All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1181 - Chapter 1190

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第1181話

「コホン、コホン――」おばあさんは二回咳をした。隼翔がそちらへ顔を向けた時、彼女は彼に注意した。「隼翔君、陽ちゃんったらその誘拐しようとしてきた悪者には驚いてないのに、あなたに驚いてるわよ。見なさい、陽ちゃんが下におりるって言ってるでしょう」「あずまおじたん、おろしてよ」陽は再び自分をおろすよう頼んだ。陽は顔をこわばらせて、明らかに不機嫌そうだった。東おじさんの力は強すぎて、彼の束縛から逃れることができなかったのだ。隼翔は急いで陽を下におろすと、しゃがみ込んで、陽を肩の上に乗せてやって優しい声で言った。「陽君、君が無事ならそれでいいんだ。本当によかった」この時、陽は大きな瞳をキラキラと輝かせ、東おじさんを見つめた。東おじさんはとても良くしてくれる。陽は、隼翔からの真心をしっかり受け取っていた。陽をからかって遊ぶのではなく、本当に心の底から陽のことを好いてくれているのだ。陽は手を伸ばしてその小さな手を隼翔の顔に残る傷に当てた。軽くそれに触れてからまた手を引っ込めて少し怖がっているようだった。隼翔が痛がるようなそぶりを見せなかったため、彼は再び小さな手を伸ばしてその傷痕を触ってみた。「おじたん、いたい?」「今はもう痛くないんだよ」当時、この傷を受けた時は非常に痛かった。血が端正な顔に滲み出てその顔を真っ赤に染め、母親もそれを見て腰を抜かしていた。彼の傷が相当深くて死ぬのではないかと思ったのだ。母親を驚かせただけでなく、全ての人がそれに驚いていた。彼の病気にかかっていた祖母も、彼のその傷を見て危うく命を失うところだった。後から、顔に傷が残るだけで命には別状ないとわかったが、おばあさんはかなりのショックで、病状がどんどん悪化してしまい、それから少し経って病気で亡くなってしまったのだった。隼翔はそれを後悔し、裏の世界からすっぱりと足を洗い、再び表の世界へと戻ってきたのだ。その時のナイフで刺された傷は今もくっきりと残っている。それは彼が若かりし頃血気盛んだったことの証拠であり、彼に裏の世界に足を踏み入れたことで、祖母を病気で他界させてしまったという負い目を感じさせることになったのだった。医者はしっかり治療して安静にしていれば、おばあさんはあと数年は生きられたのにと言っていった……彼の祖母は亡くなる直前、
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第1182話

隼翔は自分からソファに腰かけると、何があったのか聞き始めた。「なんだか、そいつらのターゲットははじめから陽君だったような感じだな」隼翔の直感は唯花夫婦と同じだった。「内海さん、君はそいつらの様子を覚えているか?どんな姿だったか絵に書いてくれ、人に頼んでそいつらを暴き出そう」隼翔は裏の世界からは抜け出てきたが、あちらには彼の伝説が残っている。今も、もし彼がその世界の人たちの手助けが必要であれば、彼らも昔同様、彼に助太刀をするのだった。「その人たちは黒いマスクにサングラスをつけていたから、どんな顔をしているかまではわかりません。ただ彼らの背丈とか、体つきとかならわかります。力もとても強くて、そこら辺の不良のようではなかったです。例えばボディガードみたいに鍛えられたような人たちでした」理仁は出かける時にはボディガードの一団をつけている。唯月は妹の夫の傍にいつもいるボディガードたちに見慣れている。それぞれが背も高くいかつい。彼女はあの誘拐犯はボディガードに似ているような気がしたのだ。隼翔はその瞳を暗く沈めた。唯月のその言葉には何も意見は言わず、細かく多くのことを尋ねているうちに、食事の時間になった。彼の母親は何度も彼に電話をかけてきていた。隼翔はその電話の着信画面を見るだけで、電話には出らず、何事もなかったかのようにみんなと食事を始めた。「隼翔君、誰からの電話なの。全く出ないじゃないの」おばあさんは彼に言った。隼翔は淡々とした様子でおかずを挟んで食べていた。食べながら、唯花の料理の腕を褒めては羨ましそうに言った。「理仁は本当に美味いものに恵まれてるな」「羨ましい?嫉妬した?将来、あなたも料理の腕が良い奥さんを見つけなさいよ。そうすればあなたも毎日美味しいものに恵まれるわよ」おばあさんはからかうように彼に言った。「電話に出たらどうなの、何度もかかってきてるじゃないの。出たくないのかもしれないけど、携帯の音が大きくていちいち気になるわ。私ももう年を取ったから、そういううるさい音には耐えられないの」「おばあ様、食事を終えてから電話に出ます」隼翔はやはり何事もないかのように淡々と箸でおかずをつまんでは食べていた。たまに共有の箸を使って陽におかずをつまんであげながら言った。「陽君、今日は驚かせてしまったからね、たくさん食べて
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第1183話

「あんたね、今夜は帰ってご飯を食べるって約束したでしょ。今何時だと思ってんの?まだ帰って来ないわけ?」美乃里は息子を催促していた。「さっさと帰って来なさい。琴音ちゃんがたくさん手料理を作って待っているのよ。お母さんね、ちょっと味見させてもらったけど、本当に美味しいわよ。五つ星ホテルのシェフに負けない腕だわ」「母さん、俺は家で食べないよ。まだ処理しないといけないことがあるからな。母さんと樋口さんで食べてくれ。母さん、樋口さんはうちのお客様だろう、彼女に作らせるなんてするなよな。客に対して失礼だろう」美乃里は眉間にしわを寄せた。「まだ処理しないといけないことがあるって?そうだとしても、食事はきちんと取らないといけないでしょ。もう空も暗くなったわ、先に帰って食べなさい。食事が終わってからそれをしたって同じじゃないの」「母さん、俺はもう食べたんだ。外食してきた」美乃里「……琴音ちゃんがこんなにたくさん作ってくれたのに」「母さんはラッキーだな。ご馳走に恵まれてるじゃないか」それを聞いた美乃里は言葉を失った。息子への怒りで卒倒してしまいそうだ。美乃里が息子のために必死になってチャンスを作ってあげているというのに、息子のほうは躱せるものは全て躱し、躱せないものはうやむやにしてしまう。琴音はこんなに素晴らしい女性で、二人は昔からの知り合いである。二人が頻繁に会って交流していれば、きっと恋が芽生えるはずなのだ。「隼翔、お母さんはね、本当に琴音ちゃんのことを気に入っているのよ」「なら、樋口さんに頼んであと数日母さんに付き合ってもらえばいい」「琴音ちゃんも仕事が忙しいから、もう少ししたら家に帰らないといけないでしょ」隼翔は笑って言った。「それなら良い方法があるぞ、母さんも樋口さんと一緒に行って、おばさんに会ってきたらいいじゃないか。ちょっとした旅行のつもりで、気分も晴れるだろうし、旧友に会える。母さんはどう思う?プライベートジェットを手配して送ってあげようか?父さんも一緒に行けばいい。二人とももう引退して仕事のプレッシャーもないことだし、いくらでも遊んできていいんだ。来年またこっちに帰ってきたって問題ないだろう」それを聞いて美乃里はあまりの怒りに直接電話を切ってしまった。このクソ息子は琴音に全く興味を持たない!美乃里
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第1184話

美乃里が望んでいる隼翔の結婚相手は、どのみち彼ら東家と家柄の合う一族でなければならない。「琴音ちゃんがやっぱり一番お似合いよ。それなのにあの子ったら、全く琴音ちゃんに会おうとしないんだから。もし彼女とちゃんとお話して付き合ってみたら、うまくいくかもしれないってのに。明日、結城グループにちょっと行ってくるわ」健一郎は尋ねた。「結城グループに何しに行くんだ?」「隼翔と理仁君、それから悟君の三人は固い絆で結ばれていて、仲が一番良いでしょう。理仁君と悟君にはもうお相手がいて、恋の甘さがよくわかっているはずよ。彼らに会って、隼翔に琴音ちゃんとちょっと付き合ってみるように助言してもらうのよ。私たち両親の言葉は聞き入れないかもしれないけど、親友の話ならあの子も聞くでしょう。あの子は今も理仁君のところにお邪魔しているのよ。あなた、理仁君の携帯番号をちょっと探して教えてちょうだい。後で彼に電話してみるわ。明日まで待てないもの」美乃里は理仁と悟に助けを求めることを思いついたのだった。「理仁君は口がつたないだろうが、うちの息子より下手だぞ。悟君に電話をしたほうがいい。悟君は口がうまいからな。彼に隼翔の説得をお願いしたほうが、成功率は高いはずだ」「それもそうね、じゃ、悟君に電話しましょう」悟は万能人間か!誰もが彼に頼ろうとする。……深夜のこと。遅くに帰ってきた理仁は、そっとドアを開けて家に入ると、また音を立てないようにそっとドアを閉めて内鍵をかけた。その時、電気がついて明るくなった。彼が振り向くと、ナイトウェア姿の唯花が部屋の前に立っていた。「唯花、まだ寝ていなかったの?」理仁は彼女の元へやって来て、優しく彼女の前にかかっている髪を背中のほうへ流すと、美しいその顔がはっきりと目に映った。「さっき目が覚めたの。ドアの開く音がして、あなたが帰ってきたんだと思って」唯花はそう言いながら、彼のスーツを脱がせて尋ねた。「お腹空いてる?何か夜食でも作ろうか?」「俺は夜食を食べる習慣がないからな。太って君に煙たがられたら嫌だし」唯花は笑った。「他の誰かならまだしも、あなたを嫌うわけないでしょ」夫婦は小さな声で話しながら、一緒に部屋に入っていった。おばあさんを起こさないように、理仁はドアを閉めるその動作も非常に慎重にやって
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第1185話

彼がドアを閉めてから、唯花はあくびをし、ベッドに戻って横になると目をつぶって休んだ。彼女は理仁が風呂を終わらせるのを待っていた。理仁と玲凰、それに悟の三人に任せている誘拐事件の調査がどれだけ進んだのか知りたいのだ。それに隼翔も調査に加わっている。隼翔がトキワ・フラワーガーデンから帰った後、理仁のところに行ったはずだ。少しして、理仁が浴室から出てきた。唯花は足音を聞いて目を開けると、まだ上着を来ていない上半身裸の理仁が目に飛び込んできた。髪はまだ濡れていて、ぽたぽたと水滴が滴り落ちている。彼女は急いでベッドに座り、サッとベッドから降りると、綺麗なタオルを持って来て、頭を洗っても拭くことを知らないこの男をドレッサーの前に座らせた。彼女はまるで彼の母親のように、髪に残る水分を拭き取ってあげながら言った。「こんな時間に髪を洗うなんて、洗ったとしても、タオルでちゃんと拭かないといけないって知らないの?男性の髪はそこまで長くないんだから、タオルでサッと拭けばすぐ乾くでしょうが。そんな簡単なことも面倒くさがるなんて。ほら、床も水浸しになってるじゃないの」理仁は妻に相手をしてもらうのを楽しみながら、素直にぶつくさと文句を言われておいた。外で一日中働いて疲れ、家に帰ってから彼女の文句を聞くのも、なんて気分が良いものなのだろう。彼はきっと他の人たちとは違って、変わった男だ。他の家なら、帰ってから妻にぶつくさと文句を言われるのを嫌うはずなのに、彼はそれが好きなのだから。そもそも唯花は文句をタラタラと言う人ではない。そんなに文句を垂れるような年も取っていない。「さっきナイトウェアをあげたのに、半分だけ履いて出てくるなんて、上着は?」理仁はニコニコと微笑んだ。「もうすぐ寝るんだ。寝る時にはどうせ脱いでしまうんだから、最初から着てないほうがいいだろう。手間が少し省けるじゃないか」それを聞いた唯花は軽く彼をどついた。彼の髪の毛を代わりに拭いてあげてから、唯花は浴室に彼の上着を取りに行き、なにがなんでもそれを理仁に着させようとして言った。「あなた、寝たらたまに布団を蹴飛ばすのよ。上着を着ていないと風邪を引いちゃうわ」彼は暖房をつけるのがあまり好きではない。もちろん、この時期はもう暖房をつける必要もないのだが。理仁が
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第1186話

動物園なら人が多いので、簡単に騒動を起こしてその隙に子供を誘拐しやすい。賑やかな市内の中心地では、監視カメラが設置されているところもあるし人の目もあるから、相手はそう簡単に手を出してこないだろう。軽率に動くことは避けるはずだ。理仁は相手が再び行動を起こそうとするなら、少なくとも数カ月先だと推測していた。唯花は少し考えてから言った。「それもそうね。なら、動物園での事は偶発的なことだと考えて、普段通りに生活をしておくわ。ゆっくり穴の中の蛇をおびき出しましょう」理仁はそれに満足した様子で彼女の額にキスをした。「俺の奥さんはどんどん賢くなっていくな」「つまり以前は馬鹿だったと?」「そんなわけないだろう、同じくらい賢くて、ずっと聡明な人だ。俺はそんな君の聡明さに惹かれたんだからね」殺されないようにそう言っておいた。「私は馬鹿だったと思ってるけどね、じゃなかったらあなたにあそこまで騙されていなかったはずよ」理仁は急いで彼女の唇を塞いだ。キスをした後、彼は優しく彼女の唇に触れて、落ち着いた声で言った。「唯花、寝よう。もうこんな時間だ」「おやすみ」深くキスをし唯花のご機嫌を取ると、彼女はそれ以上古傷をえぐるようなことはせず、彼におやすみの挨拶をして夢の中に再び戻っていった。理仁は片手を彼女の腰に回し、我慢できずに彼女の顔にまたキスをしてから、夫婦二人は一緒に眠った。理仁夫妻がぐっすりと眠っていたころ、別の場所で借りた部屋で暮らしている成瀬莉奈は、ベッドの上で何度も寝返りを打って寝付けなかった。彼女が毎回寝返りを打つ時は俊介を起こさないようにゆっくりと動いていた。ずっと落ち着かない様子で携帯を手に持ち確認していた。しかし知らない番号からの電話も、メッセージも来ていなかった。彼女はあの名前も知らない女がまた次の行動に移るか見当もつかなかった。今日の計画が失敗に終わったのは彼女のせいではないが、成瀬家の家族が巻き添えを喰らわないか心配だったのだ。彼女はすでに相手の言われた通りに行動はした。唯花はボディガードを連れていて、騒動が起きた当初、ボディガードが彼女たちを守る形で海洋館を出ていったのだ。恭弥が連れ去られたのは、それを使ってボディガードを彼女たちから引き離し元のターゲットである陽を連れ去るためだろう。
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第1187話

「それに恭弥君よ。あの子は連れて行かれたのよ。もし唯花さんがボディガードに指示を出して追いかけさせてなかったら、今頃あなたのお姉さんはどうしていたことか」英子は息子が連れ去られてまた無事に帰ってきた時に、唯花に膝までついて感謝していたのだ。それを見た莉奈はかなり驚いた。母親というものは、我が子のためなら本当になんだってできてしまうのか。それを聞いた俊介が言った。「莉奈も結城理仁があんなに多くの一団を引き連れてあいつらを迎えに来たのを見ただろう?それに神崎社長もあんなに大勢で来てたんだぞ。陽はあんなに多くの人間から守られてたんだ。父親である俺すらも慰めの言葉をちょっとかけてやる機会はなかったさ」莉奈「……」「恭弥のほうは相当ビビってたな。姉ちゃんもそうだ。いや、姉ちゃんに限らず、俺らだって相当びっくりしたじゃないか」俊介は最近姉との関係はギクシャクしていたが、恭弥が彼の甥っ子ではあることは変わらない。もし彼が動物園に遊びに行こうと言い出さなければ、母親が恭弥を連れた姉を呼ばなかったし、今回のような事件に巻き込まれることもなかった。恭弥が無事に戻ってきたからよかったものの、もし見つからなかったら、彼も良心が痛んでいただろう。子供を失ってしまえば、その家庭は崩壊するはずだ。「今後は、やっぱり人の多いところに子供を連れて遊びに行くもんじゃないな。行くとしても、しっかりと子供を見張っていないと。特に陽や恭弥みたいに小さい子はよく動き回るし、何が危険なのかもわかってないしな」俊介は動物園で起きたことを思い出すと、だんだん怖くなってきた。彼は別に陽に関心を寄せていないわけではない。ただ陽を心配する人が多すぎて、父親であるはずの彼は蚊帳の外状態だったのだ。だから実は彼も心の中では怒りに燃えていたのだった。陽は彼の実の息子だ。父親である彼が陽に何もしてやれないとは。俊介は当初、誘拐犯を追いかけて甥を救いだそうと思っていた。それがまさか自分の息子まで危険な目に遭うとは思っていなかったのだ。唯花が強くてよかった、そうでなければ……俊介も自責の念に駆られていた。父親である自分は役立たずだと自分を責めているのだ。「動物園は広すぎる。今後子供が遊びに行きたいと言ったら、小さな公園でちょっと遊ぶくらいがちょうどいいや」莉奈は
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第1188話

「あなたの両親があなたを苦労して育てたって言うけど、うちはそうじゃないとでも?私に寛容になれって言うけど、なんでよ?あなたの母親は私を育ててないわ。それにあの人は私の粗捜しばっかりしてくるのに、怒っちゃダメなの?毎日のように私の目の前で唯月のほうが良かった、私はこんなにひどいって、ちゃんと家庭を支えられないんだって言われる身にもなってよ。ご飯を作らないで、いつもテイクアウトのものばかりだって言うのよ。私だって普段忙しいじゃないの、それなのに自分は家にいて暇なのにご飯も作らず、私が家に帰って作るまで待ってるのよ。私に嫌がらせしてるのは明らかでしょ?初めてあなたの家に行った時、あなたのお母さんは私にすっごく良くしてくれたわ。お姉さんでさえも私のことを気に入ってた。前は唯月が嫁姑関係をうまくやりこなせないんだとばかり思ってた、それでいつもあなたの母親と姉にぐちぐち言われる羽目になってるんだってね。でも、今わかったわ、あの人たち演技がとってもお上手なのよ、私も騙されたわ」そこに彼女は自ら進んで飛び込んでしまったのだ。「私ならきっとうまくいくって思っていたのに、それが結局……」妻と恋人では、その待遇が全く違うじゃないか。「それからあなたよ。以前は私の言うことならなんだって聞いてくれてたのに、今はどうよ?」俊介は彼女をなだめようとした。「今だって莉奈の言うことはちゃんと聞いてるだろう。以前、唯月と結婚していた頃は、生活費はお互いに半分ずつ負担してたんだぞ。陽の粉ミルク代に二万円かかった時は、俺は一万円しかあいつに渡さなかったさ。俺は自分が出すべきだと思うものの半分だけ出してた。どんな出費もそうしてたよ。それが莉奈と結婚してからは、すぐうちの家計は全部君に任せたのに、それでも気に食わないのか?不動産権利書にも君の名前を加えてさ。俺は君には心の底からすべてを尽くしてあげてると思うぞ」俊介は今や前に進むことも、後ろに下がることもできない状態だった。彼と莉奈は結婚したばかりで、結婚式すら挙げていないというのに、また離婚なんてできやしないだろう?それに彼は莉奈のことが好きだ。莉奈は彼よりも何歳も年下で、まだ若々しく、そのフレッシュな感じを彼はまだ深く感じているのだ。後悔しているか?彼は後悔したと感じてはいた。しかしそれを莉奈に知られるわ
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第1189話

莉奈はあんなに苦労して、ようやく唯月の元から俊介を奪い、正式な妻となれたのだ。だからこの結婚生活がいかに困難な道だとしても、突き進むしかない。でないと、唯月から笑われてしまうだろう。唯月は絶対に因果応報だと笑うはずだ!「寝よう、もう寝返りを打ってソワソワしないで。恭弥も別に君の息子じゃないし、姉ちゃんですらそんなに寝られないほどじゃないと思うぞ。莉奈はただ親戚なだけなのに、そんなに怖くなって眠れなくなるなんてな」俊介は莉奈を抱きしめると、再びあくびをして目をつぶって言った。「ねみぃ」莉奈はこの時心の中で、別に恭弥のことを心配して眠れないわけじゃないと悪態をついていた。恭弥はかなりやんちゃなガキだ。莉奈のスキンケアや化粧品をあんなに駄目にされたので、彼女は恭弥のことをかなり嫌っている。恭弥が連れ去られた時、彼女は驚いただけで、全く心配などしていなかった。逆に少しざまあみろ、とも思っていたのだった。唯花姉妹が心の優しい二人で、小さなことにこだわらず、恭弥を助けるために自分のボディガードに探させたのだ。莉奈はもし彼女だったらどうだろうと考えていた。莉奈であれば恭弥を助けようとは思わなかっただろう。誘拐されればいい、英子がそれでも偉そうにできるか見てやるところだ。そして俊介はそれからすぐにぐっすりと眠ってしまった。莉奈は真実を話すことはできず、ただ自分の中に押しとどめておくことしかできない。無理やり眠った後、莉奈は悪夢を見続けた。陽が悪者に連れ去られて傷つけられ、両足を切断させて、物乞いにさせられる夢や、自分の家族が全員殺されて死体が列になって並んでいる夢…………どーんという雷の音とともに、春の雨が大地に降り注いだ。唯花はその雷の音に驚いて目を覚ました。目を開けて外を見るとすでに明るくなっていたので、そのまま起きることにした。彼女が起きると、理仁も一緒に起きてきた。「理仁、あなたはもうちょっと寝てて。昨日の夜は遅く帰ってきたでしょ。朝食なら私が作るから、出来たら呼ぶわ」唯花は窓辺に行き、カーテンを開けて外を見ると雨が降っていた。そしてまたカーテンを閉めて、振り返り理仁に言った。「雨はまだ止んでいないみたいね。あなたもジョギングには行けないから、そのまま寝てて」夜遅くに帰ってきて、朝早くに起きるのは非
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第1190話

おばあさんもただちょっと愚痴をこぼしてみただけで、この話題はこれで終わりにした。「理仁、バレンタインに私にくれた車を清水さんに頼んで運転してきてもらって。今車がないと出かけるのはすごく不便だから」「わかった」理仁はニコニコしながら返事した。バレンタインに妻に用意したプレゼントが、やっと日の目を見ることができるのだ。おばあさんは唯花に言った。「唯花ちゃん、それでいいわ。夫が稼いだお金はあなたが使うために存在しているのよ。あなたはそれを必死に使ってちょうだい。使えば使うほど彼は嬉しくなるものよ。そうすればもっと稼ごうって気になるの。あなたが使わないと、この子が稼いだお金はただの数字の列でしかなくなるのよ。それじゃ、この子も見ても何も感じないでしょ、お金を稼いだ達成感ってのがないんだもの」唯花は笑って言った。「おばあちゃん、別に私もお金に困ってないもの」実は理仁はよく家庭用のカードにお金を振り込んでいたのだった。彼女の自分の貯金は今は投資にほとんど使っていたが、理仁が彼女に振り込むお金は、いくら使っても使い切ることはできない。それに彼女も散財するようなタイプではない。彼女の衣食住は、全て理仁に任せておけばいい。今やスキンケアや化粧品でさえも、理仁が買ってきている。唯花がショッピングに出かけても、何を買えばいいのかわからないくらいだった。彼女は今なにも困っていないからだ。「ばあちゃん、俺が全てを唯花さんに捧げるというのに、彼女は受け取ってくれないんだぞ」おばあさんは唯花におバカさんね、理仁の全財産を受け取った瞬間、星城では唯花を上回る富豪の女性はいないというのに、と言っていた。それなのに本屋まで開いて、それから田舎の土地を借りてビジネスまでしようとするなんて必要ないでしょう。理仁から美味い汁を搾り取る専属の妻であるだけでいいのだ、とも言っていた。これが実の祖母の言うことなのか!朝食を済ました後、理仁夫妻はまずまんぷく亭に行き、陽を連れ唯花の本屋へ行き、最後に理仁が出勤していった。これと同時刻の柴尾邸宅では、加奈子がまさに咲を怒鳴り散らしていた。咲は母親からいくら罵られようが、淡々とした様子で具の入っていないおにぎりと、同じく具なしの味噌汁を飲んで、食器をまとめてキッチンに洗いにいった。彼女の朝食はか
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