交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 1301 - チャプター 1310

1358 チャプター

第1301話

「わかった」妹がサンドイッチを食べると言ったので、唯月も同じくサンドイッチにした。彼女はキュウリはあまり好きじゃないので、多めに妹のほうへ入れておいた。「できたわよ」唯月は妹に声をかけながら、出来上がったサンドイッチを持ってきた。唯花は手の動きを止め、手を洗いに行き、それから自分の分のサンドイッチをもらって運んできた。姉と妹は同じテーブルに座り、唯花はいつもの癖で携帯を取ってニュースを見ながら食べようとした。「食べる時はそれに集中して、携帯は見ないのよ。それを置きなさい」唯月は唯花に携帯を見ながら食べるのを注意した。「ただちょっと見てるだけなのに」唯花は口ではそう言ったが、やはりおとなしく姉の言うとおりに携帯をポケットに戻した。「今後はご飯中に携帯を見たらダメよ」「わかった」姉を目の前にすると、唯花は食い下がることはできない。それに携帯を見ながら食べるのは、確かに悪い習慣だ。「お姉ちゃん、今夜は本当に一緒にパーティーに行かない?」「ええ」「お姉ちゃんも、ああいう世界を見に行ってもいいかなって思うんだけどな」唯月はゆっくりサンドイッチを食べていた。「今のところ社交界に足を踏み入れる必要はないわ、まだ私はそんなレベルではないもの。だけど、あなたは違うわよ、今は結城家の若奥様になったんだからね。だから上流社会の世界に慣れていかないと」唯花は姉を説得できないので、ただ諦めるしかなかった。詩乃が唯月に一緒に行かないか誘ったが、それも断ったのだ。「お姉ちゃん、車はいつ納車されるの?」昨日の午後、唯月は二百万もしない車を購入した。姫華がもう少し高い車を選ぼうとしたが、それは断ったのだ。彼女は一般的な車を選んだ。「数日したら受け取りに行けるわ」「そっか」姉妹二人がおしゃべりしながら朝ごはんを食べているところに、隼翔が来店した。彼は唯月が雇っている二人の店員よりも早い時間にやって来た。彼が店に入ってから、その店員二人もその後やって来た。「東社長、今日はお早いですね」唯月は食べていたサンドイッチを置くと、立ち上がって隼翔を迎え笑って言った。「東社長、今日はお休みじゃないんですか?何を召し上がります?」隼翔は唯花もここにいるのを見て、先に彼女に会釈した。そして唯月がまだサン
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第1302話

隼翔と唯花にはあまり共通の話題がない。それに唯花がここにいると、隼翔と唯月もあまり多く話すこともできない。唯月が彼に朝食を用意した後、続々と客が店に朝食を食べにやって来た。しかし、店員二人でさばける量だったので、店長自ら何かをする必要はなかった。それで彼女はさっき座っていた席に戻り、引き続き朝食を食べ始めた。「隼翔さん」この時、誰かにそう呼ばれて、隼翔の食欲は一気になくなった。唯月姉妹はガラスのドアを押して入ってきた絶世の美人に目を向けた。唯花は琴音のことは知らないが、唯月は彼女を写真で見たことがある。そして実物の琴音が入ってきた時、写真よりも何倍も綺麗だと思った。彼女は東隼翔ととてもお似合いだ。「樋口さん、朝食を召し上がりますか?」唯月はまた食べていたサンドイッチを置くと、再び立ち上がって客を迎えた。琴音の視線は隼翔から唯月のほうへ移った。彼女はこっそりと何回か唯月を見たことがある。直接会うのは初めてだ。近い距離で唯月をじっくり観察してみると、唯月はとても綺麗な女性だと思った。「このお店の料理は美味しいと聞いています。じゃあ、隼翔さんと同じものを私にもください。ありがとうございます」琴音は隼翔が座っているテーブルの前まで行くと、先に持っていた数量限定の高級バッグを横に置き、ティッシュを数枚取り出して椅子を拭いてから座った。そして唯花が彼女を見ているのに気づき、微笑んで唯花に挨拶した。「結城家の若奥様ですね。おはようございます」「おはようございます」唯花は彼女が一体誰なのか知らなかったが、相手のほうが自分のことを知っていて、挨拶までしてきたので、それに返事をしておいた。さっき姉がこの美女を「樋口さん」と呼んでいたが、一体姉はいつこの人と出会ったのだろうか。詩乃と一緒に何度かパーティーに参加して、結構多くの貴婦人や令嬢たちと交流してきた。それにより唯花の人を見る目は格段に上がっていて、一目で琴音は正真正銘の財閥家のお嬢様だとわかった。少しの動作にも気品が溢れ出ている。「若奥様、私は樋口琴音と申します」琴音は自己紹介をした。「樋口さん、はじめまして」琴音は微笑み、それ以降は唯花と会話をしなかった。彼女はずっと前から唯花というこの結城家の若奥様とは交流したいと考えていた。しかし、彼女と
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第1303話

琴音も別にそれを聞いて腹を立てることはなかった。彼女と隼翔はかなり昔に知り合ったのだが、交流することはなかったので、ほぼ見知らぬ他人と言える。彼が全く彼女の過去を知らなくて当然だ。「樋口さん、お持ちしましたよ」唯月は琴音の朝食を用意すると、それを持って琴音の前に置いた。そして微笑みかけて話した。「樋口さん、ごゆっくりお召し上がりください」琴音も微笑み返した。そして唯月は自分の席に戻って座った。「お姉ちゃん、いつ彼女と知り合ったの?」この時、唯花が小声で姉に尋ねた。「東夫人があの日通りかかって、お店に来てちょっとおしゃべりをしたの。その時にこの樋口さんと東社長の仲を取り持ちたいって教えてくれたの。それに私に彼女の写真を見せてくれたから、それで彼女のことを知ってるってわけ」唯月も小さな声で妹に答え、また小声のまま続けた。「あの二人とてもお似合いでしょう。樋口さんの印象も良いし、お金持ちのお嬢様みたいに偉そうな感じがしないわ」唯花は探るような目で姉をちらりと見て、下を向いて朝食を食べた。そしてまた小声でこう言った。「確かにお似合いだと思うけど」伯母から東夫人は人付き合いがしにくいと聞いている。それに関しては理仁も同じように言っていた。東夫人が息子の結婚相手として候補を選び、琴音と隼翔をくっつけようとしているのであれば、それもいいだろう。姉が巻き込まれる必要もないのだし。「ママ」この時、陽が目を覚まし、起き上がって座った姿勢で母親を呼んだ。唯花はサンドイッチを食べ終わると姉に向って言った。「陽ちゃんに朝ごはん作ってくる。お姉ちゃん、早く朝ごはんを済ませちゃったほうがいいよ、もう少ししたら忙しくなるわ」そう言いながら彼女は甥のほうへ行き抱き上げた。「おばたん」今起きたばかりの陽は、少しまだ寝ぼけていた。彼は唯花の首元に抱きつき、頭を彼女の肩にもたれかけていた。そして子供の甘えた声で唯花に言った。「おばたん、おしっこ」唯花は彼を抱いたままトイレに入って行った。そこから出てくると、陽は自分で歩いてきた。そして隼翔に気づくと、礼儀正しく彼に挨拶した。陽は琴音には初めて会うので隼翔に挨拶した後は琴音を見て、くりくりした大きな瞳を輝かせて同じように礼儀正しくこう言った。「はじめまして」琴音は
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第1304話

まんぷく亭のほうが忙しくしている頃、理仁のほうは起きたばかりだった。彼はいつも通り、目は開かずに横向きになって手を伸ばし愛する妻を抱きしめようとしたが、布団の中は空だった。それに気づき、この時ようやく目を開いた。唯花の姿は部屋には見当たらない。外を見てみると、太陽はすっかり高く昇っていた。理仁が寝返りをうち、自分が寝ている側にあるサイドテーブルから携帯を取って時間を確認した。「もう九時だと!」彼は焦って起き上がった。週末とはいえ、彼もこんな遅い時間まで寝ていたことはないのだ。昨晩、帰ってきたのが遅かったせいだろう。最短で洗面を済ませ、服を着替えた。自ら選んで唯花に買ってもらった服を着ていた。部屋のドアを開けた時、清水が猫を抱えてソファに座りテレビを見ていた。ドアが開く音を聞いて清水は理仁のほうへ振り返り、立ち上がると微笑んで言った。「若旦那様、おはようございます。ご朝食を召し上がられますか?」「もう九時だ」理仁は清水のほうへ行きながらぶつくさと言っていた。「九時でも何か召し上がらないといけませんよ。若奥様が出かけられる前に、若旦那様が起きられたら朝食を出すようにおっしゃっていました」「唯花さんは?彼女はいつ起きたんです?何時に出かけました?」理仁はこの時、少し不機嫌だった。週末は休みで家にいるというのに、妻はこんなに早く姿を消してしまった。それに、彼が起きるのも待たず、朝食も一緒に取ってくれない。なんだか妻から冷たくあしらわれているような気がする。清水が答える前に玄関のドアが開いた。唯花が帰ってきたのだ。「理仁さん、起きたのね」唯花は部屋に入ってきながら夫にそう言い、玄関のドアを閉めた。理仁はそれに返事しなかった。彼はあの整った顔を不機嫌そうにさせ、くるりと部屋に戻っていった。彼女が朝早くに彼を置いて出かけてしまって、帰って来ても以前のように「さん」付けで呼ぶものだから機嫌を損ねたのだ。そもそも起きた時に妻がいなくて、ふてくされていた理仁は、そのことによりさらに不機嫌になり、彼女に背を向けて部屋へと戻ってしまった。本当に度量の小さいやつだ。唯花は初め、そんなことには気づかず、理仁が背を向けて部屋に入っていく姿を見て呆けていた。そして清水のところへ行き尋ねてみた。「
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第1305話

唯花はしゃがんで猫を抱き上げた。「若奥様、先に若旦那様のご機嫌を直しに行かれてください。さっき起きたばかりで何も召し上がっていないんです」清水は雇い主の若い主人が突然子供のように機嫌を悪くするのにどうしようもなかった。彼女がここに住み込みで働いていなければ、一生自分の主人がここまで短気だとは知らなかったはずだ。唯花は猫を撫でながら清水に尋ねた。「清水さん、どうして彼が怒っているのか教えてくられないと、機嫌を取るも何もありません。本当に私は何もしていないんですよ」清水は小声で話した。「恐らく、若旦那様はあなたが朝早くに出かけてしまったことに腹を立てているのでしょう。週末です、彼はお休みで家にいるでしょう。だから、若奥様には一緒にいてほしかったんですよ」唯花「……私もお姉ちゃんの店に手伝いに行っただけなのに。確かに週末だけど、休みじゃない会社員だっていて、いつも通り出勤しているんです。だから、お姉ちゃんの店もとっても忙しくて。確かに朝すごく早い時間に出かけたけど、早く帰ってきたじゃないですか。十時前に戻ってきましたよ」だから彼女もまさか理仁がこんな些細な事で腹を立てるとは思っていなかったのだ。清水もそれに対してどう言えばいいのかわからなかった。「部屋に行って機嫌取ってきます」自分の夫がどのような性格かを熟知している唯花は、猫を抱いたまま仕方なく部屋へと向かった。彼女がドアを開けて入った後、清水は唯花に猫を連れて部屋に入らないように注意しないといけないことを思い出したが、時すでに遅し。清水は思った。若旦那様はさらに不機嫌になるだろう。そして唯花は猫を抱いたまま彼の部屋に入ってしまった。この時、理仁はドアに背を向けて窓辺に立っていた。ドアが開く音が聞こえても、そちらに振り返ることはなかった。唯花は彼のところまで行き、その隣に立って一緒に窓の外を眺めながら尋ねた。「何見てるの?」理仁は彼女のほうへ顔を傾けると、なんと猫も一緒にいたので眉間にしわを寄せた。そしてサッと体の向きを変えて、大股で窓から離れていった。「理仁」唯花は彼についていった。「私が起きた時あなたがまだ寝ていて、普段の仕事が忙しいし、週末くらいゆっくり寝させてあげたいと思ったのよ。だからあなたを起こさなかったの。私だって別に遊びにどこ
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第1306話

「おばあちゃんはいつ帰ってくるんでしょう?会いたくなってきました」唯花はおばあさんがここで一緒に暮らしていた日々を懐かしんでいた。清水は言った。「若奥様に注意しようと思った時にはもう遅かったんですよ。すでにドアを開けて入ってしまっていましたからね」唯花は再びため息をついた。「手を洗ってきます」彼女はアルコール除菌で入念に手を綺麗にしてから、また以前彼女が生活していた部屋に戻っていった。そしてクローゼットの中から綺麗な服を取り出しそれに着替えてから、また主寝室へと向かった。「理仁、手をアルコール除菌で何度も綺麗に拭いてから、新しい服に着替えてきたわよ。もう猫の毛はついてないわ、絶対」唯花は理仁の後ろまで行き、そう言いながら手を伸ばして後ろから彼の腰を抱きしめた。「理仁、ごめんなさい。さっきは本気で猫を抱いてることを忘れてたのよ。実際、あの子たちみんな可愛いわ、あなたが私に飼っていいってプレゼントしてくれたでしょ。あなたからもらったものだから、とっても大切なのよ。ねえ、私が草をプレゼントしたって、あなたはそれを宝物のように大事に思うって言ってたでしょ。それと同じで、あなたから贈られたものは、何であっても私にとってはとても大切なものなのよ」理仁は振り返ることもなく、唯花の手を振りほどくこともなかった。そして彼は言った。「俺が起きた時、君の姿が見あたらないから清水さんに聞いたんだ。清水さんから君は朝早くに出かけたと聞いて、なんだか俺を無視して置いていったような気がしたんだ。そして君が帰ってきてから、『さん』付けで俺のことを呼んだだろう」「理仁、理仁、理仁……さっき呼ばなかった分もまとめて言ってあげるから、怒らないで」唯花は連続で彼の名前を呼んだ。「あなただって夜更けに急にどこかへ飛び出して行っちゃうでしょ。私だってあなたがどこで何してるのか知らないわよ。あなたの言葉を借りれば、私だって何回あなたに置いていかれちゃったことやら。だけど私は一度たちともこのことで怒ったことはないし、あなたからの愛を疑ったりもしてないわよ」理仁「……つまり、俺を心が狭いやつだと?」唯花は彼を抱きしめていた手を放し、彼の目の前までやって来ると、彼の頬に手を伸ばしてつねってやった。そしてケラケラ笑って言った。「そうじゃないと堂々と言える?あなたってい
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第1307話

「私たちそれぞれにやることがあるからっていうわけじゃなくて、働く必要がなくなってからも、毎日毎日起きた時に目を開いたら相手がそこにいるだなんて保証できないでしょ」いつだってどちらも同時に目が覚めるなんてことは有り得ないのだから。理仁はもうこの件に関しては彼がわがままだったと悟った。「清水さんがあなたまだ何も食べていないって言ってたわよ。お腹が空いたでしょ。さ、早く行くわよ。私も一緒に行くから」唯花は彼がもう反論してくる気もなく、しつこくこの件に絡みついてくる意思もないのを見て、この話題はここまでにし、他の話を振った。お互い引き下がらなくなると、また夫婦間に亀裂が生じてしまう。「うん」理仁はひとことそう言い、すぐに愛妻を抱きしめるその手を離した。唯花は彼の手を引いて部屋から出た。この時、清水はすでに理仁の分の朝食をテーブルに用意していた。清水の主人である理仁は小さなことですぐキレるが、妻を目の前にすると永遠に姿勢を低くして尻に敷かれるしかないようだ。こうなることがわかっていて、清水は自分が作った朝食が無駄になる心配をする必要などないのだった。「どうして陽君と一緒に帰ってこなかったの?」理仁は妻に付き添ってもらって朝食を取り、気分はだいぶ良くなっていた。もうあの冷たくこわばった顔を柔らかい表情に戻し、陽のことを尋ねだした。「お姉ちゃんが今日はいつもより早めに店を閉めるから、陽ちゃんは店の奥で遊ばせておくって言ってたの。少ししたら陽ちゃんを連れて家に帰るらしいわ。理仁さ……理仁、陽ちゃんを家に住まわせたいんだけど、どうかしら。そうしたらお姉ちゃんもずっと楽になるし、陽ちゃんも朝十分眠れるじゃない」理仁は言った。「俺は全く意見はないよ。君も知ってると思うけど、俺はとっても陽君のことが好きなんだからさ」陽はいつも母親に合わせてとても早く起きているから、確かに睡眠不足気味だった。あんなに小さな子の睡眠時間が少ないと、今後の成長に悪影響が出てしまう。「義姉さんは、いいって言ってた?」「本当はお姉ちゃんと陽ちゃんの二人とも一緒にここに引っ越してきて住まわせたかったんだけど、お姉ちゃんがどうしても首を縦に振らないのよ。前もそうだったし、今だってそう。お姉ちゃんってこういう人なのよ。ここにいて私たち夫婦の邪魔に
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第1308話

唯花はこの時、自分は本当に恵まれた人間だと改めて感じていた。結婚した男性はたまに小さなことで腹を立てるが、彼女のことをとても大切にしてくれている。絶対に彼女に暴力を振るうようなこともないし、浮気される心配も全くない。それに彼は教養を重んじる家庭出身である。結城家のように開放的な考えを持ち、嫁の家柄にもこだわならい名家というのは、上流階級の家柄の中でも異端児のような存在だった。当初、おばあさんが唯花に、命の恩人に悪い孫など絶対に紹介しないと言っていた。実際、結城おばあさんの孫はみんなよくできた男たちばかりである。理仁は一番年上だから、一番最初に考えて決めただけだ。「東夫人はもう東社長のお嫁さんを決めているみたい。樋口琴音さんって言って、若くて綺麗な人だったわ。それに、まさにできる女って感じ。一目で長い間人生の荒波にもまれて来た苦労人だってわかる人よ。何をするのも自信と気品が満ち溢れているわ。家柄は絶対、普通ではないから東夫人が彼女を気に入るのも当然でしょうね」「知ってるよ」理仁は食べながら話した。「東夫人が隼翔に結婚相手を決めて、どうにかして仲を取り持とうとするもんだから、あいつはずうずうしく俺たちの家に住まわせてくれと言ってきたんだ」彼はただその女性の名前を知らないだけだった。わざわざ知りたいとも思わない。別に彼の嫁候補であるわけではないからだ。彼はただ自分の妻が唯花だと知っているだけでいいのだ。「樋口さんなのか、別の女性にしたと思っていたけど。東夫人の他人に対する理想は非常に高い。隼翔の結婚には焦っているが、絶対に隼翔に夫人が納得できない女性を選ばせたりしないんだ。彼女が息子に嫁を選ぶのはまるで皇子に妃を選ぶようなもんだ。ここ星城にたくさんいる令嬢たちの中で、東夫人に気に入られるような女性は数人もいないだろう」美乃里が気に入った名家には、結婚適齢期の女性がいない。結婚適齢期の女性がいる名家もあるが、美乃里は気に入らないのだ。東家は星城でトップクラスの財閥家である。隼翔自身にも実力があって、自分の力だけで億万長者になってしまうくらいだ。それに父親の財産を分与することになった時には、隼翔は東家から莫大な遺産を相続することになり、その財産はさらに増えることになる。だからこそ美乃里は彼に代わって妻を選
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第1309話

「東夫人が樋口さんの写真を持ってわざと義姉さんに見せたのは、実際義姉さんが隼翔のことをどう思っているのか探るためだったんだろう。結果は歴然としている。義姉さんはあいつのことをこれっぽっちも思っていない。彼女はただ一心に飲食店を経営してお金を稼ぐことにしか気が回っていないんだから」理仁は唯月のことを完全に理解していた。「義姉さんが少しでも隼翔に気があれば、夫人も彼女にはあそこで店を続けさせないさ」唯花はそれと同じ意見だった。美乃里は唯月を探りに行ったのだ。しかし彼女はそんなことなど全く知らない。だが、それはそれでいいのだ、そのほうが何も影響を受けることがないのだから。「理仁、お姉ちゃんに教えるべきかな?」「夫人も何もできなかった。つまり、俺たち同様ただ疑っているが、証明することはできないんだ。だから義姉さんに教える必要なんてないよ。俺から隼翔にちょっと言っておくだけでいい、今後はあまり義姉さんの店には立ち寄るなってね」理仁は心の中で親友に悪態をついていた。彼が貸している屋敷でも朝食は提供されるのだ。隼翔が週末にわざわざ朝っぱらからまんぷく亭まで赴いて朝食を取る必要などないだろう?「わかったわ」理仁が朝食を済ませてから、唯花はニコニコと笑って尋ねた。「理仁、今から一緒にどこかへ行く?」理仁は愛おしそうに彼女の額をこつんと叩いた。「まったく。食べ過ぎたから散歩しないとだな。ちょっと消化しないと。俺と一緒に散歩に付き合ってくれよ」唯花は笑った。「はい、かしこまりました」「そんな言い方しないでくれよ。ただ付き合ってくれればいいだけなんだ。別に命令したわけじゃないんだから」清水はニヤニヤしながら夫婦二人が散歩に出かけるのを見ていた。唯花はシロを連れて行きたかったが、隣にいる男をちらりと見て、一緒について来ようとしたシロを一瞥し、結局はこの男のほうを選んだ。今回はシロに遠慮してもらおう。マンションの付近を散歩している人は多かった。犬の散歩をしている人もいた。理仁は小動物が近くにいるのを嫌う人間だ。犬の散歩をしている人とすれ違う時、彼は唯花を引っ張ってそこから遠く離れる。すると犬を連れている飼い主はとても申し訳なさそうに、何度も二人に向かって言うのだ。「うちの犬は噛みついたりしませんので」この付近の人は、小型犬しか
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第1310話

「君が好きな物や動物なら、俺の許容範囲なら君に満足してもらえるよう努めるさ、別にお礼なんて要らないよ。お礼をしたいっていうなら、何か他のものをもらいたいな」唯花は笑った。「あなたに足りてない物なんてないでしょ。私の身も心も全部あなたのものだし、私が他にあげられるものなんてある?」この言葉は心に響いた。「プルプルプル……」唯花の携帯が鳴った。彼女は携帯を取り出して着信を見ると、待ってましたとそれにすぐ出た。理仁は電話をかけてきた人物が誰なのか考えていた。唯花が着信を見てすぐに出るくらいだ。普段、彼が唯花に電話した時も彼女はさっきのように急いで出てくれるか?理仁はヤキモチ焼きだ。彼女が気にかける全ての人間と張り合おうとする。そうやってトーナメント戦のように勝ち上がり、彼女にとってこの世で最も大切な存在になりたいのだ。「おばあちゃん」唯花はこの時、隣にいるこの男が、この電話に俊足で出たことでヤキモチを焼いているなど知らなかった。おばあさんからの電話だ。理仁は唯花がひとこと「おばあちゃん」と呼ぶのを聞いて、心の中で白旗を上げていた。彼はおばあさんには敵わない。「唯花ちゃん、最近どう?おばあちゃんが家にいなくて、寂しがってないかしら?」おばあさんは電話越しに、はははと笑っていた。明らかに嬉しそうな様子だ。「寂しがってないわよ。おばあちゃんったらひとことも教えてくれないで勝手に柏浜に行っちゃんだもん。事前に教えてくれもしなかったし。私だって一緒に行って近くで様子を見たかったのに」おばあさんはまたケラケラと笑って言った。「今のところまだ何も見ものになるものなんてないわよ。その時になれば、おばあちゃんがあなたに声をかけなくたって、当の本人があなたと理仁のところに行くわ。今日は週末でしょ、理仁は休みだし、二人でどこかに遊びに行かないの?ドライブでプチ旅行してもいいじゃない。一日中家でじっとしていないのよ。そんなことしたら、つまらなくてカビが生えるよ」「夜パーティーに行くから、今日は遊びに行かないの。星城の観光地も全部見て回ったし、今のところ行きたいところはないから」唯花の言うことも事実だった。彼女は星城でこんなに長年暮らしてきて、面白いところには理仁と結婚する前にすでに行き尽くしていた。「なんのパ
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