「じゃあ、こうしよう。ビジネス部に契約書を作らせるから、問題なければそのままサインしよう」「うん」幸が応じた。「VEREはまもなく新しいコレクションを発表するんだけど、そのすべてのジュエリーを帝都グループのアーティストに独占提供する予定よ」鈴は少し考えてから口を開いた。「じゃあ、助兄さんと渥美さんにお願いしようかな。今うちのタレントって、その二人くらいだし」幸は視線を外したまま、軽く「うん」と返事をした。「じゃ、この四半期にふたりが出演するイベントのジュエリーは全部、うちで担当させてもらうわ」「マネージャーに詳細は任せるね」「了解」話がまとまり、鈴は自ら幸をビルの下まで見送ることにした。ロビーに到着したところで、ちょうど梨々華と鉢合わせた。梨々華の目が幸の姿に止まり、それからすぐ鈴に笑顔で挨拶する。「三井さん、こんにちは!」鈴は自然な流れでふたりを紹介した。「渥美さん、この方はVEREジュエリーの社長、田村幸さん。これからあなたのスポンサーになってくださる方よ」まさか幸がVEREの社長だとは思ってもみなかった梨々華は、明らかに驚いた表情を浮かべた。VEREといえば、国内外でも知名度の高いジュエリーブランド。オリジナルデザインにこだわり、どのアイテムも洗練されていて、特に若者層に人気が高い。梨々華はすぐにそれまでの軽い態度を改め、丁寧に頭を下げた。「田村さん、初めまして!私は帝都グループ所属のタレント・渥美梨々華です。これからどうぞよろしくお願いします!」幸は軽く頷いたが、その表情はあくまで礼儀正しく、どこかよそよそしい。梨々華には一言も返さず、鈴に向き直る。「鈴、私はこれで。あとの業務はスタッフに任せるから」「うん、よろしくね」幸を見送った後、梨々華は興味津々といった様子で言った。「三井さん、田村さんとすごく仲が良さそうですね」鈴は何気ない口調で返した。「小さい頃からの友達だから、普通の人より付き合いは深いよ」その言葉に、梨々華の心が一瞬ざわついた。まさか、田村さんと三井さんがそんなに親しい仲だったなんて……?それなら、助が田村さんに対して特別な態度を取っていたのも納得がいく。全部、鈴の存在があったからこそ。そう思えば、勘違いしてたのは自分のほうだった。
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