静華はステーキを一目見て、もう食べないと告げた。お腹はいっぱいだった。だが視線は、相変わらず絵里のほうに向いていた。篤人「……」絵里はそれに気づき、顎を支えたまま静華を見つめ、笑って尋ねた。「静ちゃん、私のこと好きなの?」今まで彼女を「静ちゃん」と呼んだのは、来依たちだけだった。でも、憧れの存在にそう呼ばれる感覚は、まったく別物だった。一気に緊張が込み上げる。温泉で浮かんでいた赤みが引いたばかりだったのに、また一瞬で頬が熱くなった。しどろもどろになり、しばらく何も言えなかった。絵里は笑みを深めた。「何を恥ずかしがることがあるの。私も静ちゃんのこと好きよ」「もういい加減にしろ」篤人は手にしたナイフとフォークをぎゅっと握りしめ、うっかり飛ばしてしまわないようにした。「塩成も歳を取って、満足させられなくなったってことか?」俺の妻にちょっかい出してどうする。絵里は顎を支えていた手を下ろし、篤人に向かって親指を立てた。「私はその言葉、口に出す勇気なかったのに。あんた、本当に度胸あるわね」篤人は鼻で笑った。「言わなきゃ歳を取らないとでも?人ってのはな、その年齢になったら、その年齢相応のことをするもんだ。絵里さんも同じだ。歳なんだから、無理に若作りして若い子たちとつるむな」絵里の笑みが、すっと薄れた。やっぱり、篤人は昔から変わらず嫌な男だ。「昔、あんたが女をはべらせてた頃は、そんなに口が悪くなかったじゃない。『ベイベー』だのって甘い声で呼んでさ。あの甘い口が、いつからそんな毒舌になったのよ」静華は絵里をかばって口を開こうとしたが、その言葉を聞いて動きを止めた。篤人が女遊びしていたことよりも、絵里のこの、手早くきっぱりと、その場でやり返す性格に驚いたのだ。自分には、どうしてもそれができなかった。篤人の目に一瞬、気まずさがよぎり、視線が横の静華に落ちた。彼女に特に反応がないのを見て、再び絵里へと目を向け、視線をいっそう冷やした。「今は旦那からの愛情が薄れたのか?ベイビーとも呼ばれなくなって。どうだ、誰か連れてきて何回か呼ばせてやろうか。満足するだろ?」そう言いながら、彼は視線の端で静華を窺っていた。だが彼女は、まったく反応しなかった。彼の過去の浮名など、少し
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