All Chapters of 慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った: Chapter 451 - Chapter 460

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第451話

これ以上何を言っても、私の言葉を信じて、「実の娘」である夏美を疑うとは思えない。そう思いながら、私はテーブルにジュースを戻し、バッグを手に取る。「京極さん、今日はお邪魔しました」……夏美がリビングを出ていくのを見届けてから、佐夜子はふっと肩の力を抜いた。張りつめていた空気が少しだけ緩む。だが次の瞬間、心の奥底から湧き上がる嫌悪感が、また全身を覆った。……それでも、落ち着いてみると、何かが引っかかる気がしてならなかった。彼女はすぐに携帯を取り出して、菅に電話をかけた。「菅、お願いがあるの。2年前に、夏美と南さんの間で何かトラブルがなかったか調べてくれない?」さっきの南の様子、どう見ても軽い雑談とは思えなかった。あれは――何かを伝えようとしていた。「了解、調べてみる」菅はすぐ返事をした後、不思議そうに尋ねた。「どうしたの、急に?」「はっきりとは言えないけど……もう一つお願い。南さんの誕生日も調べて」何が繋がっているのかはまだ分からない。けれど、胸騒ぎがする。調べずにはいられなかった。少しして、菅の声が返ってきた。「それなら、もう調べてあるよ。夏美ちゃんと同じ誕生日だった」佐夜子と深く関わる可能性がある人物に関して、菅は事前にひととおり目を通すのが常だった。情報は、少しでも多くあったほうがいい。その答えに、佐夜子は息を呑んだ。「……同じ日、なの?」「うん」混乱が頭の中に広がっていくのを感じながら、彼女は思わず言った。「じゃあ……彼女が生まれた病院、調べてくれない?」「彼女、山口出身でしょ?そこまで調べる必要ある?」「違うの」佐夜子は小さく首を振った。「彼女の養父母が山口に住んでただけで、彼女自身が生まれたのは、大阪よ」一拍置いて、彼女は深く息を吸い、低い声で言った。「菅……彼女は、藤原文雄の娘よ」……夕刻、服部家本邸。久々の家族の集まりで、屋敷には賑やかな声が満ちていた。そこへ――タイヤが地を鳴らす音と共に、黒いパガーニが鋭く滑り込み、正門前でぴたりと止まった。鷹が車から降りた瞬間、リビングの空気が一変する。穏やかな団欒の空気は、一瞬で張りつめたものへと変わった。「このバカ孫、やっと帰ってきたのかい!」祖母が嬉
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第452話

鷹は顔色ひとつ変えず、むしろ唇の端に皮肉げな笑みを深めて言い放った。「そんなに確信してるのか?江川が、お前と組むって」「彼が俺と組むとは限らない」良彦は余裕を滲ませたまま、言葉を返す。「だがもし、俺と組むことでお前という恋敵を潰せるとしたら?」宏が何か手を下す必要はない。たった一枚の契約書を良彦に渡すだけでいい。そうすれば良彦は、宏のための駒として、鷹を追い詰め続けることになる。たかがSZグループ、いくら勢いがあるとはいえ、たった二年ちょっとの新興企業にすぎない。RFグループと比べれば、まだまだ格が違う。良彦はそう確信していた。しかし、鷹は鼻で笑って、皮肉めいた口調で返した。「そんなに威勢よく啖呵切ってて大丈夫か?退路がなくなったら、泣くに泣けなくなるぞ」「……どういう意味だよ」「まだ発表前の話なんだがな」鷹はソファにゆったり腰を下ろし、服部父子を見やりながら、肩の力を抜いたまま告げた。「SZテックとRFグループが、戦略提携を結んだ。今朝、正式に契約が締結されたばかりだ」足を組み、膝の上で指先をコツコツと弾ませながら、まるで勝負の勝敗すら興味がないかのように、余裕たっぷりに告げる。「お前らの情報が追いついてないのも、無理はないよな?」「……なんだと?」父の顔がみるみるうちに強張った。怒りの矛先は、即座に良彦へと向く。「お前、いったい何やってたんだ!?これだけ重要な話、耳に入ってすらこなかったのか!!」RFとSZが組んだ。それだけで、AIプロジェクトはもう……終わったも同然。良彦のこの二年間の働きにはそれなりに満足していた。そろそろ手を引いて、会社の実権をすべて譲るつもりだった。それなのに蓋を開けてみれば、このザマだ。期待外れにもほどがある。良彦もさすがに表情を失いかけるが、なんとか体裁を整えて口を開く。「父さん、彼の話を鵜呑みにしないでくれ。妻を奪われた相手と、江川が手を組むわけない!」このタイミングでRFが鷹と手を組むってことは、つまりRFが一方的にSZを後押ししてるって話になる。あり得ない。絶対に。どこの世界に、自分の元妻の今カレに肩入れする男がいる?正気の沙汰じゃないだろ。けれど、父の怒りはもう収まらない。「お前ら、俺と一緒に
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第453話

客間は、相変わらず静まり返っていた。服部当主は姿を消したが、この家において最も厄介な存在である鷹は、まだ居座っている。服部の人間たちは、昔から彼を恐れていた。今回の一件でその畏怖は、もはや恐れとも言えないほどの圧に変わっていた。祖母がひと睨みして言った。「まったく、あんたという子は……まだおじいさんの顔を見に行かないのかい?あの人、あんたの帰りをどれだけ心待ちにしてたと思ってるんだい」祖父は、二年前に心筋梗塞を起こしてからというもの、すっかり身体が弱っていた。家族の集まりにも顔を出すことはめったにない。今日だって、鷹が戻ってくるかもしれないと知っていながら、祖母も母も、当主と揉め事になるのを恐れて、祖父にはそのことを黙っていた。その結果、祖父は今日の家族会に姿を見せていない。鷹はさっきまでの刺々しさをすっかり引っ込め、すぐさま立ち上がって素直に言った。「わかった、今行く」その横で、花が慌てて言う。「お兄ちゃん、私も一緒に行く」……服部家の書斎。入った途端、当主は良彦を思いきり蹴り飛ばした。「何を突っ立ってる!?さっさとRFグループに連絡して、状況を確認しろ!」「はい!」良彦は痛みも感じていないようにすぐ立ち上がり、スマホを取り出して番号を押した。かけた先は加藤だった。「どちら様ですか?」相変わらずの第一声に、良彦は歯を食いしばりながらも、努めて穏やかに答える。「加藤さん、服部グループの服部良彦です」彼はこれまでにも何度か加藤とやり取りしてきた。江川宏のアシスタントとして長年仕えている加藤は、人情の機微など、とっくに心得ている。だが、その加藤は、電話のたびに「どちら様ですか」と返してくる。本当に覚えていないはずがない。最初から相手にしていない、という態度だ。「こんにちは」とだけ、加藤は淡々とした声で言った。良彦は怒りを押し殺しながらも笑顔を作って切り出す。「実は、御社がSZグループと提携のご意向があると耳にしまして」あえて、「もう提携されたのか?」とは訊かなかった。それが現実になるわけがないと信じていたからだ。「やはり情報というのは、どこかで必ず漏れるものですね」加藤がふっと笑う。「提携の『意向』ではありません。すでに契約は締結済
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第454話

客間は一瞬で緊張に包まれた。まるで火花が散りそうな空気だった。歯ぎしりの音が聞こえるほど、服部家当主・服部紀雄の怒りは極限に達していたが、それを隠すように口角だけを引きつらせていた。だが、ここに集まっているのは、みな服部家の血を引く者たち。この親子が昔から水と油だというのは、もはや周知の事実だった。息子は父親を敬わず、父親は息子に情けのひとつもかけない。どっちもどっち。まあ、ある意味ではよく似た親子なのかもしれない。祖母いわく、あの二人は「天敵」らしい。──妙にしっくりくる言葉だった。家を継ぐ身である紀雄が自らの私生活を律せなかったのなら、鷹が彼を父親として扱わないのも無理はない。そして、鷹が実の父親を堂々と抑え込む様子を、祖母はどこか楽しげに見ている節すらあった。皆が次の瞬間、紀雄が怒鳴るだろうと身構えたそのとき、彼は一転して柔らかい笑みを浮かべながら鷹の肩を叩き、こう言った。「やるじゃないか、お前。……なあ、弟の後始末、ちょっとだけ手伝ってくれよ」「……弟?」鷹の口元が皮肉に歪む。目の奥には氷のような光が宿っていた。視線が奥に座る母へと移る。「母さん、いつ俺に弟なんて産んだんだ?」母は昔ながらの上品な女性だった。穏やかで、慎ましく、出過ぎたことはしない。息子が自分を庇ってくれていることは察していたが、これ以上父子で荒れられるのも困ると、そっと口を開いた。「鷹……もうそのへんでいいわ」彼女にとって紀雄という人間には、とうの昔に見切りをつけていた。この家に嫁いだのは、わずかばかりの情もあったが、本質的には政略結婚だった。それでもここに残り続けたのは、実家の力が衰え、服部家の支えが必要だったこと、そして何より、息子と娘を守るためだった。彼女が紀雄と真正面から激しく言い争ったのは、たった一度だけ――あの実験室の爆発事故のときだった。良彦が服部グループに入ったばかりの頃、息子にあんなことが起きたのだ。そして今、鷹が無事に戻ってきたことで、彼女はまた何も言わなくなった。今こうして息子が帰ってきたことだけを、心から喜んでいた。鷹は母の性格をよく知っている。だからこそ、口元にうっすらと笑みを浮かべながらも、紀雄へと視線を戻す。「母さんはそう言ってるけどな。俺は
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第455話

鹿児島、RFグループ。緊急会議を終えた宏は、会議室を出た。加藤がすぐに後を追い、状況を報告する。「服部家の私生児から連絡がありました。うちとSZが提携するって話、確認してきました」「……ああ」宏はそれを気にも留めず、大股でオフィスへ向かう。所詮、服部家の内輪揉めがまた始まっただけのこと。あとは、鷹がうまく相手を押さえ込めるかどうか。加藤はなおも納得がいかない様子で言った。「でも……このタイミングで提携しなくてもよかったんじゃ……?」確かに、RFとしてSZの特許技術は必要だ。しかし、今すぐじゃなきゃ困るってわけでもない。それに、私情を挟めば、若奥様は今や服部と付き合っているというのに――なぜ社長がライバルに肩入れするのか、理解できなかった。宏は、骨ばった手でネクタイを緩め、ソファに腰を下ろした。そのままゆっくりと目を上げて加藤を見据える。「俺が手を組まなくても、あいつは勝つだろう」良彦には野心こそあるが、器も力も足りない。陰で小賢しい手を回すことしかできない男だ。服部家は――遅かれ早かれ、鷹のものになる。その時が、少し早くなるだけの話だ。「でも……RFが動けば、彼の勝ち筋はもっと太くなりますよね?社長、どうしてそこまで?」加藤が口ごもると、宏は静かに目を伏せ、痛む胃のあたりを押さえながら窓の外を見やった。ネオンが滲む夜景に、低く呟く。「別に、あいつを助けてるわけじゃない……借りを返してるだけだ」彼女に対する、借りを。もし、鷹が無事に服部家を手中に収められるなら。彼女が、少しでも楽に生きられるなら。それ以上のことはない。宏はふっと笑みを浮かべた。「それに、SZの技術が早く手に入れば、うちのプロジェクトにもプラスしかないだろう」車の中で小島が待機していた。やがて旧宅から鷹が姿を現すのを確認すると、部下たちに撤収を指示しながら車を降りた。今回の一手、鷹にとっては、負ける要素のない勝負だった。だが、万が一があってはならない。彼は南に誓ったのだ――無事に戻ると。だからこそ、入念に準備を整えてきた。小島は人員を配置し、どんな非常事態にも対応できる体制を整えていた。彼は車のドアを開け、何も問わず鷹を乗せ、車が旧宅から離れてからようやく口を開いた。「
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第456話

「佐藤炎?」思わず眉をひそめる。「私は江川の奥さんでもないし、あなたのことも知らない。そこ、どいてくれる?」「でも、江川社長のことはご存じですよね?」佐藤は悪意のない、むしろ少し媚びるような口調で続けた。「ご安心ください。何も悪いことをしに来たわけじゃありません」私は一歩後ろに下がり、警戒しながら彼を見つめた。「で、あなたは何者?」口ぶりからして、宏とは親しい間柄のようだ。だけど、わざわざ私のところにまで来るなんて、目的がわからない。佐藤はまるで先輩面したような口調で言った。「江川奥さん、離婚されたばかりですよね?もったいないとは思いませんか?」「は?」思わず鼻で笑った。「あなたに関係ないでしょ?暇なんですか?」いらぬお節介ってやつだ。佐藤は苦笑しながらなおも話し続けた。「怒らないでください。この前、江川社長があなたのことでひどく落ち込んでいるのを見まして……あなたがあんな素晴らしい男性を逃すのが心配で」「まさか、彼に頼まれて来たんじゃないでしょうね」宏がこんな遠回しな真似をするはずがない。「いえいえ、違います。ただ……離婚して時間も経ちましたし、もう気持ちも落ち着いた頃かと思いまして。そろそろやり直すことを考えてみては?江川社長、いまだにあなたのこと想ってますよ。女の人生なんて、結局いい男をつかまえられるかどうかで決まるんですよ。江川社長の心の中はあなただけなんです。だからこそ、しっかり掴まえておかないと!」勢いづいた佐藤は、さらに言葉を重ねた。「女のワガママもほどほどにしないと、隙を突いて入ってくる女もいるかもしれませんよ?あなたみたいな賢い人ならわかるはずです。鹿児島に戻って堂々と奥さんとして暮らす方が、こっちでこそこそ愛人みたいな立場でいるよりずっとマシでしょ?」それまでの話は全部スルーしてたけど、最後の一言だけは聞き逃せなかった。「……愛人?」佐藤は一瞬きょとんとした後、思わず聞き返してきた。「えっ、まさか……服部さん、愛人ってことも認めてないんですか?」「……」呆れてものも言えなかったが、冷たく言い放った。「なるほどね。そんなに必死に私と宏をヨリ戻させようとするのは、結局、貸しを作りたいとか、仕事絡みの思惑とか――その程度のことでしょ? で
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第457話

鹿児島へ向かう車中、佐藤はさっきの清水の態度を思い出していた。まるで自分なんか眼中にないというふうで、それがやけに滑稽だった。……やんわりとしたやり方が通じないなら、次は力技でいけばいい。たかが女一人、落とせないはずがない。清水さえ江川のもとへ戻ってくれれば、それで全て丸く収まる。江川は失ったものを取り戻せた喜びで頭がいっぱいになり、どんな手を使われたかなんて気にも留めないだろう。服部だって、たかが女一人のために江川と決裂なんかするはずがない。服部家の御曹司ともなれば、女なんて所詮、暇つぶしの相手。本気になるなんて、あるわけがない。こういう話は、佐藤の周りにいくらでも転がっている。だからこそ、あの服部鷹が清水に本気なわけがないと、心の底から思っていた。そんなことを考えながら、佐藤は悠々と足を組んで電話をかけた。「もしもし、俺だ。手段はどうでもいい、なんとしても――」そのときだった。――キイィッ!!!車が突如急ブレーキをかけ、後部座席にいた佐藤はシートベルトもしておらず、勢いそのままに前の座席へ顔面から突っ込んだ!「ッだああああ!!」思わず声が出る。上げていた足は痺れ、感覚がなくなるほどの激痛。「いてててて……!」うずくまりながら体を起こし、びっしょりと冷や汗をかいた額をぬぐいながら、佐藤は運転手を怒鳴りつけた。「おいおいおい!ふざけてんのか!?酔ってんのか、あァ?」「ち、違います!前の車が急に止まって……ぶつけるわけにいかなくて!」運転手は必死に言い訳しながらも、安全ベルトをしていたためか無傷だった。佐藤はなおも怒鳴る。「だったらぶつけろや!ぶつけたってこっちが払えば済む話だろが!」「……」黙ったまま前方を見つめる運転手。佐藤もつられてそちらを見ると、車のヘッドライトに照らされて、やたらピカピカ光る車体が目に入る。――漆黒の、ロングタイプのファントム。ナンバープレートは見事なまでのゾロ目、7が並んでいる。その派手な佇まい、あの街で見間違えるはずがなかった。……服部家の御曹司。「……」全身に嫌な汗が吹き出す。このスピードでぶつかってたら、賠償なんかじゃ済まない。相手が相手だ――何をされてもおかしくない。「嘘、だろ……」
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第458話

他にはもう、何もなかった。そしてそのすべては、清水南ただ一人に起因していた。服部を怒らせるようなことなんて、他に何一つしていない。それなのに――いつも外では女を取っ替え引っ替えしている佐藤には、信じがたいことだった。あの服部が、こんな真似をするなんて。たかが女のために?佐藤が清水に言ったのは、江川とよりを戻すようにという話だけ。確かに、江川には黙ってやったことだったが、周囲から見れば、彼は江川の名を背負って動いているように見えていたはずだ。つまり、外から見れば佐藤=宏の腹心。その自分に、ここまで手荒な真似をするというのは、江川に喧嘩を売っているようなものじゃないか?……本当に、これは清水のためだったのか?小島は無表情で佐藤を見下ろした。「鷹さんからの伝言だ。これ以上、彼の女に手を出したら、次は足一本じゃ済まない」それだけ言って、踵を返しかける。佐藤は震える腹の底を押さえつけ、咄嗟に声をかけた。「し、失礼ですが……その、清水さんと服部さんのご関係は……?」このままでは終われなかった。服部をここまで怒らせた理由を、どうしても知る必要があった。もしも、ただの愛人のためなら――多少へりくだって謝れば済む話だ。けれど、もしそれ以上の関係だとしたら……小島は立ち止まり、振り返って一言。「……どうしても娶らなきゃいけない相手だそうだ」「……え?」佐藤は一瞬、言葉を失った。だが頭はまだ辛うじて働いていた。「で、でも……たしか服部さんって、二十年以上も藤原家のご令嬢を探してたって噂が……今さらどうして清水さんを……」小島は淡々と答えた。「清水さんが、藤原家のお嬢さんだ」その言葉を聞いた瞬間――佐藤は、全身に稲妻が走ったかのような衝撃を受けた。……まさか。……あの清水南が――あの、地下駐車場で自分が見下し、侮辱した相手が、そんなとんでもない身の上だったなんて。頭の中で、さっき口にした言葉が次々と再生される。「自分を何様だと思ってんの?」「俺の前では清純ぶるとか、マジで笑わせるわ」「服部さんみたいな男が、いつまでもお前に夢中でいられるとでも?」「まさかとは思うけど、お前、自分が服部家に嫁げるとでも思ってんのか?」「まあいいさ、せいぜい夢見てろよ。
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第459話

「そんな偶然ある?」佐夜子は思わずそう漏らした。二年前、夏美は南の「藤原家のお嬢様」という肩書を騙っていた。生まれた日も、病院も、まったく同じ。一つや二つならまだしも、ここまで重なると、もはや偶然では片付けられない。佐夜子は資料を丁寧に捲りながら、眉間に皺を寄せる。タイミングよく、菅がぽつりと呟いた。「だよね……偶然にしては、ちょっと出来すぎじゃない?」「うん」ページをめくる手が止まらない。読み進めるほど、佐夜子の顔つきはどんどん険しくなっていく。ましてや――夏美には、過去に「他人の身分を騙った」前科がある。夏美のことは、確かに愛してる。心だって、全部捧げられる。でもそれはあの子が本当に自分の娘であることが、大前提だ。佐夜子の思考がそこまで至った瞬間、菅の声が少しだけ上ずった。「まさかとは思うけど……南さんのほうが本物ってこと、ないよね?」「……しっ!」佐夜子は小さく声を遮り、そっとドアの方を見やった。「でもさ、あなたが手配した親子鑑定でしょ?さすがに間違いないんじゃないの?」実の娘を取り戻せたこと、どれだけ嬉しくても、佐夜子は最後まで慎重だった。親子鑑定は三度もやった。一回は正規の病院へ、一回は国外の検査機関へ、そして最後の決定打となる一回は、菅が人脈を使って手配したものだった。その三つとも、結果はすべて「親子」だった。だからこそ、佐夜子は一夜にして夏美を心のいちばん奥に迎え入れた。夏美が欲しいと言えば、全部叶えてやった。けど――「絶対って、言い切れるの?」菅が口ごもるように言った。「……でも、絶対とは言い切れないかも」どこかの段階で、誰かが結果をすり替えた可能性も――彼女自身も、必死に考えを巡らせていた。誰かが親子鑑定の結果に手を加えたとしたら?けど、それが現実だとしたら――三つの検査機関すべてに手を回して、結果を改ざんするなんて、いったいどれだけの権力とコネが要るっていうのか。ましてや、彼女が頼んだコネが誰なのか、夏美でさえ知らないのに。いったい、どこからどうやって手を加えるっていうの?菅の呟きに、佐夜子は黙ったまま。やがて、菅が口を開いた。「ねぇ、もう一回……やり直さない?親子鑑定」「夏美と?」佐夜子
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第460話

彼女たちは表に、相手は影にいた。だからこそ、防ぎようがない。実の娘を探すということ。それは、夏美を迎え入れるまで、ずっと水面下で進めてきた極秘の事案だった。この件を知っている人間は、ごくわずか。しかも、誰もが信頼のおける人物ばかり。……それなのに。どこかの段階で、何かが漏れた。それが、相手につけ入る隙を与えてしまったのだ。佐夜子はふと、自分が南に向けてきた態度を思い出して、胸がぎゅっと締めつけられた。「もし……間違ってたら、私の本当の娘って、南さんだった可能性が高いんだよね……?」「うん、たぶんね」菅の返事は早かった。「実はさ、前から思ってたんだよ。南さん、あなたにちょっと似てない?」「……顔?」「それもそうだけど、そうじゃなくてさ」菅は目を細め、少しだけ口元を緩めた。「雰囲気。あの子の持ってる芯の強さ?若い頃のあなたみたい」佐夜子は眉を寄せた。「芯が強い……?」「そうそう。男を切るとき、全然迷わないとことか」菅は軽く笑って言った。「だって南さん、江川のこと、きっぱりバッサリ切ってるでしょ?」佐夜子は一瞬笑みを浮かべかけたが、すぐにふと何かを思い出し、苦笑に変わる。「でも、あの子は優しすぎる。……私ほど、冷たくなれない」もしあのとき、自分がもっと冷酷になれていたら。本当の娘に、あんな辛い目を、何度も味あわせずに済んだかもしれないのに。不思議だった。本当の娘が南かもしれない――そう思った途端、胸のどこかがふっと温かくなった。ほんの、少しだけ。……その頃、夏美はイヤホンをつけたまま、ドレッサーの前で固まっていた。手も、脚も、全身が小刻みに震えている。あまりにも、早すぎた。佐夜子が真実に気づくスピードは、夏美の想定より何倍も早かった。――本当の娘が南さんの可能性が高い。その言葉を聞いた瞬間、思わず手元の乳液を取り落とした。黒い丸い容器が床を転がり、部屋の隅まで転がっていって、壁にぶつかって「コツン」と音を立てて止まった。……なんで、また南なの?……どうして、いつも南ばっかり。藤原家の令嬢?今度は佐夜子の娘??……じゃあ、私は?私は一生、代わりの存在にすらなれないってこと?泥の中でもがくだけの人生しか、与えられて
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