「……」清孝が目を覚ますと、すぐさま主寝室へと駆け戻った。だが中にあったのは、乱れたベッドと散らばった鎖だけ。紀香の姿は、そこになかった。「紀香はどこだ?」彼はウルフに訊いた。しかしウルフが口を開く前に、別の人物の声がした。「藤屋さん」清孝が声の方を向くと、そこにいたのは一郎だった。彼はすぐに察した。「紀香に会わせてくれ」一郎は敬意を崩さずに答えた。「お見せできません。うちの奥様が旦那様と喧嘩しておられます。原因は……藤屋さんと、前・藤屋夫人との一件です」「……」清孝は何も言わなかった。ただ黙って、一郎の後についていった。だが飛行機に乗るとき、海人から一通の写真が届いた。写真の中、紀香はそこそこ安らかに眠っていた。清孝はその写真を保存し、短く返信を送った。「ありがとう」海人から返事はなかった。紀香は実際、それほどよく眠れていたわけではなかった。ただ、来依が隣に眠っていることを考え、これ以上心配をかけられないと思い、無理に目を閉じて眠ったのだった。目覚めた後は、ただただ頭が痛かった。そっと起き上がり、身支度を整えたあと、何か食べ物を買いに出た。ところが、ちょうど廊下で海人と鉢合わせた。「お、お義兄さん」「うん」海人は手に持っていた袋を彼女に渡した。「これ、姉さんに。しっかり食べさせてやって」来依はもともと、海人に心配をかけたくなくて、二日間もわざと連絡を避けていた。それがかえって本当に口を利かない状態のようになってしまった。「ごめんなさい、お義兄さん……」「お前のせいじゃない」海人は手を振った。「中に入りなさい」紀香はくるりと向きを変え、病室へと戻った。来依はすでに目を覚ましていた。紀香は急いで小さなテーブルを出し、買ってきた食べ物を一つひとつ並べた。「お姉ちゃん、これね、お義兄さんがわざわざ買ってきてくれたの。ほら、どれもお姉ちゃんの好きなものばかりだよ」来依はふっと笑った。「何よ、使者でも気取ってるの?」紀香はがっくりと肩を落とした。「だって、全部私のせいだもん……」「もういいってば」来依は彼女の顎を持ち上げた。「私とあんたのお義兄さんは、なんでもないわよ。心配しないで。さ、食べよう」紀香と
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