All Chapters of 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった: Chapter 451 - Chapter 460

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第451話 小さい頃からの友達

「じゃあ、こうしよう。ビジネス部に契約書を作らせるから、問題なければそのままサインしよう」「うん」幸が応じた。「VEREはまもなく新しいコレクションを発表するんだけど、そのすべてのジュエリーを帝都グループのアーティストに独占提供する予定よ」鈴は少し考えてから口を開いた。「じゃあ、助兄さんと渥美さんにお願いしようかな。今うちのタレントって、その二人くらいだし」幸は視線を外したまま、軽く「うん」と返事をした。「じゃ、この四半期にふたりが出演するイベントのジュエリーは全部、うちで担当させてもらうわ」「マネージャーに詳細は任せるね」「了解」話がまとまり、鈴は自ら幸をビルの下まで見送ることにした。ロビーに到着したところで、ちょうど梨々華と鉢合わせた。梨々華の目が幸の姿に止まり、それからすぐ鈴に笑顔で挨拶する。「三井さん、こんにちは!」鈴は自然な流れでふたりを紹介した。「渥美さん、この方はVEREジュエリーの社長、田村幸さん。これからあなたのスポンサーになってくださる方よ」まさか幸がVEREの社長だとは思ってもみなかった梨々華は、明らかに驚いた表情を浮かべた。VEREといえば、国内外でも知名度の高いジュエリーブランド。オリジナルデザインにこだわり、どのアイテムも洗練されていて、特に若者層に人気が高い。梨々華はすぐにそれまでの軽い態度を改め、丁寧に頭を下げた。「田村さん、初めまして!私は帝都グループ所属のタレント・渥美梨々華です。これからどうぞよろしくお願いします!」幸は軽く頷いたが、その表情はあくまで礼儀正しく、どこかよそよそしい。梨々華には一言も返さず、鈴に向き直る。「鈴、私はこれで。あとの業務はスタッフに任せるから」「うん、よろしくね」幸を見送った後、梨々華は興味津々といった様子で言った。「三井さん、田村さんとすごく仲が良さそうですね」鈴は何気ない口調で返した。「小さい頃からの友達だから、普通の人より付き合いは深いよ」その言葉に、梨々華の心が一瞬ざわついた。まさか、田村さんと三井さんがそんなに親しい仲だったなんて……?それなら、助が田村さんに対して特別な態度を取っていたのも納得がいく。全部、鈴の存在があったからこそ。そう思えば、勘違いしてたのは自分のほうだった。
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第452話 どうして怪我したの?

鈴は仁の目の前に立ち、じっと全身を見つめた。こうして無事な姿を見られたことに、心の底から安堵した反面、張りつめていた思いが一気にゆるんで、ふとした寂しさが胸を掠める。「この二日間、どこに行ってたの……?連絡はつかないし、ずっと心配してたんだから……」声を抑えていたつもりだったが、唇はわずかに震えていた。だが、最後まで言いきる前に、仁が彼女の腕を引き寄せ、そのまま力強く抱きしめた。――ああ、この感覚。身体を包み込む温もりに、鈴の緊張はすうっと溶けていく。胸に込み上げていた言葉たちは、そのまま喉奥で溶けて消えた。耳元に、仁の低くて優しい声が落ちてくる。「ごめん、鈴。心配かけたね……」田中グループの本社で緊急対応が必要になり、ずっとフランスに滞在していた。鈴からの着信とメッセージに気づいたとき、彼はすぐに帰国の手続きを取り、その足で帝都グループへと直行した。――少しでも早く、彼女に会うために。鈴は口を尖らせたまま、目を逸らして小さく呟く。「電話も繋がらないし、メッセージの返事もなかった。どれだけ心配したか……」「うん、ごめん。もう二度とそんな思いはさせない」そう言われても、簡単には許せなかった。鈴はじっと彼の顔を見つめた。疲れの色がはっきりと浮かんでいるその表情に、胸が痛む。「まさか……飛行機降りてすぐ、ここに来たの?」仁は黙って頷いた。「君を不安にさせたくなかったし……何より、怒られるのが怖かったから、ちゃんと直接謝りたかった」「ってことは……まだ全然休んでないってこと?」「でも、鈴の顔を見たら、不思議と疲れどっか行っちゃったんだよ」そう言って、仁は自然に鈴の腰に手を回した。「ちょ、やめてよ……ここ会社だよ!」慌てて仁を押し返したその瞬間、手が触れた彼の肩が、わずかに震えた。仁は痛みに耐えるように、眉を寄せる。その様子を見た鈴の表情が、一変する。「……怪我してるの?」途端に声色が変わり、彼の肩へと手を伸ばしかける。しかし仁は、その手をすっと取って抑えた。「大丈夫、ちょっとぶつけただけだから」「嘘。今、そんなに強く押してないよ?それで眉しかめるなんて、普通じゃない。見せて」鈴の声には、強い意志がこもっていた。肩に手を伸ばすと、服の隙間から
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第453話 特別な人

その言葉を聞いた瞬間、仁が鈴をぐいと引き寄せ、そのまま抱きしめた。耳元で、小さく「うん」と一言。体が触れ合い、鈴は自分の心臓の音がはっきり聞こえるほど、鼓動が高鳴っているのを感じた。思わず彼の胸から抜け出すように離れて、口を開く。「救急箱、どこ?手当てするから」「平気だよ。医者がちゃんと診てくれたから」「でも、包帯が少し滲んでる。傷、開いてるかも」そう言って鈴は救急箱を探し始めたが、その動きはどこか慌ただしく、どこにあるのかもわからず右往左往していた。そんな様子を見ながら、仁は静かに笑って、部屋の隅にある棚へと歩き出す。「ここだよ、救急箱」「えっ……」鈴は顔を赤らめながら慌てて近づき、彼の手からそれを受け取った。「座って。私が包帯替えるから」仁は素直にソファへ腰を下ろし、じっと彼女を見つめている。鈴は救急箱を開け、ガーゼや消毒薬などを取り出すと、慣れない手つきながらも丁寧に傷の処置を始めた。その指先は恐ろしいほどに慎重で、どこまでも優しかった。包帯をゆっくり外すと、ようやく傷口が露わになる。それはまるで刃物で裂かれたような、鋭く深い傷だった。鈴は眉をひそめ、胸の奥にざわりとした違和感が広がる。――この傷、普通じゃない。「……仁さん、本当は、何があったの?」仁は彼女を安心させようと、あえて軽く答えた。「ちょっとした事故。大丈夫だよ、気にしないで」その言い方から、彼がそれ以上語るつもりがないことを鈴は察した。無理には聞かず、ただ静かにうなずく。「もう……これからは気をつけて。こんなふうに怪我なんか、しないで」そう言いながら、鈴はヨード液と綿棒を手に取り、再び彼の傷をやさしく手当てし始めた。すべての処置が終わった頃には、彼女の額には小さな汗がにじんでいた。「ちゃんと定期的に包帯替えてね。そのほうが早く治るから」「うん、わかってるよ」鈴が救急箱を片づけている間に、仁はスマートフォンを手に取り、どこかに電話をかけた。「五分後、私の別荘に来てくれ」「えっ、誰と話してたの?」鈴が振り返って問いかける。仁は電話を切り、静かに微笑んだ。「すぐわかるよ」鈴はますます気になっていた。そうこうしているうちに、玄関のチャイムが鳴る。「私が出るね」そう
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第454話 プライベートゾーン

「私の予定は、鈴に隠さなくていい。何を聞かれても、正直に答えてくれ」仁のそのひと言に、ピーターの瞳が一瞬、大きく見開かれた。田中さんの行動予定は、常に機密扱いだった。ビジネスの世界で長年積み上げてきた地位の裏には、数多くの利害関係者がいて、決して油断できない立場にある。そのため、彼の動きは常にごく限られた人間にしか知らされず、ピーター自身も長年「影」として、決して人前に出ることはなかった。けれど今、仁はそんな彼を、目の前の女性に紹介し、自分のスケジュールのすべてを託すと言った。それはつまり、鈴への絶対の信頼を意味していた。「了解しました。田中さん」ピーターの返事には、一切の迷いがなかった。仁が信じろと言うなら、彼もまた全幅の信頼を寄せる。それが、彼のやり方だった。「……もう下がっていい」「はい、失礼します」ピーターが部屋を後にすると、仁は隣にいた鈴の手をそっと取った。「鈴……これから少し、特殊な案件を処理しなきゃならないんだ」鈴は何かを感じ取っていた。けれど、それ以上は何も聞かなかった。ただ静かにうなずいて、彼を見上げる。「わかった。仁さん……でも、一つだけ。もう、怪我だけはしないでね」「うん」仁の視線がそっと彼女の横顔を捉える。瞳の奥には、彼女の姿だけが映っていた。どこか甘い空気が、ふたりの間に静かに流れはじめる。鈴は思わず二歩下がり、気まずそうに視線をそらした。「そろそろ帰るね」だがその腕が、するりと掴まれた。「もう遅い。帰すわけにはいかない」「えっ……」思いもよらぬ言葉に、頬が一気に熱くなる。何かを想像してしまった自分に焦り、鈴は小さく身を引いた。「そ、それはちょっと……」けれど仁は、ただ静かに笑っただけだった。彼女に無理をさせるつもりも、今夜何かを求めるつもりもない。彼には分かっていた。鈴が少しずつ、確かに自分を受け入れ始めていることを。急ぐ必要なんて、どこにもない。「君は主寝室で寝て。私はゲストルームを使うから。今夜だけ我慢して。こんな時間に帰したら、母さんにめちゃくちゃ怒られるんだから」麗おばさんを盾にされ、鈴はそれ以上言えなくなってしまった。「……わかった。それじゃ、おやすみなさい!」小さく手を振りながら、
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第455話 側にいて差し上げてください

「……何を見てたの?」不意にかけられた仁の声が、鈴の思考をふわりと中断させた。けれど彼女の視線は動かず、じっと部屋の片隅に置かれた、ある置物を見つめたままだった。「あれ……あの木馬の置物。仁さんの部屋にもあるんだ?」そう言って、鈴は指差した先にある小さな白い木馬を見つめた。仁は彼女の視線をたどって、ふっと笑みを浮かべる。「もしかして、鈴も持ってた?」「うん、全く同じの。でも……私のはね、ずっと前に割れちゃったんだ」視線を落としながら、どこか寂しげに言った。仁の目が一瞬、何かを揺らめかせた。けれどその感情はすぐに引っ込められ、何事もなかったような声色で返す。「そうか、それは残念だったな」そう言って、手に持っていた新品のパジャマとタオルを彼女に手渡した。「そろそろ休もうか。もう遅いしね」「うん、ありがとう。仁さんも早く休んでね。おやすみ」仁はそれ以上言葉を重ねず、部屋を出ていった。鈴は手に残されたパジャマとタオルを見つめ、ふと微笑む。同じ頃、安田家。翔平は長い接待を終えて帰宅したとき、すでに深夜に差しかかっていた。後部座席で仰け反るように座り、酒のせいで瞼も重い。ガレージに車が止まり、運転手が小声で知らせる。「安田さん、お宅に着きました」うっすらと目を開け、見慣れた屋敷のシルエットを確認する。翔平は無言のままネクタイを緩め、ドアを押し開けた。「うん、ご苦労。今日はもう上がっていいよ」車を降りると、夜の庭は驚くほど静まり返っていた。目の前に広がる大邸宅を見上げ、どこかぼんやりとした気持ちになる。――たった半年。それだけで、こんなにもこの家が静まり返るなんて思ってもみなかった。鈴と離婚してからというもの、彼女はこの家に一度も戻っていない。遥と由香里も、自分の手で家から追い出した。今、母娘ふたりはアフリカに滞在している。この広い家に残っているのは、自分と祖母だけだ。玄関に差し掛かる頃、物音に気づいた家の使用人が出迎えに現れた。「翔平様、お帰りなさいませ」そう言いながら、コートを受け取って玄関脇に掛ける。そして、少し迷ったあとで言葉を継いだ。「夜、おばあ様がずっと翔平様のことを気にされていて……一緒に夕食を食べたいって、何度もおっしゃっ
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第456話 彼女のすべてをわかってる

「わかったよ、ばあちゃん。心配しないで」祖母はふうっと小さく息をついた。「今じゃ、この家に残ってるのはあんただけだもの。心配しないほうが無理ってもんさ。……そうだ、鈴は元気にしてるかい?」鈴の名前が出ると、翔平はひとことだけ返した。「心配いらないよ、元気にしてる」その言葉に、祖母はすでに察したようだった。「鈴はいい子だったよね。ただまあ……縁がなかったんだろうね。もしあのとき……いや、やめとこ。昔のことを蒸し返しても仕方ない。もう遅いし、あんたも早く休みなさい」「うん。ばあちゃんも、ゆっくり休んで」翔平は祖母の部屋をあとにし、そのまま自室へと戻った。思い返せばこの三年、家にいることなんてほとんどなかった。家のことはずっと、鈴が代わりにやってくれていた。けれど離婚してからは、逆に帰宅する頻度が増えた気がする。不思議なものだ――たまに、鈴がまだここで暮らしていた頃のことをふと思い出して、胸がきゅっとなる。部屋のドアを開けると、もうそこに鈴の気配はなかった。彼女がいた痕跡も、少しずつ時の中で薄れていく。翔平は窓辺へと歩き、夜の街を見下ろす。ポケットから煙草の箱を取り出し、一本くわえて火を点けた。立ち上る煙の向こうに、ぼんやりとした寂しさがにじむ。ふと、扉のほうに気配を感じた。そこには、祖母が執事に支えられながら立っていた。声をかけようとした執事を、祖母はそっと手で制した。祖母は窓際に佇む孫の背をしばらく見つめ、やがて小さくため息をついた。「……部屋に戻ろう」「はい」歩き出す前に、祖母はぽつりとつぶやく。「あの子に、明日の朝電話をかけてみようかね。携帯、持ってきておくれ」「承知しました」翌朝。鈴は仁の部屋で目を覚ました。まだぼんやりとした頭でスマホに目をやると、すでに午前8時近く。「うそ……寝すぎた……!」ひとりごちて、あわてて布団を跳ねのける。そのとき、ふと目に入ったのは、端にきれいにたたまれていた衣類。それはどう見ても、彼女のために用意されたものだった。鈴は服を手に取り、クローゼットで着替えた。どれも好みど真ん中のデザインで、サイズまでぴったりだった。「……ちょっと、ぴったりすぎじゃない?」首をかしげながら階段を降りていくと、ダイニングのほ
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第457話 恋をする時だ

鈴は温かなミルクを両手で包み込みながら、不思議と胸の奥がぽっと満たされるような感覚に包まれていた。ふと顔を上げ、仁を見つめる。「仁さんってさ……まさか、こんなことまでできる人だったとはね。いつの間に覚えたの?」長い付き合いのはずなのに、こんな隠し玉があるなんて、全然知らなかった。仁は肩の力の抜けた穏やかな声で答える。「だいぶ前にね。たまたま今日は役に立っただけ」――本当は、ずっとこの日を待っていた。うれしそうに目を細めながら、仁は視線を落とす。「気に入ったなら、これからも作るよ」鈴は即答した。「うん、お願い!なんかすごく得した気分!」朝食を終えると、仁は車で鈴を帝都グループまで送ってくれた。車を降りた鈴は、手を振って仁を見送り、それから会社の玄関へと向かった。だが、ちょうど入ったところで――「鈴!」助は大股で歩いてきて、あっという間に鈴の目の前に立った。じろじろと全身を眺め回すような視線に、鈴は思わず首をかしげる。「助兄さん、さっきから何見てるの?」「正直に言え。昨日の夜、なんで帰ってこなかった?」鈴は一瞬でバツが悪そうな顔になり、視線を逸らす。「な、なに言ってんの」助はにやりと笑いながら、すべてお見通しだと言いたげな顔をする。「さっき送ってきたの、田中の坊ちゃんだろ?さては、いい感じなんじゃないの~?」「えっ……ち、違うし!見間違いだよ。ていうか、遅刻しそうだから、もう行くね!」そそくさと逃げようとする鈴の背中に、助は肩をすくめて小さく笑った。「はぁ……うちの妹も、そろそろ男に持ってかれる頃か~」「もう、兄さんっ!」鈴の頬がぷくっとふくらむ。助はにやけ顔のまま、なおも続ける。「はいはい、からかうのはこのへんにしとくって。でもさ、田中の坊ちゃん、まあ悪くない。けど妹の旦那となると……うーん、即決はできんな」うちの妹をもらおうなんて、そう簡単にはいかない。なにせ助だけじゃない。陽翔と悠希っていう、手強い兄貴があと二人も控えてる。三兄弟の関門。甘く見ると痛い目みるぞ。助は眉をクイッと上げながら、心の中で仁への「お試し計画」を密かに練り始めていた。――そんな思案を止めたのは、鈴のふとしたひと言だった。「ねぇ、兄さん。人のことばっか言ってな
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第458話 唯一の温もり

「鈴、最近忙しそうだね?」電話越しに聞こえてきた声に、鈴はふっと笑った。「うん、まあね。でも、会社のほうはもうだいぶ落ち着いたから、大丈夫だよ」「そうか……それなら安心だ」そう言った直後、受話器の向こうから、かすかな咳き込みが聞こえてきた。鈴は思わず眉を寄せる。「おばあちゃん……もしかして、体調よくないの?」「大丈夫、大丈夫。これは昔からの持病みたいなものよ」そう答えられても、鈴の胸はざわついたままだった。安田家で過ごした三年間、あの家で、変わらず優しくしてくれたのは、おばあちゃんだけだった。あの温もりが、今でも忘れられない。「……ちゃんと病院、行ってる?」「行ってるわよ。だから心配しなくていいの」少し間を置いて、おばあちゃんは穏やかに続けた。「ただね、最近あんまり鈴の顔を見てなくて……ちょっと声が聞きたくなっただけ」その言葉に、鈴の胸がきゅっと締めつけられる。「……うん。じゃあ、今日仕事終わったら、すぐ会いに行くよ」「え、本当?」声が一気に弾んだのが、はっきりと伝わってきた。「それは嬉しいわ……!最近、家の中も静かでね。鈴が来てくれたら、それだけで元気が出るのよ……あ、でも、無理しなくていいのよ?忙しいんでしょうし……来られなくても……その、声が聞けただけでも十分だから」「そんなふうに言わないで」鈴は、少し照れくさそうに笑った。「私にとって、おばあちゃんはもう、本当の家族なんだから」その一言に、おばあちゃんはしばらく黙り込んだ。やがて、少し潤んだ声で言った。「……やっぱり、鈴は優しい子ね。いつも私のこと、忘れずにいてくれて……」「ふふ、当たり前でしょ」「じゃあ、無理しないで、仕事も頑張りなさい」「うん。じゃあ、夜にね」電話を切ると、鈴はスマホを机の端にそっと置いた。そのとき――コンコン、とノック音が響き、ドアが開く。土田が顔を出した。「社長、極光の雨宮さんがお見えです」「わかった。先に会議室へ案内しておいて。すぐ行くから」「はい」鈴は用意していた資料を手に取り、席を立った。雨宮との打ち合わせは、想像以上に順調に進んだ。意見は噛み合い、条件もスムーズにまとまり、その日の午後には正式に契約が締結された。署名を終えた
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第459話 同じように興味がある

アシスタントは慌てて資料を差し出した。「調べました、佐々木取締役。城東の土地を買ったのは、最近設立された赤穂グループです」「……ほう」佐々木はわずかに目を細めた。「新興企業のくせに、ずいぶん思い切った真似をするじゃないか。一気にあんな重要な土地を押さえるとはな。ほかには?」「はい。この赤穂グループですが……表向きほど単純な会社ではなさそうです。どうやら、かつての佐藤不動産や、安田家とも関わりがあるようで……」「安田家?」佐々木の眉がぴくりと動いた。「……安田翔平か?」「その通りです」「なるほどな」佐々木は鼻で笑った。「やっぱり私の読みは間違ってなかったってわけだ。安田翔平まで目をつけてる土地なら、悪いはずがない。それなのに……」冷ややかに続ける。「三井は、本当に見る目がないな。こんな優良案件を捨てるとは」「おっしゃる通りです、佐々木取締役。今回は完全に判断を誤っていますね」アシスタントも同調した。「赤穂グループは土地を押さえましたが、あの規模では、一社で抱えきれる案件ではありません」佐々木はくつくつと笑った。「……それなら好都合だ。俺たちの出番ってわけだな。赤穂グループの裏にいる人間に連絡しろ。時間を作って、直接話をする」「もう手配済みです」アシスタントはすぐに答えた。「赤穂社長とは、すでに連絡を取っています。向こうも、こちらとの協力に前向きです」「ほう?」佐々木は満足そうに、部下の肩を軽く叩いた。「上出来だ。最近、本当に頼もしくなったな」「いえ……すべて佐々木取締役のおかげです」アシスタントは照れくさそうに笑った。「ご指導いただいて、たくさん学ばせてもらっています」「よし、その調子でやれ」佐々木は頷いた。「面会の時間と場所を詰めておけ。俺が直接、話をつける」「承知しました」手配はすぐに整った。佐々木は迷うことなく車を出させ、約束のカフェへ向かった。店内の窓際で、望愛はコーヒーを前に静かに待っていた。すでに、かなりの時間が経っている。帝都グループの佐々木取締役が自分に会いたがっている――その事実だけで、胸は高鳴っていた。事前に調べた情報によれば、佐々木は帝都でも屈指の実力者。そして――鈴とは、決して良好な関係
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第460話 危険な取引

「すみません、ブラックコーヒーを一杯。砂糖なしで」佐々木は店員を呼び、淡々と注文した。ほどなくしてコーヒーが運ばれてくる。彼はゆっくりとカップを手に取り、口元に運んで一口含んだ。「赤穂さん、この店、なかなかいいですね。コーヒーも香りがあって、悪くない」望愛は軽く口元を緩めた。「そう言っていただけてよかったです。でしたら、また機会があればご一緒しましょう」「うん、それはいいな」二人は穏やかに言葉を交わしながらも、どちらも一歩も譲らなかった。望愛は、最初は佐々木を簡単に操れる相手だと思っていた。だが、実際に向き合ってみると、想像以上に老獪で、一筋縄ではいかない男だった。――でも、私だって甘くはない。コーヒーがほとんどなくなった頃、望愛は立ち上がった。「佐々木さん。どうやら、これ以上お話しすることもなさそうですね。今日はこの辺で失礼しますか?」佐々木は微笑み、静かにカップを置いた。「赤穂さん。何事も、そんなに急ぐ必要はないでしょう?」「……まだ何か?」「せっかく協力するなら、まずは信頼関係が大事だ。さっきから見ていると……どうも、私をあまり信用していないように見えてね」そこまで言われて、望愛も遠回しにするのをやめた。同じ目的を持っているのに、駆け引きばかりしても意味がない。彼女は再び席に腰を下ろした。「失礼しました。少し様子を見すぎましたね」「構わん。協力なんて、最初からうまくいくものじゃない」その言葉を聞き、望愛は小さく頷いた。「佐々木さんは話が早いですね。では、私も正直にお話しします」「どうぞ」「赤穂グループは、確かに城東の土地を取得しました。今後は、不動産開発として進めるつもりです。ご存じの通り、今の不動産市場の将来性は悪くありません。この立地なら、投資すれば確実に利益が出ます。ただ……現時点では、資金に限りがあります。佐々木さんが、どこまで出資できるのかが問題です」「……」佐々木は満足そうに口元を緩めた。「なるほど。ずいぶん率直だな。なら、俺もはっきり言おう。個人名義で、20億出す。後期の建設投資に回すつもりだ」しかし、その額を聞いた望愛は、わずかに首を振った。「佐々木さん……正直に申し上げて、それでは足りません。この規模の案件に、20億では
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