相手は低い声で「すまない」とひとこと言った後、素早く彼女の手にあるメモの紙を握らせた。莉奈はそのメモをぎゅっと力を込めて握りしめた。多くの人がいる中でそれを開けて確認する勇気はなかった。彼女は周りを見まわして、近くにあるトイレの表示に気づき、その方向へ歩いて探し、その中に入って、急いでさっきのメモ紙を広げて見た。そこに書かれていたのは『海洋館でのショーが行われる時間にちょっとした騒動を起こし、その隙にあのガキを連れ去る。お前の任務は彼らを海洋館に連れて行くこと』莉奈はそれを見終わると、メモをちぎってトイレに流してしまった。莉奈は、あんなに多くの人と一緒にいて、唯花も二人のボディーガードを連れているから、彼らは手を出さないと思っていた。それがまさかこの状況でも諦めず、海洋館でのショーを利用して、その隙に行動に移すつもりらしい。成功するだろうか?この時、彼女は佐々木家とも別行動していて、唯花姉妹とは完全に離れているのは言うまでもない。莉奈はトイレから出てくると、俊介に電話をかけた。俊介は自分がいる位置を彼女に伝えた。莉奈は怒りを抑えて佐々木家と合流したのだった。そして俊介に頼んで唯月にどこにいるのか尋ねさせた。そして唯月は彼らのまだ後方にいることを知り、昼ご飯を済ませてから莉奈はレストランの近くで唯月たちが来るのをどうしても待とうと言って粘っていた。一緒に海洋館へショーを見に行こうと言ってだ。動物園に遊びに来る人は、ほとんどが海洋館のショーを見に行く。唯花たち一行も陽を連れて海洋館へとやって来た。「ひなた」恭弥もこの日は非常に楽しそうにしていた。「きょうや兄ちゃん」陽は礼儀正しく恭弥の名前を呼んだ。恭弥は近づいて来ると陽と一緒に座ると言って、ひたすらどんな動物を見たのかしゃべり続けていた。大人たちは、もうこの二人の子供を一緒に座らせておくことにした。恭弥が昔から陽をいじめてきたことを鑑み、唯花はわざわざ陽の隣に陣取り、唯月は陽の後ろの席に座った。結城家のボディーガード二名も、そう遠くないところに座っていた。彼らはショーなど見ずに、つねに周りを警戒するように見張っていた。莉奈もショーなど集中して見るような余裕はなく、とても緊張して常に陽のほうへ目を向けていた。あいつらは成功するのだろう
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