All Chapters of 奥様が去った後、妊娠報告書を見つけた葉野社長は泣き狂った: Chapter 161 - Chapter 170

受付の女性は、これまで海咲に対して良い印象しか持っていなかった。人当たりもよく、争わず、穏やかな性格で、今目の前で罵られているような人物とは思えなかった。むしろ、目の前で騒いでいる莉花のほうがよほど非常識で、目的のためには手段を選ばないタイプに見えた。受付は、警備員に声をかけてこの人たちを外に出そうかと考えていた。ちょうどその時、記者のマークが貼られた車が通りかかった。ビルの正面には清掃作業中の作業員たちの姿もある。この記者たちは社会派のメディアで、現場の声を拾うために来ているのだ。彼らにこの様子を見られるわけにはいかない――会社のイメージに関わる。だから、強引に排除することも

海咲が一階へと降りてくると、すぐに目に入ったのは――大勢の記者がビルの正面でインタビューを行っており、カメラの前では莉花たちが涙ながらに悲劇を訴えていた。素は目を真っ赤に腫らしながら、マイクに向かって語った。「皆さんのご支援に感謝しています。きっと、公正な判断が下されるはずです！」「どんな公正だっていうの？」冷たい声と共に、海咲が姿を現した。表情には一切の迷いもなかった。「人前でちょっと泣いたら、私が怖気づくとでも思った？それで私が思い通りに動くと？」その場の空気が一変した。莉花たちは一斉に海咲の方を振り向いた。彼女の姿を見た莉花は、待ってましたとばかりに、さらに大げさに泣き

その時、遠くから怒りに満ちた男の声が響いた。英理が車椅子を押して現れ、その上には海咲の父――兆が座っていた。顔は怒りで赤く染まり、瞳は莉花を真っ直ぐに睨みつけていた。海咲は驚きの表情を浮かべた。「お父さん……どうしてここに？」莉花は、まさか兆が現れるとは思っていなかった。彼女にとっては海咲を攻撃することが全てだった。その突破口さえ掴めれば、金を引き出すのは容易いと信じていたのだ。だが、兆の姿を目にした瞬間――顔から血の気が引き、声を失った。「に、義兄さん……」兆の顔は険しく、声には一切の温情も残っていなかった。「よくも……俺の娘をここまで貶めてくれたな、莉花。お前のことを、た

あの後ろ姿が、ある人にとても似ていた。彼女はすぐに断定することができず、ただその人の顔を確かめたくて近づこうとした。道路の縁まで来たとき、ちょうど誰かに手を引っ張られた。「海咲ちゃん、お願い、今回だけ許して。おばさん、もう二度と傷つけるようなことはしないって誓う。悪かったって、ちゃんとわかってるのよ！」莉花は警察に連れて行かれるのを恐れていた。もし捕まれば、下手すれば刑務所行きだ。海咲に許してもらえれば、そんな事態にはならないかもしれない。だから、必死にすがるしかなかった。「離して」海咲はその人を追いかけたかった。だが、その人はどんどん遠ざかっていく。彼女は莉花の手を振りほどこうと

淑子は鼻で笑った。「私は息子のためを思ってるからに決まってるでしょ？うちの息子があんたの娘と結婚して、何の得があるのよ？結局は、あなたたちの後始末をさせられてるだけじゃないの。温井家って、本当に州平の足を引っ張ることしかできないのね！」さらに冷笑を浮かべて、容赦なく言葉を続けた。「今さら親子の情でもあるみたいな顔しちゃってさ。娘を売り飛ばしたときは、嬉しそうにしてたくせに！」「やめて！」海咲が鋭く声を上げて、淑子の言葉を遮った。その顔は冷えきっていた。彼女にはわかっていた。あの二億円の存在が、淑子が自分を軽蔑する理由なのだと。でも、たとえそれがなかったとしても、自分が葉野家に嫁