All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1041 - Chapter 1050

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第1041話

琴音は理仁と唯花に非常に興味を示した。「私も結城さんの奥さんとお知り合いになる機会があったらいいんですけど」彼女は理仁の噂は聞いたことがあったが、本人とは会う機会がなかったのだ。あの結城理仁を落とした女性だから、琴音はその人はきっと他の女性よりも優れた魅力的な人物なのだろうと思ったのだ。結城家の若奥様に男を落とすテクニックを学ばせてもらえばいい。今年二十八歳の琴音は今はまだ独身だった。彼女は十九歳の時にある人を好きになったことがあるが、その恋は実らなかった。その後は一族の会社で働き始め、あまりの忙しさに今に至るまで彼氏も作っていなかったのだ。美乃里は意図的に彼女と隼翔をくっつけようと思っている。東家と樋口家の両家ともそれに賛成意見だ。琴音は隼翔の過去もよく知っていて、以前危険なグループに混ざっていたことも受け入れることができる。それに彼の顔にくっきりと残っている傷痕ですら気にしていなかった。彼女は彼に好きになってもらえたら、絶対にその傷を消す手術を受けてもらおうと考えていた。その傷がなくなれば、生まれつきのイケメンに戻るのだから。琴音の話を聞いて、美乃里は笑って言った。「その機会ならいくらでもあるわ。理仁君は隼翔とは親友なのですから」ここまで話すと、美乃里は声を低くして琴音に言った。「内海唯花は一般家庭の出身だけど、理仁君の妻であることはもう変わらないわ。今後、琴音ちゃんもあの子と知り合いになって、交流を深めておいたほうがいいわね」美乃里は気高くプライドの高い強気な女性である樋口琴音が唯花を気に入ることはないと心配していた。しかし、唯花は結城理仁が目に入れても痛くないほど溺愛している女性だ。また、理仁は隼翔とは親友だから、もし琴音が隼翔と一緒になれば、その理仁の周りとは溶け込んでいかなければならないのだ。もし琴音が唯花を気に入らず仲良くできなければ、理仁の怒りを買ってしまい、理仁と隼翔の関係に亀裂が入ってしまうかもしれない。美乃里も琴音のせいで理仁と隼翔の関係が悪化するのは望んでいないのだ。星城において、理仁と心が通じ合う本当の友人は彼女の息子と九条悟しかいないのだ。琴音は微笑んで言った。「おば様、わかりました。英雄たるや、その出身や来歴などは関係ないもの。内海さんが結城家の若奥様という立場になれたのも、それは彼女の実
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第1042話

理仁「……俺がいつ明日琴ヶ丘邸でバーベキューをするなどと言った?」バーベキューをするのにわざわざ琴ヶ丘邸にまで行く必要とは?「それから、イカとラム肉と、でっかいエビもな。まあ、何にしろお前が焼いてくれたやつならなんだって好きなんだが」隼翔はまるで理仁の話など聞こえていないかのように、完全にスルーし、ただ一人で食べ物の話を続けていた。理仁は隼翔がそこまで話した後、すぐに電話を切ってしまった。しかし、隼翔の話を聞いて、新たな考えが浮かんできた。明日は日曜日で仕事をする必要はない。彼も唯花を連れて琴ヶ丘邸に帰っていなかったので、隼翔が言った通り、何人か親友たちを誘ってそこでバーベキューをするのもアリだと思ったのだった。琴ヶ丘にはバーベキュー専用の場所もある。唯花を連れて数日そっちに泊まり、あちらの環境に彼女に慣れてもらうのもいいだろう。琴ヶ丘の美しい景色を見れば、唯花の気分も良くなるかもしれない。そう考え、理仁は隼翔にメッセージを送った。「わかった、悟にも話しておいてくれ。あいつに、もし弦さんも時間があれば、一緒に来てほしいと伝えてくれないか」隼翔は親友からの返事を受け取り、ホッと胸をなでおろした。あやうく嘘がばれてしまうところだった。しかし、理仁が相手にしてくれなかったとしても、彼は明日は理仁のところに行くつもりだった。一日彼のところでぼけっとしていようと思っていたのだ。そのメッセージを受けて、隼翔は快諾した。理仁はメッセージを送った後、キッチンから出てきてベランダに行った。唯花は彼の方を見て尋ねた。「夜ご飯、もうできたの?」「もうすぐだよ。お腹が空いた?スープはできてるから、先に飲む?」「ううん、お腹空いてない。なんだか食欲があまりなくて」生まれ故郷に帰って、田舎の景色を見ると感情が沸き起こってきたのだ。昔のことを思い出し、思わず涙が零れだして止まらなかった。そこから離れても、まだ昔の記憶に浸っていたのだ。理仁は屈んで唯花と目線を合わせた。そして優しく彼女の顔に触れて、愛おしそうにこう言った。「明日、一緒に琴ヶ丘邸に帰って数日あそこで過ごそうよ。あそこは景色が良いんだ。大自然の美しさがそのまま残ってる場所だ。琴ヶ丘は人工的に作られた場所だけど、数十年かけて自然の景色に溶け込んでしまってるんだ。今は春で花が
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第1043話

唯花は去年の年末に訪れた結城家の屋敷は、長い間誰も住んでいなかった家だということを知っていた。彼女を騙すために昔祖先が暮らしていた家を掃除して生活感を出すために唯花たちが来る前人を住まわせておいたのだった。そこまでして騙すとは本当にご苦労なことで!理仁は愛おしそうに返事をした。「うん、そうしよう。どうせあそこは俺たちの家なんだし、いつだって帰ることができる、あそこに住みたければいつまでも住んでいいんだからさ」唯花は彼がつけているエプロンを外そうとしてこう言った。「私がご飯作るわ」「いいよ、あと二つ作ったら終わりだから。君はここで花を観賞しながらゆっくりしてて。俺が作るよ」理仁は彼女をキッチンに行かせないよう引き留めた。この時、唯花のほうから彼の顔にキスをした。理仁は彼女のほうからキスをされて嬉しくて、そこに咲く花のように顔をパッと明るくさせた。そしてルンルンとキッチンに戻り料理の続きを始めた。「理仁」唯花は彼が名前でこう呼ばれるのが好きなので、家の中ではこう呼んで彼を喜ばせてあげようと思った。「バーベキューなら、九条さんと東社長だけだと人が少ないんじゃない?桐生善さんも誘ったらどう?明凛と姫華を誘ってみるわ。お姉ちゃんにも来るかどうか聞いてみるわね」理仁の声がキッチンから聞こえてきた。「わかった、後で善君に電話して明日一緒にバーベキューしようって誘ってみるよ」そして、唯花は先に姉に電話をした。姉が電話に出ると「お姉ちゃん、ご飯食べた?」と尋ねた。「今食べてるところよ、今はお店にいるの」「お店にまだいると思ってたわ」田舎から帰ってきてから、まだ午後四時だったから、姉は今忙しい時期なので数時間でも時間を無駄にしたくないだろうと思っていたのだ。唯月は笑って妹に尋ねた。「あなたは結城さんともうご飯食べたの?」「今彼がご飯を作ってるところ。お姉ちゃん、私と理仁さんは明日彼の実家に行くの。友達数人誘ってバーベキューするんだけど、お姉ちゃんと陽ちゃんも一緒に行かない?」それを聞いて唯月はすぐに返事した。「お姉ちゃんはまだ他にやることがあるからね。明後日オープンでしょ、もう準備は整っているけど、まだまだやることがあるかなって。だけど、結城さんの実家でしょ、私もまだ行ったことがないし、ちょっと挨拶に伺いたい気
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第1044話

「パパが僕をこうえんにつれてってくれたんだよ」唯花は尋ねた。「パパはもう帰った?」「帰ったよ。パパがね、明日また僕をあそびにつれてってくれるんだって。僕、どうぶつえんに行きたいって言ったら、つれてってくれるって。おばたんも明日僕といっしょに行く?」俊介が少しの間陽を連れて遊びに行くと、陽はとても喜んでいた。今や父親と交流を深めたことで、パパ、パパとひたすら嬉しそうに話している。唯花は笑って言った。「おばちゃんはね、明日バーベキューに行くのよ。ママも一緒に行くから、陽ちゃんも来る?」陽は全く悩まず「行く。じゃ、パパとどうぶつえんはまた今度にする」と即答した。叔母と甥っ子は質問しては答え、を繰り返してとても楽しそうにおしゃべりを続けた。そして暫くしてから、唯花は電話を切って、明凛と姫華に電話をし、二人に明日琴ヶ丘へ行く約束を取り付けた。プチドライブ旅行といったところだ。琴ヶ丘はとても綺麗なところで、観光地のようなところだと聞いている。もちろん、誰でもそこに遊びに行けるというわけではない。「唯花、ご飯だよ」理仁は残り二つの料理を作り終え、キッチンから運んできて食卓に並べた。そしてベランダのほうへ向かって唯花を呼んだ。唯花は急いで姫華との通話を終わらせると、返事をしながら理仁のほうへ体を向けて部屋に入った。彼女は食卓まで来ると、そこには彼女の好物であるエビがあった。手を伸ばして一つ掴むと、それを口の中に放り込んだ。「エビの殻剥いてあるのね」「うん、ちょっと時間がかかったけどね」唯花がまた手を伸ばして料理を取ろうとした時、理仁が軽く彼女の手を叩いた。「大人なのに、手掴みで食べるなんて」唯花はケラケラと笑って、またエビを一つ捕まえるとそれを口の中へと入れ、それからキッチンに食器を取りに行った。夫婦が座って食事を始めようとした瞬間、玄関のドアの音が聞こえた。おばあさんが帰ってきたのだ。部屋に入るとすぐに香ばしい匂いが漂ってきて、おばあさんはダイニングに歩いてきながら尋ねた。「ご飯?誰が作ったの?美味しそうだわ!」おばあさんは自分でキッチンへと向かい食器を取ってきて「ナイスタイミングで帰ってきたわね、私」とまだ話し続けていた。「おばあちゃん、お帰りなさい」唯花はおばあさんのために椅子を引いてあげてか
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第1045話

理仁はどうしようもなく、ただ二人の女性を見つめていた。唯花の笑いが収まってから、彼は「唯花、さあ、スープを飲んで」と言った。唯花はそれを聞いてホッとした感じで「良かったわー、さっき先にスープ飲んでなくて。先に飲んでたら笑いで噴き出してたところよ」と言った。「ささ、ご飯、ご飯」おばあさんは笑いながら、好きな料理を箸でつまんで一口食べてみた。すると眉をひそめて「唯花ちゃん、これはあなたが作ったものじゃないわね?前と味が違うもの」と尋ねた。「美味しくないか?」理仁は尋ねた。「もし、美味しくないなら、今すぐ奏汰に電話して、ばあちゃんをうちのホテルのレストランに連れて行ってもらおう。そこなら山の幸、海の幸、美味いものがなんだってあるからな。どうせ俺と唯花さんの家の料理はばあちゃんの口には合わないようだしな」「そんな言い方をするってことは、絶対に理仁、あなたが作ったのね」おばあさんはまた何事もなかったかのように引き続き料理をつまんで食べ始めた。食べながら唯花に言った。「唯花ちゃん、理仁の料理の腕は全然上達していないみたいね。この子にもっと作らせて腕を磨かせてちょうだい。週末はこの子に一日三食全部作ってもらうのよ。たくさん作っていれば、きっと今よりはマシになることでしょう」理仁は不機嫌そうに「ばあちゃん、文句言いながら、なんで箸が止まらないんだよ」と言った。「あなた、以前は全く料理なんてしてなかったじゃないの。もし唯花ちゃんがいなければ、おばあちゃんだってあなたの料理を味わえなかったわ。このせっかくの機会にたくさん食べておかないと。もちろん五つ星ホテルのシェフほどの腕はないけれど、食べられるレベルだもの。食べたって死ぬわけじゃないし」理仁「……」「おばあちゃん、私たち明日バーベキューに行くのよ」この時、唯花が祖母と孫の小競り合いを止めさせるため、話題を変えた。「あなた達若者だけで楽しんでいらっしゃい。私はもう年取って歯もないんだから、バーベキューで食べられるものはないでしょ?」おばあさんはお邪魔虫になりたくないのだった。それに、彼女は今四番目の孫である拓真の結婚相手を探すことに忙しいのだから、そんな暇などない。ああ、結城家には恋人すらいない罪人が多すぎる。彼らを救ってくれる女神を見つけるのに一苦労なのだ。「琴
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第1046話

彼はやつれて胃の調子を悪くし、唯花がその彼の姿を心配したことから夫婦の仲が改善したのだ。こうして彼が自分の正体を彼女に黙っていて隠していた件がうやむやになって消えていったのだった。この時、唯花が部屋から出てきた。彼女はすでにコートを羽織り、理仁にも持って来てくれていた。「今夜は風が強いから、春になったといってもまだ冬の寒さが残ってるし、コートを着てから出かけましょう」唯花は近づいてきて、優しく理仁にコートを羽織らせてあげた。すると理仁は満面の笑みになっていた。おばあさんはその馬鹿孫を見ないように、顔を背けた。夫婦は手を繋ぎ、散歩に出かけていった。……一方その頃、佐々木家が借りているマンションでは。玄関の開く音が聞こえて、佐々木母は出迎えにいった。入ってきたのがやはり息子であるのを見て、とても気になった様子で尋ねた。「どうだった?店は開いてた?唯月は陽ちゃんを連れてどこに行ったんだい?もしかして、私がしょっちゅう邪魔しに行くもんだから、陽ちゃんを連れてどこかに隠れちゃったんじゃ?」佐々木母は息子と成瀬莉奈が別れて、唯月と復縁することを期待している。しかし、心の中ではその希望はかすかであるとわかっているから、孫が彼女の元からいなくなってしまうことを恐れているのだった。もし、唯月が陽を連れてどこか雲隠れしてしまったら、彼らは一体どこを探せばいいのだ?俊介がまずは小声で尋ねた。「母さん、莉奈は今いるのか?」「外にご飯を買いに行ったよ。あの子に食事の支度をするように命令したけどさ、冷蔵庫の中に食材が少ないからって言って、外に出て何か適当に買ってくるって。全く全然家計を気にして生活することができやしない子だよ。あんた達二人とも仕事がなくて、収入源も断たれてるってのに、あの子はちっとも節約しようとしないんだね」佐々木母は新しい嫁のことが相当気に食わない様子だった。俊介はホッとして家に入り、まずはキッチンを見に行った。冷蔵庫の中には野菜と卵が三つしかなかった。ああ、確かに食材が少なすぎる。「なあ、母さんも父さんも家で何もすることがないだろう。スーパーに買い物に行ったりしないし。毎日毎日野菜と卵ばっかりで、俺ですら耐えらなくてうんざりなんだよ。莉奈ならなおさらだろう」俊介の両親が料理する時は、いつも野菜炒めにゆで卵三
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第1047話

俊介はソファに腰かけ、少しの間黙っていてから口を開いた。「あの東ってやつ、唯月に気があるっぽい」「っぽいんじゃなくて、本当に唯月にアプローチしてるんだよ。もし、気がないんなら、いつもいつも唯月の店に行ってどうするのよ?」佐々木母は息子がその件を出してきたのをチャンスと思い、こう言った。「俊介、唯月も店を開いたでしょ。お弁当屋さんよ、あの子の料理の腕なら、きっと商売繁盛するに決まってる。しかも彼女はとても真面目にコツコツ生活できる女性よ。今もダイエットしてさ、以前のようなデブじゃなくなったし、あの東社長のような大物ですらあの子に興味持ってんのよ。つまり、唯月の株は上がってんの。特にあの子の親戚はすっごいお家ばかりじゃないの。唯花が結城家の若奥様っていうだけじゃなく、あの超金持ちの伯母もすっごいじゃない。お母さんね、いろんな人に聞いたけど、神崎夫人は神崎家で今でも発言権を持っているらしいのよ。あんたと唯月が復縁すれば、神崎家の後ろ盾にしろ結城家のにしろ、あんたにとって、一気に飛躍できる材料がそこに揃うことになるわ。そしたらあんたは自分の会社を作って、社長になればいいの。こんなの絶対に手に入らない絶好のチャンスじゃないの」佐々木母はあまりに良い方向に考えすぎていた。「成瀬って子、ただの愛人ならまだいいけどね。若くて綺麗でセクシーだしね。だけどさ、奥さんとなると話は別ね。まったくダメ。あの子見てごらん、毎日毎日昼間はいつも出かけて夜になってやっと帰ってくるのよ。家事もしないし、こんなていたらくな女、ただ金を散々するだけの厄介もんだよ。毎日外で一体何やってることやらね。仕事探してるわけもあるまいし、毎日あんなに綺麗におめかしして出かけてさ。俊介、気をつけないとあんた浮気されるわよ。あの時お母さんはあんたに注意したでしょ。結婚して一緒に暮らすには唯月のほうなんだって」俊介はそれを聞いて不機嫌そうに顔を暗くし、仕方ないといった様子で言った。「母さん、何度言わせれば気が済むんだよ。家の内装は莉奈が担当してるんだから、毎日昼間出かけて、内装業者に不備がないか確認しに行ってるんだよ。俺だってよく見に行ってるんだからな。家の内装し直してんだから、大変なんだぞ。前唯月だって自分で好きな内装にしたいって、朝早く夜遅く帰ってきて、家の様子を確認してた
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第1048話

俊介は気づいたら、すでに何年も姉のために犠牲を捧げ続ける存在となっていた。佐々木母「……」この時、玄関のドアが開く音がした。俊介はその瞬間、母親と話すのを止めた。きっと莉奈が帰ってきたのだろう。やはり、玄関を開けて、莉奈が二人分のご飯を買って帰って来ていた。「あなた、帰ってたのね。ちょうどよかったわ、ご飯にしましょう。二人分のご飯を買ってきたから」莉奈は二人分の弁当を持ってやって来ると、俊介の隣に座って、その袋を開けた。そして中から一つ取り出して俊介に渡し、それから自分の分をテーブルの上に置いた。弁当の蓋を開けてさっそく食べ始めた。俊介は母親を見て、また莉奈を見て尋ねた。「莉奈、二人分だけ?父さんと母さんの分は?」莉奈は食べながらこう言った。「その人たちの分は買って来てないわよ。自分たちで食べたいものを作ったらいいんじゃない?家にはまだカップラーメンが二つあるし、一人一つずつ食べればちょうどいいでしょ。あと、卵も三つあるし、あなた達三人、一つずつ食べたらいいんじゃないの」義父母はお米を炊くとき、その量は少なかった。義母はご飯を盛る時には、夫のほうに一番たくさん入れ、次に俊介、それから自分の分をいっぱいにつぎ、莉奈にはご飯をついであげたことはない。莉奈がご飯をつぎに行った時には、炊飯器の中にはひと掬いのご飯しか残っていないのだ。義母はわざとやっているのだ。毎回、莉奈が家でご飯を食べる時に、義母はいつもわざと食材を買って来ない。しかも買ってきたとしても、それは莉奈が嫌いな野菜なのだ。野菜炒め一皿に、ゆで卵三つ。これが彼ら一家三人分の食事で、嫁の莉奈の分はない。もし俊介が彼女のために自分のご飯を半分と、ゆで卵をあげていなければ、莉奈はこの家にはもういられないと思っていた。俊介の家族と一緒にいる時間が長くなれば長くなるほど、莉奈は唯月が離婚した後にありがとうと礼を言ってきたのがよく理解できた。目には目を、歯には歯を。買って来た弁当は、俊介の分だけで、義父母の分など、あるわけないだろう!佐々木母はあまりの怒りで心臓発作を起こしそうなくらいだった。美味しそうに弁当を食べる莉奈を指さして大声で怒鳴りつけた。「母さん、俺の分母さんにあげるよ。俺はインスタントでいいから。久しぶりだからな、なんか食べたくなって
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第1049話

翌日、太陽が昇ると、隼翔はさっさと起きて服を着替え、身支度を整えて家を出た。朝食すら食べずにだ。彼は母親が起きたら、琴音を彼に押し付けて、一緒に町をぶらついてこいと言ってくるのが嫌だったのだ。顔を合わせるたびに結婚しろ、結婚しろとうるさい母親には対抗する術はない。逃げるが勝ちというものだ。しかし、実際隼翔は母親の気持ちは十分に理解できる。彼はもう三十六歳で、二十六歳とはわけが違う。彼の一番上の甥っ子ですら、もうすぐ結婚するのだ。おじである彼はまだ彼女すらいないのだから、母親が焦らないほうがおかしいだろう?朝早くにトキワ・フラワーガーデンまで駆けつけて、マンションの下で理仁に電話をかけてみると――この時、妻を抱きしめてまだベッドの上でダラダラしていた理仁は親友からの電話を受けて不機嫌そうに顔を歪めた。そして隼翔に「失せろ!」と短いメッセージを送りつけた。隼翔「……そんなに怒ることか?俺たちは長年の付き合いだろうが、お前んちで朝ごはん食べるくらい何だっていうんだよ?」「兄貴、お願いだから時間を確認してくれ。こんな朝っぱらからやって来て、お前んちに熊でも襲撃しに来たのか?朝食すら食べずにここまで駆けつけてきてなんだってんだ?」理仁は腹を立てて隼翔に言い返した。彼は今日自分で作る予定にしていなかった。奏汰に頼んでホテルの朝食を持って来てもらう予定なのだ。どうせ奏汰もこの日琴ヶ丘のほうへ行くから、その途中でついでに持って来てもらうのだ。しかし、実際奏汰が琴ヶ丘に行くのに、トキワ・フラワーガーデンのほうは通らない。理仁にそう言いつけられてしまったものだから、無理やりついでに届けるしかないのだ!隼翔は時間を確認して言った。「もうすぐ七時じゃないか。そっちで朝食を取るって決めて来たんだから、早めに来て当然だろ。理仁、お前って本当に千里眼でも持ってんじゃないのか。確かにうちには熊が現れたぞ。うちの母親と同じ美乃里って名前のな。骨も残さず食べられるんじゃないかって思ってさっさとお前んとこに避難しに来たんだよ。お前は俺にとって一番の盾になる存在だからな」理仁「……」隼翔のように何も包み隠さず正直に話してくる親友には、理仁も言い返すことができない。唯花は起きて目を開くと、夫が傍にいた。しかし、彼のその表情はなんとも形容しがたい様子
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第1050話

「東社長も来てるんでしょ。さっさと起きて、彼を連れていらっしゃいよ」唯花はそう言いながらまた素早くベッドから降りた。理仁はもう一度彼女を捕まえてベッドに引き戻そうと思ったが、サラリと逃げられてしまった。彼はウォークインクローゼットに服を取りに行く彼女を見つめながら言った。「別に俺からあいつにここに来いって言ったわけじゃないんだ。あいつが勝手に来たんだから、待たせておけばいいんだよ。奏汰が来たら、七瀬に言って二人を連れて来てもらおう。二度も七瀬を走らせる必要ないだろう」唯花は自分の着替えと、理仁のスーツを持って来た。「休みだから、スーツは着ないよ」唯花はそのスーツを戻しに行って、すぐに他の服を取ってきた。彼女は着替えるために洗面所に向かっていった。理仁は自分の服を持って妻の背中に向かって言った。「唯花、夫婦なんだから、一緒に着替えたって別に恥ずかしくないだろう」唯花は彼に構うのは面倒くさくて無視した。いつの間にやら、この夫の口はどんどん饒舌になっていて、相手の心を掴むのが上手になっていっている。これも男が生まれつき持っているもので、教えなくても自然とできるものなのだろう。唯花が洗面所から出てきた時、理仁はまだ上半身裸でベッドに腰かけていた。彼女が出てきたのを見て、彼は両手を広げ、あの端正な顔に咲き誇る花のようなキラキラとした笑みを浮かべた。「唯花、おいで」唯花「……」彼女は彼のほうへ近寄り、彼の手から服を取り上げ、手を引っ張ってベッドから立ち上がらせると、服を着せてあげながら責めるようにこう言った。「さっさと着ないと風邪引くわよ。そうなったら毎日漢方攻めにして、あの苦味に苦しめてやるからね!」それを聞いた理仁の顔から笑顔が消え、ぶつぶつと愚痴を言った。「唯花、俺にはこれっぽっちも魅力がないの?さっきの姿を見ても全く動揺しないなんて。俺の腹筋がいくつに割れてるか数えようとも思わないのか?」「できたてほやほやの新婚じゃもうないのよ。あなたがどんな体つきをしているか、私が知らないとでも?そんなに見せつけたいなら、夏まで待ってからにして。今この時期にその体を鑑賞してほしいなんて、体を冷やして風邪引くだけよ。カッコよさだけ求めて、体を冷やしたら元も子もないでしょ」唯花は彼の服のボタンをつけてあげながら、つま先立ちして彼
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