佐々木取締役は、ホールでばったり翔平と鉢合わせた。「……安田社長。これはこれは、どういった風の吹き回しで?」驚きは隠しきれていなかったが、口元は相変わらず営業用の笑みを崩さない。翔平は視線を上げ、一瞥だけでその空気を圧倒する。わずかに目が合っただけで、彼が持つ圧倒的な王者の風格が場の空気を支配していた。「帝都は俺を歓迎しないってことか?」皮肉めいたその一言に、佐々木はすかさず顔をほころばせて笑った。「とんでもない……ただ、今は三井社長が少しお手すきではなくて……」――言葉は柔らかいが、その裏に込めた意図は明白だった。鈴が他の男と一緒にいる、とでも言いたいのだろう。もちろん、翔平がそれに気づかないはずがない。佐々木が何を狙っているのか、とうに見えている。翔平は視線を逸らすことなく、鈴と悠生のいる方向へと目を向け、冷たく一言、突き返した。「彼女がお手すきかどうかなんて、お前が決めることじゃない」――刺すような一言だった。佐々木は一瞬顔を引きつらせ、それでも営業スマイルを保ったまま「おっしゃる通りです……」と口にしたが、翔平はもう聞いていなかった。そのまま彼は、まっすぐ鈴の方へと歩いて行った。鈴は彼の姿を見た瞬間、眉をひそめたが、どこか無関心な様子を崩さなかった。「鈴……」翔平が名を呼んでも、鈴は聞こえなかったふりをして、そのままオフィスのドアを開けた。蘭は空気を察して、気まずそうに鼻をこすりながら後ずさる。「社長、私は外でお待ちしています」翔平がドアに手をかけようとしたその時、悠生がその前に立ちふさがった。かつては兄弟のように親しかった二人。今は、互いに一歩も引かない強者同士の対峙。先に口を開いたのは、悠生だった。「……翔平、ここに何の用だ?」「悠生。お前……俺を止めるつもりか?」翔平の声は静かだが、言葉の奥に強烈な圧がある。だが悠生は、まっすぐに彼を見返して、きっぱりと言い放つ。「彼女は、お前に会いたがっていない。帰れ」翔平の目が一瞬細くなり、顎が自然と上がる。その所作ひとつにも、誇り高さが滲む。「俺を、止められると思ってるのか?」「止められなくても止める。今日だけは、絶対に通さない」互いの視線が火花を散らす。「……まさか、俺たちがこんな風に
Read more