All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1171 - Chapter 1180

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第1171話

相手は低い声で「すまない」とひとこと言った後、素早く彼女の手にあるメモの紙を握らせた。莉奈はそのメモをぎゅっと力を込めて握りしめた。多くの人がいる中でそれを開けて確認する勇気はなかった。彼女は周りを見まわして、近くにあるトイレの表示に気づき、その方向へ歩いて探し、その中に入って、急いでさっきのメモ紙を広げて見た。そこに書かれていたのは『海洋館でのショーが行われる時間にちょっとした騒動を起こし、その隙にあのガキを連れ去る。お前の任務は彼らを海洋館に連れて行くこと』莉奈はそれを見終わると、メモをちぎってトイレに流してしまった。莉奈は、あんなに多くの人と一緒にいて、唯花も二人のボディーガードを連れているから、彼らは手を出さないと思っていた。それがまさかこの状況でも諦めず、海洋館でのショーを利用して、その隙に行動に移すつもりらしい。成功するだろうか?この時、彼女は佐々木家とも別行動していて、唯花姉妹とは完全に離れているのは言うまでもない。莉奈はトイレから出てくると、俊介に電話をかけた。俊介は自分がいる位置を彼女に伝えた。莉奈は怒りを抑えて佐々木家と合流したのだった。そして俊介に頼んで唯月にどこにいるのか尋ねさせた。そして唯月は彼らのまだ後方にいることを知り、昼ご飯を済ませてから莉奈はレストランの近くで唯月たちが来るのをどうしても待とうと言って粘っていた。一緒に海洋館へショーを見に行こうと言ってだ。動物園に遊びに来る人は、ほとんどが海洋館のショーを見に行く。唯花たち一行も陽を連れて海洋館へとやって来た。「ひなた」恭弥もこの日は非常に楽しそうにしていた。「きょうや兄ちゃん」陽は礼儀正しく恭弥の名前を呼んだ。恭弥は近づいて来ると陽と一緒に座ると言って、ひたすらどんな動物を見たのかしゃべり続けていた。大人たちは、もうこの二人の子供を一緒に座らせておくことにした。恭弥が昔から陽をいじめてきたことを鑑み、唯花はわざわざ陽の隣に陣取り、唯月は陽の後ろの席に座った。結城家のボディーガード二名も、そう遠くないところに座っていた。彼らはショーなど見ずに、つねに周りを警戒するように見張っていた。莉奈もショーなど集中して見るような余裕はなく、とても緊張して常に陽のほうへ目を向けていた。あいつらは成功するのだろう
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第1172話

この騒動の中、唯月はしっかりと息子を抱きかかえていた。莉奈は陽が唯月にしっかりと抱きかかえられ、結城家のボディーガードが彼女たちを守りながら海洋館を後にしていく姿を見て、計画は失敗に終わったと悟った。「恭弥、恭弥!」この時、英子の叫び声が突然響き渡った。莉奈が我に返ると、大男がなんと恭弥を抱きかかえて去っていっていたのだ。彼女は呆然としてしまった。あいつら、人を間違えたのか?「あなた、俊介、早く追って。あいつが恭弥を連れ去ったわ!」英子は他所の喧嘩など気にする余裕もなく、恭弥を連れ去った男を追いかけようとしながら、自分の夫と弟に向かって大声で叫んだ。佐々木家は恭弥が誰かに連れ去られたのに気づくと、懸命にその後を追った。しかし、ここにはかなりの人がごった返していて、彼らはすぐには追いつくことができなかった。「子供がさらわれた。誰かがうちの子を誘拐したんだ!あの背の高い男だよ。あいつだ、あいつがうちの子供を抱きかかえて連れて行った!」英子はこの時相当焦っていて、顔を蒼白にさせていた。彼女は人ゴミの中をかき分けても抜け出せず、かなり焦った様子で大声で叫んでいた。この騒動に乗じて子供がさらわれたという言葉を聞いた子供連れの家族は、急いで自分の子供を抱きしめて、懸命に海洋館の外に逃れようとした。そうするとその場はさらにカオス状態となった。中には優しい人が英子の子供を助けようとしてくれていた。その男は恭弥を抱きかかえてかなりのスピードで走り去っていき、わざと彼に道を開けてしまう人間もいたようだった。それで彼は迅速に海洋館の外に出ることができたのだった。「唯花、唯花さん、あいつが恭弥を連れ去ったわ。早く恭弥を助けてちょうだい」英子は人ごみにもみくちゃにされながら、唯花たちが視界に入り、喉が裂けるほど大きな声で唯花たち姉妹を呼んでいた。以前どれだけわだかまりがあったとしても、このような緊急事態では、唯花は恭弥が誘拐されるのを黙って見過ごすわけにはいかなかった。しかし、彼女は自ら恭弥を助けに行くことはせず、二人のボディーガードに恭弥を取り戻すため、あの男を追いかけさせたのだった。それが、ボディーガード二人が恭弥を抱きかかえてものすごい勢いで走り去る男を追いかけに行った瞬間、陽を抱きかかえていた唯月は突然大
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第1173話

もし、唯月が少しでも力を緩めてしまっていたら、息子はあの騒動に乗じた誘拐犯にさらわれていたことだろう。姫華の車に乗り込んでも、唯月は息子をきつく抱きしめていて、少しも手の力を緩めようとせず、顔色を真っ青にさせていた。唯花も、この時恐怖で震えていた。姫華は兄に電話をかけて、兄がそれに出るとすぐにこう言った。「お兄ちゃん、うちの全てのボディーガードたちを星城アニマルパークまで寄越して私たちを迎えに来てちょうだい。誘拐事件が起こったのよ、陽ちゃんももう少しで誘拐されてしまいそうだったんだから。自分で運転して帰るのも怖いわ。途中で車を妨害されて誘拐されたら、たまったもんじゃないもの」姫華はこの日初めてこのような騒動を目撃し、こんなに危険な目に遭ったのだ。彼女は普段とても自信たっぷりで、何も恐れるものなどないといった様子ではいるが、さっき陽が危うく誘拐されそうになって、彼女もあまりの恐怖で全身の力が抜けてしまっていた。もし陽が連れ去られていたら、当時は混乱して人も多かったので、あの誘拐犯を捕まえるのは難しかっただろう。そうなれば陽は……姫華はそれを考えると、顔色を真っ青にさせて、手足を震わせていた。暫くは冷静になることができず、この時彼女も車を運転することができなかった。何か起こるのではないかと心配だったのだ。「なんだって?陽君は大丈夫なのか?俺がすぐボディーガードを連れて現場に向かおう」玲凰は陽が危うく誘拐されるところだったと聞いて、かなり驚いていた。後で重要な会議があることなど構っていられず、オフィスを出ると、ボディーガードに連絡し、全ての者は動物園に向かうようにと指示を出した。裏で唯花の警護に当たっている二人のボディーガードには早々に理仁に連絡していた。唯花は落ち着きを取り戻してすぐに理仁に電話をかけた。玲凰がボディーガードの一団を引き連れ、急いで向かっている時には、理仁もボディーガードの一団を引き連れて車で動物園へと急いでいた。「陽ちゃん」唯花は陽の背中をさすりながら、姉を落ち着かせようと慰めていた。「お姉ちゃん、大丈夫。もう大丈夫だからね」彼女はあと少しで、うっかり甥を危険に晒してしまうところだったのだ。「力いっぱい抱きしめてなかったら、陽は今頃連れ去られていたわ。あいつもすごい力だったの」唯月
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第1174話

動物園の入り口で、恭弥を助けに行ったボディーガード二人が恭弥を抱きかかえて出てくるのにちょうど鉢合わせた。「若奥様」彼らは「ママ、ママ」と叫び続ける恭弥を抱きかかえたまま唯花の前までやって来て、恭弥を下におろし、頭を悩ませたように言った。「若奥様、彼の家族に電話をして迎えに来るように伝えたのですが、うるさく泣き続けられてしまって」「唯花おばちゃん」恭弥はあまりの恐怖で驚き泣いていた。彼は結城家のボディーガードに会ったことがない。最初に知らない人に連れ回されて、その後助けられたと思ったら、それもまた知らない人間だった。彼が普段いくら態度の大きな子だとしても、やはり四歳の小さな子にすぎない。これに驚いて泣き叫ぶのは当たり前のことだろう。唯花は恭弥の知っている人だから、彼女を見るとすぐに唯花の足にきつくしがみついて、抱っこしてくれとせがんだ。「大丈夫よ」唯花はこの子供を嫌っていたが、泣き続けるこの子を慰めるしかなかった。そして彼女は俊介に電話をかけ、彼が電話に出ると言った。「恭弥は助けたわよ。今動物園のゲートのところにいるから、急いで出てきて」佐々木家は恭弥が連れ去られ、大泣きしながら叫び続けていた。佐々木母は一度気を失ってしまい、頬を軽く叩かれて目を覚ますと、娘の英子と一緒にまた大泣きし始めた。俊介と英子の夫はあちこちを探しまわったが、恭弥を連れ去った男が一体どこに行ったのか全く探し出すことができなかった。そして唯花の電話を受け取ると、彼は大喜びして、何度も何度もお礼を言い、すぐに姉夫婦に連絡した。理仁と玲凰が同時にボディーガードの軍団を引き連れて動物園に到着した時、佐々木家も中から出てきたところだった。「恭弥」英子は連れ去られた息子が再び自分の元に帰ってきたのを見て、我も忘れて慌てて駆け寄って来ると、息子を抱きしめて大泣きし始めた。英子の夫である輝夫は無事な息子を見ると、ホッと胸をなでおろした。佐々木母と娘は一緒に恭弥を抱きしめてひたすら泣いていた。そして暫く経って、英子はくるりと振り返り、ドサッと音を立てて唯花の前に跪いた。そして唯花のほうへ額を地面にこすりつける姿勢で、あまりに感激して礼の言葉を述べた。「唯花さん、ありがとう。恭弥を助け出してもらって、本当に感謝してます」もし唯花がボデ
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第1175話

唯花は理仁に返事をした。「お姉ちゃんが陽ちゃんをしっかり抱きしめてたし、私が急いであいつに蹴りを入れたから、犯人は陽ちゃんを諦めて逃げていったわ」唯花は姫華の車のほうを向いて言った。「陽ちゃんは今姫華の車にいるわよ」唯花と理仁の会話を聞いて、佐々木家は陽も危うくさらわれるところだったとこの時はじめて知った。佐々木母はまた孫を見に行くと泣き喚きはじめた。すると唯月がこの時、やっと陽を連れて車から降りて来ることができた。「陽ちゃん、陽ちゃん」佐々木母はサッと陽を抱きしめて、孫が無事なのを確認すると、嗚咽交じりの声で言った。「よかったわ、無事で。本当によかった!」「おばあたん」陽は佐々木母にそうひとこえかけて、祖母が泣いているのを見ると、手を伸ばして涙を拭いてあげた。佐々木母は今まで陽の世話をしたことはないが、それでも彼女の孫であるから、陽のことを大事に思っていないと言えば嘘になる。陽のこのような細かい気遣いに、彼女は感激し、またきつく陽を抱きしめて泣き始めた。佐々木家の他の家族たちも集まってきた。「母さん、泣くなよ。もう大丈夫なんだからさ」すると俊介が母親を慰めた。佐々木母は立ち上がり、涙を拭き取った後、くるりと体の向きを変えて息子を小突き、責めるように言った。「これも全部あんた達のせいよ。もしあんた達が子供を連れて動物園に行こうだなんて言い出さなければ、こんなことにはならなかったんだから。陽ちゃんが唯花さんたちも一緒にって誘ってくれてよかったわ。そうじゃなかったら……あんたが陽の父親で恭弥の叔父じゃなければ、あんたがわざと子供たちを動物園に誘って誘拐させようとしたって疑うところよ」佐々木母のこの責める言葉が莉奈の顔を真っ青にさせた。佐々木母が彼女のほうへ目線を向けた時、莉奈は耐えきれず弁解し始めた。「お義母さん、私も陽ちゃんともっと仲良くなりたかっただけです。こんなことになるなんて、誰も思っていなかったんですから」佐々木母はぎろりと莉奈を何度も睨みつけた。この女は疫病神のように思える。息子がこの成瀬莉奈という女と結婚してからというもの、何をするのもうまくいかない。陽を連れて遊びに出かけただけでも、誘拐事件に巻き込まれそうになったのだから。あんなに多くの人の目がある中で、子供をさらおうとするとは
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第1176話

唯花でさえも、今回の事件はどうもおかしいと感じていた。彼らはただみんなの前でその疑問を口に出さなかっただけである。「わかった」陽は今日まだ遊ぶのには満足できていなかった。海洋館でのショーはとても面白かったのに、途中で母親に抱きかかえられて外に出てしまったのだ。結城家のボディーガードは左右をしっかりガードする近衛兵のように二手に分かれて、ロールスロイスの前に二列になって走っていた。理仁は陽と唯花と一緒に車に乗った。唯月は自らボディーガードの車に乗って、妹と一緒の車には乗らなかった。姫華は兄の専用車に一緒に乗り、彼女の車はボディーガードに運転させた。そしてあっという間にこの二人の大企業の社長は、ボディーガードに護送されながら星城アニマルパークを後にした。彼らが去ると、莉奈はホッと胸をなでおろした。彼女はみんなから自分が疑われるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。そして帰り道で、唯花は夫に話し始めた。「理仁、今日の出来事、私なんだかおかしいと思うのよ。誰かが計画的にやったような気がするの。まずはあの場で騒ぎを起こして、みんなが慌て始めたら、子供を狙って誘拐しようとしたみたいに。恭弥はあの時、誰からも抱っこされてなかった。あいつらはその隙に恭弥を連れ去ったわ。普通の誘拐犯みたいだったけど、陽ちゃんはお姉ちゃんにしっかり抱きしめられていた。それなのに後から陽ちゃんを連れ去ろうとした。これって、なんだか最初から狙っていたのは陽ちゃんだったような感じがするのよ。あいつらが恭弥を連れ去ったのは、誰かを私たちから引き離すためだったんじゃないかしら。だって、私はずっとボディーガードを連れていたわ。二人のボディーガードが傍にいては、あいつらは陽ちゃんに手を出すことができないでしょ。それであいつらは恭弥を連れ去った。私があの子のことを気に食わないとは言え、あのような状況では私もそれを見過ごしたりするわけないでしょ。私が二人のボディーガードに恭弥を助けるように言ったから、傍には守ってくれる人がいなくなる。私たちは大人とはいえ、三人のか弱い女の子よ。あいつらが陽ちゃんを連れ去ろうとしたら、私たちでは力で敵わないと思っていたでしょう。そうすれば、あいつらが成功する確率がアップする。それにその場が混乱している時、親によっては自分の子供を抱きか
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第1177話

今星城の人であれば誰もが結城理仁は妻を溺愛していることを知っている。もし唯花の身になにかあれば、それは理仁の命が取られるのと同等なのだ。「柴尾夫人の仕業ってことはないよね?」唯花はまず柴尾加奈子を疑った。理仁は暫く黙っていて口を開いた。「今は俺もなんとも言えないかな。だけど、唯花と柴尾家の娘がもめてから、悟にはあの夫婦を見張ってもらうよう頼んである。彼らは特にあやしい動きは見せていないようだ。唯花、今回の件は調査してようやく黒幕が君を狙ったのか、それとも俺を狙ったのかがわかる」理仁は陽を隣に座らせて、唯花のほうへ手を伸ばして彼女を自分の懐に抱きしめると、低く落ち着いた声で言った。「大丈夫だよ、俺がいる限り誰にも君に指一本触れさせたりしないからな」唯花は顔を上げて彼を見つめ、心配そうに言った。「もし、あなたを狙っているとしたら……理仁、あなたも気をつけてよ」「この俺の立場では誰かに目をつけられるのは運命みたいなものだよ。もうだいぶ前から慣れっこだから、心配しないで。俺に何かあったりしないから」彼ら結城家の子供たちはビジネス界に入る前に、しっかりと守られている。余所者は彼らの本名すら知らない。犯罪を起こすような輩を警戒しているからだ。結城家の子供たちは小さい頃から何かしら武術を学んでいる。それは体を鍛えるためだけでなく、彼ら自身の自己防衛力も上げる目的があるのだ。彼らが出かける時にはボディーガードをつけることができるとは言え、もしそれでもふせげないような状況になれば、自分で自分を守ることによって、活路が見いだせるのだ。唯花は彼の胸元に寄りかかっていた。「今日のことが計画的な犯行じゃなくて、ただの偶然ならいいんだけど」偶然なら、彼らがただ誘拐犯に目をつけられただけで、運が悪かったと言って終われる。誰かの陰謀であれば、黒幕は今回成功しなかったので、また次、そしてまたその次と何度も行動を起こすことだろう。「今日はかなりの騒ぎになったから、陰謀だったとしても、黒幕はすぐにまた手を出してくるとは考えにくいよ」叔母とおじさんから横に座らされて無視されている陽は、理仁の胸に寄りかかっている唯花に手を伸ばして押し、唯花が何が起こったかわからず姿勢を正して陽を見た時、彼は理仁の膝の上に乗っかって座っていた。陽は後ろに重心
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第1178話

「君たちが一般人であれば、鍛えるかどうかは自由だけど、でも……こうなってはやはり陽君も少し学んでおいたほうがいいだろうね。自分を守る力をつけるのは良いことだから」理仁はずっと陽のことが大好きだ。それに陽も小さい頃から鍛えあげられる人材だとも考えていた。もう少し陽が大きくなれば、しっかりと彼を鍛えるつもりでいた。今はただその予行練習的なものだと考えておけばいい。「それもそうね。あなたの言うようにしてみましょう。理仁、ありがとう」理仁は喜んで陽を文武両道の人間に育てあげたいと思っている。唯花は甥に代わって喜ぶとともに、とても感謝していた。理仁は片手で陽を抱きしめ、もう片方の手で軽く唯花の鼻の頭を突っついて言った。「陽君に専属の先生をつけると言っただけで、そんなに喜んでくれるのか。陽君は君の心の中で俺よりも重要な位置を占めているようだね?」唯花は笑って言った。「同じくらい大切よ。いいえ、あなたのほうが重いわ、重いに決まってるじゃないの」陽は今どれくらいの重さだ?理仁のほうは何キロある?そりゃあ、彼のほうが重いに決まっているだろう。理仁が彼女の言葉の中に隠された意味などわかるはずもなく、愛おしそうにまた彼女の鼻の頭をちょんと突っついた。「俺は別に陽君にはヤキモチを焼いたりしないぞ」「それならよかったわ。あなたが三歳の子供にまでヤキモチを焼くようなら、私たちに今後子供ができた時に、毎日毎日、あなたが餅焼いて、もう朝からネチネチしちゃうわよ」「俺は自分の子供なら、ただただ愛するだけだろ。そんなふうに君の愛を争おうなんてするわけないじゃないか」理仁は子供ができたら、その愛する子を可愛がることしか知らないと思っている。どうしてその可愛い子供と唯花からの愛を争おうとするのか。しかし、彼は結構前からずっと自分の言った言葉に恥をかかされていたから、今回もきっとそうなるはずだ。それを聞いた唯花はケラケラと笑っていた。彼の独占欲はかなりのものである。自分の子と唯花の愛を奪い合わないほうがおかしいのだ。市内に戻ってきた後、理仁は唯花姉妹をトキワ・フラワーガーデンに送ってきた。おばあさんはこの時すでに全てを把握していた。おばあさんはここ、トキワ・フラワーガーデンで待っていたのだった。玄関のドアが開く音がして、おばあさんは玄関まで
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第1179話

美乃里と琴音の二人はおそらくさっきショッピングから戻ってきたばかりなのだろう。琴音は片手を隼翔の母親の腕に組み、もう片方の手にはいくつかの買い物袋を提げていた。「隼翔、出かけるの?」美乃里は息子の姿を見て、何も考えずにそう尋ねた。「母さん、樋口さん。おかえり」隼翔は挨拶を済ませるとこう言った。「母さん、急用で出てくる。だから今は母さんと樋口さんをもてなすことはできない。俺のオフィスで待つか、家に帰ったらどうだ?」「そんなに焦った様子で何があったのよ?」美乃里は心配そうに尋ねた。「ただの急用だ」いくら隼翔が鈍感男だったとしても、母親には今回の件は隠していた。彼は大量の仕事を放っておいて、陽に一目会いに行きたいのだ。しかしそれを口にして、彼と唯月の関係を誤解されたくない。もうすでに多くの人が彼は唯月のことが好きだと疑っているのだから。隼翔は本当に単純に陽のことが好きだと言っているのに、誰もそれを信じようとしないのだ。彼がまずは陽と仲良くなっておいて、そのままスムーズに陽の継父になろうと企んでいると思われている。「会社の用事?」美乃里はまた尋ねた。隼翔は嘘をつくことにした。「そうだ。母さん、じゃあ俺はこれで」「わかったわ。いってらっしゃい。夜は家に帰って一緒に食事しなさいよ。琴音ちゃんがあなたに何着も新しい服を買ってくれたのよ。家に帰ってご飯の時に合うかどうか着てみなさいね。もし家に帰ってこないなら、明日から琴音ちゃんに毎日お弁当を送り届けてもらうわよ」美乃里はやはり息子のことをよく理解しているのだった。彼は今琴音のことを何とも思っていない。琴音が毎日毎日邪魔しに来るのを嫌がっている。こうやって彼に脅しを利かせることで、家に食事に帰らせようとしているのだった。「それから、いつも理仁君の家にお邪魔するのはやめなさいよ。彼らは新婚でしょ、夫婦は今アツアツな時期なのよ。あなたが理仁君の家に泊まっていては、最大級のお邪魔虫よ。あんた、自分の家がないわけ?暮らせる部屋がないっての?わざわざ理仁君の家にお邪魔して何してんのよ。今夜はうちに帰ってらっしゃい」隼翔は口を開いた。「理仁と内海さんが結婚してからもう半年は過ぎてる。もう新婚ほやほやってわけじゃないだろう」「二人が互いに愛し合っているんだから、毎
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第1180話

「私は最近結婚のことで忙しくて、もうすぐ会社に休暇をいただくのです。手足が足りなくならないように、社長がすでに手配していたんです」秘書は見事彼女たちの質問責めに打ち勝った。そして琴音は何も言わなくなった。隼翔は彼が去った後、母親と琴音が秘書にそんなに多くの質問をしていることなど全く知らなかった。彼の秘書が非常にうまくその質問に的確に答えたので、母親から疑われずに済んだのだった。動物園で起きた出来事には、美乃里も琴音も注目していなかった。彼女たちには関係のない話だからだ。陽がこの時トキワ・フラワーガーデンにいると知り、隼翔はそこに直行した。彼がフラワーガーデンに到着した時、理仁と玲凰はそこにはおらず、数人の女性が部屋にいるだけだった。姫華もまだ一緒にいた。隼翔は唯月に電話をかけた。唯月が彼からの電話に出ると、隼翔はすぐに尋ねた。「内海さん、あなたと陽君は今も妹さんの家にいるのか?」「ええ、唯花が食事をしたらうちまで送ってくれると言うので。東社長は何か用でしょうか?」「今日あった事は俺も聞いた」隼翔は落ち着いた声で言った。「ニュースにもなってたからな。それを見たんだよ。さっき理仁に聞いて、陽君が無事だってことは知ってるんだが、それでも心配で、ちょっと陽君の顔を見に来たんだよ。今フラワーガーデンの下にいるんだ、ちょっと下まで降りてきてゲートを開けてくれないだろうか?」唯月はそれを聞いて驚いた。まさかこの事件がニュースになっているとは思っていなかったのだ。しかし、あの時あんなに大きな騒ぎになって、子供が誘拐されそうにもなったので、ニュースになってもおかしくはないと思った。隼翔は陽が危うく危険な目に遭うところだったのだろうと予想していた。玲凰と理仁の二人が同時に出てきたから、有名な二人の社長がかなりの注目を集めたのだろう。「わかりました」隼翔が陽のことを心配して、わざわざここまで会いに来たので、唯月はもちろん彼を外に放っておくわけにいかなかった。「東社長、ちょっと数分待っていてください。今から出ますので」電話を切った後、唯月は妹に伝えた。「唯花、家の鍵とゲートのカードを貸してちょうだい。今から東社長を迎えに行ってくるわ。彼、陽に会いに来たらしいの」唯花はそれらを姉に渡した。そして唯月は出ていった。
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