「うん、五郎は病気になった」病気にされた五郎は、今まさに北極で氷を掘っていた。四郎も、強制的に同行させられていた。海人が、五郎が変な真似をしないようにと警戒していたのだ。「旦那様が奥様に氷の彫刻を贈るって、自分で彫るって言ってさ、それで俺が氷を取りに来いって……でもさ、この氷、大阪まで持ってったら溶けるんじゃね?もうすぐ夏だし」「……」——頭は悪くないが、足りない。海人が求めた氷なんて、冷凍庫で凍らせておけば充分だった。北極まで来させたのは、ただの罰。その煽りを食らった四郎は、巻き添えである。堪えきれず四郎は五郎の尻を蹴った。「さっさと掘れ!旦那様がお待ちなんだよ!」五郎は氷を掘るのが意外と楽しかったが、食べ物がなくて楽しくなくなった。四郎が様子を見に行くと、五郎は手にしていた鉄のくいを投げ捨てていた。四郎は察しのいい男だ。すぐに食べ物を探しに走った。五郎は美味しいものを食べると、またやる気を取り戻して氷を掘り始めた。……来依はため息をついた。「あんなに丈夫な人が病気になるなんて、きっと重病だわ。だから仕事にも来られないんでしょ。あとで紀香ちゃんの様子を見たら、彼のところにも行ってみようかな。それにしても、あなたの部下の中で、私は五郎が一番好き」——忠実だから。海人は心の中で何度も冷笑した。なら、五郎はこのまま帰ってくるな。「お前は妊娠してるんだ。うつされたら困る。治ってから戻らせる」来依は言った。「触れないよ。遠くから一目見るだけじゃダメなの?」「ダメだ。子どものために責任持たないと」「……わかった」彼女は素直に引き下がった。一方その頃、病室では——紀香は今日も記録係だった。清孝は昨日よりはるかに意識がはっきりしていた。彼女がスマホを持ち、ぶつぶつ言いながら排尿の時間を記録しているのを見て——彼はもう、頭を打ちつけて死にたくなった。このまま寝たきりでもうどうでもいい。彼女は自分を愛してくれないのだから。「清孝、あなたの部下はどこにいるの?好きな食べ物を買ってきてもらうわ」清孝は不意に声をかけられ、考えごとをしていたせいで、彼女の言葉をちゃんと聞き取れなかった。「俺も、君が好きだ」「……」紀香はじっと彼を見つめた
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