何から何まで俺のところに来る。「……聞こえたの?」「聞こえない方が無理でしょ」来依は尋ねた。「清孝の病気のこと、明日香さんに相談してみようか?」海人は言った。「やめとけ。明日香が治療する気になっても、清孝の方が受けたがらないさ」「なるほどね、男ってそういうところだけは変にプライド高いから」「他の男のこと、よくわかってるな?」来依は横目でにらんだ。「今日やたらと昔のこと蒸し返すね。どうしたの?どこにも八つ当たりできなくて、爆発寸前?」「マジで爆発しそうだ」海人は彼女をきつく抱きしめた。「まずはちょっと発散させて。それから他の話しよう」「……」その後、来依はそのまま眠ってしまった。心葉や清孝の話を続けることはなかった。海人はバルコニーに出て、煙草を一本取り出して火を点けた。そして、電話をかけた。「兄さん」電話の向こうから聞こえたのは冷ややかな女性の声。どこか機械的で、もし名前を呼ばれなければ、スマホのアナウンスかと錯覚するほどだった。「まだ起きてるのか?」静華は率直に答えた。「仕事がまだ残ってるの」「一人で?」「うん」海人はそれ以上は聞かなかった。「お前の部下に、竹内心葉って名前のやついないか?」静華は言った。「どの竹内心葉?」「石川出身の」機密性の高い職場では、社員の身辺調査は非常に厳重で、三代前まで遡ることもある。石川出身で彼女の部下となると、一人しかいなかった。「兄さん、彼女に何の用?」海人は言った。「彼女を石川に異動させろ」静華は問うた。「理由をちょうだい。あとで報告書を書かなきゃいけないから」「理由はお前が作れ。俺が教えられるのは、石川に彼女を待ってる人がいるってことだけだ」身辺調査はあっても、感情面の調査まではない。静華は心葉と高杉家の関係について、「取り違えられた子」程度の認識しかなかった。心葉と由樹の間に何があったかなど、一切知らなかった。ただ、心葉が何かの拍子に過去の話を少しだけ口にしたような記憶はあった。「兄さん、それって私的利用になるんじゃない?」海人は低く「そうだな」と認めた。「一つ借りができた。今後何か望むことがあれば、全部聞く」静華は数秒考えて、了承した。「じゃ、それで。切るよ」電話が切れた。静華は無
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