頭が一瞬ぼうっとした。けれどすぐに我に返って、私は乾いた笑みを浮かべた。「……私の目がそんなに気に入った?」――替え玉か。誰かがやるのは勝手だけど、私はそういうのには興味がない。「いや、そういうんじゃない」鷹は相変わらずドア枠にもたれ、気怠げな調子で言った。「ただの仮の彼女だ。江川をやり過ごす手助けになる」なるほど、と思いながら私は彼に目を向ける。「で?私は何を差し出せばいいわけ?」得にならなきゃ動かないのがこの男の基本スタンスだ。彼は目を細めて、楽しげに口角を上げた。「話が早くて助かる。今年の正月、俺の実家に一緒に帰って、両親へ対策になってくれ」「……」「悪い話じゃないだろ」鷹は軽く唇を歪め、言い切るように続けた。「お前一人じゃ、あいつには太刀打ちできない」言うまでもなく、あいつとは宏のことだった。「考えとく」そう言って、私はドアを反対の手で閉めた。江川グループの破綻が発表されて以来、鹿児島の上流社会は混乱の渦にあった。誰もがこの機を逃すまいと、躍起になっていた。その日、会議を終えてオフィスに戻った時、来依がふと思い出したように声を上げた。「ねえ、南。誰かから株の話こなかった?」「……株?」私は目を瞬かせた。「離婚のとき、江川が無理やり南に渡した10パーセントの株。あれ、今なら買い取り希望者いると思うんだけど」「……いや、今のところは来てない」首を横に振る。本当は、機会があれば彼に返すつもりだった。でもタイミングがなくて、昨夜のゴタゴタで、それどころじゃなかった。ただ、それにしても妙だった。今までのRFの動きにしては、私の持ち株については何の接触もない。「そういえば宏の株って、もう売ったの?」私はそう尋ねた。「とっくに。誰よりも早く売り抜けた」来依は肩をすくめた。「彼が株を持ってる限り、他の株主たちだって簡単には手放さなかっただろうけどね。江川グループがここまで来たのは、あの人の功績が大きかった。だから今も、無条件で信じてる人が多いのよ」その通りだった。宏が本当に江川グループを見捨てるとは、正直思っていなかった。でもここ最近、経済ニュースは江川グループのことばかりだった。破綻までのカウントダウンは、すでに始まっ
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