彼は箱を私の目の前に差し出し、淡々と言った。「……見て」――打撲用の薬だった。箱に印刷された大きな文字を見た瞬間、顔から火が出そうになり、思わず立ち上がった。「薬だけ渡してくれればいい。シャワー浴びたら、自分で塗るから……!」正直、彼に指摘されるまで、自分が転んだことすら忘れていた。「いいよ」鷹は目元に薄い笑みを浮かべ、口角を少し悪戯っぽく上げた。「サービスに頼んで、河崎をここまで連れて来てもらってる。自分で塗れなきゃ、彼女に手伝ってもらえ」最初から、彼は私が打った場所が「自分で見えにくいところ」だと気づいていたのだ。勝手に妄想したのは私の方だった。気づけば恥ずかしさが怒りに変わり、一気に彼を外へ押し出し――「バン!」と扉を閉めようとした、その瞬間。鷹は片手でドアを押さえ、昨夜と同じように私の頬をそっとつまんだ。「……清水。あけましておめでとう」その声に重なるように、外で花火が一斉に打ち上がる音が響く。鮮やかな光が大きな窓一面に反射し、その光の中の彼は、相変わらず自由で大胆で、どうしようもなく眩しかった。「それと――もう逃げるなよ」彼はそう言い残して、静かに扉が閉まった。宏は綺麗事のような約束をいくつも口にしていた。だが、彼が鷹に吐き捨てたあの一言だけは、本気だったのかもしれない。正月が明ける前には、江川グループが堂々と鷹の家のいくつかの案件をかっさらっていった。だが鷹の家も黙ってはいない。なんと、江川が第一四半期に「切り札」として発表予定だった技術を搭載した電子製品を、先にリリースしてしまったのだ。江川はすでに大々的な宣伝までしていた。結果、他人の花道を作るだけになり、自分は大損失。血の一滴も残らないほどの惨敗だった。来依はたまたま大阪のクライアントと年明けの打ち合わせがあり、「じゃ、しばらく観光しよっか」というわけで、私たちは鹿児島には戻らず、大阪でのんびり過ごすことにした。その日の午後、来依はニュースを見ながら首をかしげた。「ねえ南。服部って、本当にあなたのために江川と張り合ってるのかな?」「さあ……どうだろうね」私は肩をすくめた。あの夜以来、鷹とはほとんど連絡を取っていなかった。電話もない。時々「何してる?」とメッセージ
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