「大阪に来なよ、お祖父さんも一緒に。全部、私が手配するから」石川は清孝の拠点。何かあったとき、彼の地盤では彼女が動きづらい。紀香も、実はすでにそのつもりだった。以前は来依が自分の実の姉だなんて知らなかった。でも、今は分かっている。この世でたった一人の血の繋がった家族と、一緒にいたいと願うのは当然だった。「これから飛行機で戻るね。あと、アシスタントのことも少し整理してから」「うん、分かった」来依はタクシーの運転手に空港へ向かうよう伝えた。紀香を保安検査場まで見送ったあと、自分はホテルにでも泊まろうと振り返った――その瞬間、男の胸にぶつかった。反応する間もなく、そのまま抱き上げられ、まるで計画されていたかのように車に押し込まれる。耳元で、少し拗ねたような低い声が聞こえた。「口をきかなくてもいい。無視しても構わない。でも……家に帰らないのは、だめだ」家に戻れば、また彼の視線を受け続ける。焦りも、心配も全部伝わってくる。それが分かっているからこそ、来依は視線をそらし、彼を押しやって言った。「ホテルに行って」海人の手が、彼女の手を強く握る。その瞬間、力が強すぎたことに気づいて、すぐに緩めた。「……ごめん。ちょっと、加減できなかった」来依は眉をひそめたが、何も言わなかった。運転手は動かずに、バックミラー越しに海人を見ていた。指示を待っている。来依は五郎のことを思い出した。五郎もまた、車を運転していた頃の日々を懐かしく思っていた。サボっている時には、美味しいものをたくさん食べられた。北極とは違って、そこには氷と雪しかなかったから。「私は正真正銘の菊池夫人。菊池家のルールでは、誰であっても、当主とその妻の指示には従うってことになってるはずよ。つまり、私は当主と同格。命令は同等のはず」運転手はようやく車を発進させたが、スピードはのろのろ。まだ海人の指示を待っているのは明白だった。ホテルに到着しても、海人は何も言わなかった。来依が車を降りようとしたとき、手が掴まれた。抵抗しようとしたその瞬間、彼は手を放した。何も言わず、彼女に付き添ってホテルに入り、彼女の向かいの部屋を取って、そこに泊まった。来依は覗き穴から確認したが、何も言わずスマホを取り出して南にメッセー
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