「……こ、これは……これが全部、君の金なのか……?」悠生はニヤリと笑う。「俺のじゃなけりゃ、あんたのか?残高、ちゃんと見たよな?」佐々木
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第260話 仲間割れ

「……それとも、これ全部、あんたが仕掛けた茶番か?狙いは何だ?俺を帝都から追い出したいのか?」「……」悠生の問いかけは、一語一語が重く、容赦なく佐々木を追い詰める。佐々木は返す言葉を見つけられず、口をパクパクさせたまま、何ひとつまともに言えなかった。悠生はそれ以上相手にせず、視線を鈴に向ける。「……鈴さん、君の意見を聞きたい」鈴は冷たい眼差しを佐々木に向けると、そのまま落ち着いた口調で言った。「悠生くんはフランスの鈴木グループのご子息であり、かつて私の家族が選んだ婚約者でもあります。帝都に入ったのは、彼の強い意思によるもので、誰の命令でもありません。皆さんもご存じの通り、シンガポールのプロジェクトを一人で取った実績もある。今日の件については、悠生くんに対して正式な説明が必要です」そう言いながら、鈴はゆっくりと経理の方を見やった。その目には、明らかな嘲りが浮かんでいた。「実名で告発したのでしょう?ならば、証拠があるよね?証拠を出しなさいよ。もしなければ、名誉毀損で訴える。最悪、刑務所行きになるわよ」経理の顔から血の気が引いた。……そんなはずじゃなかった。言われたとおりに動いただけなのに。証拠も準備してあるから、名前だけ貸せばいい──そう聞いていたのに。何も聞いてない話ばかりだ。これは……一体どういうことだ?経理はその場に崩れ落ち、ガタガタと震えながら、佐々木にすがった。「佐々木取締役、お願いです……助けてください……!僕、逮捕なんてされたくないんです!」佐々木は顔を強ばらせ、慌てて身を引いた。「な、何を言ってるんだ君!私には一切関係ない!勝手にやったことだろうが!」「でも、佐々木さん……僕たち、親戚じゃないですか……?こんな時まで見捨てるなんて……」「おい、三井社長、誤解しないでください!彼とは遠縁の親戚に過ぎません。普段の付き合いもほとんどないし、これは明らかに私を貶めようとしてるだけの作り話です!」経理は泣きそうな声で叫ぶ。「違います!佐々木さん、全部あなたの指示じゃないですか!実名で告発すればいいって言ったのはあなたでしょ!?あとのことは全部そっちで片付けるって……それなのに、今さら僕だけに責任を押し付けるんですか!?」佐々木は顔を真っ赤にして怒鳴った。「黙れっ!」指を突
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