私の心臓は、何かにきゅっと掴まれたように痛んだ。鷹が言っていたように、それは無意識の奥から湧き上がるもので、理由なんて自分でもわからなかった。鷹の顔に浮かぶかすかな悲しみを見ていたら、気づけば私はつま先を伸ばし、手を上げてその頭に触れようとしていた。けれど、指先が半分ほど近づいたところで我に返る。空中で止まった手のまま、褐色の瞳を見つめて、そっと声を落とした。「鷹、彼女はあなたを責めたりしないよ」一瞬だけ、彼の目が明るくなった。しかし、私の手が止まったのを見て、その光はすぐ元の静けさに戻る。「お前は奈子じゃない。どうしてわかるんだよ、彼女の気持ちが」「……私、彼女に少し似たところがあるから」視線を落とし、胸の奥に沈んでいた苦さを静かに言葉にする。「昔は何不自由なく暮らしてたのに、突然両親を亡くして……ひとりで必死に生きてきた。そんなところが、ちょっと似てる」もう一度顔を上げ、微笑んだ。「もし私が彼女だったら、絶対にあなたを責めないよ。彼女だって……きっと同じだと思う」苦しい思いを経験した人間ほど、他人の痛みに共鳴できる。そして、何より――鷹はこんなにも長く待ち続けた。それだけで十分すぎる。鷹は少しだけ、表情を和らげた。いつもの鋭さのない声で尋ねる。「……お前は?この数年、辛かったことはあるのか?」「子供の頃はね」深く息を吸い、目に映る部屋のどこか懐かしい空気を確かめながら、小さく笑った。「でもそのうち慣れちゃった。この数年は江川家で大事にしてもらってたし、辛いなんて言えないよ」鷹はじっと私を見る。「それで……毎日、楽しいのか?」私は思わず吹き出して、庭に向かって歩き出した。「若様、大半の人はただ生きるだけで精一杯だよ。毎日が楽しいなんて、あり得ないでしょ?」「……そうかよ」「じゃあ、鷹は?楽しい?」鷹も外に出てきて、ドアを閉めながら横目で私を見る。「お前、わかってるくせに」――楽しくなんかない。その一言が、彼の声に滲んでいた。きっと奈子を失って以来、彼はずっとそうなのだ。私は肩をすくめ、それ以上何も言わなかった。鷹は私を藤原のおばあさんの居る庭まで連れて行く。「おばあさん、お前に藤原家に泊まってほしいって言ってる。でもホテルがい
Read more