All Chapters of 慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った: Chapter 471 - Chapter 480

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第471話

私は頷いた。「うん、そう」「そうか、わかった」鷹の声が一拍置いて、柔らかい笑みを含んだ響きで続いた。「迎えに行こうか?」さっきまでちょっとムッとしてたのに、その一言で気分はすっかり晴れた。「いいよ、自分で車出してるし。ただ、先に来依に聞いてみるね。もしかしたら店を先に見てから、そっちに向かうかも」そう言い終わると同時に、来依から電話がかかってきた。私は慌てて鷹に言った。「あ、ごめん、来依から電話。ちょっと切るね」通話に出ると、来依の明るい声が飛び込んできた。「南、もうこっち向かってる?」「今、ちょうど出るとこ」私が笑って返すと、彼女は楽しげに言った。「いっそもう一回戻って、彼氏といちゃついてきたら?」私はくすっと笑った。「どうしたの?」「さっき来たリフォーム業者、イマイチだったから次のとこ呼び直したの。今来ても、暇つぶしにしかならないよ」「了解」私はあっさり返事した。「じゃあ……お疲れさま?」「何がよ。年収も持ち株もあるんだから、みんなに嫉妬されるくらいよ」来依は笑いながらそう言ったが、急に「あっ」と声を上げた。「……南!もしかして最初から遅れてくる気だったでしょ?」私は車を発進させながら咳払いして答えた。「そういうのは言わなくていいの!」「もう!」来依はわざと怒ったふうに言った。「男ができたら友達は二の次ってわけ?そんなの許せるわけないでしょ!」「恋愛中だから、大目に見てよ~」「まったく……!」彼女は大げさにため息をついた。「やっとお昼ごはん消化できたと思ったのに、またあんたたちのラブラブ話でお腹いっぱいだよ。まったく、独り身には眩しすぎるってば!」彼女が伊賀と別れて間もない頃、私は彼女を誘って南希を立ち上げた。最初の二年は会社がまだ安定してなくて、無理に拡大するのも怖かった。彼女はほとんど身を削るように働きづめで、恋愛どころじゃなかった。今年になってようやく業績が上向き、会社の規模も拡大して、彼女も少しは余裕ができた。でも、それでも恋愛の気配はなかった。私は少し迷いながらも、思い切って尋ねた。「この二年でさ、誰かいいなって思う人いなかった?」「急にどうしたの?」来依は少し戸惑ったようだったけど、すぐに笑って続けた。「まさか、
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第472話

海人は一瞬だけぎこちなさを見せたが、すぐに表情を戻し、感情を押し隠すように淡々と答えた。「うん、完夫と一緒に来た」来依は赤のワンピースに身を包み、白磁のような肌を引き立てていた。少し気怠そうに視線を外に流しながら、言った。「佐藤さんは?」あの夜、鷹の誕生日を祝ったあとからというもの、この男は何かと理由をつけてLINEを送ってくるようになった。――このバッグ、好み?――このネックレス、似合いそうじゃない?――今度、飲みに行かない?下心なんて見え見えだった。来依も恋愛初心者じゃない。相手の視線ひとつで、何を考えてるかくらいすぐに分かる。「河崎さん」いつもは他人事には口を出さない海人が、そのときは珍しく言葉を挟んだ。「完夫は君に気がある。でも、彼は君にふさわしくない」その言葉に、来依は意外そうに眉を上げた。――「彼は君にふさわしくない」と「君は彼にふさわしくない」一見似ているようで、実際は全く意味が違う。少なくとも、来依の耳には上から目線の傲慢さは感じられなかった。思わず笑みがこぼれる。「親友のこと悪く言っちゃって、大丈夫?仲、こじれたりしない?」「君が黙ってれば、彼も気づかない」海人の声は淡々としていたが、どこか確信めいていた。別に親友の邪魔をしたいわけじゃない。ただ――男だから分かる。あいつが彼女に本気じゃないことくらい。完夫が興味あるのは、彼女の綺麗さと新鮮さだけ。それ以上でも以下でもない。さっき、あの電話を聞かなければ、こんな忠告もしなかっただろう。あの女、口では割り切ってるって言ってるけど、本当はちゃんと心がある。ちゃんと、誰かを想うことができる。来依は目尻を軽く上げて、真顔で立っている海人を見つめた。じっとりとしたその真面目さに、ふと悪戯心が湧いてくる。唇をふわりと動かしながら言った。「じゃあ、彼がふさわしくないなら……誰がふさわしいの?あなた?菊池さん」「……」眉間に皺を寄せた海人が、低く冷たい声で返す。「あんまりそういう冗談はやめてください」その物言いは、女性にとって少しばかりキツいものだった。だが、来依は全く動じない。むしろ、いたずらっぽい笑みを浮かべて、スマホをひらりと揺らした。「じゃあ、LINE交換しよ?」「……」海人の
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第473話

私は思わず拳で彼を小突いた。「そんなに恥かかせたいの!?」鷹はしばらく笑っていたが、私が本気で怒り出す前に、慌てて腰を抱き寄せた。「はいはい、もう怒らないで。いずれみんなお前のこと知るようになるしさ。。これで、服部グループに出入りするのもスムーズになるだろ?」その一言に、私はまるで毛並みを撫でられた猫みたいに、ふっと機嫌が直った。「……でも、他のやり方ってなかった?」彼は当然のように答えた。「これが一番効率的なんだよ」「……」言い返せず、気づけば彼の理屈に丸め込まれていた。「図々しい。私たち、ただ付き合ってるだけでしょ?誰があなたの奥さんだっての」「え?俺と結婚したくないんだ?」鷹は口角をほんのり上げながら、さらっと言った。「じゃあ……他の人と結婚しちゃおうかな?」「やれるもんならやってみなさいよ!」言いながら顔を上げると、目が合った。彼の瞳はきらきらと光っていて、ふと視線が下に落ちた。「……何を隠してるの?」「ドッグフード」「……」彼は鼻で笑い、不意を突いて長い腕を伸ばし、私の手から保温ボックスを奪い取った。フタを開けた瞬間、やや驚いた表情を見せる。「……南、お前、こんなに気が利くタイプだったの?」「今さら気づいた?」私はぼそっと言い返し、ソファに腰を下ろした。……確かに私は、子どもの頃とはまるで違う性格になった。鷹が驚くのも無理はない。記憶を取り戻してからというもの、私自身も何度も思った。人は経験でこんなにも変わるものなんだって。鷹は少し黙り、眉をひょいと上げた。「確かに。今さらだけど、ようやく分かった」そう言って、脚を開いたままドカッと座り、スープを真面目な顔で飲みはじめた。だけど、私は感じ取っていた。……なんだか、彼の様子が少し変だ。表面上は普段通りを装ってるけど、明らかに、何かを隠している。私は掌を握りしめながら、無理やり話題を振った。「……あの谷山って人、誰?」「部下だよ。ただの」鷹はあっさりと答えた。「気にする必要ない」私はそっと唇を噛み、「そっか」とだけ返した。言ったあと、胸の中に小さな波紋が広がったけど、それもすぐに打ち消された。スマホが鳴ったのだ。来依からの電話だった。「早く来なさ
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第474話

鷹の気配は、底冷えするように静かで重かった。こういう彼を見るのは、滅多にない。南がまだ服部グループのビルの下にいたとき、電話越しに谷山の発言について伝えたとき、鷹は眉をひそめた。――谷山が、南を知らないって?ありえない。南の身元を調べさせたとき、その一部は谷山たちに任せていた。彼女たちが把握していた情報量は、自分とほとんど変わらなかったはずだ。思考の糸をたぐるうちに、以前小島の報告が遅れ、南との間に生じた誤解が脳裏をよぎった。――本当にタイミングが悪かったのか。それとも、意図的に遅らせたのか?その件の調査は谷山に任せたものだった。裏で仕組んでいたのが小島ではないのは明らかだ。だが、谷山にしても小島にしても、もう十数年、鷹の傍にいた存在だ。……どこまで飼い慣らせば、主人の女にまで牙を剥くようになる?力を与えすぎた結果がこれか。今では、堂々と自分の女を傷つけるようになった。その言葉を耳にした瞬間、小島の中にあった確信が音を立てて固まった。一瞬の躊躇のあと、彼は覚悟を決め、口を開いた。「前回、清水さんの調査で、一部の情報の真偽がはっきりしなかったので……その部分を、あえて報告しませんでした」なぜ今この話を蒸し返されたのかは分からなかった。だが、それでも彼は谷山のために、その責任を被ると決めた。何より、一度関係を持った相手だった。谷山は誇り高い人間だ。もし鷹に彼女の意図的な行動が知られれば、間違いなく、彼女は終わる。彼らがどれだけ失敗を重ねても、鷹の下で唯一許されないことがある。それが「忠誠心の欠如」だった。鷹の目は、さらに冷えた。その言葉を一文字たりとも信じていないのが明らかだった。そして、もはや手加減するつもりもないという風に、淡々と尋ねた。「なぜ俺が、お前が谷山を好いてるのを知ってて、あえて二人を同じ仕事に就けたと思う?」「鷹さん……」小島の心臓が跳ねた。――まさか、あの想いが、すべて見透かされていたなんて。けれど、否定の言葉は出てこなかった。室内は冷房が効いているのに、彼の額からは冷や汗が滲み出ていた。外では「小島社長」と呼ばれる男が、今、膝をついて頭を垂れている。「鷹さん……すみません。俺が……」――谷山のために、何度も嘘をついてしま
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第475話

「鷹さんは何も問題がない」「本当に?」「ああ」「それなら不思議だわ」心美は首を傾げた。「さっき鷹さんから電話があったけど、なんだか声の様子が変だったの。今どこにいるの?」「……服部グループ」「出張中じゃなかった?なんで予定より早く戻ってきたの?」問いかけたかと思えば、心美の声色が一変した。「……まさか、鷹さんにチクったんじゃないでしょうね?あの件、私がわざとやったって」「……」小島は言葉に詰まり、冷や汗が背をつたった。できるだけのことはしたつもりだった。心美が何か続きを言おうとしたところで、通話は無情にも切られた。心美は足早に社長室へと向かい、ノックして中に入ると、目に飛び込んできたのは、床に膝をつく小島の姿だった。心の中に、ずしんと重いものが沈んだ。鷹はデスクにもたれ、視線だけを向けてきたが、何も言わなかった。ただ、冷ややかな声で命じた。「SZグループの北欧支社に副社長のポストが空いてる。手元の業務を整理して、なるべく早く向かえ」足元が崩れそうになった。北欧行き、それは見せかけの昇進であり、実際は側近からの左遷を意味する。心美は一瞬、呆然とした。黒縁メガネの奥の目が赤く染まり、ようやく声を絞り出した。「私を追い出すの……?どうして……?」たった一度、あの女と対立したから?昼にちょっと嫌味を言っただけで、こんな仕打ちを受けるなんて――鷹の顔に変化はない。その声音だけが、さらに冷え込んだ。「俺の周りに、分別のない人間は必要ない」「私が……」心美は唇を噛んだ。血の味が口の中に広がる。長年、鷹の側で評価を受け、他人からも羨望と称賛を受けてきた。こんな風に、誰の前でもなく恥をかかされるなんて初めてだった。身体中に寒気が走る。もう気丈な態度なんて保てなかった。彼女は仮面をかなぐり捨て、素の声をぶつけた。「私が何をしたっていうのですか!?」小島が焦ったように立ち上がり、慌てて止めに入ろうとする。けれど心美は力強く彼の手を振り払い、鷹に向き直った。「鷹さん、こんなにも長くあなたのそばにいたのに……たった数言で、全部なかったことにされるんですか?」その目から涙があふれた。だが鷹に情けをかける気などない。彼は冷たい笑みを浮かべ、淡々と言った。
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第476話

それが今は北欧に飛ばされるだけで済み、まだSZの人間であり、鷹の部下の一人として扱われている。それだけでも十分すぎるほどの情けだった。鷹は否定せずに言った。「まだ出ていかないのか?」「出ていく……?」小島は混乱した様子だった。鷹が心美を罰したのはわかる。だが、自分はまだ何も言われていない。その視線が刺さる。「二度はない。次やったら、俺が言う前に自分から辞めろ」「はい、ありがとうございます、鷹さん!」小島は命拾いしたように立ち上がり、顔を輝かせて言った。「ご安心ください。もう二度と鷹さんの信頼を裏切りません」鷹は軽く手を上げた。「行け」小島は慌てて外へと駆け出す。ちょうど心美が車のエンジンをかけたところだった。窓が下がると、小島は身をかがめて窓枠をつかんだ。「谷山、少しだけ話をさせてくれ」心美は顔を背け、涙を拭いながら言った。「また『あの時俺の忠告を聞いていればよかった』って言いたいなら、やめて」「違う」小島は窓越しに彼女を見据えた。「もう他の誰とも寝ない。君が帰ってくるまで待つ」鷹の側には戻れない。だが、もし実力を証明できて、過ちを繰り返さなければ、国内に戻る道はまだ残っていた。心美は冷ややかに笑った。「待つ?本当に想ってるなら、自分から北欧に来ればいいじゃない」小島は眉をひそめた。「鷹さんのそばに、俺がいないと困る」……その夜、来依はクライアントとの飲み会があった。私は家の前まで送ってもらい、一人で帰宅した。階段を上がると、ドアの前に一人の中年女性が立っていた。両手には大きなエコバッグを提げていて、中には果物や肉、卵などがぎっしり詰まっている。彼女は私に気づくと、ぱっと笑顔になって近づいてきた。「清水さんですね?」「はい、そうですが……」私は戸惑いながら答えた。「失礼ですが、どちらさまですか?」「高橋と申します。若様に頼まれて、お世話に参りました」丸みのある顔立ちの彼女が、やわらかい口調で続けた。「できるだけご迷惑にならないようにします。お食事と掃除だけ済ませたら、すぐに帰りますので」やっと状況が飲み込めた。「……鷹が、あなたを?」「ええ、そうなんですよ」高橋はにこやかにうなずいた。「若様は清水
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第477話

男の言葉は、電流のように耳元から胸の奥へとしみ込んでいった。私は長く息を吐いて、ようやく気づいた。昼間、彼の雰囲気が変わった理由が。鷹は私の安堵した様子に気づき、「なんでため息ついてるんだ?」と尋ねた。「聞かないでよ」私は彼の腰をつまんで、ぷいとそっぽを向いた。「昼、スープ飲んでるときにさ、急に空気変わったから、びっくりしたんだってば」鷹は少しきょとんとして、それから低く聞いた。「なんでその時に聞かなかったんだ?」「……」私は手のひらを握りしめながら、ぽつりと口を開いた。「怖かったんだよ、鷹。たぶん私、ちゃんと何かを手にしたことがなくて。だから……失うのが怖かった」言い終えると、彼の大きな手が私の頭にぽんとのって、優しく撫でてきた。体を少し傾けて目を合わせると、その瞳はまぶしいほど真っ直ぐで、どこまでも優しかった。「ゆっくりでいいんだ、南。俺はまだ三十だ。長生きできなくても、四十年、五十年は一緒にいられる」「その時間があれば、これまでの後悔を埋められるし、お前にちゃんと伝えられる。お前が、ほんとうに俺を手に入れたって思えるように」「俺という人間を、心も身体も、ぜんぶ――お前のもんにする」ただでさえ優しく響く言葉が、彼の口から出るとどこか色気を帯びて、甘く絡みついてきた。彼の顔が近づいてくる。その息づかいが肌を撫でるように届いて、私の頬も耳も首筋も、じわりと熱を帯びていく。こんなふうに見つめられたら、心臓の音がバレそうだった。私はあわてて彼の手を払って、「だ、誰があんたの身体なんか欲しがるのよ、エロ……!」「どうしてそれでエロになるんだ?」鷹はおかしそうに笑いながらじりじりと詰め寄ってきて、私がもう後ろに下がれなくなったところで、ひょいと身をかがめ、私の太ももを抱えて、するりと玄関の棚の上に座らせた。一歩踏み出して私の脚の間に立ち、顔を覗き込むようにして言った。「南、これがエロってやつだろ?」「え、ちょ、ん……!」私が口を開いた瞬間、彼は一気に唇を塞いできた。びくっと肩が震えて、慌てて押し返す。「な、なにしてんのよ!高橋さん、いるかもしれないでしょ!」「もう帰ったよ」掠れた声でそう答えた彼は、言葉の終わりと同時に、ふたたび熱を帯びた唇を落としてきた。もう夕方だっ
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第478話

「もっと?」鷹が横目で私を見た。「不満?」「別に」そう言って、鷹はにやっと笑う。「でもさ、いつになったらピークに達するんだ?」私は唇をゆるめた。「それはあなた次第。頑張ってね」「頑張る?じゃあ今すぐ、身体で証明してやるよ」鷹の手が太ももの付け根にすべり込んできて、何かに触れた途端、彼は小さく舌打ちした。「……なあ、お前の生理、まだ終わってないの?」顔が一気に熱くなって、私は彼の手をぴしゃっと払った。「七日って言ったじゃん!そんなすぐ終わったら、病院行きでしょ!」「……」鷹はゆっくり目を閉じ、観念したように私を抱き上げ、ダイニングへと向かった。「腹減った」高橋さんがすでに食事を用意してくれていて、三品のおかずとスープがテーブルに並んでいた。料理を見た瞬間、目が輝いた。「これ……全部、私の好きなやつ?」夏になると、私は食欲がなくなる。昔、佐藤さんが作るご飯は私の好みに合ってなかったから、ますます食べる量が減って、自然とダイエットになることも多かった。「俺、頑張ってるだろ?」鷹が得意げに言う。「頑張ってる!」私はうれしくて、青豆とスペアリブのスープを二杯よそい、勢いよく食べ始めた。――これが、偏愛ってやつか。彼はいつだって、私の気持ちや感情、そして必要としていることを真っ先に考えてくれる。ピンポーン――突然、チャイムが鳴った。立ち上がろうとすると、鷹が肩を押さえた。「ゆっくり食べてて。俺が出る」ドアが開いた瞬間、怜太が勢いよく飛び込んできた。「鷹さーん!!」口では鷹を呼びながら、まっすぐ私のもとへ駆け寄ってくる。「鈴さん!怜太、会いたかったの!」その様子を見て、鷹は口角を引きつらせながら、後ろに立っている男に目を向けた。「香織には連絡した?」「してない」京極律夫が淡々と答えたあと、こう続けた。「香織が今泊まってるホテルの部屋番号、教えてもらえないか」「自分で聞けよ」鷹は眉をひそめる。普段、経済紙でクールな印象しかない律夫が、少し困ったようにため息をつく。「君も知ってるだろ。彼女は俺にそんなこと教えない」鷹は玄関の靴箱にもたれかかり、淡々と告げた。「彼女を探す前に、自分の浮いた噂の相手、片付けたらどうだ?
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第479話

着陸すると、律夫はすぐさまタクシーを拾い、香織が滞在しているホテルへと向かった。隣の部屋に荷物を置いたあと、本当は少し仮眠でも取って、朝になってから改めて話そうと思っていた。……だが、どうにも胸のざわつきが収まらない。ベッドに入っても目は冴えたまま、眠れる気配などまるでなかった。観念して起き上がると、隣の部屋のドアをノックする。静まり返った廊下に、ノックの音がやけに大きく響いた。香織は寝起きが悪いうえに、慣れない異国の地での宿泊だ。真夜中に突然のノックなど、恐怖すら覚えたのだろう。ドア越しにおそるおそる声をかけてきた。「……誰?」「俺だ」律夫の低い声が返る。短い沈黙のあと、ドアがゆっくり開いた。眠そうな目をこすりながら香織が顔を覗かせる。半信半疑のような顔つきで、「……律夫?なんでここに……?」普段は艶やかな彼女の顔も、寝起きとあってどこかぼんやりしている。丸みのある肩にはキャミソールの肩紐が一本だけかかっており、もう片方は寝ているうちに外れたのか、腕の上でだらしなく垂れていた。律夫は無言で手を伸ばし、その肩紐をそっと肩にかけ直した。「またキャミソールか」「……」一瞬で眠気が吹き飛んだ香織は、眉を吊り上げてにらみつけた。「は?バカじゃないの?わざわざ大阪から飛んできて、私が何着て寝てるか見に来たわけ?あんたさ、自分が何様か分かってる?もう離婚したんだけど!他人でしょ!」怒り心頭の香織を前に、律夫は淡々と首を横に振った。「違う。モデルの件を説明したくて来た」香織はふっと笑った。「モデル?どの?」彼と噂になったモデルなんて、数えきれないほどいた。直近で報道されたのは、あの海外でも有名なスーパーモデルだ。律夫は部屋の中にちらりと視線を向けた。「中に入っていいか?」「……」香織は無言のまま体をずらして通してやると、わざとらしく口にした。「声は小さめにね。彼氏、まだ寝てるから」律夫の動きが一瞬止まった。視線は香織の背後、がらんとしたベッドへ。めったに表情を変えない彼が、珍しく顔に影を落とす。「……香織、俺を煽りたいなら、もう少しマシな男を選べ」「マシ?」その言い草に、香織の怒りは再燃する。「年上だからって、私の人生に口出ししてくるのや
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第480話

その一言のあと、男の手の力が強まった。掌の熱が手首の肌をじりじりと焦がすようで、焼けつくように熱い。律夫はすでにスーツを身に着けていた。グレーのストライプが落ち着いた印象を与え、さっきまでのベッド上の色気は微塵も残っていない。そしてまるで会議中のような口調で、まじめに言った。「香織、緊急避妊薬はホルモンバランスを崩す。身体に良くない」香織は思わず吹き出した。「妊娠して中絶するほうがもっと悪いって、知らないわけ?」「妊娠したなら、産めばいい」「……は?」呆れたように彼を見つめる。「なにそれ、正気?離婚した相手に子ども産めとか、ふざけてんの?」鼻で笑ってから、ぴしゃりと言い放つ。「いいよ、産んであげても。京極グループの株、30%くれるならね」彼がグループの株を60%持っていることは知っていた。子どもひとりで、その半分を手に入れることになる。吹っかけた数字ではあったが、香織は微塵も怯まず、堂々としたものだった。律夫はわずかに眉を寄せた。「香織。不動産で同等額のものなら出せる。でも株は……絡んでくるものが多すぎる」財閥にとって30%の株は重すぎる。1%を動かすのだって、簡単じゃない。律夫が京極家を継いでからというもの、最優先されるのは常に「家」の利益だった。それ以外のことも人も、すべてはその後だ。彼が背負っているのは、もはや自分ひとりの人生じゃない。だからこそ、一歩たりとも踏み外すことは許されなかった。香織は薄く笑った。その笑みには、わずかな失望が滲んでいた。「私、服部家の娘よ?まさか本気で、お金に目がくらんだって思ってる?」彼女は生まれながらの令嬢で、いつだって思い通りに生きてきた。恋愛においては、極めて理想主義者だ。だからこそ、政略結婚を受け入れながら、離婚も選んだ。彼女が望んだのは、100%全てを委ねられる愛。けれど律夫は、それを与えられなかった。彼は、自分以外の誰のことも信じない男だ。彼の警戒は、香織にとっては到底受け入れられないものだった。「じゃあ何が欲しいんだ?やっぱり株か?」律夫の問いに、香織は黙っていた。株なんかじゃない。欲しかったのは、信じてくれることだった。けれど、彼に言っても無駄だとわかっていた。香織は手首
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