フランス。豊勢グループ幹部会議室。「国内は今、大騒ぎです。安田悠叶が生きていた。それを知っていながら報告しなかったと、鈴木さんが上からひどく叱責されました」広く明るいオフィス。田中仁は赤司冬陽に背を向けたまま、本棚から一冊の本を取り出していた。驚いた様子はまったくない。「大崎家が裏で彼を匿っていました。もう二度と警察に戻ることはないでしょう。これからは恐らく実業家として生きていくはずです」赤司冬陽はそう分析した。田中仁はそれについて何も言わず、次の報告を静かに待った。「それと……三井さんが浜白に戻りました。この件、彼女がどこまで把握しているかは……」ときに、言葉を濁すことが一番雄弁な答えになる。田中仁の手がページをめくる途中で止まった。だが、それもさして驚いた様子ではない。「ここ数日、恋に傷ついて家にこもって出てこないなんて芝居をメディアの前で見せていたのは、すべてこの日のためだろう」赤司冬陽は一瞬きょとんとした。「どうしてです?」「そうでもしないと、彼女の安田悠叶は警戒を解いて法廷に姿を現さなかった」田中仁は本を閉じ、机の上を指先で軽く叩く。その唇にはかすかな軽蔑と自嘲が浮かんでいた。「分かっていても、結局その感情を利用せざるを得なかったんだよ」利用されたその感情は、一体誰のものだったのか。ただならぬ空気に、赤司冬陽はそれ以上突っ込んで聞けなかった。「会議の準備を」田中仁は手にしていた本をゴミ箱に放り投げた。険しい怒りを滲ませながら。赤司冬陽には、今日の会議がかなり厳しいものになると、嫌な予感がしていた。その予感は、見事に的中することになる――三井鈴は思ったよりも長く眠ってしまい、目を開けるとすでに朝日が差し込んでいた。ぼんやりしたままドアを開けると、ちょうど家政婦が食事の準備を終えたところだった。彼女はにこやかに言った。「お嬢さん、目が覚めましたね。ちょうどご飯ができました。今日は暑いですから、涼しくなるようにお粥を炊いておきましたよ」三井鈴は少し気まずそうに苦笑した。泊めてもらっただけでも十分なのに、食事まで世話になるなんて……「木村検察官は?」「書斎にいますよ。呼びに行きますか?」この立場で勝手に書斎に入るのは少し気が引ける。三井鈴はそう思って迷っていると、階段の
Read more