「お嬢ちゃん、一つどう?」屋台のおばちゃんは手際よく作業しながら、綿に声をかけた。「こんなに可愛い子に、彼氏さんもイケメンだね!」綿は輝明と視線を交わした。綿は首を横に振り、断ろうとしたところだった。すると、輝明が先に言った。「二つください」綿は輝明をじっと見つめた。……は?輝明は綿に向かって言った。「俺も別に買うつもりなかったけどさ、彼氏だって言われたら、無下にできないだろ?こんな見る目のある人に言われたら、応援するしかないよな」おばちゃんはゲラゲラと笑った。綿は唇を引き結び、口を動かしたものの、すぐには言葉が出なかった。おばちゃんが続けた。「ほら、やっぱり当たってたじゃない。もし旦那さんって言ってたら、この屋台ごと買い占められちゃってたかもね?」輝明はうなずいた。「そのつもりでしたけど、さすがにそれはご迷惑ですよね」おばちゃんは大声で笑いながら、「見たことない顔だね。学校の生徒じゃないでしょ?」と訊いた。綿は首をかしげた。「そんなの分かるんですか?」「そりゃ分かるよ。よく来る子たちは顔覚えちゃうし。それに、二人とも雰囲気が学生っぽくないもん」おばちゃんは手を動かしながら、軽口を叩き続けた。横でおじさんが「おいおい、早く作れよ、人を引き留めるな」なんて催促していた。おばちゃんは飄々と笑って、「いいじゃない、どうせ待つなら話してた方が楽しいでしょ?」まったく気取らない、自由な人だった。その間にも他のお客さんが次々やってきて、輝明は綿の方に少し寄り、二人並んで立った。それを見たおばちゃんがまた言った。「まるで知的で上品な大学教授夫婦みたいだね」ここにいる普通の人たちは、彼らがどんな存在かなんて知る由もなかった。たとえ輝明と綿がどんなにすごい人間だったとしても、日常では普通に稼がなきゃいけない。輝明は普段、もっと格式ばった言葉を聞き慣れていたため、こんな素朴な言葉に少し戸惑っていた。「できたよー!」おばちゃんが二人に品物を手渡した。輝明は礼を言った。「また来てね!」おばちゃんは元気よく声をかけた。綿は頷きながら、「でも私たち、カップルじゃないんです」と一言付け加えた。謝られるかと思いきや、おばちゃんは笑いながら、「お
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